投下するスレ2 16

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「ということでして」

「…また、面倒なことになってるのね」

「そういうことです」

王宮、応接間。
向かい合って座っているのは、SEVENと、協会の会長・ayshである。

「ですので・・・あの人らについて何か情報をお願いしたいんですが」

ayshが来たのは、SEVENの呼び出しを受けてである。
その目的は、ザコテ達についてもう一度話を聞くためである。


「情報、といわれても難しいわね。
 あの子らの選定の中心になったのはayatoriで、私はあまりタッチしてないわ」

「選定?」

SEVENが少し意外そうな顔をして言う。

「ええ、そうよ。まぁ詳しいところはayatoriに聞かないと分からないけど…。
 ayatoriぐらいになると、普段から弟子入りを志願するような人も少なくないはずだし、
 知り合いを辿れば志願者はかなり見つかるでしょうね。
 そういう人の中から、良い人材を選定したはず。
 あれだけの人数だから…結構、時間かけてたと思ったわ」

「…」

ayshの言葉に対し、SEVENが少し沈黙する。

「どうかしたかしら?」

「いえ…すいません、勝手に彼らは無差別的に選ばれた、と思っていたもので」

「ayatoriの考え方からして、それはないわね。
 だから、根から悪いような人は混ざってないはずよ」

「成程…ですが、事実問題を起こしている人が多いですよ、彼らは。
 Saizenさん辺りが関わって、悪い人間を紛れさせた、という可能性は?」

「無いと思うわ。ayatoriが責任を持ってやる、みたいなことを言っていたから。
 それに、多少問題が起きるくらいなら、まだ十分『良い人』レベルよ」

「と、言いますと?」

「普通の人が持ってない、こんな凄まじい力を手に入れた訳だから。
 多少威張り散らしたり見せびらかしたりするのは、全くおかしい話じゃないと思うわよ」

「…そうでしょうか。普通に良識がある人なら、町中で騒いだりしないでしょう」

「人を殺すのにも苦労しないような力を持っておきながら、その程度なのは、むしろかわいい方よ」

ayshの言葉に、SEVENは黙り込む。

「元々スピナーって人がいい人ばかりだから、そう思えるのも無理はないけれど。
 現状スピナーに悪人はほとんどいない、というのが私の見解よ。
 その問題を起こした子達も、注意深く観察してあげて欲しいわ。
 普通のスピナーに比べれば、時間がかけれなかった分人格の見極めは甘いかもしれないけど、
 ayatoriの目を考えれば…そんなに悪い子は少ないはずよ」

