投下するスレ2 30 | |
前へ |
|
「了解」 coco_Aからの連絡に、口早に返事をすると、 kUzuは素早くしたらばを囲う塀を駆けあがった。 塀の上でしたらばを見下ろしながら、kUzuのペンが加速する。 ガンマン、パス、アラウンド。 様々な系統を複雑に絡み合わせながら、紡がれる旋転。 明快な豪快さと、秘められた緻密さが融合している。 ずっと待機させられた鬱憤を晴らすように、いきなり本気での旋転を繰り出す。 同時に、kUzuの周りに雷が、うねりを上げ始める。 kUzuの繰り出す魔力をどんどんため込んで、密度は上がっていく。 「kUzuさん、匿名の中には善良な人も混ざってますからねー。 無差別に攻撃しちゃ駄目ですよ」 その横にtoroが降り立ち、のんびりとした口調で言う。 「分かってるよ。 脅しの意味も込めて、多めに「貯めて」みただけだ。 相手の反応で、敵か味方か判断する」 「まぁ、kUzuさんなら大丈夫とは思いますけどー。 さーてと…」 toroもペンを構える。 表面には出さないが、その闘志は静かに燃えている。 「人数の利を生かした連携で攻めてくるから、注意、って話だったよね」 巨大な鋏を左手で軽々と持って上がってきた、scissor'sが言う。 「んー、複数のスピナーの連携って言ってもたかが知れてると思うんですけどねー」 「でも、わざわざSEVEN君が言ってたんだから、注意しないと」 「勿論注意はしますが、自信を持っていけば、負けはしませんよ」 kUzuが力強く言い切る。 「行こう」 3人が、したらばへと降り立つ。 |
|
「了解」 coco_Aからの連絡に、口早に返事をすると、 kUzuは素早くしたらばを囲う塀を駆けあがった。 塀の上でしたらばを見下ろしながら、kUzuのペンが加速する。 ガンマン、パス、アラウンド。 様々な系統を複雑に絡み合わせながら、紡がれる旋転。 明快な豪快さと、秘められた緻密さが融合している。 ずっと待機させられた鬱憤を晴らすように、いきなり本気での旋転を繰り出す。 同時に、kUzuの周りに雷が、うねりを上げ始める。 kUzuの繰り出す魔力をどんどんため込んで、密度は上がっていく。 「kUzuさん、匿名の中には善良な人も混ざってますからねー。 無差別に攻撃しちゃ駄目ですよ」 その横にtoroが降り立ち、のんびりとした口調で言う。 「分かってるよ。 脅しの意味も込めて、多めに「貯めて」みただけだ。 相手の反応で、敵か味方か判断する」 「まぁ、kUzuさんなら大丈夫とは思いますけどー。 さーてと…」 toroもペンを構える。 表面には出さないが、その闘志は静かに燃えている。 「人数の利を生かした連携で攻めてくるから、注意、って話だったよね」 巨大な鋏を左手で軽々と持って上がってきた、scissor'sが言う。 「んー、複数のスピナーの連携って言ってもたかが知れてると思うんですけどねー」 「でも、わざわざSEVEN君が言ってたんだから、注意しないと」 「勿論注意はしますが、自信を持っていけば、負けはしませんよ」 kUzuが力強く言い切る。 「行こう」 3人が、したらばへと降り立つ。 |
|
「後ろだっ」 1人のザコテが叫ぶ。 目の前の1人の少年に集中砲火を向けていたザコテ達は、虚をつかれる。 「くそっ…挟み撃ちにしようってか…」 振り向いたザコテ達の視界に入るのは。 攻撃を向けていた相手と、同じ顔である。 「裏影…っ」 ザコテ達の攻撃対象は、JEBの若き総合管理人、SEVENであった。 街の中心部、屋外の道路上。 SEVENは、10人近いザコテ達を戦闘を繰り広げていた。 自身と裏影での挟み撃ち。 それぞれの実力は半分になるが、注意力を削ぐ意味で、かなり有効である。 「…本体を消せば、どっちも消えるぞ!」 ザコテの1人が叫んだ。 疲弊してきたザコテ達は、これで決めんとばかりに攻撃をSEVEN本体に集中させる。 「残念」 瞬間。SEVEN本体が、消えた。 「…な」 ザコテ達の動きが、一瞬止まる。 そんな彼らの背後で、強力な魔力が立ち上る。 SEVENが、高速で移動した訳ではない。 