投下するスレ2 04

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「…ったく」

正直、うざったいな。これは。

kUzuは、Pespの攻撃を受けながら、そう思った。

相変わらずの爆発の連発。

細い雷を当てて、ひとつひとつしっかりと消していく。
ペンは滞りなく回っている。
調子はまずまず、あいつの攻撃が入ることはないだろうが、何と言うか、。

「どれ…」

防戦だけでは芸がない。こちらも、攻撃をしてやろう。

少しガンマン系を多めに加えて、難易度をつり上げる。
その魔力を、慎重に練りながら、Pespの頭上、屋根に当たらないギリギリの高さまで放り込む。

それを、雷に変えて、思いっきり叩き込む。

昔は耳障りだったが、今ではすっかり慣れた、雷が立てる派手な音が響く。

音は普通、だったのだが。
手応えは、若干予想外のものだった。

「これは…」

考える暇を与えまいと、大きめの爆撃が飛ぶ。
しかし、しっかりと反応したkUzu。
落ち着いて防御して、そこで攻撃が止んだ。

「ん、もういいのか?」

聞くと、Pespはほんの少し荒れた息を整えながら答える。

「ちょっと、疲れた。久し振りだからなぁ」

「そうか。じゃ、少し休もう」

2人で、腰を下ろす。


王宮内の空き部屋。

王宮は、大きく分けて2つの建物がある。

1つは王宮の中心とも言うべき建物で、王宮と言えばこの建物を思い浮かべる人がほとんどのはず。

そのほかに、もう1つ。
西に、ふた回りほど小さい建物が隣接されている。
今いるのは、その西の建物である。
その1階にある、かなり広くて天井も高い部屋。

壁や天井は魔法で処理が施されていて、かなり頑丈になっていて、
空き部屋と言ったが、今ではこの部屋の用途は1つに決まってしまっている。
スピナーが、魔力を使って自由に暴れることができる部屋である。

Pespが久しぶりに体を動かしたいというので、ここに来て少し手合わせした、という流れだ。
今日は午前中はゆっくり過ごすつもりだったが、そこは、まぁ別にいいだろう。

「なぁ。なんか、スタイル変わってね?」

「やだなー、スリーサイズはひ・み・つ」

「そういうスタイルじゃなくて。
 戦闘のスタイルだよ」

「なんで?」

「いや、攻撃かわされたから」

さっき撃った攻撃の感触は、床を叩いた時のそれだった。
つまり、Pespにかわされた訳である。
こいつとは、昔からよくやり合っているので、互いの戦闘スタイルはかなり分かっている。
だから、さっきのように手合わせも結構本気で出来るわけなのだが。

「前のお前なら受けてたような気がするな」

「んー…久しぶりだから、緊張しちゃってるのかも。
 …優しくして下さいね?」

「帰れ」

「ひどっ」

会話に関しては、まぁ普通なんだけどな。

「で、どうだったんだ。旅」

「んー…」

Pespは考えるしぐさをして、

「普通…いや、面白いとこではあったと思うけど」

「そうか。まぁ。無事に帰ってきたから、いいけどよ」

何となくぽつりと言った言葉に、Pespはニヤニヤしながら反応する。

「あら、何、あたしのこと心配してくれたの?」

「いや、そういう訳じゃないけど」

「でもごめんなさい…私には心に決めた人がいるの。
 あなたの気持には応えられないわっ」

…たまには違った切り返し方をしてみようか。

「誰だよ、それ」

「ぬ?」

「その心に決めた人って、誰?」

「え、あー、えーと…。
 ご、Gold氏…とか」

「また凄いチョイスを…」

というか懐かしいな。Goldさんって。


「どれ」

そう言って、kUzuが立ち上がり、砂を手で払う。

「どうする、もう1本やるか?
 俺、午後から城の警備があるから、そうのんびりしてらんねーんだ」

「ん…おっけ、じゃーやろう」

Pespも立ち上がり、ペンを構えた。





「ふぅ」

結構疲れた。

真昼間で、人もいる所にはいるだけに、そう魔法でぽんぽん飛んでくる訳にはいかなかった。
ちょっと人目が減ったような場所では移動術も使ったけれど、
なかなか思うように進めずストレスがたまった。

やっぱ、明け方とかに出てくりゃ良かった。
それなら思いっきり移動術使えて、30分ちょっとで着いたのに。

まぁ何はともあれ、着いた。

東町15丁目。JEBで一番東の町である。

なんとなく、王宮の辺りとは空気が違う感じがする。
こう、からっとしていて、気持ちがいい。

この違いがある理由は、おそらく海が近いからだろう。


JEBは、大陸で一番東に位置する国である。
しかし、そのJEBの東端が海、という訳ではない。

どうしてなのか、と聞かれても正直困る。
昔読んだ本によれば、国土の決め方というのは魔力とかとの関わりがあるそうなので、そういう関係からだろう。

まあとりあえず、このJEBの東端・東町15丁目から、さらに少し東に行くと、海に出る。


普通の水である川の水が流れ込んでいるはずなのに、海水は塩辛く。
なぜか、波と呼ばれる流れがある。

こういう、今ではみんな当然だと思ってることも、よくよく考えれば不思議だ。
海というのは、俺にとって神秘の宝庫と言っていい。

そんな海の最大の神秘と言えば、海の先には何があるのか、ということだろう。
それを知りえた人は、まだいない。

JEBにとって東、というのはそんな方角なのだ。
どう進もうとも不思議な存在である海がそびえていて、そのさらに先には何があるかなんてわからない。


そこにスピナーが旅に出る、というのはよくよく考えれば、妙な話なのだ。
だから、スピナーが出る「旅」について、何かしらのヒントがあるはずだと思う。
そういう理由でこうしてここにやって来た、という訳だ。

