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「Saizenっ」 RiAsONが倒れているSaizenの肩をゆする。 「…RiAsON、か」 Saizenは薄く眼を開けて苦しそうにそう言ったあと、意識を失った。 「…血が、かなり出てるな、クソ」 raimoが言う。 「姉御、治療関系は使えねえのか?」 「無茶言わないでよ」 「…だよな」 医療系の魔術は、非常に難しく希少な存在だ。 姉御は器用で使える力の幅は広いが、それでも使うことはできない。 今、JEBにまともに使える奴は、恐らくいないはずだ。 「この辺に病院ねえのか?」 そう言いながら周りの人だかりを見渡す。 その中の1人の男の人が答えてくる。 「…この、近くには…それこそ、王宮の近くにいかないと」 「マジかよ…」 Saizenさんの傷から、どんどん血が流れてく。 詳しいことは分からないが、王宮までこのまま運んだんじゃ危ない気がする。 必死に傷口を手で抑えてみるが、血が止まってくれない。 クソ、どうすれば…。 「…?」 そこで、突然、魔法のように血が止まった。 「どれ、見せてみろ」 「…Bonitoさん」 RiAsONが言う。 ペンを片手に近寄って来たのは、Bonitoであった。 「医療系、使えるんですか?」 「いや、素人だよ。ただ、液体を扱うのはちょっと慣れてるからな。 無理やり傷口辺りの血の動きを止めた」 …なるほど、とraimoは納得する。 水を操る達人のBonitoさんなら、血も扱いやすい存在なのだろう。 「傷口はそんなに深くなさそうだ。 意識を失ったのも、血を流し過ぎたの訳じゃなく…頭を打って気絶した、って感じだと思う」 「じゃあ…」 「いや、俺も素人だ、あまり信用するなよ。 血を止めてるのだって、無理矢理な手法だよ。体に良い影響は与えないだろう。 急いで医者に診せた方がいい」 「じゃあ、急いであたし医者呼んできます」 「…いや、待て。 RiAsON、うまくゆらさなようにして運べるな? 俺が王宮に医者を呼んでおくから…王宮に運んでくれ」 「え、動かさない方がいいなら、医者を呼んできた方がいいんじゃ?」 raimoが眉をひそめて聞き返す。 だが、Bonitoはその質問には答えず、 「頼む」 と言って、BonitoはRiAsONの方に、意味ありげな視線を送った。 一拍置いて、RiAsONは頷く。 「分かりました。そうしよう、raimo」 「すまん、助かる」 Bonitoはそう言うと、1人で王宮の方へと飛び立っていった。 RiAsONはペンを持つと、Saizenを優しく浮かせてraimoの背中に乗せた。 「って、なんで、俺が…」 raimoが冷たい目でRiAsONを見る。 「ふわふわ浮かしたままだと注目を集め過ぎるし、 背負うんなら女のあたしより、raimoの方が自然でしょ。 補助したげるから、別に重さは感じないわよ」 「…分かったよ」 2人は王宮の方へ歩き出す。 少し歩いたあと、raimoが口を開いた。 「姉御、どうしてかつおさんは、医者を呼ぶんじゃなくて、運ぶように言ったんだ?」 「んー…これはあたしの推察なんだけど…。 何か、Bonitoさんは知ってるんだと思う。 だって、普通におかしいじゃない」 「…確かにおかしい、ってのは分かる。 Saizenさんが、怪我を負うような事故ではないってことだろ」 「そ。あれくらいの木材、Saizenさんが、防げないはずがないもの」 RiAsONはSaizenお得意の風の乱舞を思い浮かべながら言う。 本気を出せば、あの木材くらいあっという間に粉々にしてしまってもおかしくない、と思う。 「つってもよ、普通ならあんなのの下敷きになったら死んでるぜ。 魔力で和らげるなりかわすなりしたと思うぜ」 「それが逆に気になるのよ。 まったく何もしてないなら、理由も考えようがあるじゃない。 ペンを持ってなかったとか」 「…スピナーがペンを不携帯、なんかその方がおかしい気もするが。 まぁ何にせよ、あの事故でこうなるのはSaizenさんにしてはおかしいな」 「でしょ。だから、何か理由があったはず」 「理由、つってもなぁ…」 raimoが難しい顔をする。 「思いつかねえって、魔法を使うのに躊躇する理由なんざ」 「そうだよね。