ただ、裏影を解除しただけである。 「そっちが、本体っ…」 SEVENの攻撃が、ザコテ達に振りかかる。 1手遅れをとったザコテ達は、防御を試みるが、追いつかない。 SEVENは高速で詰め将棋を完了させ、全員を無力化させた。 「…ふぅ」 SEVENは息をつくと、顔を一旦変えて、人気のない所へと走る。 …少し飛ばし過ぎた。休憩を入れた方がいいな。 「10人程度に苦労するんじゃ、僕もまだまだだな…」 彼らは、したらばを潰すために何かしらの対策をしてきたようである。 その成果は認めるが、今の10人ぐらい、楽にさばけないといけない。 「SEVEN」 突然、背後から声をかけられて、驚く。 「…coco_Aさん」 SEVENが振り向いた先にいたのは、coco_Aであった。 「情報関係は大臣にお任せしました。 大臣1人じゃつらいかもしれませんが…ま、頑張ってもらいます」 「…そうですか」 SEVENは、苦笑いしながら答える。 「私も、戦闘に参加するつもりです。 …SEVEN、突然攻撃を許可したのは、どうしてですか?」 「…そうですね…。 ちょっと、冷静になっただけです」 「EiH1さんと、何があったんです?」 SEVENは頬をかいた後、答える。 「何を話した、という訳ではないんですけど。 ただ、彼が主犯―Uszakuと話しているところを、後ろから見てまして」 「話、ですか…彼、何をしたんですか?」 「何も。 ただ、ちょっと話をしていただけですよ」 「ふむ…」 coco_Aは少し考えた後。 「EiH1さんの考えに、触発されました?」 「ちょっと違います。 ただ、僕の個人的な感情で、ものを決めてたかもしれない、とは気づかされましたよ。 …僕は、ここが嫌いなので」 「…」 「僕の考えはまだ保留です。 ここの処遇も、今までのような放置でいいのか、考える余地があります。 その辺は…ここを止めてから、ゆっくりと話しましょう」 SEVENはそう言うと、再び戦闘が起きている方へ走って行った。 coco_Aは、その姿に、黙って従った。 |
|
「…ちっ」 kUzuは、舌打ちを1つした。 kUzuが立っている周りに、人影はない。 皆、距離をとったり隠れたりして、即座に戦闘になる場所には誰もいない。 kUzuが戦闘に参加して以降。 最初は歯向かってくる匿名を相手していればよかったが、 ある程度倒したところで、相手がいなくなった。 ここ20分は、ほとんど戦闘をしていない。 住人なのかザコテなのか、判断が出来ない俺には、そう簡単に自分から攻める訳にもいかない。 …地道に、よく観察して、場合によっては攻撃していくしかないのか。 けど、そんなんじゃ埒があかないよな…。 そんな、考え事をしていた俺が、油断しているように見えたのだろうか。 後ろから、2人程のザコテが攻めてくるのを感じた。 振り向く必要もないな、と思いつつ、雷を飛ばす。 うねる竜のような雷が、ザコテ達の方へ飛んでいく。 規模は小さいが、とんでもなく高い密度の魔力を練りこんでいく。 彼らのレベルだと、防御は出来ない。 逃げようとしても、リアルタイムで動きを制御しているから、逃げれはしない。 雷に触れてしまって、簡単に気絶して、終いだ。 「…」 だが、手ごたえはない。 後ろを振り向く。 振り向きもせず、いきなり攻撃を飛ばしたから、2人は虚をつかれたはず。 実際、そんな表情である。 しかし、俺の攻撃は、数多くの横槍によって、防御されてしまっていた。 「…クソ」 せっかく見つけたターゲットを、逃すわけにはいかない。 2人組に向かって、雷の矢を数本飛ばす。 四方から飛んでくる防御に邪魔されるが、構わず攻撃を続ける。 移動術で距離を詰め、さらに追撃。 「…ちっ」 1人のペンは弾き飛ばしたが、もう1人は逃げられてしまった。 さっき、邪魔をしてきた奴らの場所は、なんとなく掴んだ。 だが、即座に相手も移動してくるだろうし、さっきみたいに周りに邪魔される内に逃げられたら…。 ウマコテの介入によって、破壊行為は大分落ち着いた。 …逆に、破壊行為をしてる奴がいたら、すぐに攻撃してやれるわけなんだけど。 