投下するスレ2 06

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「いえーす、あは?おっけーい。さんきゅーべりまっーち」

337は、お礼を言ったあと、耳に着けていた機器をはずした。

情報室。337が事実上住み着いてる部屋であり、
中にあるごちゃごちゃとした機器や乱雑に置かれた書類は、彼以外に扱うことは不能である。

機器の大半は金属製である。
金属の加工は決して簡単な技術ではなく、それが可能なのは、その道を極めた職人のみだ。
スピナーを除けば、の話だが。

337が今使った機器は、遠い海外の国との通信が出来る機器である。
今ではこのような海外と繋がるための手段も少なくない。
しかし、数年前、彼がこの情報室を作った当時は、この通信手段は、貴重なものであった。


今日、通信をしたのは、海外のとあるスピナーに質問をするため。
その質問とは、ある海外スピナーが使うペンの改造方法である。

337自身の質問ではない。
今、彼の目の前に居る男の依頼である。

「以上。分かった?」

「はい、どうもでしゅ。
 参考になりましたよー…なるほど、なるほどー」

Uszaku。
独特の話し方・キャラで有名なスピナーであるが、旋転の実力もかなりのものがある。

「どういたしまして。
 しかしさ、どうやってこんなペンについて知ったの?」

Uszakuが聞いてきたペンは、かなりマイナーなスピナーのものであった。
その辺りの情報に詳しい337でも分からず、こうして通信で聞く必要があった。

「いやいやー、この前たまたま見つけただけでしゅよー」

「ふーん…でも、確かになかなか面白そうな改造だね」

「でしゅよねー。早速今日試してみましゅー」

とったメモをニコニコしながらUszakuはポケットに入れる。

「それでは、お世話になりましたですー」

「ん、帰るの?
 そろそろ夕食食べに行くから、一緒にどうかなーと思ってたんだけど」

時刻は6時半すぎ。

「あー、お誘い大変うれしいのでしゅがー。
 ちょっと調べたいこととかがありましてー。
 今日はお邪魔しますー」

「そっか。じゃあまたねー」

「はいー」

Uszakuがドアを開けて去っていく。

「ふぅ」

337は、相変わらず面白い人だな、と思った。
最初は、そのしゃべり方もあって、どんな奴かと思ったのだが、
態度も謙虚で話も面白く、すっかり仲良くなってしまった。

「どれ…」

ご飯を食べに行こうか、と思ったとき。
ドアをノックする音が聞こえた。

またお客かな。
普段、ここにはあまり人が来ないので、2人連続は珍しい。

「はーい」

と、返事をする。

それを受けて、男が入ってくる。
その来客は、本当に、珍しい人だった。

「…これは、これは」

「なんだよ、その反応…ったく。
 久し振りだな、ななちゃん」

「うん、ひさしぶり。
 遊びに来てくれたってことは、戻ってきた、ってことかな?がおちゃん」

眼鏡の奥の目尻を下げて、親しげな口調で337が言う。

「おう、そう見てくれ。
 しかし、相変わらず汚ねー部屋だな」

「どうせ整理してもすぐ汚くなるから、整理しないことにしてるんだよね」

G-Ryzerは、それは汚くしないように努力しなきゃ駄目だろ、と思って苦笑する。

「どうだい?久々のJEBは」

「あんとき、一回来てるからな。
 それからまだ3ヵ月ちょいだから、変わったところはないと思うぜ。
 まぁ、やっぱり懐かしく感じる気持ちはあるけどな。
 あんときって言えば、Crasherさんって、今は何してるんだ?」

「ん?んーとね。管理人は今はしてないんだけど。
 国内にはいないんじゃないかな…協会の仕事も全然してないみたいだし」

「そうか。あんときの礼をしときたかったんだがな。
 あんときは、大臣にもお世話になったな。ありがとう」

「いやいや、僕はたいしたことしてないよ」

あのとき、とはJapEn4thのときである。

G-Ryzerは、当日短い時間しか滞在できなかった。
そこで、上手く微調整をしてG-Ryzerの出演に協力したのが、Crasherと337であった。

「がおちゃんがいなかったら、今年の成功はなかったからね。
 感謝したいのは、こっちだ」

「んなことねーって。照れくせーよ、そんなん」

G-Ryzerが頭をかく。

「さて、と。質問ついでに、もうひとつ聞きたいことがある。いいか?」

「ん、なに?」

「したらば、って所に、ななちゃんは顔を出したりするのか?」

「したらば?」

予想外の問いに、思わず337は聞き返す。

「そうだねぇ…僕はめっきり行かないな。前は、顔を出さなくもなかったけどね」

「そうか。やっぱ、文具とは違う感じなのか?」

「んー…まぁ、違うかな。
 形態もずいぶん違う。小さな店がたくさんある感じでさ。
 何より、中にいる人が、違うから」

「そうか…」

「でも、意外だな。がおちゃん、匿名の話はあまりしたことなかったよね」

「ああ。別に、嫌いってわけではないんだが。
 なんて言うかな…匿名は、仮面してアホ騒ぎできるっていう、それが一番の利点だと思っててな。
 真面目な話には合わないと、昔から思ってる」

