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メッセ街。 JEBの近くにある、大きな商店街のこととである。 若者向けの商店が立ち並び、いつも賑わっている。 また、スピナーご用達とも知られ、スピナー専用の店もある、らしい。 そのメッセ街の端にある店の前が集合場所であった。 昼下がり。穏やかな日差しが降り注いでいる。 他にも連れてくる、って言ってたけど、誰が来るんだろう。 リアさんの知り合いだし、有名コテの可能性が高いと思うし、楽しみだ。 「あ」 「ん」 最初に来たのは、raimoだった。 「お前、匿名っていう人だよな」 「はい。あの、今日…」 「あー、そうだよ。姉御に言われて来た。 ったく、めんどくせー…」 raimoがめんどくさそうに頭を掻く。 「なんかすいませんね」 「いや、別にいいけどさ。 てか、歳同じなんだろ?敬語使うなよ、気持ち悪い」 「ん、そっか…あ、じゃあ呼び方もraimoでいい?」 「…初対面で呼び捨てにした奴が、わざわざ聞くなよ」 「分かった。じゃあraimoで。 俺の名前は…」 「EiH1だろ。聞いてる」 「あ、そう…」 沈黙。 その雰囲気を裂くようにして、1人の人が声をかけてきた。 「よ、raimo」 「enotさん。どうも」 enot。 見た目・声・ともに落ち着いた雰囲気で、とても大人っぽい人である。 実際、俺より結構年上だから、「大人っぽい」というよりは「大人」なのであるが。 「そちらがEiH1君かな。 RiAsONから話は聞いてるよ。どうぞよろしく。 RiAsONなんだけどさ、今日、急用でこれなくなったらしいんだ。 だから、俺とraimoで案内するよ」 「え、マジっすか?」 raimoが少し不満そうに言う。 「まぁ、しょうがないだろ。 んーと、EiH1ってちょっと言いにくいな。あだ名みたいなのないのか?」 「あだ名…」 自分についたあだ名を思い浮かべる。 90、はちょっと違和感があるんだよな、やっぱり。 「OREには、えいさんって呼ばれることになりました。昨日の話ですが」 「そうか。じゃ、僕もエイ君、って呼ばせてもらおうかな。 エイ君、メッセ街はスピナーならたくさん使うことになる場所なんだ。 適当に店を選んで紹介するから、いくつか覚えて帰ってくれれば嬉しいな」 少し微笑みながら言うenotさん。 見た目通り、良い人のようだ。 「よろしくお願いします」 「うん、よろしく。 raimo、最初はどこ行こうか」 「えー…」 raimoがぼりぼり頭を掻く。 「…まぁ、俺が一番使ってるので言えば、ペン屋っすかね」 「そうだな。まずはそこか。 じゃ、ペンを売ってる所に案内するよ」 「おお、それは是非」 俺もスピナーだ。 ペンには目がない、というか、とりあえず一番気になる存在だ。 「よし、じゃあ行こう」 2人に従って、メッセ街の中を歩く。 その後、2人が立ち止ったのは、雑貨屋の前だった。 「ここが一番大きい店だ。 ここ以外はマイナーな所ばっかで、普通はいかないと思う。 ここさえ覚えておけば大丈夫だよ」 「え、でも、雑貨屋…」 「奥がペン屋になってんだよ」 raimoが教えてくれる。 enotさんが、店の中に入っていく。その後に従う。 店の一番奥に行くと、明らかに「関係者以外立ち入り禁止」の雰囲気がする扉を、躊躇なく開けた。 「すげぇ…」 そこには、ペンがとにかくいっぱいあった。 思ったよりも広い店内は、スペースを贅沢に使ってペンが置かれている。 一体この中に、ペンが何本あるんだろう。 「うわ、3000*Fだ、すっげー…初めて見た」 海外製の今は作られていない、貴重なペンである。 いくらするんだろう、と思って値段を探すが、見つからない。 「それは非売品だよ」 「あ、そうなんですか…残念。 おー、こっちもいっぱい…凄いなー、ここ」 あちこち見て回る。 思わず大量のペンに興奮する。 「エイ君は、どんなペン使ってる?」 「俺はVPを。でも、普通の改造ですよ」 そう答えながら、RSVPがたくさん置いてあるところに目を向ける。 そこで、ふと気づく。 