何か事情があるんだと思うわ。 だから、あんまり詮索しない方がいい気がするな…」 RiAsONも、少し複雑そうな表情で言う。 「聞いてもいいことなら、Bonitoさんとかが向こうから話してくれると思うわ」 「でも、例えばSaizenさんが誰かに狙われてる、って可能性もある訳じゃねえか。 あの木材がどっかのスピナーの、事故に見せかけた攻撃だった、って考えると。 そう言う場合、ほうっとくのもまずい気がするんだが」 raimoが言う。 「んー…断言はできないけど、木を持ちあげたときは、魔力みたいなのは感じなかったわよ。 たぶん、あれは単なる事故だと思うんだけど…。 というか、そういうのはraimoが一番分かるでしょ」 「…俺も特に感じなかったけど。 冷静だった訳ではないから、そんなに自信はないんだが…」 そう言って、raimoは自分のペンを取り出すと、ゆっくりと、滑らかに動かし始める。 「とりあえず、今は周りに気配はないな。 姉御のと、かつおさんのと…ん?」 「どうかした?」 「…これは」 raimoの表情が、どんどん鋭いものに変わっていった。 |
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「どうですか?」 「特に、あやしい動きは。 全員バラバラで、とくに傾向などは…」 「まぁ、まだ数日ですからね」 王宮内、SEVENの自室。 ベッドも置いてあるが、普段SEVENは自宅で寝泊まりしている。 事実上、彼の仕事部屋となっている部屋である。 仕事机を前に座るSEVEN、話し相手はcoco_Aである。 SEVENの机の上にあるのは、JEBの地図。 縮尺は小さく、国全体の大まかな場所が分かるものだ。 その白黒の地図の中、青い点が4つ輝いている。 「これですか」 「そうです。大臣がやってくれましたよ。一晩で。 こちらの青い点が、toroさんが目印をつけた相手の場所になります」 coco_Aは興味深げに地図を見つめる。 「ただ、たまに反応が消えます」 「…消える?」 「つまり、したらばに入ってる、っていう意味ですよ。 位置的にもその辺りで消えますから」 「ああ、なるほど」 coco_Aは納得する。 したらばは魔力に対する防壁が満載の場所である。 あそこに入ったら、toroの仕事といえども反応は消えてしまう、ということだろう。 「しかし…となるとやはり、あそこに出入りしている人達、となりますね」 「4人全員がそうだ、となりますと…。 残りの奴らもほとんどがそうでしょうね」 「そこはまぁ、予想通りということで…。 とりあえず、今後も続けてください」 「了解です」 SEVENが頷いたところで、扉がノックされる。 「はい、どうぞ」 地図を2つに折りながら、SEVENが答える。 それを受けて、ドアが開く。 「はろー。 ん、ここあもいた。丁度いいや」 「…大臣でしたか。 どうしました?珍しい」 337の顔を見て、ふっと緊張を緩めたSEVENが言う。 「んーと…あ、地図見てたのね。 こっちも反応なしだよ。 …ま、プライベートなとこを除くのは気分がいいもんじゃないね、うん」 「ご迷惑おかけしてます」 coco_Aが頭を下げる。 「んー…ま、しょうがないって。 それに、具体的な中身は見てないから、まだ大丈夫かな。 自分じゃギリギリセーフの部分を歩いてるつもりだからね」 337は、SEVENからPMの監視を依頼されていた。 「…そういえば大臣、何の用で?」 「ああ、そうだった。 あのさ、かつおくんから連絡あってさ」 「かつおさんから?」 SEVENの聞き返しに、337がうなずく。 「うん。 Saizenを、治療しなきゃなんないから医者と一緒に連れてくるってさ。 空き部屋どっか使わせていいよね」 337がさらっとアバウトに言う。 しかし、2人は内容の深さに面食らって言葉に詰まる。 「…待って下さい、どういうことです?」 「んーと…」 337は少し目線を上にして思い出すようなしぐさをした後、口を開く。 「Saizenがなんか事故に巻き込まれて怪我しちゃったらしくて。 下手に詮索されないように、ここで治療させてほしいと、そういうこと」 「…なるほど。なんとなく状況は把握しました」 まだアバウトな337の言葉だが、coco_Aはいち早く理解した様子である。 