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建物の中に入り、指示された椅子に座る。 テーブルをはさんで主犯格の男と向かい合う。 それ以外の奴は、男を取り囲むように立っている。 取り調べって感じだな、思いっきり。 「さて、まず…君は一体何をしていたのかな?」 どこか芝居がかった雰囲気を感じる。 「別に…」 「なるほど、普段から人の会話を盗み聞きする趣味があるのか」 …こういうみえみえの挑発は、無視するに限る。 「…フン。なんとなくこちらも察しはついているんだ。素直にしゃべってくれないかね」 「…分かったよ。 怪しい奴がいたから、尾行した。で、ここについた」 「怪しい奴…? いったい誰が怪しくて、何を根拠にそう言っている?」 「そこのそいつだよ」 顎で、端っこに居る1人の匿名を指す。 男が、そいつをぎろりと睨むと、匿名は首を大きく振りながら弁解する。 「いや、俺、今日はしたらばに入ってからまっすぐここに来ましたよ。 何も変なことはしてません。本当ですって」 「…だそうだが?」 「別に行動が怪しいって話じゃねえから、そういう反応だと思うけど…。 この前の騒ぎのとき、お前がザコテの中に混ざってた気がした」 「ほう」 男は、俺の言葉を聞くと微笑を浮かべた。 「成程。私たちが、先日の連中だと気づいているのか」 「何が成程、だよ。 こっちの行動から、そんなことはとっくに予想済みだろ」 「フフ…まぁそう噛みつかないでくれ」 男が軽く笑う。 馬鹿にされたような感じではあったが、緊張が少し緩んだ。 深呼吸をして気を落ち着かせ、じっくりと相手を見据える。 危険な状況ではあるが、話をするチャンスでもある。 何か情報を聞き出したいところだ。 逃げる算段を立てる時間稼ぎにもなる。 「…あんたら、何を企んでるんだ」 まず口から出てきたのは、そんなストレートな言葉であった。 「ほう、この状況で質問してくるとは、肝が座ってるじゃないか。 ふむ…」 男は、少し考えるしぐさを見せ、こんなことを聞いてきた。 「君は、半年前に何があったのか…知っているのかね?」 「半年、前?」 半年前っていうと…。 「あの、王宮襲撃事件か?」 今でもよく覚えている。 正体不明のスピナー軍団が王宮に攻め入り、その影響で国内のあちこちで戦闘が行われた。 JEB始まって以来とも言える大事件で、被害はそう大きくなく収まったものの、当時は国中を賑わせた。 「成程、な。まぁいいだろう。 さて、俺たちが何を企んでいるか、だったな」 俺が頷くと、少し間をおいたあと、こう口を開いた。 「我々が、いわゆるザコテ達の集まりだというのは既にそちらも感づいているだろう。 最近、我々ザコテ達への待遇は良くなく、非常に不満を感じている」 「…待遇が良くない、だと?」 「ああ。我々は、周りからザコテというカテゴリで見られている。 その名前だけで、様々なことに関して不利な方にはたらいているのだよ」 「…何言ってんだ、お前」 それは、ちょっとずれてるんじゃないのか? 「お前達が、スピナーとしてあるまじき行為をやってるから、風当たりも強くなるんだろ。 それが嫌なら、自分のふるまいを正せよ」 「では、君はそのような固定観念が存在しないと、言い切れるのかね」 「無いとは言い切れない。だが、基本的に悪いのはそっちじゃねえのかよ」 「君が思っている以上に、我々が名前だけで苦しい思いをする機会は多いのだよ。 それに、君は我々が、全て自分の意志でスピナーという世界に足を踏み入れたと、思っているようだが…。 実際は、違う」 …? どういうことだ? スピナーになるってのは、望んでもそう簡単なことじゃない。 だから、望んでもいない奴にスピナーになる機会なんて与えられないはずだ。 「お前らだって、スピナーになるのを希望したから、スピナーになってるんだろ?」 「望んだのは事実だ。 だが、十分な説明を受けていたとは言い難いのも、事実だ」 …どういうことだ? 「まぁ、そこは話さないでおこう…我々の持つカードの1つだからな」 勿体ぶりやがって。 「…で、あんたら結局何を企んでるんだよ」 「言ったとおりだ。我々は、立場の改善を望んでいる。 もっとも、話し合いに応じる気配がない連中だからな・・・。 強行手段を考えている」 「…」 強行手段。 嫌な響きのする言葉だ。 「そんなことしたら、あんた達の負けだろ。 ザコテがいくら集まろうと、管理人達に勝てるとは思えない。 馬鹿な真似はやめたほうがいい」 俺の言葉に対し、男は俺のことを値踏みするように見た後、再び口を開いた。 