「あ、でも、ここって非改造のペンしか置いてないんですね」 今では、ペンは回しやすいように改造して使うのが普通になっている。 ここにあるのは、その改造の材料となる、改造されていないペンばかりだ。 「ペン屋、ってのはそういうものだよ。 改造するのはスピナー自身がやることだからね」 「つーか、お前今までペンどこで手に入れてたんだよ?」 raimoが聞いてきたので、それに答える。 「買ったことはなかったんだ。 もらったりとか、そういうのでやり過ごしてたから。 こういう店があるとは聞いてたけど…凄いなー、ここ」 「ふーん…」 「ま、ゆっくり見てて。 僕は、店長と少し話してくるよ」 「あ、はい」 店長か。奥の方でイスに座ってた、中年のおじさんがそうだろう。 「あの店長って、スピナー?」 近くにいるraimoに尋ねる。 「いや、あんなおっさんがスピナーの訳ないだろ」 まあ、確かに。そういう雰囲気ではないけど。 「あの人は、ペンを作る方の人だ。今は確か引退してるらしいが。 だから旋転に関しては、詳しくねえな。 ペンについてはかなり詳しいけど」 「ふーん…。 お、何だこのペン…」 また気になるペンを見つけ、そこに寄って行く。 ほんといいなー、ここ。 時間をつぶすときもかなり有用な店だな、と思った。 |
喫茶店、SPSL。 カウンター席に座っているのは、ayshで、応対しているのはscissor's。 「…そういう訳で、ごめんなさい。その日は無理だわ」 「いえ、姫さんが多忙なのは知ってますから大丈夫ですよ」 そう言ってにっこりと笑うはさみに、ayshも微笑を返す。 「他に人は集まってるの?」 「そうですね。そんなに大人数にはならないと思いますが、 いいメンバーが集まってる感じです」 「ふーん。 そういえば、Saizenとも何か考えてるって聞いたけど?」 「…はい、一応。 それはもう少し先になりそうな気がしますけど」 この少し後に、scissor'sはSaizenとの合作でCVを作り、 これが評判となるのだが、それはまた別な話。 「Saizenと、ね」 ayshが、少し憂いを持った目で、誰に向けるでもなく言う。 はさみは、何も答えずにカップを磨いている。 「…ごめんね、こっちから話に出しておいて。 私も気にしないようにしたいんだけどね」 「いえ、大丈夫ですよ」 Saizenの顔を思い浮かべながら、ayshは言った。 数か月前の事件のあと。 管理人達の方針で、Saizen、さらにoutsiderは表舞台にも出続けている。 もともとクールであった彼らは、その態度・言動はそんなに変わっていない。 ayshから見れば、さらに考えていることを表に出さなくなった、という感じがあるが、 事件の真相を知らない人からすれば、前となんら変わらないように見えているはずだ。 「前と同じように、Saizenさんとは話をしたいな、とも私は思うんです。 編集についての話をしていて、Saizenさんのセンスは本当に参考になるし。 だけれど…ただ手放しに許す、というのが良いことではないというのも、分かってます」 「そうね…。みんな結局許してしまうのかもしれないけれどね。 スピナーのお人好しっぷりは、折り紙つきだから…。 それがどんな意味を持つかは、Saizen次第でしょうが」 「はい。Saizenさんがそれで改心してくれてるなら、それが一番ですからね」 はさみが、にっこりと笑う。 「…そうね」 はさみも本当に人がいい、とayshは思う。 Saizenが豹変し、ayatoriを貫く場面を目の当たりにしていて、さらに彼女自身も刃を向けられている。 それでもなお、今のような台詞が言えるのだから。 「はい、いらっしゃいませ。 おぐねっくん、注文よろしくー」 「了解す」 バイトのOgnekが、指示を受けてかけていく。 入ってきた客に対して、はさみが向けた笑顔。 いわゆる営業スマイルではないだろう。 彼女の人の良さからくる心から笑顔だろうな、とayshは思った。 「喫茶店、向いてるわね」 「え?」 「いや、なんでもないわ」 ayshは、ゆっくりとカップを口によせて、紅茶を一口、味わうように飲んだ。 |
