投下するスレ2 05

前へ




「おっすー」

「ん…」

JEB王宮の中心にそびえる塔の真下に当たる部屋。
王宮の警備の番にあたっていたkUzuの元を、2人のスピナーが訪れていた。

「リア姉にMizmさん。
 どうも、どうしたんですか?」

「なーに、暇してると思って相手しに来てやった、ってとこ。
 この子は、さっき見つけて拾って来たんだけどね」

そう言って、RiAsONがMizmの頭にぽん、と手を置く。

「…拾われてきた」

「そうですか。助かりますよ、滅茶苦茶暇だったんで」

「ほんとに警備番は暇よねー、あたしも思うわ。
 まぁ、去年の例があるだけに気を抜けない、というのも分かるけど」

「…」

「…」

ほとんどそんな素振りは見せなかったが、
MizmとkUzuはそれぞれ去年の事件を思い出していた。

RiAsONは、昨年の事件の真相を知らない。
口裏は、真相を知る全員で合わせてあるが、やはり出来るだけ話題には出したくない所だった。

「さて、と。とりあえず、お茶でも入れようか」

RiAsONが話題を切って立ち上がったので、2人はホっとする。

そこで、再びドアが開いた。

「失礼しまーす…げっ」

顔をのぞかせたのは、背の小さな少年だった。
長い前髪はほとんど目を隠してしまっていて、服は黒系の色に統一されている。

その少年は、ある1人の人物を見て、思わず声を漏らしていた。

その様子を見て、Mizmは微笑んでいる。

「姉御…」

「raimoじゃん。
 どうしたの、何か不満なことでもある?」

RiAsONがraimoに言う。
その表情は、楽しげな―具体的に言えば、玩具を手に入れたような顔だった。

「…別に。
 くずさん、伝言があります」

「おう、どうした?」

「Pespさんが、明日も暇なら付き合ってほしい、だそうです」

「そうか、分かった」

「じゃ、俺はこれで…」

「待ちなさいよ、raimo」

言い終わった後、高速で反転して帰ろうとしたraimoをRiAsONが呼び止める。

「…何?」

「Pespが、そんなまともにお願いするはずないじゃん。
 伝言は、誤解を防ぐためにも原文のままで伝えるべきよ」

ややあって、raimoが低い声で言った。

「…マジで言ってんの?」

「うん、マジ」

raimoは本気で嫌そうな顔をして頭を掻く。
その後、Mizm、kUzuの表情を窺い、溜息をついて、口を開いた。

「『kUzu、今日のあなた、とってもエキサイティングだったわよ。
 もう、私、次が楽しみでしょうがないわ…明日も、お・ね・が・い、はぁと』
 だそうですよ」

Mizm、RiAsONが笑う。
kUzuも苦笑を浮かべ、

「そのキャラ、マイブームなのかな…午前もやってたよ」

「ありがと、raimo。じゃ、あんたも一緒にお茶してきなさい」

「結局そうなるのかよ…」

苦い顔をするraimo。

「…らいも、あきらめた方がいいよ」

「…分かってる」

Mizmの言葉にぶっきらぼうに返答して、raimoは席に着く。

「というか、Pesp、戻ってきてたんだね」

「はい、ついこの前っすけど」

「ふーん…そういえばね」

RiAsONが記憶を巡らせながら、しゃべり始める。

「昨日、面白い人にあったんだ」

「へー、どんな人です?」

RiAsONの言葉に、kUzuが相槌を打つ。

「ちょっと説明しにくいんだけどさ。
 本当に匿名の人だった」

「匿名?」

「そ」

RiAsONは、ここにいる3人についてよく知っていたから話題に出したが、
本来、匿名やしたらば等の話はスピナー達皆がしている話ではない。
印象が良くなく、話題にする事を好まない人も少なくないためである。


