投下するスレ 03

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「ん、セブンくん、珍しい人が来た。挨拶しにいったら?」

城門方向に目を光らせていたtoroが、入ってきた人物を見て隣のSEVENに言った。

「珍しい?どなたです?」

「姫さん。隣に居るのは、んーと、えのっとさんだね」

そう言うと同時に、城の者が駆け寄ってきた。

「SEVENさん、お客様がいらっしゃってます」

「ああ、丁度今聞いた。すぐ行く」

駆けて行くSEVENを見送りつつ、toroはつぶやく。

「姫、何の用事だろ。昨日の今日だし、関係のある話かもなー」







「姫!ご無沙汰しております。それにenotさんも。王宮内でお見かけするのは随分久しぶりですね」

王宮内の広い応接間。椅子に座った2人の人物に駆け寄りながら、SEVENは言った。

「まあ、そうかしらね。SEVEN、総合管理人になったらしいわね」

「はい。まだ不慣れな事ばかりなんですけど」

こういう話は就任以来何度もされている。自分がする回答も大体同じ感じだ。
しかし、なんだか、いままでと雰囲気が違う。

なんというか、「祝福」的なニュアンスが薄い。
一体、なぜだ?

「えー、今日は一体どうなさったんですか?」

「そうね、さっさと話を始めましょうか。
私は今日は協会の会長として来てるのよ。JEBの代表と話をするためにね」

姫が鋭い目をSEVENに向ける。

「JapEnCupの話は聞いてるわ。国内のスピナーのレベルは随分上がっているようね」

「ええ、そうですね。皆さん、日々精進を怠らない素晴らしい方々です」

「けれど、レベルが上がるのに・・・スピナーの数はあまり増えていないのね」

「え?」

突然の話題にSEVENは虚を突かれた。
スピナーの数。あまり考えたことはなかったが、確かに最近そんなに増えているとは感じない。

「そうかもしれませんが・・・それが何か?」

「旋転技術は上昇しているのに、スピナーの数が増えない。これがどういう意味か分かる?」

分かる、と言われても、分からないから今聞いたんだけどなぁ・・・

ここで、ずっと沈黙を貫いていたenotが、口を開いた。


「技術を、一部のスピナーが独占しているということです」

「ご存知の通り、旋転による魔力というのは現状の社会の中でずば抜けた力を持っています。
それを一部の上層部が独占しているのはおかしいと思いませんか?
はっきり言って横暴だ」

「え?いや、ちょっとま」

「否定なさるつもりですか?
スピナーの多くが、ペン回しがむやみに広がるのを否定し、そういうシステムになっていると思うのですが」

確かに、JEBではスピナーがむやみに旋転を誰かに教授するようなことは禁止されている。
しかし、それにはしっかりとした理由が・・・

「私達、協会はJEBに旋転の開放を要求するわ。
断るなら、こちらにも考えがあるわよ」

姫が、冷たく言い放った。







「協会、か」

廊下を歩きながら、coco_Aは考えていた。
先程、使いのものが来て姫の来訪を告げられた。

普段はまったく王宮には来ない姫が来たとなると、
enotさんも一緒だというし協会関係の話かもしれない。


ペン回し協会。
姫ことayshさんが会長を務めるこの団体は、旋転について人々に広く知ってもらう事を目的としている。
役員には現役から一線を退いた人まで、多くの上級スピナーが所属している。
あまり直接関係したことはないのだが、JEBにも影響力を持っている存在なのは確かだろう。


まだ協会関係かどうかも分からないが、そうだったらちょっと気になるな。

応接間の扉の前に立つと、ノックをして中に入った。
そこには、入った瞬間に分かるほど重い空気があった。







「旋転の開放?」

SEVENが言った協会の要求は、まったく予想だにしないものだった。

「姫、あなたほどの人が一体何を考えているんですか?」

「普段から思っていたことよ」

「旋転を広める事に制限がもたれている理由はご存知のはずです。
この魔力は強大なものであるゆえ、悪用されては世界がおかしくなる可能性もある。
だから、我々スピナーが認めたものにだけ、技術を伝えるようになっている」

「そういう意見もある、というだけです。それは絶対的な正論ではありません。
一部のみが技術を握っている現状では、この技術の発展も遅いし、何より不公平だ。
それとも、誰かに地位をとられるのでも怖がっているのですか?」

enotが厳しい口調で論述する。
まさか、協会がこんな馬鹿な話を持ってくるとは・・・。

「私は協会の代表として、この意見を曲げる気はないわ。
私が聞きたいのは、あなた達が賛同してくれるかどうなのかよ」

姫がキッとふたりを睨む。

「SEVEN君」

「はい。
私は、総合管理人としてその話には賛同しかねます」

SEVENがはっきりと断言した。

「そう。分かったわ」

姫が、そうなんとも悲しそうに言った。

悲観している、といった感じ。心からそう思っているようにSEVENは感じた。
そして、同時に―なぜか、姫は少しほっとした表情をしたように見えた。
何故そう感じたのかSEVENには分からなかった。

