投下するスレ2 08

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王宮内の空き部屋。

SEVENがゆっくりとドアを開けた、その瞬間。
中から響いてきたのは、派手な雷鳴であった。

「…ったー」

音が止んだ後、SEVENが声を漏らす。

「誰か来たー」

「あ?…ってSEVEN。
 悪いっ。大丈夫か?」

派手な音は止み、代わりに人の声が聞こえてきた。

「はい、大丈夫です…危なかったですが」

SEVENが苦笑いする。

左手でドアを開けたSEVEN。
右手にはペンを構えたままであり、飛んできた攻撃をすんでのところで防御した。
そんなところだろう。

SEVEN、リアさんに続いて、中に入る。

そこにいたのは、kUzuさんに、Pespさん。
どっちも、非常に有名なスピナーである。

…なんか俺、有名な人とばっかり会うなぁ…。

「また派手にやってましたね。手合わせですか?」

部屋の中ではまだあちこちで煙が立っている。
さっき、kUzuさんお得意の技として有名な雷撃が見れたので、
戦闘っぽいことをしてたのは間違いなさそうだ。

「ああ、そんなとこだな。
 んーと、リア姉に…そっちの人は、はじめまして、かな。
 どなたかな?」

「新規登録の人です。旋転を見せてもらおうと思いまして…お邪魔でしたか?」

SEVENが聞くも、それを無視してPespさんが声をあげた。

「りあさんそんが弟子取りだとっ!?」

「んー、確かに推薦なんて久しぶりにしたんだけど。
 残念ながら弟子ではないのよ。
 というかPesp、その呼び方やめてっていってるでしょ」

リアさんが答える。
それに対し、kUzuさんがピンと来たようで、

「あー、例のアレっすか」

「そうそう」

と、意味ありげな会話をリアさんとする。

「えーと、EiH1と言います…」

とりあえず名乗っておく。

「エイフーワン?ちょい呼びにくいな…なんて呼べばいい?」

「それ、私も思ったわ。正直90の方が呼びやすい気がするんだけどさ」

「例のアレ?っていうか90?何が?何が?」

Pespが勢いこんで聞く。

「この人、匿名出身なんだ。お前の好きな」

「おー、なるほど。ワンダホー」 

kUzuさんの説明に、Pespさんが納得したように頷く。
お前の好きな、というのは、
Pespさんが顔を変えないままにしたらばに遊びに来たことがある、
といった辺りの話からの言葉だろう。

2人とも、自分に対して悪い印象ではないようで、とりあえず安心する。

「じゃ、俺達ちょうどいいから休憩にするわ。
 SEVEN、さくっとやっちゃっていいよ」

「それなんですが。
 kUzuさん、それに姉さんにお願いしたいことがありまして」

「ん、何だ?」

「EiH1さんにも聞いてほしいんですけど。
 登録時の魔力の確認、というのは、
 登録時の大まかな実力を政府側で把握するために行っています。
 で、EiH1さんはビギナーではないので、戦闘で測らせていただきたいんです」

「戦闘、ですか?」

自分で口にしてみると、あー、怖い単語だな、と思った。

だが、理屈は分かる。

ペン回しの実力に関して、一番シビアに反映されるのが戦闘時である、と聞いたことがある。
一口に魔法といってもいろいろ種類がある訳で、
戦闘はそれらが総合的に必要とされるものであるというのがその理由だ。

そうは言うけれど。

「はい。私が相手させて頂きます」

「え、でも、危なくないですか?」

「それで、俺らに審判をやれと。そういう話だろ?」

kUzuさんが、俺の質問を遮る形で言った。

「はい」

「そういうことね。うん、大丈夫よ」

SEVENが同意し、リアさんもなんだか納得した様子である。

「え、すいません、どういうことです?」

ひとり置いてきぼりにされた俺が質問する。

少しの間のあと、リアさんが、

「あれ、もしかしてワルトナみたいなバトル、見たこと無いの?」

と聞いてきた。

「…ダイジェスト映像みたいのなら」

「それなら、確かに知らないかもしれないけど…。
 でもスピナーなら、何で死人が出ないんだろう、とか疑問に思いなさいよね」

確かに。バトルみたいなもので、人が死んだという話は聞いたことがない。
怪我人ならたまに聞くが、それも多いわけではないし。

「そこは、スポーツマンシップというか、そういう感じだと思ってたんですけど、違うんですか?」

リアさんが、俺の答えに苦笑する。

「それで済むような戦闘してないでしょ。特に上級スピナーは。
 あれはね、審判が防御してんのよ」

・・・審判が?