「…っていう訳でね。町で見た時はほんとびっくりしたけどさ」

「へー…というか、りっちゃん、したらばとか行くんだ…意外…」

「ん、あたしも普段はいかないよ。
 ただ、月に1度くらいかな、気分転換に覗いてみたりするだけ。
 たまに行くんなら、意外な話も聞けたりして悪くないと思うけど」

「Mizmさんは行ったりしないんですか?」

kUzuが聞く。

「うん…私は、あそこ、苦手…」

「まぁ、あそこは好き嫌い出ますからね。
 姉御みたいな神経太い人なら平気だろうけど」

「そうだねー」

RiAsONが涼しい顔で答えた。

「…?」

raimoはその反応を不審に思い、RiAsONの方を見る。

「…あ」

Mizmがぽつりと、raimoの方を見てつぶやく。
そこで、raimoも自分の額が何やら熱いことに気づく。

「…なっ!うわっ!前髪がっ!」

前髪付近でいつの間にか起こっていた火を、raimoが慌てて手で叩いて消す。

「姉御!洒落になんねーぞ!」

「何の話?」

「何の話じゃねえよ!」

「…raimo、落ち着いて…前髪は燃えてない…。
 その辺、加減してあったよ…」

「…ったく」

Mizmになだめられ、引き下がるraimo。

「で、その匿名、どうするんです?」

そんなやり取りを微笑ましそうにkUzuが、RiAsONの方を向いて聞く。

「…っていうと?」

「随分気に入ったみたいじゃないですか」

「まぁ、ね。
 とりあえずコテを持つのを薦めといたけど、どうかな…。
 まぁ、コテ持ったら、いろいろ声かけてみようとは思うけど」

「どんな旋転するのか、気になりますね」

「でも、ずっと裏の方にいた訳でしょ?
 単に燻ってただけって可能性も高いんじゃないの」

raimoが言う。

「んー、どうかな…。
 考え方・話し方は、なんというかセンスを感じたから、
 もし今イマイチだとしても、磨けば良いスピナーになると思うな」

「話し方で、ねえ…それも、ちょっと話しただけでしょ?
 それだけで入れ込むのは、わかんねー」

「んー、そこはね…」

「…女の勘…」

Mizmが呟くようにして言う。
RiAsONが頷いて、

「そういう感じ」

と言った。
raimoは、納得していない顔である。

「まー、でも、面白そうですね。
 俺も、話してみたいな」

kUzuが言う。

「ね。コテデビューしてくれないかなー」

「…そういう人が混ざると、CVとかも盛り上がったりするし…」

Mizmも興味を持っている様子だ。
1人、どうも好意的でないraimoは、

「…そういう色物みたいな感じはどうなんすか」

と、ぼそっと呟いた。

「おー、raimo?
 どうしたのー、大人気の新参君を意識しまくり?
 かわいいなぁ」

RiAsONのからかいに対し、raimoは何も答えず、頭を掻いただけだった。






「がおさん、旅に出られてたんですよね?」

「ん、そうだ。
 何度か戻って来て、いろんなところ覗いてはいたんだがな。
 今回は本格的な、というか、しっかりとした形での帰郷だな。
 当分はJEB内にいるつもりだ」

「成程。
 JapEn4thで、完全な復活かと思ったんですが」

「ああ、あれも、一時的に戻ってた時にノリで審査受けたら受かっちゃってなー。
 当日は国外に居る予定だから困ったんだけど、出演出来て良かった」

ノリで、か。
なんというか、聞いていた通りの人のようだ。

さて。
いい機会だ、旅の話をしたいが、いきなりというのも不躾だろうな。

「えーと、どうして馬車で?」

とりあえず、気になっていたことを聞いてみる。
国外なら人目もほとんどないだろうし、そもそも俺みたいなやつとは事情が違う。
がおさんが魔法で屋根の上をぽんぽん飛んでいても、旅からの帰りという名分もある訳で、別に問題ないだろう。

「…お前、荷馬車乗ったことある?」

がおさんから、良く分からない質問が飛んできた。

「えーと、小さい頃にありますが」

「そうか。なら、分かるかもしれないが、あの独特のリズムというかな。
 揺られながら進むのが、なんとも好きなんだ。
 たまたま見かけて、JEBに行くって言うから乗せてもらったんだ」

