投下するスレ 04

前へ




イベントなどがある時には多くの人が集まる、西街の大広間。
普段も憩いの場として愛されているそこも、今日は雰囲気が違う。
人がいない訳ではない。
だがいるのはわずか3人である。
中で暴れている怪物たちを、見物しようなどという勇気のあるものはいなかったからだ。


「かつお!邪魔だどけ!」

NIKooが叫ぶと同時に、ペンを加速させる。
指と指の間を縦横無尽に動き回るペン。「暴れている」という表現がふさわしい。

地から飛び出した太い蔓が、槍となって目の前の敵に襲い掛かる。
それを、素早いフットワークでs777は横にかわす。

かわされた蔓は、今度は鞭となって薙ぎ払うような動きへと変化する。
今度は上に飛んで回避するs777。

そこで、Bonitoが動いた。
広間の中心にある噴水。そこにある大量の水に魔力を注ぐ。

大きな3つの水球を作り出し、一斉にs777に向かって疾走させる。
しかし、空中でも空気を蹴るように迅速に動くs777に、これもかわされる。

「クッソ、一体どうなってんだ?
s777の癖にかわしてばっかじゃねえか」

NIKooが悪態をつく。

「確かにおかしい」

Bonitoも同意する。

s777は、勿論数々の小技も持ち味だが、強烈なアラウンドも持っている。
ここまで、それによる強力な攻撃がほとんどない。
強いて言えば路地裏での火球だが、あれもNIKooが阻止してしまっている。
「何か狙ってんのか?」

「あーうぜー・・・こんなんぜんっぜん面白くねえ」

言葉と同時に、NIKooが技のスタイルを変えた。
さっきまでの荒々しいスタイルから、キレ・完成度重視の組み立てにシフトする。

「さっさと終わらせようぜ」

地面から、本数にして十数の細い植物が一斉に突き出て、s777を囲った。
それぞれがさらに何本かの蔓に分離しながら、網のようにして目標を捕らえんと突き進む。

「これなら避けれねーだろ」

s777もそう悟ったようだ。動きを止め、そして、

「!」

Bonitoが息を呑む。路地裏で、足音を止めた時のような気配を感じたのだ。

次の瞬間、巨大な火球が蔓のカーテンを突き破った。
上に飛び上がったs777は、さらに小さな火球をいくつかこちらに放ってきた。

「(来た・・・)」

Bonitoが攻撃を水で迎撃しつつ、s777の猛攻に身構える。

だが、予想に反してそれ以上の攻撃は来ない。
NIKooは鋭くs777を睨みつけている。

そして、s777はにやりと笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間、

あまりに唐突に消えた。

「なっ」

Bonitoは驚いた。
まさか、こんなタイミングで逃げたのか?

「どっか行ったぜ。近くには殺気のかけらもありゃしねぇ」

NIKooがなんとも不機嫌そうに言う。

「一体どういうことだ?不利でも悟ったか?」

「相手はs777だぜ、かつおお前馬鹿か?
あの野郎、最初から真面目にやる気なかったぜ」

確かにそうだ。
さっきまでの戦いは、自分達の実力の方がかなり上だったようにも見えるものであった。
無論、そんなはずはない。s777なら、自分達2人とも互角に戦えるくらいの実力はある。
つまり、本気を出していた訳ではないことになる。相手は防戦一方、まともにやり合う気がなかった。