「なるほど、ね。
 なら、どうしてそんなことを?久しぶりに故郷に来て昔を思い出したりしたとか?」

「いや…そういう訳じゃない。ちょっとした事があってな。なんとなくだ。
 昔のことを考えるのは、止めにしてるんだ」

「そっか。でも、たまには昔話をするのもいいんじゃないかな、うん」

そう言って、337は立ち上がる。

「どうした?」

「ここじゃ、無粋だと思うから、どっかで飲もうよ」

「…珍しいな」

「がおちゃんと久しぶりに会えて、僕もテンションあがってるんだよ。たぶん」

そう言って、337は柔らかく、微笑む。

2人は、ドアを開けて、廊下へと出て行く。

「で、どこで飲もうか?」

「そうだな…最近来てないから、よく分からないな。
 適当に、うまい店に連れてってくれ」

「ぼくもあんまり飲みにはいかないんだけど…ま、分かった。
 適当に案内するよ」

裏口から王宮を出た2人は、飲み屋街へ消えていった。






次の日。90は、王宮を訪れていた。


「…どうすりゃいいんだ、これ」

立ちはだかる正門を前に、俺は途方に暮れる。


王宮の南半分は、ほとんど谷と言っていいような深い堀で囲まれている。
その堀を、1本の石橋が貫いていて、その石橋の前に聳え立つのが、正門である。
木製で、とにかくでかい。
人の手じゃ、全然動かせる気はしない。
そして。

「入れねえ」

その門は、思いっきり閉まっていた。

王宮の中に入ったことは、何回かある。
しかし、王宮内での式典・イベント類があるときに、一般客として入っただけだ。
その時は、この正門が開いていた。

普段生活していて、王宮に用事があることなど一切ない。
だから、そういうとき以外に入ったことがなかった。

どうしよう。


今日、王宮に来たのは他でもない。
コテデビューするための登録をしに来たのである。

コテを持つスピナーは、皆JEBに登録をして、一応王宮仕えの身となっていて、
頻度・量は少ないが、王宮の警備等の仕事をこなさなければならない、と聞いている。


とりあえず、俺が知りうる限りで唯一の入り口・正門の前に来てみたものの、
鳴らすベルとか門番とかそういう存在は無い。

よくよく考えれば、スピナーになるには、現役スピナーに弟子入りしたりするらしいから、
こうして単身で「登録しまーす」って奴はいないような気がする。

まいったな。

門、飛び越えちゃおうか?
魔力を使えば、多分いける。

でも、警備の人もいるだろうし、いきなり射殺されるのはちょっとなぁ。


そうして、ただ門を眺めて考え、そろそろ時間の無駄かと思って来たとき。

声をかけられた。

「君、何してんの?」

声がした方向は、上からだった。
見上げると、門の上に、逆光でよく見えないが、人影があった。

「王宮に用?」

「あー、そうです」

「とりあえず、ここからは入れないよ。
 裏口に回りな」

「裏口?」

「丁度ここの反対側…あー、でも一般人じゃ入れないな。
 というかさ、何の用?」

「えーと、登録に…」

「登録?何の?」

「えーと、スピナーの」

「スピナー?」

不審そうな言い方で、聞き返された。

「ちょっと、そこに居ろよ」

そう言うと、上から、男が降ってくる。

その姿は、ものすごく見覚えがある人物だった。

「ら、raimo…」

国内最上級の実力を誇るスピナーであった。

「…呼び捨てかよ」

「あ、ごめん…いや、そういうイメージで…」

raimoは、確か自分と同い年である。
大人っぽいイメージがある訳でもなかったので、自然と呼び捨てで名前が出てしまった。

「別にいいけどさ…それより、あんた何者?
 まさか、何も知らず『スピナーになりたいんです!』って言ってるわけじゃないでしょ?
 そう餓鬼ではないみたいだし」

「それは、勿論」

「じゃ、なんでひとりでこんなとこに…あ」

そこで、raimoは何かに気づいたような表情をした。

「あんた、…匿名の人?」

「へ?」

突然言い当てられ、驚いて変な声が出た。

「なんで、それを…」

「ったく…なんだよ、どんな日蔭者が出てくるかと思ったら、結構普通じゃねえか…」

こちらの質問を無視して、raimoが呟く。

「えーと…」

「ああ、姉御から話を聞いたんだよ。
 ここに居ても登録は出来ない。戻りな」

なるほど、そういうことか。
しかし、不審がる感じは抜けたが、どうも刺々しい感じは残っている。
匿名が嫌いなタイプの人だろうか。

「えーと、じゃあどうすれば…」

「俺に聞かれても困る」

えー…一体どうしろと…。

途方にくれる俺。
それを見かねたようにして、ひとつ溜息をついたあとraimoが言った。

「…ちょっと待ってな」

ポケットから手帳大のカードを取り出し、左手に持った。
右手にはペンを握り、簡単な技を出し始める。

しばらく見守る。

raimoは、右手で簡単なコンボを続けながら、
視線は手元のカードに向け続けている。

数分後。

「裏口」

「え?」

突然言葉が発せられたので、思わず聞き返す。

「裏口に行け、って言ってんの。ここの丁度反対側。近くに行けば分かる」

「でも、普通の人は入れないんじゃ…」

俺の言葉をみなまで聞かず、raimoは飛び上がって、門の向こうへと消えてしまった。

「参ったな…」

とりあえず、行くしかなさそうだ。




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