「では、交渉は決裂です」

enotが席を立つ。姫も続く。

「後々、別な形でお会いするかもしれません。それでは」

席を立った2人が、広間の扉に向かう。
扉に手をかけたとき、coco_Aが意を決したように言った。

「ayatori、は?」

enotがちらりと振り返った。

「ayatoriは、あなた達に関係しているんですか」

2人はcoco_Aの問いには答えずに出て行った。



「coco_Aさん、ayatoriさんもこの話と」

「無関係、だとは思いません。今の2人の反応を見ても。
ただ、どこまで関わっているかはなんとも言えませんね。
しかし、協会がなぜ・・・」

「やはり、おかしいですね。何がどうなっているんだか」

「まったくです。
とにかくこのことはあちらがしっかりとした形で来たわけですから、
こちらも正式に人を集めて会議を開く必要がありますね。
手配しておきます」

「よろしくお願いします」







一方、東街の人が近づかない家具屋の中。
ayatoriとkUzu、Pespの間では、無言の時が流れる。

「どうしたんです?」

先に口を開いたのは、ayatoriだった。

「私を捕らえに来た、と思っていたのですが。
あ、そうか。大丈夫ですよ、ここは外に魔力が漏れないように細工してありますし。
外壁だけはかなり強化してありますので、暴れて中をぐしゃぐしゃにしても外の人は分かりません」

「ayatoriさん・・・あなた、一体何をする気なんです?」

kUzuの言葉にayatoriは小さく声を出して笑い、

「まあ、後々のお楽しみということにしましょう」

再び沈黙。

「Pesp」

「わっつ?」

「やるぞ」

kUzuの言葉を合図に、3人が同時に動き出した


まず先手をとったのはkUzu。小手調べ、とばかりに単純なパスから1212を繰り出す。

kUzuの左手に黄色い閃光が集まり、雷の弾丸がayatoriに向けて放たれた。

ayatoriがすぐさま迎撃する。
後方の壁が剥ぎ取られ、ayatoriの前に立つ。
kUzuの攻撃は簡単に防がれた。

「フヒヒッ」

声が漏れるのと同時に、Pespの前方に何か禍々しい塊が集まる。

その瞬間、防御体勢に入ったのは、ayatoriとそしてkUzuもだった。

「(やっぱお構いなしか)」

kUzuは、かつて共に闘ったWorldCupを思い出す。その時とスタイルは変わっていない。

Pespには、苦手なことがある。それは、旋転によって生まれた魔力を「変換」することだ。
魔力はそのままでは持つ力は弱い。何かに変換して使用するのが普通である。
センスのあるものなら最初から、それ以外でもちょっと練習すれば出来るようになることだが、
Pespはそれがあまりうまくない。

そんなPespが一流のスピナーとして名を馳せている理由はひとつだ。
生成する魔力自体の量。おそらく、今目の前に居るayatoriさえも上回っている。

Pespの前に今集まっているのは、膨大な魔力だ。
ここから繰り出すPespの攻撃は・・・。

アラウンドで自分の前に防御を作る。


次の瞬間、爆音が響く。

魔力をあまり変換させないでの爆発である。


砂煙が晴れる。ayatoriは健在。先程の壁で同じく防いだようだ。

しかし、Pespの攻撃は続く。
掌・手の甲を縦横無尽に使い繰り出される複雑なコンボ。生まれる魔力。
今度は魔力を一点に集中させず、部屋のあちこちにばらまく。

ayatoriが一瞬ひるむのを逃さず、背後で大きな爆発を1つ。
不意を突かれたayatoriも、抜群の反応でソニックを繰り出し、前進して回避する。

「もらうぃっ」

Pespはそれを見越していた。ayatoriの周りで小さな爆発が連続して起こる。
ayatoriはその1つ1つに反応し、防御していく。

その間、kUzuはインフィニティを交えたゆるやかなコンボでayatoriの周りに意識を集中させていた。

ayatoriさんを幾度と襲う爆発。ayatoriさんの防御は俺じゃあうまく読めないが、これなら分かる。

そこから、ayatoriさんの防御を予想し、隙を・・・

「見えたっ!」

12222。雷がayatoriに向かって疾走する。


だが、弾丸はayatoriに届く前に、何かにぶつかり、そして消えた。


「これは・・・」







自分の弾丸を防いだもの。何も無いようで何かあるこれは、見覚えがある。
空気自体に魔力を注ぎ込み、防御とする。
単純な魔力の壁より強力だが、高い技の完成度とそれに伴う綺麗な魔力が要求される。

「ayatori、あまり遊ぶのはよくない」

それが可能な一流スピナー、outsiderが立っていた。

「さいだー。ごめんね、ちょっと気になってさ」

「呼ばれている。行くぞ」

2人はわずかの魔力の気配を残して、消えた。
魔力による移動術だ。追えなくもないかもしれない。

「Pesp、追うか?」

「ストーカーは嫌いだ。というか犯罪だ」

「わーってるよ。追ったって勝てないし、まず追えるかも分からねーし」

正直少し安心した。あの2人にかかってこられたら、かなり危険だった。

「さっきのkUzuの攻撃も、ayatoriさん余裕で反応してたし」

「ん、マジ?入ったと思ったんだけどなー」

「くやしいのうくやしいのう」

「うるせえ」

あれに反応するのか。やっぱ、ayatoriさんも只者じゃない。

「しかし、outsiderさんも敵なのか」

kUzuが1つため息をつく。
ayatoriさんに続き、また身内から敵が出たという形になりそうだ。

「誰が敵なのか分からない、ってのがつらい」

Pespがめずらしく、素直な感情を呟いた。




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