「審判が、スピナーの体に沿って、常に防御壁を張っているんだ。
 同時に体にどれくらいの攻撃が入ったか判断してるんだがな」

kUzuさんが詳しく説明してくれる。

「なるほど。
 それなら体に傷はつきませんね」

「ああ。1人に対して、腕の立つスピナーが数人がかりでやるから、致命傷はまず入らない。
 それでも、失神ぐらいはありえるけどな。
 今回は、俺とリア姉で1人ずつになるが、本気でやる訳でもないだろうから、まぁ大丈夫だろ」

成程ね。その辺の対策はしっかりしてあるということか。

となると、ちょっと安心だ。
SEVENみたいな人とやり合うとか、本気じゃないにしても固辞しようかと思ったが、
そういうことならいいかもしれない。

まあ、不安が完全に消えた、という訳ではないけど。

「では、そういうことで、よろしくお願いします」

「へいへい、ちょい待った。
 さっきから俺超スルーされてるんだけど、これいったい何かな?」

そこで、Pespさんが割って入って来た。

「つったってお前、審判無理だろ」

「無理ね」

正直俺もそう思った。
Pespさんが、体に沿って常に防御、などということを得意としているはずがない。

「ばか野郎、俺をなめるんじゃない。SEVEN、言ってやれ!」

「…遠慮してもらえると嬉しいんですが・・・」

「シット!」

Pespさんの絶叫をよそに、SEVENがペンを握って、少し離れた位置に立った。

「・…気楽にやってください」

SEVENのこちらを見る目が、すっと集中したものに変わった。
言葉の割に、軽く相手をする雰囲気ではない。

多分こっちの実力を測りかねてるんだろうな。経歴が特殊だから。
そんな、本気で相手するほどの人じゃないんだけどな。おれ。

そこで、すっと自分の体の周りを、何かが包むような感じがあった。

これがkUzuさんの、防御壁なんだろう。

「準備はいいですか?」

「はい」

「では…行きます」

SEVENが、ペンを構えた。

自分もポケットからペンを取り出す。

愛用のRSVP MX。
多少好みになるよう調整はしているが、思い切った改造はしていない。
普通のVPだ。良くも悪くも。

薬指と小指の間にペンを持つ。
序盤はパスで様子見をすることにしようか。
あっちも同じような感じになるだろう。

互いに出方を探る間。

先に動いたのはSEVENだった。

「っ」

強烈な攻撃だった。
横一文字にきらめく斬撃。

45から23へ、そして45へと移っていくパス。
難易度は高くないが、丁寧に流れ・滑らかさを意識してやれば、十分戦力になる。

生まれた魔力でとりあえず、防御する。

防御のうち、一番オーソドックスな方法は、魔力をそのままぶつけてしまうことだ。
斬撃の発生に使われている相手の魔力を、同じくこちらの魔力で吹き消すイメージになる。
それ以外に、こちらも同じく斬撃やら火やらを生みだして防御する方法もある。

相手の斬撃は、多少威力・速度は弱まったが、それでもまだ生き残った。
しかし、これは予想済み。

ペンを勢いそのまま、1軸、さらに2軸に巻きつける。14始動のトルネード。
自分の目前に迫る斬撃をぶつける。音を立てて、相手の攻撃は消え去った。

「…あぶなっ」

かなりギリギリの対応になった。


斬撃、風の刃と表すことも可能だが、攻撃法としては火を用いるものと並んで、最もオーソドックスなものだ。
この2種類の攻撃は、概ねバックアラウンド、あるいはスプレッドから生まれる魔力が用いられる。

今の攻撃、たぶん始動にいきなり強烈なスプレッドを撃ってきたんだろう。
ちょっと油断していた。

「…っ」

その隙を、そう逃してはくらない。
こちらが防御している間に、SEVENは距離を鋭く詰めている。

近距離戦。
数手の攻撃を受ける。
探るような感じの攻撃で、決めに来る雰囲気はない。

…これは、こっちも攻撃してこい、ってことだろうか。

少し隙らしいものを見つけ、切り込んでみる。
3軸、4軸、5軸と順にバックアラウンド。短縮版シャフィーボ、とでも言えばいいか。
スピードを意識して撃つ。

すると。
なんか、効いた。

防御されると踏んでいたが、相手のとった行動は回避。
それも、かなり距離をとるようにして回避した。

「ほう」

そんな声が聞こえる。Pespさんだ。

SEVENからは、鋭い視線が送られている。

「…そちらから、どうぞ」

SEVENが言った。
そう言われたら、攻めるしかないな。

少し間をおいた後、切り込む。

メリハリを意識して、ペンを回す。
自分は得意分野、というものはなく、器用貧乏だと自分で思っている。
で、特に難易度の高い技をやる、ということには自信がない。
だから、自分なりに工夫した回しで勝負しなければない。