「…参ったな、畜生」 「外も落ち着いてきたな」 「はい」 戦闘がこう着状態になり、動きが少なくなってきたころ。 本スレ内のUszakuは、走りながら側近に小さく呟いた。 「…指示をするが、今は俺のマークが厳しいから、口頭で伝える。 お前から全員に伝えてくれ」 「了解です」 「各所に散っている人員を、一旦溜まり場に集中させる。 ウマコテを1人1人、集中して叩け」 「分かりました」 「相手が複数になったら、すぐに散って姿をくらませ。 対象を違う奴に移して、同様の集中攻撃をしろ」 「はい」 「…よし」 指示を受けたザコテが去っていく。 Uszakuは、真剣なまなざしで、眼下のしたらばを見ていた。 ウマコテ達を、各個撃破することは、可能だ。 これまでは、したらばを破壊するという目的があったため、そこまで人員を集中させては来なかった。 我々が築いたネットワークによって、人を集めれば集めるほど、力は強く出来る。 人数に物を言わせれば、ウマコテを超える魔術が行えるのは、実験済みだ。 一点集中の攻撃。 これで…ケリはつく。 |
|
戦闘が、静まって来た。 不気味な静けさだ。 一気に戦闘に参加してきたウマコテ達が、どうすればいいのか分からなくなっている。 これが、相手の狙ってることだとしたら。 危険な状態、ってことになるだろう。 「させねえよ」 raimoは、そう呟いた。 したらばの中心にある、建物の屋根の上。 全体を見渡せるここで、raimoは目をつぶって、意識を集中させていた。 raimoが感じた違和感。 それは、他のスピナーも感じていたことだった。 ザコテ達の強さの秘密、すなわち「連携」。 訓練・準備といったもので済ましてしまっている者が多かったが、raimoはそうは思わなかった。 あんな連携、いくら感覚を磨いたって、出来るもんじゃない。 何か、裏がある。 互いの魔力を感じて、それに合わせる―なんてのは、そう簡単じゃない。 攻撃のタイミング、種類、位置―そう言ったものを知らせる、何かしらのサインが必要だ。 一体どんなサインか。 …魔力を使ってる以外、ありえねえだろ。 恐らく、通信に使われている魔力を応用したようなものだろう。 Uszakuの言葉にも、引っかかる点があった。 『受けて立とう、我々が築きあげたネットワークでな』 ネットワークにザコテなんとかという名前をつけていた気がするが、それはどうでもいいとして、だ。 重要なのは、ネットワーク、という言葉だ。 普通はあまり使わないい言い回しだ。 だが、これを、例の「サイン」と繋げて考えればどうか。 すなわち、互いの感覚を、魔力によって共有するネットワーク。 それによって、あの連携が生まれているのだとすれば、合点がいく。 そうと分かれば、話は早い。 そのネットワークを、遮断してやればいい。 様々な探知をしかけて、ようやく今のしたらばの中での、魔力の流れをつかめてきた。 そろそろ、見えてきてもいいころだ…。 raimoのペンが、静かに動いていく。 独特の動きであり、その旋転は、違和感を感じるほどに滑らかで、よどみがない。 見る人を、自然と引き込むような、そんな旋転。 独創性と、人々に訴える感覚。 普通の構成でも、彼が回せば、「raimoの旋転」としてしまうような、個性と実力。 かつて、JEBには、圧倒的な魔力への感性と、旋転の力を持った魔術師がいた。 その魔術師を超えるものは、未だ現れていない。 だが、近い存在は、いくつか現れ始めている。 そんな中の1人が、raimo。 魔術師bonkuraに匹敵する魔力に対する感性を持ち、時に彼に近いレベルの力も見せる。 そんな彼だからこそ。 したらばという複雑な環境の中で、緻密に隠ぺいされたその波長を、捕えた。 |
|
