投下するスレ2 07

前へ





「おー、来た来た。
 こっちこっちー」

門の反対側らしきところに行ったら、城壁にもたれかかっている、ある人を発見した。
他でもない、RiAsONさんである。

「どうも…どうしてここに?」

「ん、聞いてない?raimoから連絡もらったのよ。
 それにしても、思ったより決心するの早かったね」

「あー…まぁ、昨日いろいろありましたので・・・」

「ふーん…ま、いいわ。
 じゃ、行きましょう」

「はい。あのー、裏口ってどこなんですか?」

周りを見渡しても、近くにはそれっぽい存在は見当たらない。

「ん?ここだよ」

RiAsONさんが、城壁を叩く。
ここって…。
石で造られた、非常に丈夫そうな城壁。
それが、ただあるだけだ。

「魔法で見てみれば分かるよ」

「魔法…」

えーと。

特に複雑ではない、ソニックひねり多用のパスをする。

魔法で見る、とは調査というか、そういう関係の術をしろ、ということだろう。
城壁を撫でるようなイメージで、魔力を這わせる。

「…ん」

1か所、魔力の痕跡を感じた。
かなり分かりやすい、はっきりとした痕跡だ。
むしろ、わざとらしい、とさえ感じた。

「分かった?そこ手で触れば開くから」

城壁を形作っている石のうち、1つに手を伸ばす。

指先がほんの少し触れたタイミングで、パキン、という高い音がした。

それを合図に、城壁の一部を長方形に区切る、線が入った―ように見えた。

その長方形の、左端の真ん中あたりには、出っ張った石が位置していた。
おあつらえ向きなその石を、RiAsONさんが手にとって、引っ張る。

城壁の中に出現した扉が開く。
くぐって中へと入った。

裏口をくぐった先は、小さな庭のような感じの所だった。
噴水や石造りのベンチがあり、随分綺麗な場所である。

RiAsONさんに裏庭だと教えてもらう。
初めて来たが、流石に見事に整備されている。

「ちなみに、扉を開ける石はランダムに場所が変わるんだよ。
 スピナーしか通れないようになってる、ってこと」

「へぇ…」

ここで、1つ疑問が湧く。

「でも、王宮に用がある人はどうするんです?
 魔法が使えない一般人の人は、入れないじゃないですか」

「んー、でも、無暗に王宮の中をうろうろされても困るし。
 そもそも、普通は王宮に来る用事ってないでしょ。スピナーとかじゃなきゃ」

…それもそうかもしれない。
俺だって、こうして登録するまでは王宮に用なんて無かったわけだし。

「それに何か特別な事情があったとしても、誰かスピナーを頼ればいい話だし。
 知り合い辿れば1人くらいは見つかるでしょ」

なるほどね。

RiAsONさんの提案で、とりあえずベンチに腰掛ける。

「えーと、登録についてまったく知らないんだね?」

「はい」

「じゃ、一から話すね。
 まず、スピナーが登録する、ってのは、
 昔はちょっと違ったんだけど、今は完全な推薦制になってるのよ」

「推薦制?」

「うん。つまり、現役のスピナーの推薦がないと、登録できないってこと」

初耳だ。

「そもそも、ペン回しを覚えるには、誰かスピナーに教わらなきゃならないでしょ。
 で、そう簡単には教えてもらえない、ってのも知ってるよね」

それは知ってる。
スピナーになりたい、って人は少なくない訳だが、
スピナーに旋転を教えてほしいと頼んでも、普通は断られる。

「これは、人柄がしっかりしてて、センスもあると認めた人にだけ、
 ペン回しの技術を授けるからなんだけど。これも知ってるかな。
 とにかくそういうことで、ビギナーのスピナーなら誰でも師匠って言うか、そういう風にあたる人物がいる訳」

「あ、じゃあその人に…」

「そういうこと。師匠が推薦人になって、登録する流れになるわ。
 推薦者は、そのスピナーの素行に責任を持たなくちゃならないんだけどね。
 ちなみに、姫さんとかはかなりの数の推薦人になってるわね」

