投下するスレ2 09

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ノックをした後、管理人室のドアを引く。
そこそこ古い建物だが、ドアはほとんど音もたてず滑らかに開く。

「失礼しまーす」

「はいはーい、おー、君が新規登録の?」

管理人室の椅子には、元気のいい小柄な少年、OREが座っていた。

「はい」

「よっし、じゃーもろもろの説明始めるね。
 えーと…歳は18で。エイフーワンさんね」

OREが、手もとの書類を見ながら言う。

「…は?」

途中で眉をひそめるORE。

「何だこれ。SEVEN、慣れてないからってこのミスはちょっと…。
 ごめん、ペン回しの歴が3年9か月とかになってるわ。本当はなんぼ?」

「あー、いや、3年9か月であってます」

「…何?
 あー、ちょっとまって、そういえばSEVENからのPMに…ほー!ほー!」

OREは、カードを取り出し、大きくうなずきながらそれを見ている。

「そうか…じゃあ…先輩やんけっ」

「…先輩?」

「ん、まぁそういうイメージになるよね。こんなに歴が長いと」

「はぁ。そういえば、そのカードって何なんですか?」

「ん?これ?
 おっけー、じゃあこれの説明からいきましょうか」

そう言って、OREがカードを取り出し、投げてよこした。

「これはPM。プライベートなメッセージを、スピナーの間で自由にやりとりできるシステム」

「なるほど」

そういう感じのものだろう、とは予想していたけど。

「使い方は、まぁ魔力を使ってやるんだけど…。
 簡単な説明も最初は出るようになってるし、要は慣れだから。
 適当につかってりゃわかりますよ」

「はぁ…」

ORE、やり手な人物だと聞いてたからもっと几帳面な人だと思っていたんだけど。
実際は、なかなか適当な人のようだ。

「有効なのは、相手がJEB国内にいるときに限られるんで、よろしくお願いしますっ。
 そんじゃ、改めて」

「登録、おめでとうございます。JEBのスピナーとして、今後のご活躍、おおいに期待させていただきます」

「あ…はい、どうも」

「さて、と。スピナーとしての心得は、まあEiH1さんの場合はスピナーとしての生活の中でですね。
 すでに知っていると思うんで、ここでは割愛します」

「…そうだね」

少なくとも、ここに登録に来る、スピナーなりたての人よりは、心得ているはずだ。

「僕からは、そうですねー、いわゆる公務員的な役割についての説明をさせてもらいますっ」

「よろしく。俺、全然分からないからさ」

こういう話は、したらばとかではしたことがなかった。
したらばに居る奴のほとんどは登録を済ませているスピナーだろうから、
これからされる話は全員が当然として知ってることだ。話題に出されることはない。

「了解です。
 まず、基本的に、登録した後すぐにスピナーの仕事をしてもらう、ってことはありません。
 年に二回、1月と7月に各種のローテーションとかを改定するんで、その時に加わってもらう形なんですね。
 かつ、歴が半年以上にならないと入れないようになってるんですけど。
 EiH1さんは7月から、となりますね」

「ふむ…」

「具体的な内容も、今説明しちゃうことになってるんで。
 まず…いや、でも、EiH1さんは歴が長いしなぁ…。
 ちょっと、どうなるか分かんないですね…歴によって、微妙に異なるんで」

「えーと、じゃあ今は、普通のビギナーの場合を教えてもらえます?」

「そうですねー、そうしますか。
 では…」

引き出しから、OREが1枚の紙を取り出す。
手渡された紙には、表のようなものが書かれている。

「まぁ、一応皆さんに配ってる紙です。
 そこにあるように、まずビギナーの人は隔週で警備の担当、あと週1回、雑務の担当があります」

「雑務?」

「はい。そうです。これは毎回、内容はいろいろなんですけど。
 今日の当番の人で言うと…南町で少し大きい火事があったんで、それを消しに行って。
 あとは東町の広場の改修をしてきたようですね」

「なるほど」

そういうこともしてるのか。少し意外だ。

「まぁ、警備以外にいろいろやることがあるのでね。
 それでも、現在はスピナーの数もそこそこいるので、ローテーションはかなりゆるいです。
 特に登録したての方は、存分に腕が磨けるようになってるんすね」

「ふーん、なるほど。
 じゃあ俺も、とりあえずは暇してて良い訳?」

「まぁ、そうですね。
 えーと、EiH1さんは普段どこで修業してるんです?」

「え?あーっと…家、とか?」

「え、それじゃまともに練習できなくない?」

OREが驚いたようにして言う。

「いや、ペン回すだけなら、普通に大丈夫でしょ」

「…それはそうですけど。
 でも、新しい技の魔力的性質とかは、魔法使わないと分からないっすよね。
 そういうのは、どこで?」

「えーと…」

その質問に、少しどう答えるか迷う。

「まぁ、いろいろ、機会がある時に、って感じですね。
 そこまで数は多くなかったかな」

実際は、ペン回しを使う「仕事」の時に、こっそりそういうのを試していた。
登録もせずにペン回しで稼いでた、っていうのも、
仕事のときにこっそり試運転してたっていうのも、
なんとなく後ろめたい気がしてぼかした言い方をしてしまった。