「さて…こんなもんかな」 スピナーご用達らしい服屋を出た後、enotさんが言った。 ペン屋は30分程で後にして、そのあといろいろな店を案内してもらった。 午後一杯かかった格好だが、メッセ街に関する印象がずいぶん変わった。 「メッセ街でスピナーが行くところ、って言うと、大体回ったと思うよ。 raimo、他にどこかある?」 「いや。俺も他には思いつかないっすね」 「じゃ、メッセ街の案内はここまでかな」 「はい。どうもありがとうございました。 参考になりましたし、楽しかったです」 頭を下げる。 「いや、大丈夫だよ。 たまにはいつも行っている場所を案内する、というのも悪くないし。 なぁ、raimo」 「…そーっすね」 「raimoもありがとう」 「ああ」 適当に返事をされる。ちょっとへこむが、気にしないことにする。 enotさんは苦笑いのような表情をしている。 「さて、と。 僕はそろそろ帰ろうと思うけど、2人はどうする?」 「そうですねー。 時間が時間ですから、俺もどっかで飯食ってから帰りますよ」 「ん、エイ君は一人暮らし?」 「はい」 「そうか。じゃあ、raimoと一緒に飯食っていったらどうかな?」 その言葉に、raimoは驚いたようにして答える。 「え・・・いや、俺は研究室で食いますので」 「ああ、そうか。なら、エイ君を食わせてやったらどうだ?」 「はい?」 「どうせraimoが作る訳じゃないんだろ。 人数多い方が喜ぶんじゃないかな、彼は。 それにエイ君、スピナーの研究室を見てみたいって言ってたしな。 丁度いいじゃないか、うん」 raimoは何も言わない。というか、言い返せない、という感じである。 「どうだ?」 「…わーりましたよ。連れて来ますよ」 「え?いいの?」 「しょうがねーだろ、ったく」 頭をかくraimo。 「じゃあ、そういうことで。エイ君。 raimoのとこのご飯は期待していいよ」 「はぁ…」 「…というか、研究室で飯?」 raimoの案内に従って、raimoの研究室に向かう途中。 質問をする。 「…俺は半分くらいは研究室に寝泊まりしてるから、料理道具とかも置いてある。 残りの半分は実家暮らしだけど」 「へー。 あとさ、飯をraimoが作らないって、どういう意味?」 enotさんがそんなことを言っていた。 「研究室、他の奴と共用なんだよ。 そいつが作る」 そういえばそんな話を聞いたことある。 raimoと共用してる、ってのは…誰だったかな。 共用の研究室というのは珍しい話ではない、らしい。 「ここだ」 「おお…」 二階建てで、大きくはないが立派な建物がそこにはあった。 フォルムが普通の家とは異なるけど、構造自体にそう差はなさそうだ。 ドアをraimoが開ける。後に従って中に入る。 「おー…」 玄関から上がり、もう1つドアを開けた所にあったのは、大きな部屋であった。 1階分のスペースのほとんどを使っているらしいことが分かる。 物が少なく、ここが研究に使っている部屋だということが分かる。 「ただいま、Makin」 raimoが声をかけた相手は、ペンを回しながら何か本を見ていた。 あー。そう言えばそうだった。 彼がraimoさんと研究室を共有している相手、Makinさんである。 raimoの声に振り返ったMakinさんは、微笑を浮かべた。 その後、俺に目を向けると、すぐにraimoに目線を戻す。 「客だ。そろそろ飯だろ。こいつの分も頼む」 Makinはにっこりと笑って頷き、本を壁に備え付けられた棚に収める。 そして、階段を上がっていった。 Makinさんは物静かな人らしく、一言もしゃべりはしなかったが、 穏やかな顔立ち・表情をしていて、とにかく良い人そうなオーラが出ていた。 「1階が研究のスペース?」 「ああ。物は大体2階に置いてある。あとは俺が寝てる部屋と、 台所に、リビングみたいなスペース、だな」 「なるほど…その辺見ていい?」 「ああ。上にいるから、適当に頃合見て来いよ」 raimoは階段を上がっていく。 どれ、では観察させてもらおう。 「…なるほど」 とりあえず分かったことは、壁が特殊だ。 