15丁目は、思ったよりも活気のある町のようだ。

人通りも結構多く、今まで通って来た街の中では一番賑やかに感じる。

それは、たぶん国外との通商が行われているせいだろう。

どこかの国に国籍をおかず、どの国にも属さない地に住んでいる人というのも、存在する。

ここからさらに東に行った、海のすぐそばに住んでいる人もいて、
JEB内に流通している海の幸は、そのような人から輸入されるものが多いと聞く。
そういう貿易に関して、やはりJEBの端である町が果たす役割は大きいのだろう。

とりあえず、良かった。
ここに来たらまず、町の人に聞き込みをしようかと思っていたのだが、
人が多いので、聞き込みはしやすそうだ。

よし、と気合を入れて、通りを見渡す。
んー、そうだな。
もう少し国境に近づいてみよう。
出来るだけ東の方にいる人に話を聞いた方が、有意義だと思う。

町の様子を観察しながら、通りを歩いて行く。
次第に建物が少なくなり、前方には、遠くの方に何かが見えてくる。

「川…」

今歩いている通りは、王宮から真東にまっすぐここまで伸びている、大きなものだ。
この通りが続く先に、橋が見えた。それも、かなり大きな橋だ。

規模から考えて、おそらくあれが、JEBの東の国境になっている川だろう。

つまり、ここはもう本当にJEBの東の端ということになる。
なんとなく感慨を覚えてしまうなぁ。俺は、国外に出たことないから。

ちょっとのぞいてみるのもいいかもしれない。
まぁ、数m外に出ただけじゃ何もないとは思うが、気分的に。


そんなことを考えながら、橋を見ていると、一台の荷馬車が見えてきた。
前方、つまり国外からやって来て、ゆっくりと橋を渡っている。

国外の人だろうか。
後ろの車には、たぶん輸入品が入っているのだろう。

興味を引かれて、こっちに来るのをじっと見ていてみる。

かなり近くに来たところで、荷馬車から、1人の男が飛び降りた。

その姿は、思いっきり目にとまるものだった。

まず、髪。
普通のJEBの国民の髪の色と違う。
なんかこう、茶色っぽい色をしている。
肌や目の色はJEBの国民のものなので、余計目立つ。

服装も、目立っている。
特に上に羽織っている服は、外国語が印刷された、あまり見ないデザインで、
明るい色使いもあってとても目を引く。

そして何より、その顔、というか目。
彼は、目に、なぜか黒く染まった眼鏡をしていた。

あれ、前見えるのか?

よく分からない人だ。

その男が、小走りで馬の手綱を握る中年の男の元に駆け寄った。

「おっさん、ありがと。ここからは歩くよ」

「そうか」

「これ、お礼」

そう言って、男は数枚のコインを放り投げた。
そのコインは、俺の身間違いじゃなきゃ、金色に光っていた。

…マジ?

「お、おい、こんなに…」

受け取った男の反応からして、どうやら金貨で正解のようだ。
俺の1か月分の食費が金貨1枚ぐらいだ、と言えばその凄さが分かってもらえると思う。

「気にすんな。久し振りの帰郷で、俺は気分がいいし。
 何より、おっさん、いい人だからな」

「…流石に、スピナーは気前がいいな」

その発言に、思わずピクリと反応した。

「ありがたくもらっとくよ」

「おう。こっちこそありがとな。商売頑張れよ」

笑顔で手を振って、荷馬車のおじさんと別れる男。

スピナー、だって?
しかも、久しぶりの帰郷と言ってる。

これは、もう、声かけるしかねえだろ。
神がかったタイミングだ。

「す、すいませんっ」

「ん?」

「スピナーの方ですか?」

「ああ、そうだけど…お前、誰?」

当然の質問が来た。
が、勢いに任せて声をかけた俺は、返答を用意していなった。

「えーと…」

「…あー、もしかして、お前、スピナー?」

正体不明のスピナーは、返答に困る俺に、助け船を出してくれる。

「あー、ええ、そうです」

「そうかそうか。俺も聞きたいことあるから、助かるぜ」

そう言って、男は笑顔を見せる。
なかなか気さくそうな人なようだ。良かった。

男は、黒塗りの眼鏡を、すっと額まで上げた。
顔の全容が現れる。

その顔を見て、俺は思わず仰天した。

「嘘っ?」

「お、俺のこと知ってる?嬉しいぜ」

ニヤリとした、目の前の男。

その顔は…

「G-Ryzerだ。ま、がおって呼んでくれ」

数々の伝説を持つ、名スピナーであった。




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