なるほど、ね。しっかりとした制度、のように思える。
…それはいいんだけど。

「えーと、じゃあ俺はどうすれば…」

「決まってるでしょ、あたしが推薦するわ。
 コテを持つの薦めたのあたしなんだから」

「え…でも、いいんですか?」

「ん?あたしはサインするだけだから、全然大丈夫よ」

「いや、でも、俺の人格とかチェックしなくていいんですか?」

俺が何か悪いことしたら、RiAsONさんも責任を問われる、ということになる。
匿名出身で、少し話しただけの俺を信用するのはまずい気がする。

「なに、何かまずいことするの?」

「え?いや、そういう訳じゃ…」

「でしょ。君は悪い人じゃないから大丈夫。
 それに、もし悪いことするような人なら、そんな質問しないしね」

「はぁ…」

まぁ、俺はいいんだけど。
こんなんでいいのだろうか。

「さて、推薦者の話は終わり。
 実際の登録するときの流れだけど、まず推薦者と管理人の所に行くわ。
 で、質問に答えたりしたあと、少し旋転を見せて、審査通れば登録完了。
 登録のあともいろいろ説明あるけど、今日時間大丈夫?」

「あー、大丈夫です」

俺は今日も暇である。全然威張れることじゃないんだけど。

「じゃ、行こう」

「よろしくお願いします」

「うん。ていうか、前も言ったけどさ、敬語じゃなくていいって。
 呼び方も好きにしていいし。
 RiAsONさん、って言われるの好きじゃないのよね。語呂がイマイチで」