「そうですね…考慮に入れておきます。
 coco_Aさんの話じゃ、あからさまなチンピラっぽい感じでしたけど…本性は分かりませんね。
 それにしても」

そこまで言って、SEVENが真面目な表情を少し崩した。

「ayatoriさんのこと、思ったより信用してるんですね。少し意外です」

「そうね…ayatoriに関しては、とりあえずもう何も気にしてないわよ。
 思ったより真面目過ぎる、ってのは分かったけれどね」

そう言ってayshは微笑む。

「さて・・・申し訳ないけど、もう行かないと。予定があって」

「ああ、はい。そうでしたね。
 忙しい中、ありがとうございます」

「こっちこそ、時間取れなくてごめんなさいね。
 それじゃ、がんばってね」

ayshは立ち上がると、軽く手を振って、部屋から出て行った。

ayshが出て行ったあと、SEVENはひとつ息をついたあと、肘をついて考え事を始めた。







「そういや、最近がおさんが帰ってきてるらしいわよ」

「…ん、マジ?」

raimo・Makinの研究室。
食事をしながら、RiAsONとraimoが話をしている。


「うん、NIKooが言ってた」

「ふーん…俺、直に会ったことないや」

「あたしもよ。
 あ、Makinー、これおいしい。もうちょっとちょうだい」

RiAsONがMakinを呼びつける。
Makinはすぐにかけてきて、RiAsONの皿を受け取るとキッチンに戻っていく。

「…ところで姉御、最近飯食いに来すぎじゃね?」

「ん、Makinが食べに来てーって言うから」

「嘘つけ…。自分で作りたくないだけだろ」

「お、言うね。でも残念ながら違うわよー。ね、Makin」

RiAsONはスープをよそってきたMakinから皿を受け取りなが言う。

「…リアさんは結構料理やってると思うよ。上手だから」

「マジで?」

Makinがうなずく。

「キッチンに鼠湧いてそうなイメージ…、
 いや、むしろ家にキッチンとか無さそうなイメージだったんだが・・・って痛っ!」

raimoが悲鳴を上げて、自分の足の方を見る。

「どうしたの、raimo?」

涼しい顔でRiAsONが言う。

「…相変わらず器用に、怪我させない程度にやりやがる…あー痛ぇ」

Makinは少し困ったように微笑んでいる。

「でも、がおさんが帰ってるなら、他にも誰か帰ってきてそうなものよねー」

「ああ、確かにそうだな…。でも、俺はそういう話聞いてないぜ」

「そっか…まぁいいか。
 ところで、raimoは行く予定は?」

「…今んとこ未定だ」

「Makinは?」

Makinが首を横に振る。

「私もまだ大丈夫だなー…。
 あー、そういえば、あの子そろそろ聞いたかな・・・」

「…ん?」

「ねーさ、raimoはきゅーちゃんに旅に関すること聞かれたり話したりした?」

「あ?いや、一言も話してねえぞ、そんな話」

「んー、そっか…じゃーまだきゅーちゃん知らないのかな・・・」

Makinが軽く首をかしげて、不思議そうな顔をしている。

「あー…あいつ、旅のことも知らねえの?」

「うん。登録する理由の1つに、それが知りたいから、っていうのがあったみたい」

「姉御が教えてやれよ。姉御が推薦人になってるんだろ?」

「んー…推薦人だけど、師匠って訳では無いからさ。
 どうしたらいいか、ちょっと迷ってるんだよね」

「つったって、あいつが回し教わったのって、匿名だろ?
 匿名相手に教えてもらうってのは無茶があると思うんだが」

「そうなんだよね。やっぱり、あたしが教えた方がいいのかな。
 …にしても、raimoに聞いてないとなると、目的忘れてるかもしれないわね」

「多分そうだな」

「やっぱそうかな。
 この前のCV以来見てないけど、何してるんだろー…」




日はだいぶ傾いてきたが、それでもまだ十分日差しは強く、暖かい。

その外の明るさと、中の暗さのコントラストが、中のダークな雰囲気をより一層強めている。

「…いきなりビンゴか」

思わず、EiH1はそう呟いた。






したらばの中を注意してうろついてみようと思って以来。
何度かパトロールまがいのことをしてみた訳だが、早くもそれらしい現場を押さえた、かもしれない。


きっかけは、中で見つけた1人の匿名。

そいつから、なんとなく…前回見かけたような雰囲気がしたのだ。
距離を取ってこっそり追いかけてみたところ、したらばの奥の方へどんどん向かっていった。

そして、入ったのが、この建物。

表札には「あ」とだけ書かれている。
したらばにたくさんある、使われていない建物の1つである。
そんなところ、普通は用がないから、何かあるのは間違いないだろう。


窓から中を覗き込むと、数人の男の姿が見えた。

建物は、一応バーのような作りになっているらしいが、人はほとんど訪れていないらしいことが分かる。
テーブルやカウンターには埃がたまり、そこらじゅうに蜘蛛の巣がはっている。