「…え?」 EiH1は、思わずそう呟いた。 張りつめた空気の中で、ザコテ達とけん制し合っていたところ。 一瞬で、明らかに空気が変わった。 最初は、何が起こったのか分からなかった。 ただ、何かが起きたのは、確かだった。 なぜなら、自分と相対するザコテ達の表情も、一瞬にして変わったからだ。 「お、おい」 「どうなって…」 ザコテ達が、ざわつきはじめる。 これは、一体? 「チャンスね」 そんな呟きが聞こえるのと同時に、リアさんが動いたのが分かった。 鋭い火の矢が、ザコテ達を襲う。 「う、うおっ」 ザコテ達は、困惑しながらも防御する。 しかし、何だか弱い。 今までとは一転、統率のとれていない動きになっている。 なんというか、以前、coco_Aさん・kUzuさん・toroさんの3人で、集まりを攻撃したときを思い出した。 あの時のような、ただのザコテ達に戻った、って感じだ。 「ふぅ」 一呼吸を置いて、すぐ隣に来たリアさんが、言う。 「raimoかな」 「…raimo?」 「よく分からないけど、うまいとこやってくれた、って感じでしょ」 「はぁ…」 状況がつかめない俺に、極めつけのことが起こった。 本スレ内の匿名達の、半数ほどに、異変。 具体的に言えば、顔に。 「…うわ」 思わず、そんな声が漏れた。 これは…。 3分の2ほどの匿名の額に、黒い文字が浮かんでいる。 「ザコテ」と。 「うん、raimoにしてはいいギャグセンスしてるかな」 戦闘の中で、それはあまりにシュールで、笑えないほど効果的な目印だった。 「よっし、これで気兼ねなくいけるね」 リアさんがニヤッとすると、素早く動き出した。 「Makin、2人でここは片付けちゃおうか」 リアさんの問いかけに、Makinさんが頷く。 …あー、つまり、俺は邪魔しないように見てろってことか。 リアさんのペンが踊りはじめる。 奇抜な動き・大味な動きと、滑らかで純粋な旋転。 その両方を使いこなすリアさんは、戦闘において隙がない。 防御も攻撃もそつなくこなし、安定している。 格下相手には、厳しいだろう。 何か弱点があれば、そこをつけるのかもしれないけど、そうはいかない。 Makinさんも、リアさんに似て弱点が少なめなタイプだ。 リアさんと違って特徴的なのは、その華やかさ。 力強い大技も、滑らかな動きも、同じ技を他のスピナーがこなしたときより、明らかに質が高い。 当然、生まれる魔力も並ではない。 Makinさんが、強烈な熱風を飛ばす。 傍から見る分にはただの風だが、それが何かに当たった瞬間、発火する。 防御は難しいだろう。攻撃の範囲が特定しづらく、威力も高い。 Makinさんの攻撃に四苦八苦しているザコテ達に向かって、リアさんが的確な斬撃を飛ばす。 範囲を引き絞り、ただ1点―彼らの持つ、ペンだけを破壊してく。 怪我をさせないように、という配慮だろうけど…とんでもない精度である。 混乱したザコテ達は、2人の敵ではない。 本スレ内は、もはや2人のショータイムと化していた。 今までの鬱憤を晴らすように、次々にザコテ達を倒していく。 …コメントが思いつかない。 俺は、本スレ内の勝負がつくまで、ただ、圧倒されていた。 |
|
「raimo、お前か」 「…kUzuさん」 中心部。 raimoの姿を見つけたkUzuが、声をかけた。 「どうして俺だと?」 「これだけのことが出来るのは、今はお前だけだろ。 流石だよ」 「…あざす。 でも、流石なのはkUzuさんですよ」 「ん?」 「さっきからそこらじゅうでザコテが気絶してますが、kUzuさんでしょ。 強烈な電圧でビリっとやって、無力化ですか」 「ああ、そんなとこだ」 「…威力と器用さを併せ持ってるんだからなー、この人は…。 じゃ、もう片付いたんですか?」 「大体な。 俺のほかに、coco_Aさん、SEVEN、鋏さん…あと、リア姉にMakinも見かけたな。 これだけいれば、そう時間はかからないさ」 「俺がちょっと休憩してる間に終わっちゃうとはね…。 活躍の場を残してくれててもいいじゃないですか」 ぶすっとした表情で漏らすraimo。 kUzuが苦笑いをしながら、それに答える。 「何言ってやがる、どう考えても今日のMVPはraimoだよ」 「…」 kUzuの褒め言葉にも、raimoはあまり嬉しそうな表情は見せない。 「俺じゃないっすよ」 「とは言っても、お前以外に誰がいるんだよ」 「…」 raimoは、何を言うか迷うように口の辺りをむずむずさせたあと、 「本スレいきましょう。 締めです」 と、言った。 |
|