レンガ造りであることは普通の家屋と変わりないが、 厚手になっていて、魔力で何か細工もされているようだ。 何かの時のためにこういう壁になっているんだろうな。 次に、棚に置いてある本を手に取ってみる。 色々なコンボ、それと他のコンボの組み合わせなど。 ずいぶんと細かいことが、綺麗な文字で書いてある。 裏表紙にはMakinさんのサインがあった。 勝手に見たらまずかったかな。 「…しかし、本当に研究、って感じだなぁ」 この部屋の雰囲気といい、まさに研究所、という感じだ。 俺は、いままでこんな風にペン回しを研究したことはなかったな。 勿論ある程度、どう魅せるか、みたいなことを考えたりはしてるけど、 こんな風に文章にまとめたりした経験はない。 面白そうだな、こういうのも。 とにかく、この部屋は雰囲気がある。 ここでただ回してるだけでうまくなりそうだ。 そういう場を作る、っていうのも大事なことなんだろうな。 …ん。 良い匂いがしてきた。 上に行って、Makinさんの料理を御馳走になるとしようか。 「すげえ!」 上に上がってテーブルを見た俺は、思わず叫ぶ。 「Makin…また、お前は」 raimoの若干呆れたような声も気にせず、Makinはニコニコ笑っている。 机の上に並ぶ料理。 凄まじく豪華で、凄まじくおいしそうである。ついでに量も凄まじい。 この短時間で、ということは…。 「あのー…これ、どうやって…」 「あー、Makinは料理には一切魔力はつかわねーよ」 なんて人だ。絶対魔法使ったと思ったのに。 Makinがすっと両手を前に差し出して、召し上がれ、という意思表示をする。 「頂きまーす!」 「…いただきます」 一番手前の皿から、一口つける。 あ。 うまいわ。凄く。 「…凄いですね、Makinさん」 Makinさんはにっこり笑っている。 「こいつは、家事関係はなんでもかなりできる」 そう説明しながら、raimoのフォーク・スプーンも結構な速度で進んでいる。 「Makinさんも食べないんですか?」 「…うん、食べるよ」 細く優しい声がした。Makinさん、初めてしゃべったな。 「こいつは、自分の料理を食べてくれてる光景を見てるのが好きなんだ。 だから、ちょっと経ってから食べ始める」 「ふーん…Makinさん人ができてますねー。 raimoは料理とか苦手そうだし、研究室共用で良かったね」 「…んだと?」 「いや、でも実際…」 「…まぁ、出来ねーけど。 なんかそう言われると腹立つな」 「まぁまぁ」 「ったく」 その後。 食事をしながらしばらく話をした。 美味しい食事のおかげで、話は随分弾んだ。 Makinが自分・raimoと同い年だ、ということも分かった。 「…って、じゃあこの研究室、 もともとMakinのもので、そこにraimoが転がりこんできた訳?」 Makinがうなずく。 「raimo、Makinがいくら家事が出来るからって…」 「うるせえ。 それ以外じゃいろいろ助けてるからいいだろ。 それに俺以外も、いろんな奴が飯食いに来たりしてんだよ」 「ふーん…Makinも世話好きだね」 Makinは、苦笑いのような曖昧な表情をする。 「ん」 raimoがポケットからカードを取り出す。 「あー。そうだ。忘れてた。 えい、お前明後日暇か?」 「明後日、っていうと日曜か。 多分大丈夫だけど」 「午後、1時に東街の広場に来い、だってよ。 また姉御から呼び出しだ」 「別にいいけど、今度は何?」 「…姉御に直接聞け」 「んー…まあいっか」 多分、昨日みたいに、「お楽しみ」とか言って教えてくれないだろう。 「じゃあ、そろそろ失礼するよ」 「ああ。…おい」 「ん?」 「明後日、ペン忘れるなよ」 「…もちろん」 スピナーがペンを携帯しない、などということはまちがってもない。 つまり、回しをする機会がある、ってことなんだろうな。 「Makin、ごちそうさま」 「お粗末でした」 Makinの小さな声に見送られ、raimo・Makinの研究所を後にした。 |
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