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すっかり日は沈み、執務室ではランプが灯っている。 あの後、3人と一緒に王宮にやってきた。 まず、なんで俺があんな所にいたか説明して。 その後、coco_Aさん達が、「お話を聞いている」間、ここで待つように言われたのだが。 なかなか帰って来ないなぁ。もうずいぶん経ったと思うんだけど。 しかし、やっちゃったなぁ。 話を聞くと、3人はあそこで何かあると見て張り込んでいたそうで。 俺が思いっきり邪魔をしてしまった形らしい。 本当に申し訳ないというか恥ずかしいというか。 「すいません、お待たせして」 ドアが開いて、入ってきたのは、coco_Aさん1人。 「どうでしたか?」 「…駄目ですね」 そう言わなくても、好ましくない状況が分かるような表情でcoco_Aさんが言う。 「駄目…と言いますと」 「全員が口をそろえて、『まだ詳しい話は聞いていない』と。 あらかじめ、そう口裏を合わせていた可能性もあると見てますが…。 彼らの言ったとおりだとすると、幹部格だけ綺麗に逃がしてしまったということもあるかもしれません」 「そうですか…参りましたね」 「そうですね。とりあえず身柄は王宮に置いておこうかと思いますが。 ちょっと容疑が曖昧過ぎるので、そう長くもいかないかと」 coco_Aさんが少し意外な事を言った。 「でも、そうしたらまた何か企てる可能性もあるんじゃないですか?」 「ええ、ですから拘束しておきたいところなんですが・・・。 やはり、今回の容疑ですと、未遂ということも踏まえて罰金程度が限界なんです」 「んー…そうなのか…」 「私たちが決まりを崩すわけにもいきませんので」 まぁ立場的にも難しいんだろうなぁ。 こういう時は、融通を利かせても良い気はするけど。 何はともあれ、俺の邪魔が思ったよりも意味が大きいらしいことが分かった。 もっと容疑をはっきりさせてから捕まえなきゃならなかったんだろうな・・・。 「こちらも対策は考えますし、今回はそういうことでお願いします」 「いえ…本当に申し訳ありませんでした」 「お気になさらないでください。悪意があった訳じゃないですから。 toroさんもkUzuさんも責めてませんでしたし。 えー、こちらからは他に特にありませんが、何かありますか?」 「えーと…じゃあ最後に」 そこで、気になっていたことを聞いてみることにした。 「どうでもいいと言えばいいんですけど、ザコテばかりだった、ということですが?」 toroさんが王宮に来る道中に言っていた言葉だ。 わざわざ言うことかな、と思い、ちょっと印象に残っていた。 「えーと、ザコテ、と言いますと?」 coco_Aさんが聞き返してくる。 「あー、言葉が悪かったです。すいません。 つまりその、たいしたことのないコテばかり、と言いますか。 toroさんが言っていたので、そのまま使っちゃいましたけど…」 「なるほど。そうですね、確かにまだ歴も長くない人ばかりでしたね」 「そうですか。ベテランの人が混ざってる、よりはショックが少ない、かな。 では、俺そろそろ…今日は本当にすいませんでした」 「本当に気にしなくて大丈夫ですって」 「あー…でもやっぱり、一応…。 それじゃ、失礼しますね」 ぺこりと頭を下げた後、外に出る。 「あ…ども」 「ん、お疲れ様ですー」 ドアを開けると、toroさんがそこにいた。 俺と入れ違いざまに中に入っていく。 「どれ…」 帰るか。 なんか今日は予想外に疲れた日になった。 さっさと帰って寝ることにしよう。 「終わりましたよ」 ドアを閉めた後、toroは少し間を置いてから、coco_Aに向けてそう言った。 「お疲れ様です」 「4人にしときましたが、大丈夫ですかねー?」 「はい、大丈夫でしょう。 誰にしたか、教えて下さい」 toroが指を折りながら4つ名前を挙げる。 