「フン…正面から戦う気はない。 それに、今さらザコテの話を聞いてくれる上級スピナーは、ほとんどいないさ」 「…だからって、荒っぽい手段は通用しない」 「ならば、どうしろと言うんだ、お前は?」 そう、男は少し声のトーンを抑えて言った。 その顔は、直前までのどこか芝居がかった様子も、自身にあふれた様子も薄れている。 少しだけ、寂しそうにさえ見えた。 その垣間見えた表情が、少々急に現れたので驚いた。 同時に、ザコテ達の、そういう境遇も事実なのかもしれない、と少しだけ思った。 「分かんないけど…強行手段したって、お前らの立場が苦しくなるだけだと思う」 「ならば、どうしろと? こちらが苦しんでいることは、戦闘でもしなければ、話題にさえならないだろう」 そうなのかもしれない。 でも…。 「…やっぱり、駄目だって。 いくら時間がかかっても、話し合いで解決しないと。 絶対に、そうだって」 「…」 男はしばらく無言となった。 その後、ゆっくりと、こう言った。 「…ここ、したらばでもザコテに対する叩きは目に余るところがあると思わないか。 それに対して。お前はどう思う?」 突然、話題が変わったことに驚きつつ、率直な意見を述べる。 「確かに、理不尽な叩きも少なくないと思うが…」 「そうだろうな。この状況を好ましくないと思う奴は存在するはずだ。 だが…変わらない。 したらばで魔法は使えなく、変えるには話し合いしかない。 だから、変わらないのさ…話し合いでの解決に限界があることを、示していると思わんか」 男が鋭くこっちを見ている。 「…変わる」 その視線に負けないように、言った。 「したらばだって、きっと変わる」 「…フン」 男と、しばらく睨み合いとなった。 そして、男がゆっくりと口を開いた。 「面白い…なら、証明してみろ」 「…証明?」 「君が、話し合いでの解決が可能であることを、証明してみろ。 このしたらばのザコテ叩きを、君が止められたなら、俺たちは強行手段をとるのを止めよう」 「…」 俺が、ここでの叩きを? それは…正直、厳しい話だ。 ここにいて、したらばを相手にするとなれば、俺はただのいち匿名。 出来ることは、多くない。 「フン、無理か?」 だが、こんなん言われたら…。 「…上等だ」 俺の言葉に対し、男は軽く頬を吊り上げた。 「我々が、実際に動くまではまだ時間がある」 男がペンを短く回す。 「期待しておくよ、90君」 そう言うと同時に、俺の足に向かって左手を向ける。 ビリっとした感覚が走る。 「…っ」 びっくりして右足を上げようとする。 が、バランスを崩して尻もちをついてしまう。 …足の裏が床に張り付いたようになって、動かない。 「後をつけられて、特定でもされたら困るんでね…。 5分程で解ける、心配するな」 そう少し早口に言うと、男は背を向けた。 残りのザコテも、それに従う。 男の背中を見送った後、座りこんでふうと息をつく。 大変なことになったな。 したらばの奴らを変えるとか、随分厳しい話を受けてしまった。 でも、あの男…。 少なくとも、根からの悪人ではないような気がする。 なら、俺も出来るだけ頑張ってみよう。 そうすりゃ、馬鹿な事を止められるかもしれないから、な。 |
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したらばを出てすぐの場所にある、人気のない道を数人の男が歩いている。 「…本気っすか?」 取り巻きのうちの1人が、主犯格の男に聞いた。 「…何がだ?」 「さっきの、90との話っすよ。 あいつにとりあえずやらせてみるんですか?」 「1人の男が少し頑張ったくらいで変るような所じゃない、したらばは。 何年かかっても、あいつには無理だろう」 「…じゃあ、何であんな約束を?」 「あいつが俺たちの周りを嗅ぎまわっている、ということがはっきりとした。 やり方から見て単独で動いているようではあるが、放っておくのは好ましくない」 男は淡々とした口調で話す。 「だからと言って、あそこで拘束するのも、好ましくない。 最近注目が高い人物で、特に管理人達にとっては先日の件の関係者でもあるからな。 どこにどんな目があるか分からんからな。 万が一彼が何者捕らわれた、と知られれば、相手もどう動きだすか読めん」 「でも、したらばに入った時点で魔法は使えませんよ。 監視みたいなのも出来ませんし、バレる可能性は少ないんじゃ?」 「だが、したらばに入るところまでは確認は可能だ。 