「なんなんだ?先に仕掛けてきたのあいつだぞ」

NIKooは無言で自分の作り出した植物の方に歩んでいった。
ドーム状になった蔓は火球で焼かれ、大きな穴が開いている。

その断面を、NIKooの目が厳しい視線で見ている。

「どうかしたか?」

Bonitoの質問には答えず、NIKooは蔓を地中に戻した。

「・・・。王宮に行く。てめーも来い」

「は?」

唐突な命令に怪訝な顔をするBonitoだが、NIKooは既に歩き始めていた。







「ここですか・・・随分外れにあるんですね」

「まあ、そうだな。そういう人だ」

計算といもは、この日は一日中情報収集をしていた。
その中で手に入ったくらさんの目撃情報を元に、王宮から北に随分離れた場所を訪れていた。

「えーと、骨董屋さん?なんですか?」

「そのようだな。俺も最近は何をしているか分からなかったが、店を開いているとはね。
まあいい、入るぞ」

「はい」


随分古めかしいドアを開ける。木がきしむ音とと共に、薄暗い店内が視界に広がっていく。
焼き物などが所狭しと並ぶ中、奥に1人の人物が座っていた。

「どうもこんにちは、冬さん」







winter。
王宮などにはあまり顔を見せないが、その独特の雰囲気を持つ旋転は一目置かれているスピナーである。

「・・・key3。それにPOTATOMANか」

低く、上手く聞き取れないような声でwinterは答えた。

「どうも、こんにちはです」

「こんなところで店をやっているとは思いませんでした。
たまには王宮に顔を見せて下さいよ」

「・・・今の旋転界には興味が無い・・・俺は美しいものを見れていれば、それでいい」

「そうですか」

計算は答えながら、この人は変わらないな、と心の中で呟いた。

「・・・何の用だ?」

「はい。えーと、先週ここにくらさんがいらっしゃったと聞いたのですが」

「Crasher?」

winterが冷たい視線を2人に向け、

「・・・ああ。来た。それがどうかしたか」

「どんなことを話したんですか?」

「Crasherとの個人的な話を明かす義務は無い」

「そこをなんとかお願いなんです。JEBの存亡に関わるかもしれない話なんです」

「今の旋転界がどうなろうと・・・俺の知った事ではない」

winterは来訪を好ましく思わないのか、2人の話に取り合おうとしない。

そんなwinterを見て、計算が別の方向から切り出した。

「ayatoriがJEBに敵意を見せています」

winterが反応した。

「・・・ayatoriが?」

「俺が襲われました。遠くから牽制のような形ではありましたが」

「それは確かにayatoriだったのか?」

「俺がayatoriの魔力を見間違うなんて、ありえません」

計算が断言する。
2人の間に長い沈黙。いもは重い雰囲気に、随分と落ち着かない様子である。

沈黙を破ったのは、winter。

「それがCrasherとどう関係があるんだ?」

「くらさんが先週ayatoriさんと接触しています。ここを訪れたのはその直後のはずです」

再び沈黙。そして、

「Crasherは、ayatoriを話題に出した」

2人がまさに期待していた言葉があった。身を乗り出してwinterの話を待つ。

「ayatoriと国の外に行く、と言っていた。見るべきものがあると。
俺も誘われたが、断った」

「具体的にどこの国に行くか聞いていませんか?」

計算の質問にwinterは首を横に振る。ただ、と付け加えて、

「国の外とだけ言っていた。他のフォーラムとは限らない」

フォーラムとは、国の別称である。
大陸にはまだ未開の地も多く、それらの多くはどこの国にも属していない。
winterは、そのような荒地に向かった可能性を指摘している訳である。

「あいつもそんなに長くは寄っていかなかった。あまり詳しい話を聞いたわけではない。」

「そうですか。貴重な話をどうもです」

「冬さん、あなたはこの件についてどうお考えですか?」

計算が最後に質問をぶつける。winterはそっけなく、

「興味が無いな」

と答えただけだった。







「やっとまともな情報が手に入りましたね」

winterの店を2人が出ると、外は薄暗くなってきていた。

「ああ。くらさんはやはりayatoriと、この件に関わる話をしている。
しかし、国の外に行ってayatoriが今回の事を思い立ったのか、
それとも既に事を決めた上でくらさんを誘い出したのか。考える必要があるな」

「んーそうですねー。でも現状ayatoriさんだけが動いているわけですし・・・」

その時。道を歩く2人が同時に後ろを振り向いた。

視線の先には、先程入った骨董店。

「今、物音が」

「それもただ事じゃ無い音だ」

2人は同時に駆け出した。




次へ

ページトップへ移動

サイトトップへ移動