投下するスレ2 19

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「…ねーさ」

「ん、なんだよ?」

「そこの、えーと、151。お前の叩きちょっと滅茶苦茶だぜ?」

「…何言ってやがるんだ、突然」

「いや、でもさ」

話し込んでいる間に割り込む、という行為は、ここしたらばじゃそう珍しいことではない。
むしろ好き勝手にそういうことをすることが奨励されている場所で、それが嫌な奴はここには気はしない。

俺が今回割り込んだ理由は、他でもない。
少し過剰な叩きをしている奴を見かけたからだ。

どうも、あるザコテがウマコテに媚を売っている、というのが問題のようである。

「ウマコテに積極的に話しかけるぐらい、別にいいだろ」

「ウマコテが困るだろうが、常識的に考えて」

「いや、別にそう困らんって…。
 憧れる人と話したいと思っても、別に構わないだろうが」

「憧れる、ねぇ。
 どうせウマコテにうまいこと取り入って、地位を上げようって魂胆なんだよ」

いやいや…。

「そんな根拠のないこと言ってどうすんだよ」

「ハ、どうせそういう考えに決まってるって。
 あいつの人柄からして、絶対そうだぜ」

…近視眼的というか、なんというか。

「話にならねえ…。
 お前こそ、ウマコテと仲良いそいつに嫉妬してんじゃねえのか?」

「なんだと?」

「まぁまぁお前ら、そんな感情的になるなーってー」

「…」

別な匿名に仲裁されてしまう。

んー…今のはよくない。
匿名だとどうしても、なんというか感情的な物言いになりがちになる。
相手もそうなってるんだから、同じように感情的に言ってもしょうがない。

「悪い。だけど、叩くにしてももう少し叩くところを考えようぜ」

「ハッ、悪いと思った事を悪いと言って何が悪いんだよ」

…言っても無駄なのかもしれない。


しかし、参った。
これで声をかけてみたのは3人目だが、全員同じような反応というか。
こっちの言葉を聞き入れる気配がない。

でも、これは正直予想通りだ。

元々俺個人としては、叩きをなくすというのは難しいことだ、と考えていた。
くだらない叩きをなくすよりは、くだらない叩きはシカトするようにするべき、という考えだ。

俺1人でうまくいくかは自信がないが、やってみなければならない。

今まで、たぶん本気でしたらばを変えようとした奴はいない。
だから、誰でも良いから本気で変えようとしてみれば、変わるかもしれない。
そう思って喧嘩を買った訳なんだけど。

「でさー、あいつ街中で、ブチギれてさ。
 魔法は使わなかったけど、ペンをちらりと見せて脅しやがったんだよ」

耳に入ってくる、叩き。
したらばじゃ完全に日常風景の1つ、って感じだ。

正直、やりきれない気分になる。


…落ち着けって。

深呼吸をする。
俺がイライラしてもしょうがない。
まだ始めたばかりじゃないか。






「ふーん。そういうことが、ね」

「…姉御、お前冷静だな」

「いや、十分驚いてるわよ」

「あー…そうらしいな、微妙に声色が違う」

SEVENの話を聞き終わった2人は、そんな会話を交わした。


SEVENは、多少の省略こそしたが、重要なことは何一つ隠さずに2人に話した。
Saizenとoutsider、ayatoriや協会。
彼らが起こした事件を、終息までしっかりと語り切った。


「2人とも、思ったより冷静ですね」

SEVENが意外そうな表情で言う。

「あたしは、去年の事件に関して、公式の発表には少し疑問を感じてたから。
 といっても、もう半年以上前になるから、半ば忘れてたけどね」

「まぁ、言われてみれば事件起こした奴の正体、結局発表されなかったよな。
 調査中とか言って…追求されたりしなかったのか?」

「多少はありましたけど。
 その辺はcoco_Aさんがかなり頑張ってくれて…。
 とにかく、僕が真相を話したのはリア姉とraimoさんが最初です。
 coco_Aさんも、極力明かさないようにしてましたから、当事者以外で知る人はほとんどいないはずです」