そこから長く出てこなければ、したらばの中で何かあったのは明らか。 先日のことを考えれば、我々が関わっていると容易に想像できる」 「…なるほど。でも、それと約束とどう関係してるんですか?」 「例の件を知らないあいつが、単独で動いている訳だ。 動機はおそらく正義感の類だろうし、他人に頼ることをあまりしないタイプだと推察できる。 そういう奴の口を封じるのには、ああしておけば都合がいいと思ったんでね」 そこで言葉を一旦切った男だったが、取り巻きたちの微妙な表情を見て、再び口を開いた。 「…つまり、だ。 あいつは『したらばを変える』という達成すべき仕事を与えられた訳だ。 正義感の強さから、思い上がってその仕事に熱中する。 さらに、この仕事は失敗の基準が明確に存在しないから、取り組むことはいくらでも出来る。 だから、したらばで無駄な努力を続け、俺たちとの話を管理人達に告げ口する、なんて選択は思いつかない」 「な、なるほど…流石っす」 感嘆する取り巻き。 男はそれに対して反応は見せず、無表情なままである。 「でも、もしあいつがほんとに変えちゃったらどうするんすか?」 1人のザコテが聞く。 男は少し間をおいたあと、 「変えれるはず無いさ…あんなところ」 と、呟くような声の大きさで言った。 |
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西街の一角、Bonitoの魚屋。 普段通り、Bonitoは接客に精を出している。 「はい、毎度あり。また来てくださいね。 次の方…って、RiAsONじゃないか」 「ども、Bonitoさん」 「ん、raimoも一緒か」 「…ちす」 raimoが軽く頭を下げる。 「2人揃ってどうした?」 「どうしたって、魚を買いにですよ。 さっきまでraimoのとこに居たんだけど、Makinにおつかい頼まれまして。 えーと、なんだっけraimo?」 「適当にお勧めの買ってこい、だってさ。 夕食に使うらしいんで、俺とMakinの分、なんか丁度いいのないっすかね」 「お勧めか。マグロがそれなりの入ってるが、これは刺身用だな。 Makinなら、もっと凝った料理をしたがるかな?」 「あー…いや、昼飯の時姉御に働かさせられてたんで、楽なのでいいんじゃないですかね」 「別に働かせてないわよ」 RiAsONが渋い表情をする。 「そうか。じゃあ切っちゃっていいかな」 Bonitoが手早く魚を切っていく。 「相変わらず忙しそうですね」 RiAsONが、人の多い店内を見回しながら言う。 「客商売にとって、忙しいのは幸せなことだよ」 そうBonitoが答えた、ちょうどそのときだった。 店の外の方から、何かが倒れたような、派手な音が響いた。 「…なんだ?」 「俺、見てきます」 raimoが素早く店の外に出る。RiAsONも続く。 そこでは、凄まじい光景が広がっていて、悲鳴が響く中、2人はそこで一瞬固まってしまった。 かなり大型の馬車2台が、倒れていた。 その派手な損傷具合からして、かなり勢いがついていたところで事故を起こしたと思われる。 1台の荷物は果物だったようで、そこら中にリンゴやオレンジが転がっている。 そして、もう1台の方の荷物は、それよりかなり厄介なものだったらしい。 木材。それもかなり大きな木材が10本以上。 重なるようにして倒れている。 「無茶な運び方しやがって…」 そうraimoが呟く。 片方が果物を積んだ馬車だったのだから、木材はもう片方の1台が全て運んでいたと考えるのが妥当だ。 道に転がっている木材は、いくら大型の馬車とは言え、とても1台で運べる量ではない。 「けが人はいないっ!?」 RiAsONが大声をあげる。 「だ、誰かが木材の下にっ…」 女性の悲鳴にも似た声がそれに反応した。 「わたしを、か、庇って…男の人が…」 RiAsONの反応は素早かった。 右手でペンをすぐさま取り出し、回し始める。 多少大雑把にコンボを繰り出した後、木材がすぅと浮き上がる。 そのまま、人気のない所に放り投げられる。 木材のあった場所に、raimoがすぐさま駆け寄る。 「おい、大丈夫か…って…」 大声で意識を確認しようとしたraimoだが、すぐさま言葉を失った。 「raimo、どうしたの…え…?」 続けて近寄ったRiAsONも、同じような反応だった。 「Saizen…さん?」 そこに倒れていたのは、Saizenだった。 |
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