「…ここまで、脆いとはな」 目の前のUszakuは、自嘲気味にそう言い放った。 その言葉は、随分と寂しく響いたように、EiH1は感じた。 本スレ内。 ザコテ達は一掃され、Uszakuも既にペンを失っている。 「残念だったわね」 リアさんが、言う。 戦闘に参加したコテ達全員がUszakuを囲み、少し距離を取ってその様子を住人達が見守っている。 「さて、俺はどうなるのかね?」 「罪状は余るほどあります。 覚悟しておいて下さいね」 SEVENが、厳しい口調で言う。 coco_Aさんが、Uszakuにゆっくりと詰め寄る。 「あ、あのっ」 そんな様子を見て、思わず声を出していた。 「EiH1さん?」 「その、えーと…」 何が言いたいか分からないまま、口を開いてしまって、言葉に詰まってしまう。 「…きゅーちゃん、まさかこの期に及んで同情なんてしてないよね?」 「う…」 ズバリとリアさんにあてられ、さらに言葉に詰まる。 「えーと…あ」 そんな中、パッと閃いて、駆け足でしゃべっていく。 「その、目の前にいるその人は、まだ、匿名じゃないですか。まだ、公に顔をさらした訳じゃない。 ここじゃ特定はご法度ですから、その、匿名がやった、ってことで…。 具体的に誰かを処罰はしない、ってことに…」 「…ならねえよ」 raimoが言う。 「だよ、ね」 …はぁ、俺は何を言ってるんだろうか。 「90」 低い声が聞こえた。 Uszakuだ。 「貴様、どこまで俺をコケにする気だ? この期に及んで安い同情など、不愉快なだけだ」 「いや、そういうつもりじゃ…」 なんだか、俺はこの人と相性が悪いのだろうか。 やけに怒らせてるような…。 「…ほんとに、そういうつもりじゃないんです。 その、この人も、ペン回し界のことを考えてやったことだし…。 この人も、たぶん、ペン回しが凄い好きな人だと、思うんですよ」 「…」 「俺が、この人の正体を知ったのだって、この人がマイナーなペンを持ってたのが発端じゃないですか。 あれについて337さんから色々聞きましたけど、あれ、本当にマイナーなんですよ。 よほどマメに海外について情報を仕入れてないと、あれに目は止まらないし。 目にとまったとしても、わざわざ人に作り方を聞いて作るなんて、そうできることじゃないです。 …だから…その…」 「もういいですよ」 俺の言葉を遮ったのは、SEVENだった。 「…EiH1さんの言いたいことは分かりました。 ですが、この人のしたことはすぐに広まるでしょうし、何も罰を与えない訳にはいきません」 どう考えても、筋が通っている話だ。 …確かに、下手に同情するのは失礼なのかもしれない。 「…ですが、情状酌量の余地があるのは認めます。 詳しい所は、王宮に戻って決めますので」 そう言うと、coco_AさんとSEVENは、Uszakuを連れて、本スレの出入り口へと向かう。 「ああ…そうだ」 SEVENが、一歩外に出たところで、思い出したように後ろを向くと、 「今回、我々管理人は、ここに介入して、守るような形になりましたが…。 ここの存在を肯定する訳ではありません。 お忘れなく」 と、言い残した。 言っている内容は厳しかったが、口調はどこか柔らかったように思えた。 「…ま、SEVENにしては上出来か」 「そうかなー?もうちょっと素直になればいいのに」 「いや、あれが今は本音でしょう。 SEVENも、決してここを好きになった訳ではないでしょうから」 kUzuさんとリアさんが何やら話している。 「さってと…色々、ここの後片付けは残ってそうだけど、住民に任せた方がいいわよね。 Makinとこに行って、みんなで打ち上げでもしよっかー」 「おー、いーですね。さんせーっす」 リアさんの提案に、toroさんが言う。 「…あの、すいません、俺はちょっと遠慮していいですか?」 「あ? お前が来なくてどうすんだよ」 raimoが口を尖らせる。 「別に、俺がいなくても…」 「いや、今日はお前が必要だ」 「そうね、きゅーちゃんも来ないと盛り上がらないな」 「…すいません。 でも、今日は、ちょっと…」 凄く魅力的なお誘いで、本当に申し訳ないんだけど。 今日は、どうしてもやりたいことがある。 「何よ、やりたいことって」 「その…」 言おうかどうか迷った。 目の前の人たちの誘いを断るような理由ではないと、自覚していたからだ。 でも、言うことにした。 自分の、正直な気持ちだからである。 「ここで、飲んでいきたいんで」 |