「ふーん…大変だったんですねー。
 でも、ご心配なく。今度は、修行や研究をする場所には事欠かないはずです。
 王宮内や、近くにそういう施設もいくつかあるんで、それ使ってもらってもいいし。
 主流なのは、自分でそういう場所を作ってもらうことっすかねー」

「あー…そうか、そういうのができるのか…」

色々なスピナーが、自分の研究室みたいなのを持っているらしい、と聞いたことがある。

「そうですねー。周りに配慮はしてもらえれば、ガンガンやっちゃっておkです。
 そっち方向の魔力が得意でなければ、声かけてくださいね。誰か紹介しますよ」

「あー、どうも…」

旋転専用の部屋を作る、っていう作業がちょっと想像つかないけど。
とりあえず、面白そうだと思った。

「さて、では王宮内の案内に移りますねー、EiH1さん…。
 あー、なんかこれ呼びずらいっすね。
 なんて読んだらいいかな?えいさん?」

「あー、まぁ、そうだね…別になんでもいいっすけど。
 年齢とかは気にしなくていいよ?」

確か、OREは俺の2つ下、SEVENと同い年だったと思った。

「ん?いや、俺は年齢気にする方では…あー、そうですね、こういうことも説明しときましょうか」

OREは自分でうんうんと頷くと、

「スピナーの間の上下関係なんですけど。
 基本、年齢を気にする人は少ないですよ」

「そうなの?」

「はい。年よりも、大事なのは、腕。
 ペン回しが上手い人には、自然と敬語になっちゃうし。
 後は、歴かな。ペン回し歴。自分より歴長いと、なんとなーく尊敬しちゃいますね」

「なるほど…それは分かる気がするかな」

「はい。たぶんEiH1さん、俺より上手いし、年上だし。俺にはタメ口で結構ですよー」

「んー…そう言うなら、そうするけど」

「はい。EiH1さんは若い方ですが、あんまり気にせずフランクな態度でおっけーだと思います」

「そっか。しかし、スピナーって、なんで若い人だけ、なんだろうな」

「また、深いことを言いますねぇ」

「ん?そうか?」

「そうですよ。
 そうですねー、一番多いのは20前後。
 かなり年上の方の人でも、せいぜい25とかその辺ですもんね。
 最近じゃ、俺みたいな16、7ってのも結構見かけますし」

「だよね。まぁ別にいいけどさ」

「んー、そうですね。
 とりあえず呼び方は、えいさんということで行きましょう。
 じゃ、この後は王宮の中案内しますね」

「ん、分かった」

OREに従って、管理人室を出た。






「失礼します」

執務室に、ノックした後SEVENが入っていった。
中に居るのは、coco_A。

「あ、SEVEN。管理人室、見ててくれてありがとう。
 誰か来ました?」

「新規登録が1人来ました」

「そうですか。手続きは終わりました?」

「今、OREも戻ったようなので、彼に任せてきました。
 で、その新規登録なんですが。
 ちょっと変わった例だったので、coco_Aさんにも報告しておきます」

「変わった例?」

coco_Aが眉をひそめながら聞く。

「歴が3年以上もある方が来ました。推薦はリア姉で。
 なんでも、匿名でずっと活動してきた、とか」

「…それは、たしかに変わった例ですね」

「ええ。正直、登録するかどうか迷いましたね」

「というと?」

「いえ、ずっと匿名にいた、というので。
 旋転をはじめたのも匿名だということですので、
 人間的にスピナーにふさわしいと認められてスピナーになった訳ではありませんし」