「肝っ玉がありそうで、ビビんないで活動を続けそうな人を選んどきましたよー。 これで、まーどこにいて居場所は分かります。誰が監視するようにしましょーか?」 「そうですね…とりあえず、私とSEVENが担当する、というのが一番いいでしょうか」 「そーですね、そーしましょう」 「…それと、私は気付かなかったんですが。 『ザコテばかり』みたいなことをEiH1さんの前で話しましたか?」 「…すいません」 舌をぺろっと出した後、toroが頭を下げる。 「意図した意味で伝わってはいませんが、気をつけてほしかったです」 「気をつけます。 見事に全員例の人らだった、というのは…びっくりしちゃいまして。 …偶然ではないでしょうね」 「偶然じゃない、というのは間違いないと思います。 …半年以上経った今、まだ尾を引いているとは」 「ま、そうですねー…半年経っても、まだ解消出来てなかったってことですかね」 toroがぽつりと漏らした言葉に対し、coco_Aは何も答えなかった。 |
曲芸。 店の一角で、3人の男が、話をしていた。 通常より少し小声で、周りに聞かれないよう気を使っている様子である。 「対策していた甲斐があった、というものです。 捕まえられた奴らは、拷問されても何も言えませんから」 「何も知らないから、ね」 両脇の2人がニヤリとする。 「…だが、こっちが得をした訳ではないだろう」 それをたしなめるように、真ん中の男が低い声で言った。 「しっかりと気付いてきた政府側の警戒を深めないとならん。 今回のに気づいて来る、となると、別な方法を考える必要もある」 「何にせよ、また手駒を集め直す必要がありますね」 「いや。今回捕まえられた奴らは、近いうちに保釈される。 向こうが踏み込んだタイミングからして、重罪となる可能性は低い。 元々、スピナーに関しては寛容な傾向があるし…あいつらにとっては、デリケートな相手だからな」 「…流石です、そこまでお考えでしたか」 横の男の尊敬の念を込めたような言い方に対し、真ん中の男はため息をつく。 「これくらい、事前に察しておいて当然だ…。 まぁいい、それより次だが・・・」 男は声をさらに低くして、話を続けた。 夜は、更けて行く。 |
数日後、したらば。 EiH1は、無言で1人、肘をついたまま、なんとなく周りの会話を聞いていた。 「…ふぅ」 今日、ここ、したらばを訪れたのには理由がある。 先日のちょっとした事件…という表現が正しいかは分かんないけど、 とにかく戦闘になったあの件だ。 ザコテ達が何やら企んでいて、自分のせいでcoco_Aさんたちがそれをつかみ損ねてしまった。 正直責任は感じる。 だから、何かできることはないだろうか、と思い、とりあえずこうしてしたらばにやってきた。 顔を変えるやり方が匿名の地で行われているそれと同じだったから、 あそこに居た奴らはほとんどが、ここしたらばに出入りをしていると見える。 何かないかな、と思ってとりあえずここにやって来た。 匿名、という点は確かに印象に残った点だったのだが。 もう1つ気になっている点があった。 toroさんが言った、「ザコテ」という言い方である。 あそこがザコテばかりの集まりだったのには、何か理由があるように感じる。 それに、toroさんがザコテという言葉を使ったのも気になっていた。 ザコテという言い方は、そこまで広く使われるものでもないし、 ああして自然に出てくるのはちょっと違和感を感じる。 「そもそも、定義が微妙だしなぁ…」 独り言を呟いてしまう。 ザコテ、という言葉がどんな奴を指すのか、はっきりしてない気がする。 「お?何、定義の話か?」 ん…。となりの兄ちゃんが声をかけてきた。 「あー、いや、技の定義の話じゃなくてな。 ただ、ザコテの定義って何かなーって思って…」 「ふーん、また微妙な話してるな・・・。 ザコテって、単にしょうもないスピナーを指す言葉だろ」 「それは違くないかな?」 さらに隣の人が話に混ざってきた。 「最初は、最近妙に増えてる新人スピナーで、マナーの悪い奴に使われてた言葉だよ」 ん?そうなのか? 「ああ、最初はそうなんだよ。 誰が使い始めたのかは知らないけどさ」 「ふーん…」 「でも、今じゃそういうのに関係なくうぜー奴相手には誰でも使ってるだろ」 「確かにそうだけど、最初の使い方は大事にする必要があるって」 「そうかもしれねーけどよ…」 なんかめんどくさい空気になってきた。 よくある話だから適当に聞き流すとして、それより。 |