|
一週間後―。 「移転?」 王宮内、見晴らしのいい、階段の踊り場にて。 raimoは、思わずそう聞き返した。 「そんな話もあるらしいわよ。 やっぱり損傷が激しくて、今までどおりには使えなくなったらしいわね。 今の場所に残る、って人もいるみたいで、結局どうなるかは知らないけど」 RiAsONが、その質問に答える。 「ふーん…」 「りっちゃーん」 階段の下から、RiAsONを呼ぶ声。 「ん、はさみ」 scissor'sは、急ぎ足で階段を駆け上がってくる。 「どうしたの?」 「あの、90くんのこと、聞きました?」 「きゅーちゃんがどうかした?」 「その…昨日、登録を解除した、って聞いたんですけど」 「は?」 寝耳に水な話に、raimoが、思わず声を出す。 「…登録解除、ね。 相変わらず、人に相談もないんだから」 RiAsONは苦笑いしながら答える。 「理由とかは聞いてる?」 「なんでも、活動を自粛するから、とからしいですけど」 「…はぁ」 RiAsONは、溜息をつくと、 「よし、らいも」 とraimoを促し、階段を降りて行った。 |
|
「んー…」 やっぱり雰囲気が違うな。 まぁ、俺がこの場所を用意した訳でもないし、文句は言えないけど。 90は、新しいしたらばを訪れていた。 人は思ったより多く、出来たばかりの割には上出来、って所か。 まだ移転組だと腹をくくったわけではないが、こっちにも顔を出して見ることにしよう。 昨日、王宮に行って、登録を解除してきた。 理由は、コテとしての活動はいったん止めることにしたからだ。 そのための、区切りという意味で、登録を解除した。 コテとしての活動をやめる理由は、まあ色々ある。 俺は結局、ただの匿名として居る方が気が楽だ、って思ったのもあるし。 そもそも、コテとしての活動なんてたいしてしていない。 有名な人と出来たつながりを切ってしまうのは、正直勿体ない気もしたけれど、 彼らとは、自分はやるべきことが違う気がした。 圧倒的な実力は、俺にはない。 ついでに言えば、たぶんセンスもないし、彼らに追いつけはしないと思う。 結局、事件に関しても、自分じゃ何もできなかったしなぁ。 そうやって正統にコテをやるよりは。 俺は、このしたらばをより良い場所へ、変えていきたい。 偉そうな説教をしても、顔を晒してここを批判しても、多分ここは変わらない。 俺に出来るのは、ただ、1人の「良い匿名」として、ここに居続けることだと思う。 自分が「良い匿名」なのか、なんてのは自信がないから、まず自分の身を見つめ直すことからかな。 ま、何はともあれ、以前と同じ気楽な立場になった。 のんびりと過ごしていくことにしよう。 「よし」 元のしたらばの方も見ておこう、と思い、出口に向かう。 「…ん?」 入口付近、使用中の番号が書きなぐってある掲示板。 そこに、封筒が張り付けてあった。 「…なんだこれ」 その封筒には、大きく「>>90」と書いてある。 警戒しながら、封筒を手に取る。 中に何か入っているようだ。 慎重に開封して、中身を確認する。 「…PMのカード?」 それは、PMのカードであった。 それも、「EiH1」のカードである。 「…」 カードは、1件の新着メッセージを知らせていた。 差出人は、raimo。 『俺と姉御で、coco_Aさんに頼んで登録解除の申込取り消しといたぜ。 お前、意思が弱そうだから、すぐまた登録とか言い出しそうだからな。 損はねーだろうから、籍は置いとけ。 あと、たまに飯食いに来い、ってMakinが言ってた』 90は、何度か読み返したあと、 「…参ったな」 と、ぽつりと呟いた。 ゆっくりとしたらばを出たあと。 EiH1は、そっとカードを、懐にしまった。 |
|
あとがきへ |
|
ページトップへ移動 サイトトップへ移動 |
|