「なるほど…」

「それに、魔法で駆け抜けると、周りの風景が見えないからな、好きじゃない。
 お前も、スピナーなら、魔力に頼りすぎてそういうのを見失わないようにした方がいいぜ」

「は、はい」

「おう、って説教臭かったか?まぁ気にすんな。
 …そういや、名前聞いてなかったな」

がおさんが、話題を変える。

「あー…えーと、90です」

とりあえず、そう言う。

「きゅーじゅー?数字の?」

「はい」

「ふーん…ななちゃんを思い出すな。数字の名前って言うと」

「えーと…正確には、名前じゃなくて、呼び名、っていうか」

「…」

俺の、なんとも言えない言い方に対し、すっと俺に対する目線が変わった気がした。

その後、妙な間が続く。

「えーと…その、俺、匿名、なんです」

「そうか」

沈黙に耐え切れず発した俺の言葉に、がおさんは意外そうな表情は見せなかった。

「コテは、まったく持ってないのか?」

「はい」

「つまり、生粋の匿名ってやつか。
 まだ生き残ってたのか…そうか」

がおさんの表情が、どこか変わった気がした。

「なんて言うかな、懐かしい響きだ。
 今は、したらばっていう所で活動してるのか?」

「そうですね。
 ただ、文具とは、ずいぶん様子は違いますが」

「ああ、少し聞いてる。だが、根本的な空気は変わらないんじゃないのか?」

「そうかも、しれません」

とりあえず、匿名に関しての話は、どうも展開しにくい気がする。
話を変えようと思い、質問をぶつける。

「えーと、あの、聞きたいこと、って?」

「んー、ああ、そうだな…いや、JEBに登録してないなら、答えられない質問だと思うわ。
 だから大丈夫だ」

「そうですか…」

「そっちこそ、何か用があるんじゃないのか?
 サングラス取る前だから、俺だって分かって声かけたわけじゃないだろ?」

「…サングラス?」

聞きなれない単語だ。

「ああ、そうか。悪い。これだ。旅先で見つけたんだけどな」

がおさんは、額の黒い眼鏡を指さす。
なるほど、さっきから気になってたそれか。

「それ、前見えるんですか?」

「ん、まぁ大丈夫だ。それは。
 それに、実用っていうよりは、お洒落だと思ってな」

「…そんな眼鏡がある場所って、どんな所なんです?」

「ん?」

ちょっと単刀直入に行き過ぎたか?
いや、でも、はっきり聞かないと答えてくれないだろう。

「旅に出た先の話というのを、聞かせてほしいと、思いまして。
 声をかけました」

少し考えるような間をおいたあと、がおさんが答えた。

「…気になるか?」

「はい。スピナーは旅に出ることが多すぎるし、具体的な旅先もほとんど聞いたことがないし」

「そうか。なんとなく、噂とかは聞いたことないのか?」」

首を横に振る。
知ろうと思わなかったというのもあるが、全く知らない。

「なるほど、ね」

がおさんは、腕を組んで何かを考えている。

「何か、教えられない理由があるんですか?」

がおさんは、ゆっくりと額の黒眼鏡…いや、サングラスを下ろした。
そして、

「お前、年は?」

と、聞いた。

「え?あ…18です」

「なるほど…なら、そろそろかもな」

呟くようにそう言って、顔をこちらに向けた。

「知らないべきだ、とは言わない。
 むしろ、いつか知らなくちゃいけない時が来る話だ。
 だが、俺の口から言うという訳にはいかない」

「…」

正直、納得はできない。
はぐらかされてるだけな気がする。

「気持ちは分かるが、言えない。悪いな。
 それと、90」

初めて、その呼び方をされた。

「コテを持った方がいい。
 お前の為になるし…知るためにも、おそらく必要になる」

ゆっくりと言い聞かせるような口調で、語るがおさん。

「コテ…ですか」

「ああ」

「昨日も、同じこと、言われました。別の人に」

「そうか。当然の流れだと思うぜ。
 今は、スピナーが匿名として生きるのには、辛い時代だ」

「…匿名の事情は、良く分かってますよ」

匿名として生きてきた俺が、匿名としての生活について一番知っている。
そんな思いから出た言葉だった。
それに対し、がおさんは、じっとこっちを見ながら、答える。

「どうかな。おまえは、匿名としての世界しか、知らないだろ。
 もう片方の視点に立って、初めて判断できるんじゃねえか?」

何も言えなかった。

「さて、と。俺は王宮まで、飛ぶことにする。
 またな」

がおさんが、ペンを鋭く回して、宙に飛ぶ。
そのまま、柔らかな動きで、王宮の方へ向かっていった。

「…よく分かんねー」

どうも、しっくりこない。

だが。
なんとなく、思ったことがある。

「コテか…」

どうも、それが鍵になるらしい。


ここで退くのは、なんだか悔しいし、

がおさんの言葉を聞いて気付いたことがある。

おれは匿名として生きてきたが、そこに何か、理由はあったのか。
理由なんてなかった。なんとなく、なんだ。
つまり、今、こうしてコテとなることを薦められて、断る明確な理由を持ち合わせていない。


RiAsONさん、さらにがおさんにまでも薦められて、それを無下にする気に、あまりなれなかったし、
2人の話を聞いて、興味もわいていた。

それでいて、それを打ち消す理由は、あまり思い浮かばない。
強いて言えば、匿名としてのプライド、か。
だが、それはそこまで大事なものなのか。

…捨てるには、いい機会なのかもしれないな。


コテデビューをしてみよう、と。
決心するのに、そう時間はかからなかった。




次へ
 

ページトップへ移動

サイトトップへ移動