話を聞いて、思い出したことが1つ。 かなり前、したらばで話した時。 管理人主導でかなりの数のスピナーが登録された、という話。 あの話し相手は実はリアさんだった訳で、となるとこの話は信憑性があると思われる。 そして、その時期はさっきの匿名の誰かの話と一致する。 つまり、その管理人達が増やしたコテが問題を頻発させて、ザコテと呼ばれるようになったということになる。 そして、そいつらザコテが起こした問題に、先日管理人が対処している現場に俺は立ち会っている。 どうもおかしいというか。 俺の考えが正しいとすれば、先日の件は管理人達の身から出た錆だと言えることになる。 んー…。こういうことになりそうなのは、管理人の人たちも想像がつきそうなものだが。 俺個人の見立てで言えば、特にcoco_Aさん辺りが予想できなかった、というのは考えにくい。 なんにせよ、ザコテという言葉がそういう意味を持つなら。 toroさんがその言葉をわざわざ使った可能性も結構ありそうだ。 例えば、自業自得となった管理人への皮肉…ってのはtoroさんの性格からして考えづらいか。 ただ、こっから俺がどうすりゃいいのか、ってのはよく分からないなぁ。 俺が首を突っ込むべき話題のような気もする。 微妙だなぁ、凄く。 生返事をしながら考え事をしている内に、隣の人らの話は終わったようだ。 それぞれ別な奴と話を始めている。 周りを見渡す。 この中にも、ザコテがいるのかもしれない。 そう考えると、この周りの奴らも何となく違った視線で見てしまう。 こういうのは本当は良くないんだけどな。 さて、俺が出来ること、とは何だろうか。 何もないような気がしなくもないか、こうして考えるくらいはしないと申し訳ないからなぁ。 俺の出来ること、つまり俺の売りとはなんだ、ということになる。 回しの腕は勿論、ペン回し界の事情とかは、管理人達に勝てる気はしない。 俺に出来るのは、やっぱこっち…裏の方の仕事だろうな。 SEVENにしろcoco_Aさんにしろ、ここにはあんまり来ないような気がするからな。 ここに入り浸ってた俺が出来るのは、ここでの何かだ。 とは言ったものの。 匿名としてだと、出来ることは限られる。 ここだと、こっそりと魔力を使う素振りを見せるだけで、睨まれるからな。 自分の回しを見せて、評価してくれ、なんて輩は最近めっきり見ないし。 となると、ここで動かせるのは目・鼻・耳・口、となるなぁ。 んー…よし。 とりあえず、観察してみるか。 なんか、ザコテ達が何か企んでるなら、ここで話し合いとかしそうな気がする。 JEBは広いが、ザコテ達が使えそうな通信手段はPM以外に思い浮かばない。 PMを管理しているのは管理人達なんだから、悪いことの相談には使いづらいだろう。 いろんな観点から監視の可能性は低いと考えたとしても、だ。 そうなれば、相談事は直接会ってすることになる。 そのためにこのしたらばは有用だろう。 管理人が手出しできない領域でかつ、ろくに人も来ないような建物も結構あるし。 何はともあれ、何かここでアクションがある、と思う。 半分勘に頼ってる気もするけど…他に思いつかないし。駄目元でいいや。 ちょーっとその辺気にして、ちょくちょくぶらついてみることにしようか。 |
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