「当事者っつてもよ」

raimoが頭を掻きながら、言う。

「俺はあんとき国外にいたから違うが・・・。
 姉御辺りは、街でザコテ相手の戦闘はしてただろ?
 そういう人らは、当事者じゃないってのか?」

「raimo、やめなさいよ」

RiAsONがたしなめるが、raimoはそれを無視して続ける。

「スピナーになら公開しても良かったと思うぜ、俺は。
 むしろ、そうするべきだったんじゃねえの?」

「…そういう意見も当然ありますが。
 我々としては、判断を間違ったとは思っていません。
 Saizenさん、outsiderさん、そしてayatoriさん。
 この3人が当時持っていた影響力は尋常ではありません。
 それに、彼らもスピナーとして認められた訳ですから、必ず更生してくれるという期待もありましたし。
 そのために、あの事件は真相を知る人々の間だけにとどめておくべきだったと思っています」

raimoは納得できない表情をしている。

「別にいいって、raimo。
 それに、あのときの王宮の外での戦闘はそう厳しいものではなかったわよ。
 あたしたちは、どっちかっていうと民間人を守るのにかなり神経使ってたし、
 あっちも牽制みたいなものが多い感じだったからさ。今思えば、あからさまな時間稼ぎね。
 とにかく、みんなそう気にしてないわよ」

「…分かったよ。
 それに、別に批判するつもりはなかったって…」

「どうだか」

RiAsONが少し笑いながら言い、raimoがそれに頭を掻きながら返す。

「うっせ。
 SEVEN達の苦労も想像できるし、俺が言える立場じゃねーってことぐらい分かる」

「…ありがとうございます」

SEVENが頭を下げる。

「それと、このことは内密にお願いします」

「分かってるわよ」

「ありがとうございます。
 それでは、僕は…」

SEVENは軽く会釈をして、先に部屋を出て行った。


「ふー」

SEVENが退室すると、RiAsONは長めに息を吐いた。

「参ったわね」

パタパタと手を振って、顔に風を送りながらRiAsONが言う。

「何がだ?」

「凄い話聞いちゃったなーって。
 Saizenも悪いことしてたんだねー」

「…姉御はショックじゃねえのか?
 あのSaizenさんが、ってのは、正直俺はショックなんだが」

「んー…どうなんだろう。
 まだ表面的な話しか聞いてないからさ。あんまり実感ないってのが正直なとこかな」

「表面的、ってなんだよ」

「まだ、SEVENからみた客観的なとこしか聞いてないってこと。
 あたしの個人的な感想は、まだ保留させてもらうわ」

「ふーん…」

raimoはイマイチ理解できていなさそうな返事をする。

その後、しばらく間をおいて、RiAsONが切り出した。

「raimo、去年の秋ごろからスピナーが急に増えたって話知ってる?」

「…あ?何の話だ?」

「ま、知らないならいいんだけどさ。
 去年の秋ごろから管理人達の方針で、スピナーが急に増やされてるのよ」

「ふーん…。
 あ、それって」

raimoの言葉にRiAsONは頷く。

「そ。その人らの正体は、事件で生まれた急造スピナーでしょうね。
 別な仮説を立ててたんだけど、この感じだとハズレかなー…」

「なんだよ、その仮説って」

「別にたいしたことじゃないわよ。
 ただ、将来が心配になって新しくスピナー増やした方がいいと判断した、とかそういう感じ」

結構自信あったんだけどなー、と心の中でRiAsONが呟きながら言う。
それに対し、少し考えた後、raimoは言った。

「…それ、外れなのか?」

「ん?事件で増えちゃったスピナーを迎え入れた、って線でほとんど決まりじゃない。
 だから、外れよ」

「いや、そうじゃなくて。
 そのスピナーを増やした張本人の、ayatoriさんの動機は分からねえじゃねーか」

raimoの言葉に、RiAsONは一瞬虚を突かれたような表情をした。

「…そうね、そうかもね」

そっちには考えがいかなかった。
raimoも、意外にしっかりしてるわね、とRiAsONは思う。

そうなると、ayatoriがどう考えていた、ってのは結構気になるな。
話してる感じから、SEVENもayatoriの真意を測りかねてる感じだった。
ayatoriがあたしの仮説みたいなことを考えてた、って可能性もある。

ayatoriは今、JEBにはいず、あっちにいる。
たまにこっちで顔を見せてるけど、まだ本格的には活動していない。
もしかしたら、あまりよくないのかも。
とりあえず、本人に直接インタビューって訳にはいかないわね。