「そういうことなら、応接間辺りを使ってもらっていいですよ。 簡易式のベッドも置いてありますし。 かつおさんが連れてきてくれるんですよね?」 「んーと、かつおくんは医者を連れてくるだけ。 SaizenはRiAsONとraimoに連れてくるってさ。 なんでも現場に居合わせたらしいね」 「…raimoさんに、リア姉、ですか?」 SEVENが言う。 「うん」 「あの2人は、例の事件については知らないですから…どう説明しましょうか」 「そうですね…Saizenさん本人に聞くと思いますから、彼なら上手くごまかしてくれる気はしますが」 「んー…」 SEVEN、coco_Aが頭を悩ませる中、再びノックの音が部屋に響く。 「どうぞ」 「失礼します。 2組、Bonitoさんと、raimoさん・RiAsONさんがいらっしゃってます。 それぞれ、お客をおひとりずつお連れしているようですが」 使いのスピナーが言い、それに対してcoco_Aは表情を軽く引き締める。 「2組とも応接間に通してください。 私とSEVENがすぐに向かいますので、そのように言って下さい」 「…では、お願いします」 「はい」 SEVENはcoco_Aに頭を下げた後、席を立った。 応接間に運ばれたSaizenを、年配の医者が診察するのを横で見守っていた。 医者によれば、命が危ぶまれるような傷ではないらしい。 軽い脳震盪で意識は失っているが、すぐに目を覚ますだろう、ということ。 かつおさんから聞いた状況によると、降り注いだ木材はかなりの大きさ・量のようだ。 限られた魔力で、女性を突き飛ばしてさらに致命傷を避けたということになるな。 Saizenさんの腕は衰えていないと見える。 …女性を突き飛ばした、か。 そういう優しさがあるなら、どうして…。 「いや、これは言ってもしょうがないか…」 「ん、どうしました?」 「あ、いえ、すいません。なんでもないです」 思わず口に出してしまった。慌てて取り消す。 「それでは、お願いします」 意識が戻るまでcoco_Aさんが見てくれるということなので、自分は自室に戻ることにしよう。 ドアを空けて廊下に出る。 そこで、リア姉とraimoさんに出くわした。 待ち受けていたと見える。 「…どうも」 「SEVEN、話聞かせてくれるわよね?」 「えーと、まだ意識が戻らないようなので、しばらく待ってもらえますか?」 「あたしたちは、SaizenよりSEVENに話があるかな」 「…」 何やら感づいているらしい、な。 「僕の自室へ、どうぞ」 「えーと…まず、Saizenさんのこと、丁寧に運んでいただいてありがとうございます」 部屋に入った後、まず2人に礼を言う。 「王宮に入れる時も、Saizenさんだと分からないように気を使って頂けたようで…助かります」 「どんな事情抱えてるか分からなかったから。 フードかぶさせただけだけどね」 リア姉が言う。 事情、か。 「Saizenさんがあれだけの大けがを負ったのは、確かに不自然です。 そこは、出来れば本人に聞いてほしいのですが・・・」 「いや、それはもういいって」 頭を掻きながら、raimoさんが言う。 「手錠されてんのに、気づいた。 だからお前にこうして話を聞いてんだよ。 Saizenさんが何かやったのか、それともSaizenさんはnekuraさんとそこまで仲が悪いのか。 教えてもらうぜ」 「…流石です」 思わずそんな言葉が出た。 「あれに気づいて、しかも魔法をかけた人間まで分かってしまうとは…」 こんな芸当出来るのは、raimoさんだけだろうな。 nekuraさんが丁寧に痕跡を隠したあの手錠だ。 普通のスピナーなら、違和感すら感じられないだろう。 ここまで特定されてると、しかたない。 ひとつ深呼吸をした後、言う。 「Saizenさんが罪を犯したので、それに対する罰としてあの手錠をつけています。 冤罪の線はほぼありません。…現行犯ですので」 「どんな罪? よほど重いものじゃないと、ああいう罰則にはならないようになってると思ったけど」 「んー…どこから話せばいいのか」 SEVENは少し悩みながら、ゆっくりと話し始めた。 |
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