攻撃中、何度かアラウンドは放っているが、どれもたいしたものではない。
だけれど、そこまでの流れを意識したり、タメを利用したりして、アクセントになるように。

そうすれば、同じアラウンドでも、生まれる魔力は、全然違うものになる。

防御を続けるSEVENは、自分を上回る量の魔力を出していた。

だが、丁寧さにかける、と言えばいいのだろうか。
微妙にリズムが悪く、思ったより押せている。

そして、ひとつ。
SEVENに隙が見えた。

すぐさま、ペンを鋭く撃つ。
隙にねじ込むためには、なによりも速さ。

3-ソニックひねりから、2-パス。そのままFLリバースを経由し、3軸のコンバクを三発。

鋭い火球が、SEVENに飛ぶ。


「…ちぇっ」

攻撃は、入らなかった。
若干反応は遅れたが、SEVENは斬撃でこちらの攻撃を打ち消してしまった。

いったんペンをキャッチしたため、こちらの攻めはいったん途切れる。
そこを狙う相手の攻撃に身構えるが、SEVENは動かない。

「…そろそろ、分かりましたので・・・。どうもお疲れ様でした」

SEVENがぺこりと頭を下げる。

「あ、そうすか。こちらこそどうも」

「強いですね。かなり押されてしまいました」

SEVENが、苦笑いのような表情を浮かべて言う。

「いやいやいやとんでもない。
 こちらこそお手合わせ、あざーした」

「姉さんにkUzuさんも、ありがとうございました」

「うん、どういたしまして。
 それにしても、思ったよりやるねー、えーと、えいふー」

「ああ。良い腕してるじゃないか」

リアさんkUzuさんに褒められる。

「はぁ…どうも」

確かに、結構互角な戦いではあったけど。
単純にSEVENが手加減していただけだろう。
この前、ザコテを抑えたときに見せたような、凄まじさは感じられなかった。

でもまあ、それは置いといて。
久しぶりにこういう戦闘したけど、それなりに楽しかったかな。

「…んっと」

SEVENが小さく言って、ポケットからカードを取り出した。
昼間、raimoが何やら使っていたカードと同じものだ。

「…丁度いいな。
 EiH1さん」

「はい」

「この後はいろいろ説明を聞いてもらう形になるんですが、
 OREが戻って来たみたいなんで、慣れてるOREに任せますね」

「あ、了解です」

「じゃ、えーと…管理人室に行ってください。OREを向かわせておきますので。
 では、PespさんにkUzuさん、お邪魔しました」

「おう。お疲れ」

SEVENさんに従って、部屋の外に出る。

「場所は分かりますよね?
 寄るところがありますので、僕はここで失礼します」

「じゃ、私も帰ろうかな。
 またね、90」

そう言って帰ろうとするリアさんの呼び方が、気になった。

「あ、はい…っていうか、90じゃないっすよ」

「あー、そうだったね…でも、90じゃだめ?
 こっちの方が呼びやすい気がするんだけど」

「んー…できればコテ名の方がいいんですけど…」

たらば以外でそう呼ばれるのはちょっと違和感がある。

やはり別に名前が欲しいな、と思って選んだのがEiH1である。
別にこの名前にこだわる訳じゃないが、90はしたらばでの呼び名、という感覚が抜けきれない。

「それでは」

SEVENが去って行き、リアさんが手を振りながらそれに続いて去っていく。

あー、いざ王宮の中に一人ぼっちとなると結構不安かもしれない。
さっさとOREに会いに行こう。

さっきは気にしなかった王宮の中の景色を見ながら、管理人室に向かった。

「で、どう思ったんだ?」

3人が去った後、kUzuはすぐさまPespにそう質問した。

「んー?」

「一応俺は審判やってたから、お前の方がよく見てたはずだ。
 あの匿名君、どう思った?」

「お?真面目に答えちゃうよ?」

「おう。それでいい。
 珍しくお前が『ほう』、とか言ってたからな。何か見つけたんだろ?」

「んーと、SEVENがどーうも感覚つかめてなかったよね。
 あの回避、それに最後の防御も、びっくりしたようにやってた」

「EiH1の攻撃を受けてる時は、総じてイマイチだったな。
 雑というか、変だった」

kUzuが言う。

それに対し、Pespは口をとがらせて言う。

「なんだよ、kUzuもわかってんなら俺に聞くなよ。
 あの人、旋転がなんか独特だったから、それでだろうね。たぶん」

「ま、そういうことだろうな。
 疑ってた訳じゃねえが、コテ持ったこと無いってのは本当らしいな」

kUzuは、最後のEiH1の攻撃を思い出しながら言った。

「リバースから直接3バクアラ、なんてのはあんまりやらねぇからな。
 それも、かなりスピードを重視した場面で、だ。
 スピーディーに〆ようと思えば、オーソドックスな技を選ぶのが普通だからな」

「その前、2-パスからチャージ無しでFLリバースに行くのも、最近じゃ少なくなったしね。
 自己流で進めてきたんだろうけど、やっぱ普通のスピナーとはリズムが違った感じ」

「ああ。でも、まぁそれを抜いて考えると、実力はどうかな。
 うまく構成をまとめてる感じはあったが、やっぱそれだけで、ってのは難しいとも思うかな」

「そうだねー…現状では、まぁ中堅ってとこかな。
 そーいう個性はあるから、それなりに評価はされるだろうけど。
 って、やべえ」

「ん?」

「俺、こんなに長く真面目にしゃべったの初めてだ!やっべえ!
 俺知性派?やばくね?新しいキャラの俺どう?」

「その一言で全てが台無しかな」

「そうか!」





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