中にいる数人の男たちは、椅子に座って1つのテーブルを囲んでいる。
足がテーブルの上にあったり、煙草の煙が数本あったりして、雰囲気はかなり暗い。


さて。
どうしようか。

何か話しているようだが、聞こえない。

普通はここで魔法で盗聴を試みるところだが・・・ここは、それができない。


したらばをはじめとする匿名の地では、気軽にペンを回すことはできないのである。

こっそりと魔法を使うことが可能となると、
特定をはじめとして様々なことが可能となってしまう。

そのため、魔力の発動を察知するような仕掛けがされているのである。

魔法が使われたら、周りの人間がすぐにそれが「分かる」。
具体的に言うと、魔力の生成を察知して、周りの人間に信号が送られるようになっている。

しかし、この条件も相手は同じ。
すなわち、周りの動きを察知するような魔力は使われていない。

それを考えると、話を聞くというのも、不可能でないかもしれない。

なんとか出来ないかな。
とりあえず、ここではいくら耳を澄ましていても聞こえる気配は全くない。

「…裏回ってみるか」

とりあえず、中の奴らは、この窓から見て反対側、かなり奥の方に見える。

反対側に回ると、もしかしたら話が聞こえるかも。

バレるのが少し怖いが、相手は魔力が使えないのだから、逃げることは可能。
ダッシュして人がいる方に走り去ってしまえば、大丈夫。
最悪、何でもいいから魔法使っちゃえば人が集まるから、ボコボコにされるのは回避できるし。
よし。


頭の中でリスクと対処法を確認した後、反対側へと移動する。

さっきは通りに面していたが、こっち側は2mほど間を置いて別な建物の壁があるだけだ。

窓が2つ。
片方がひび割れていて、それを利用して上手く隙間から覗くような形に出来る。
こっちからは日はさしていないし、さっきより中を覗くのには随分好都合だ。

さっきより、はっきりと顔が見える。

一番左に居るのが、俺が追いかけてきた匿名だな。

しかしまぁ、どいつもマナーが悪いな。
これだと、何と言うか、あからさまに悪ガキって雰囲気が漂ってる。


「…?」

そう思って見ていると、1人、少し雰囲気が異なる奴がいた。
座り方とかが他の奴とは少し異なる。

なんというか、1人だけ、動きに品を感じた。
気になって、よく目を凝らす。

「…あ」

そして、気づく。

あいつだ。
顔は変わってるけど、多分そうだ。

先日のザコテの事件の時。
何やら周りに指示を出していた、主犯格だ。


こうなってくると、どうも本当に当たり、らしい。
これは…意地でも、話を聞かないと。
必死に目を凝らす。


そこで、おもむろに主犯格の男がペンを取り出した。

まったく見覚えのないペン。かなりマイナーな物だと思う。

そのペンをどうするのか、と見守っていると。
回し始めた。

「…っ!?」

したらばで、魔法を使ったら…。


…あれ?

何も起きない。
魔法を使ったら、即刻、俺に分かるはずなのに。
どういうことだ?


一瞬混乱する俺。
その目の前で、ガラスがはじけ飛んだ。

「…っ」

小さな爆発で、ガラスの破片もそうは飛び散らなかった。
が、俺の頬はズキリと痛みを訴えてきた。破片で切れた様子である。

何より、今のは、確実に魔法だ。

なのに、俺にそれらしい反応は感じられなかった。
人が集まってくる気配もない。

「まったく、さっきから何を考えてるのか分からんが・・・バレバレだぞ、鼠」

そんな俺を見下しながら、男が言った。

「…どうして」

「フン…このしたらばの、魔力の防止装置など今や古いシロモノだ。
 時間をかけてやれば、指定した範囲だけ解除することぐらいできる」

「じゃあ」

「当然、覗こうという輩に対する対策は打ってある。
 お前がさっきからコソコソと何かしてるのは、筒抜けだ」

…ちっ。
したらばの装置を過信した俺のミス、ってことになるだろう。

「いろいろ聞きたいこともある。
 が、その前に…まず、顔を晒してもらおうか」

「誰が、晒すかよ…」

「最悪、ペンを力づくで奪っても構わんのだが」

したらばの装置はそう簡単に外せるものじゃない。
こいつは、たぶん出来る。
それ以外にも、3人のスピナーが中にいる。

俺は無言で、顔に書けた魔力を外した。

「…これはこれは。EiH1君か」

「よくご存知で」

「まぁ、中に入りたまえ。色々と話を聞かせてもらおう」

こんな所じゃ、前みたいに、助けはまったく期待できない。

これは、本気でまずいことになったな。




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