「…まぁ、確かに。
 しかし、RiAsONさんの推薦でしょう?」

「それもありますし。
 よくよく考えれば、登録してもらった方が、こちらとしても動向を把握しやすいですからね」

「随分と刺々しい態度ですね」

coco_Aが苦笑する。

「…すいません。しかし、匿名と聞くと、どうも…」

「まぁ、分かりました。
 RiAsONさんの推薦というなら、心配はないと思いますが・・・一応、気をつけて見ておきますよ」

「ありがとうございます」

「でも、SEVENもあまり気にし過ぎないようにしてほしいです。
 この前のことがあるから、気持はわかりますが」

「…すいません。ですが…いや、なんでもないです」

そう言うSEVENの表情は、なんとも複雑なものだった。
そのまま、礼をして執務室を去っていった。

「…SEVENも、大変だな」

SEVENが去った後、coco_Aがぽつりとつぶやいた。







裏町の一角。
黒い眼鏡をかけた男ーG-Ryzerが、少しひっこんんだ路地で壁によりかかっていた。

自分で指定した場所ながら陰気な所だ、とG-Ryzerは思う。

本当なら、待ち合わせぐらいこんな所ではなく、もっと堂々としたいところだったが、
いかんせん俺は目立つらしく、仕方なく人があまり来ない所を待ち合わせ場所とした。

「ふぁーぁ・・・」

欠伸が出た。

「…ねむ」

もう時刻は夕方に差し掛かっている。
昨晩は、あまり寝ていないからどうも眠い。

昨日はななちゃんと飲んでいて、
寝たのはかなり遅く―というか、夜が明けてからだった。

俺は平気だが、ななちゃんは大丈夫かな。
ななちゃんは、あまり酒が強くないのだが、かなり飲んでいた。
二日酔いで唸ってなきゃいいんだが。

「…ん」

静かな路地に、足音が響く。

「しゅいましぇん、遅くなりましたー」

「おう、まったくだ」

「あうっ、ごめんなしゃい」

待ち合わせの相手。
Uszakuである。

何度か話をしているが、面白いやつだと思う。
特に、しゃべり方と、妙に謙虚な態度だな。
謙虚すぎて、腹の底で何を考えているか分からないところもあるが、
悪いやつではないような気はする。

「冗談だよ。
 そういえばお前、ななちゃんと面識あるんだって?」

昨晩、そんな話をしていた。

「はいー、仲良くさしぇてもらってましゅ」

「そうか。まぁ、だからといって何があるわけでもないが。
 で、用ってなんだ?」

今日は、Uszakuの方から「話がある」と言って呼び出してきた。
俺の帰国をどこから知ったのかは知らないが、
そういうニュースはどこから広まるか分からないから、別に不審なことではない。

「はいー、実はちょっと気になる話を聞きましてー。
 ぜひがおしゃんにご意見を窺いたいなー、と思ったんでしゅ」

「ご意見、ね。たいそうなもんは言えねえぞ」

「いえいえー、またご謙遜をー。
 えーと、がおさんは、昨年いなかった間のことについてご存知で?」

「ん?旅に出てた間のことか?」

Uszakuがうなずく。

「と、言われてもな。当然知ってることも知らないこともあるだろうが…。
 ただ、そうだな、あまり詳しい話は聞いてない。
 何か大きな話題とかあったのか?」

「そうでしゅか、ではそれの説明もしなきゃでしゅね。
 とりあえず、場所移しましょう。こんな所じゃなんでしゅし」

「ん、そうか」

2人は、どこで話そうか適当に話しながら、
狭い路地から出て行った。






「凄いなぁ…」

思ったより、王宮は凄いところであった。


あの後、OREに王宮内を案内してもらい、最後に少し話を聞いて、手続きはすべて終了となった。

王宮内の設備は予想以上で、こうして帰り道を歩きながら、なんとなく感動を覚えた。

随分大きな食堂があって、いろいろなメニューがあったり。
自由に使っていい、空き部屋と呼ばれる部屋もさまざまな大きさのものがあったし、
資料もたくさんあって、研究をするには王宮を使う、というのもなかなか魅力的に思える。

そういう実用的な場所以外の所でも、どこも美しく整備されていて、ただ歩くだけで楽しかった。

あそこはいいところだ。ほんとに。


コテを持った、という実感はないし、実際そう急激に変化することも少ないのかもしれない。

しかし、あそこにこれから毎日行っても構わないと考えると、やはりなんだか変な気分になるな。

「…ん?」

ポケットで、何かが震えている。

「あ…」

PMだ。
カードを手に取ると、新着1件、と出た。

「えーと…」

とりあえず、表示に従って操作を薦める。
魔力で動くようになっている機器はいじった経験があるから、勝手はある程度分かる。

「あ」

新しく来たメッセージは、リアさんからだった。

『そろそろ登録終わった?』

「…はい、と」

画面の誘導にしたがって、返信する。

『そう。お疲れ。
 明日、暇?』

『暇ですけど、どうしました?』と書いて送信する。

すぐに返事が返ってくる。
リアさん、書くの速いな。俺の3倍くらいのスピードだ。
慣れれば速くなるんだろう。多分。

『じゃあ、メッセ行かない?コテ登録したからって、何したらいいか分かんないでしょ。
 他にも、適当に声かけて連れてくからさ』

おお。これは助かる話だ。

『是非行きます。ありがとうございます』

その後、詳しい待ち合わせ時間とかを決めて、やり取りを終えた。

正直、コテになったはいいけど明日から何をすればいいか分からなかった。
嬉しい話だ。


…とりあえず。

なんか、PMでスピナーの人と話してると、ちょっと俺、コテっぽいな、と思ったりした。




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