「あー、はぁ…でも、じゃあなんて呼べば?」

「何でもいいって。決められないなら、呼び捨てでもいいよ」

それはちょっと…。

そういえば、はさみさんが、「姉さん」とか呼ばれることが多いとか言ってたな。
でも、姉さんは、どうもくすぐったいな。姉は持ったことがないし。

「えー…じゃあ、リアさん、とか…」

「んー…ちょっとまだ他人行儀だけど、まぁいいか。
 じゃ、よろしく…って、そういえば」

RiAsONさん、いやリアさんが、何かに気づいたような声を出す。

「登録名、どうするの?」

「ああ…」

「何か考えてある?」

「一応。
 E、i、H、1、と書きまして」

「EiH1…。なんて読むの?」

「えーと、イー…ヒ…ワン、とか?」

「…何よそれ。自分で読み方分かんないの?」

訝しげな目で見られる。

「えーと。したらばでちょっと見かけた、落書きみたいなもんなんですが・・・。
 見た目ちょっとかっこいいな、と思いまして。これにしよう、と」

「ふーん。まぁ何でもいいけど。
 読み方はしっかり決めといた方がいいんじゃないの?」

「そうですね…なんて読みましょう」

「んー。普通に読むなら、エイフワン、な気がするけど」

「じゃあそれで」

「随分適当ね」

リアさんに苦笑される。

「まぁ何にせよ、決まったならいいわ。じゃ、行こうか」

建物の中へ向かうリアさんの後に従った。



「SEVEN?珍しいわね」

リアさんに連れられて、1階の管理人室という部屋に入った。
机に座っていたSEVENに向かって、RiAsONさんがそんなことを言う。

「どうも、姉さん。他の人が、ちょっと王宮を離れてるので」

珍しい、のか。管理人室なんだから、SEVENはいっつもここに居ていい気がするんだけど。

そうリアさんに小声で聞くと、

「SEVENは総合管理人、でしょ。
 ただの管理人とは別物で、管理人たちの仕事は普段請け負ってないのよ」

という答えが返ってきた。

成程、と納得してSEVENの方を見ると、俺を注視していたようで、目が合う。

「んーと、そちらの方…どこかで会ったような気もするのですが・・・どなたです?」

「新規登録。私が推薦人で」

「へぇ…そちらも、珍しいですね。
 リア姉が弟子取りとは」

「うん、この人はちょっと特例だから。
 そういうことで、よろしく」

「分かりました。では、掛けて下さい」

言われた通りに、座る。
SEVENは、引出しから数枚の書類を出した。

「では、まず登録名を」

「えーと、EiH1と書きまして。エイフワンと読みます」

言いながら、これ、結構名乗るの恥ずかしいな、と思った。
コテを名乗るという行為に慣れてないだけで、慣れればなんでもなくなるんだろうが。

「分かりました。EiH1さん、と。
 住んでいるのはどこでしょうか?」

「北町の6丁目」

「6丁目…、はい。
 えーと、では年齢と、あとペン回しを始めてからどれくらいになるか、教えてください」

「…」

ちらり、とリアさんの方を見る。
リアさんがすぐ察してくれて、口を開く。

「別に隠す必要ないって。正直に言って大丈夫」

「あー…じゃあ。
 年齢は18で…歴は、3年と9か月、になります」

SEVENが、顔を上げる。

「…3年、と、9か月?」

「そうです」

「…リア姉、どういうことです」

SEVENが、リアさんの方を向いて聞く。

「そうねー、思ったより長くて私もちょっと驚いたわ」

「…特例、とはこういうことですか。
 詳しく話を聞きますが、よろしいですか?」

「は、はい」

SEVENの口調がちょっと鋭くなった。

「この歴の長さから察するに、回しを習った人はリア姉ではありませんね」

「ええ、そうです」

「どなたに?」

「誰に、というか…」

目の前にいるSEVENは、どうも「公」なモードになってる気がする。
そんな彼の前で、この言葉を出すのはちょっと気が引けたが、しかたない。

「文具板で、習いました」

SEVENは、少し間を置いて、言った。

「…あの、匿名の」

「そうです」

「つまり、あなたは、匿名?」

「そうなります。
 スピナーのような活動は、すべて匿名としてやってきました」

「…」

SEVENは黙り込んだ。
その間、視線はずっと俺に向けられていた。

「…失礼。確かに変わった例ですが、だからといってどうこうする話ではないですね。
 なにより、リア姉の推薦ですし。失礼しました」

「…いえ、大丈夫です」

こういう反応も、多少はあるだろうと思っていた。

匿名と名乗って、良いイメージを持つ人ばかりではない。
あまりよくないイメージを持っている人の方も多いだろう。

特に、目の前のSEVENに関しては、そういうイメージが強いはずだ。
先日の件もあるし、若くして総合管理人という職についているのだから、
それを原因に叩かれるようなことも少なくないだろう。

SEVENの視線にこちらを品定めするようなものを感じて、良い気分はしなかったのも確かだが、
匿名とはそういう存在なのだ。


「では、姉さん。こちらにサインを」

「ん、了解」

リアさんが立ち上がり、手早く書類にサインをする。

「えーと、姉さんはここまでで大丈夫です。
 あとは、回しを見せてもらって、終わりですので、帰ってもらっても大丈夫ですが・・・」

「ん、私も見てっていい?それ」

「構いませんが・・・面白いものでもないですよ?」

「いいのいいの。私、この子の回し見たこと無いからさ」

そういえばそうだな。
リアさんの前で回したのは、さっき裏口を開けたときぐらいか。

「…姉さん、推薦するなら、それくらいチェックして下さいよ」

SEVENが苦笑しつつ言う。

「そうねー。ごめんごめん」

それに対し、たいして悪びれない様子で言うリアさん。

「んー、そうですね…。
 じゃあ、場所移しましょうか」

そう言って、SEVENが立ち上がった。


「どこでやるの?」

廊下を歩きながら、リアさんが聞く。

「空き部屋でやるつもりです」

「そんな派手にやる訳?」

「普通はたいしたことはしませんが・・・特例なので、ちょっと。
 あ、すいません」

SEVENが、すれ違った人に声をかける。

「管理人室、ちょっと空けるんで。
 どこかの空き部屋に居るから、訪問者がいたらそっちに寄こしてください」

「はい、分かりました。お疲れ様です」

SEVENに声をかけられた人は、丁寧にお辞儀をして去っていく。

誰だか分らないが、とりあえずスピナーだろう。

20歳前後で、明らかにSEVENより年上だ。
確かSEVENは16歳、だったと思う。俺よりも年下になる。
それでも、SEVENに丁寧に会釈をして去っていく。

なんでもないことなんだろうが、SEVENの貫録というか、そういうものを感じた。


「…誰か使ってるな」

隣の建物に移って、目的の部屋らしいドアの前に立ったSEVENが、そんなことを言った。

中の音がかすかに漏れている。
なんだか爆発音のような、穏やかではない音のように聞こえた。

「えーと、ここって何の部屋です?」

「ここは空き部屋で、スピナーが腕試しとかをするときに使われてます。
 ここ以外にもいくつかあるんですが」

SEVENが答えてくれる。

「さて…少し離れてて下さいね。一応」

そう言うとSEVENは、ノックをした後に、慎重にドアを左手で開けた。










次へ
 

ページトップへ移動

サイトトップへ移動