「しかし、何にしてもさ」

「ん、何?」

思考中のRiAsONに、raimoが割り込む。

「そういう事情があるとなると、マナーの悪い奴にも少し同情しなきゃならねーな・・・」

「そうねー…」

一旦生返事を返したRiAsONだったが、一瞬あとにパッと顔をあげると、raimoを見据えて、こう言った。

「こうなるとさ、ちょっと興味わくよね」

「…何がだ?」

「ザコテ君達に、よ」

「は?」

「さってと、raimo。とりあえずここ出よ。
 SEVENの部屋なんだから、あんまり長居するとまずいでしょ」

「…いや、それはいいけどよ…」

面食らった様子のraimoを尻目に、RiAsONは鼻歌を歌いながら部屋を出て行く。
raimoも、それに首をかしげながら続いた。






「Saizenさんが?」

「…うん」

「いったいどこで?」

「…西街の方…かつおさんのお店のすぐ近くみたい」

「そっか…」

心配そうな顔でscissor'sが言う。

裏町の商店街。
店が休みであった彼女は、近くの商店街をぶらついていたところでMizmと出くわした。

「大丈夫かな…?」

「まだ…制限は取れてないよね」

「うん…」

話を聞くに、Saizenさんが事故に巻き込まれて、運ばれたらしい。
制限されているとはいえ、多少の魔力は使えるはず。
よほどひどい事故だったんだろうか。

「…たしか、はさみ…今、Saizenさんと何かしてるんだよね?」

「うん。ちょっと共同でCVを企画してるんだけど…。
 それ抜きで、心配だな…」

「あのー」

そこで、2人に声をかける影があった。

「はい?」

「scissor'sさんと、Mizmさんですよね…?」

「はい、そうですけど」

scissor'sなんて久しぶりに呼ばれたな、と思いながらscissor'sが答える。
Mizmも軽く頷いて、声を掛けてきた人の方を見る。

若い男だ。
穏やかそうな表情で、少し不安そうな雰囲気がある。

「どうしました?」

「その…お2人の腕を見込んで、お頼みしたいことがあるんです…」

どこか弱々しい声で言う男。

「…いったいどうしたの?」

Mizmが聞く。

「…ここでは、ちょっと。
 もう少し、人がいないところで…」

「…」

Mizmがはさみの方をちらりとみる。
それに対して軽くうなずいて見せたあと、scissor'sが言った。

「いいよ。お話、聞かせてください」

「ありがとうございます」

男はパッと笑顔になる。

「えーと、ここの裏路地を少し行くと、開けた場所があるの知ってますか…?」

「うん。人があんまり通らない、空地みたいになってるとこだよね。
 そこで話すの?」

「それで、お願いします」

2人は頷く。
男が先に歩きだし、2人はペンに軽く、確かめるように触れた後、それに従った。

「…はさみ」

狭い路地を歩く途中で、Mizmが小さな声でscissor'sに声をかける。

「うん、大丈夫。
 ちゃんと警戒してるよ」

scissor's・Mizm、ともに前を歩く男の背中をじっと見ている。
話に応じはしたが、2人ともどこか怪しい雰囲気を読み取っていた。

道の両端の建物が消える。
横に走る道の向かい、左斜め前方に広い空地が見えた。

「どうぞ…」

空地に入って、男は2人と向かい合う。

「じゃ、話を聞かせて」

scissor'sが言う。

「はい。
 えーと、ですね」

少し間を置いた後、言った。

「お手合わせ、願います」

それとほぼ同時に、キン、という音が響く。
音のした場所は、scissor'sの背後。

「…物騒ですよ」

scissor'sが言う。
右手にはペン。

先ほどの音は、攻撃をscissor'sが防御した音である。

Mizmが、攻撃があった方向―道路の方に目を向ける。

路地の死角から、男が5人現れる。
全員が、ペンを握っている。

流れる重い空気。

Mizm・scissor'sはペンを構え直す。

「ま、気楽にやって下さいよ…殺す気は、ありませんから」

1人がそう言ったのを合図に、6人が再び動いた。




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