投下するスレ2 13

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EiH1は、したらばの地に足を一歩踏み入れて、ふぅと息をついた。


久し振りだな。

ここを訪れなかった期間は10日にも満たないんだけど、
それまでは毎日のように訪れていたから、そう思える。

ちなみに、今は午後の昼下がり。
飲み屋街という形を取っているだけあって、夜間の方が人が多いのだが、
今日のような休日となると昼間から結構人もいる。

昼間から酒を飲む奴は少ないが、適当に話をするために集まる奴が割といるのである。
酒が苦手な奴なら、昼間にしか来ない奴もいるし。

「…ん」

入ってすぐ、左手にある古い木製の掲示板。
そこには、たくさんの数字がたくさん書かれている。
その中に、90という表示を見つけた。

「…珍しいな」

この掲示板は、1〜1000の数字のうち、どの数字が使われているかを示す。
つまり、誰かが90を名乗っている、ということだ。

1とか1000とか、あとは「337」とか、目立つ数字はいつも使われてるからかぶってもおかしくないが、
90はそこまでポピュラーな数字ではない。
かぶるのは、珍しい…。

「たまたま、か?」

コテデビューして最初に来たから、それが関係してるのか、などと思ったが。
90として匿名をやってることは、リアさんぐらいしか知らないはず。だよな。

「…そういえば」

ペンを取り出し、すっと顔に手を当てる。
顔が、変わる。
匿名がよく使うような、人畜無害で普通の顔にする。

自分で顔を好きに決めれる、というのは結構悩むもんなんだよな。
不細工な顔はいやだけど、イケメンすぎるのも逆に気恥ずかしく、
結局よくいる並の顔になってしまうのが普通だ。

顔を変えるのはずいぶん久しぶりだ。
何回か変えてみたこともあるんだけど、結局やらなくなってしまったんだよな。

でも、今日はそうもいかないだろう。一応コテだし。

さて。行くか。

「91」と掲示板に書き足すと、本スレに向かって歩き出した。


「…おお」

「良いな・・・ここ」

中では、人が集まって何かを見ている。
…なんだ?

「よし、もう1回!」

「おう!」

「あー、悪い、何やってるんだ?」

近くにいる1人に声をかける。

「ん、ひろばーぶいの映像が手に入ったから、見てるんだ」

なるほど。
…それは興味があるな。

誰かが魔力で映像を映しているらしい。

OPは昨日のものと共通。
その後、raimoの旋転が踊り始める。
飲んだくれどもは、それを見て唸っている。

「…」

映像は、手の辺りしか映らない。
だから、スピナーの表情は写らない。

そのせいか、こうして見るraimoの旋転は、昨日のそれとはずいぶん違って見える。

映像はMizmさん、NIKooさんと続き。

見覚えのある手―というか、俺の手が現れた。

「…」

見た瞬間、変な感覚に陥る。
俺が出てるよ。あー、なんだこのフワフワした感じは。

たくさんの匿名が、俺の旋転を見ている。
昨日の方がたくさんの人に見られていたわけだが、こうして客観的に見るとやはり変な気分だ。

見る人の表情を思わず窺ってしまう。
…なんともいえない表情だ。
いや、表情じゃ感想は分かんないって…うん。

俺が1人でおろおろしているうちに、俺の動画は終わり、Makinのペンが踊り始める。

それ以降。
密度の濃い旋転に、やっぱり俺は他の人に比べるといまいちだなぁ、と落ち込んだりしながら、
映像を見続けた。

「うん、良作だな」

「ああ」

終わり、感想があちこちから出てる。

「やっぱ、90それなりにやるよな?」

「ああ、結構良かったんじゃね?」

あれ?
今、90、って…。

「悪い、90って?」

「あ?知らねえの?
 途中に出てたEiH1って奴、90って名乗る匿名らしく、話題になってんだよ」

「ああ。ずっとコテは持ってなくて、JEBに登録したのはつい最近らしいぜ」

「したらば出身のコテみたいなもんだよなー」

まぁ、今更だけど。
匿名は、どうしてこういう情報収集力に長けてるんだろう。
自分のこととなると、若干キモいな。

「へぇー」

「初めてのCVにしちゃあ、良かったよな」

聞かれる。
まずい。これはめちゃくちゃ答えずらい。

「え?あー、そ、それほどでもなかったんじゃない?」

ここで褒めたら、自演になってしまう。

自演とは、匿名として隠れて自分を褒めたり、話題に出したりする行為のことだ。
当然だけどかなり嫌われている。

「だよな。俺もそう思うぜ。
 他のメンバーと比べると、ちょっと場違いだろ」

後ろからそんな声が聞こえてくる。

…あー、なんだろう。

これも1つの意見だし、この意見は、客観的に見て正論だと俺自身が思うし。

そう分かっちゃいるんだけど、こうして貶されると、やはり気分のいいもんでもないんだな。

複雑な気分になりつつ、話を聞いている。


この場での俺の評価は、そう悪くもなかった。
思ったより褒めてくれる奴が多い感じだし、
匿名出身ということも好意的に感じてくれてる様子だ。

んー。これは意外に嬉しい。
やっぱ、匿名出身だから、匿名には好かれたいんだろうな。俺。


なんだか気分がよくなった俺は、自分以外のメンバーの旋転の議論に、匿名どもと花を咲かせた。





…あー、なんだろう。

これも1つの意見だし、この意見は、客観的に見て正論だと俺自身が思うし。

そう分かっちゃいるんだけど、こうして貶されると、やはり気分のいいもんでもないんだな。

複雑な気分になりつつ、話を聞いている。


この場での俺の評価は、そう悪くもなかった。
思ったより褒めてくれる奴が多い感じだし、
匿名出身ということも好意的に感じてくれてる様子だ。

んー。これは意外に嬉しい。
やっぱ、匿名出身だから、匿名には好かれたいんだろうな。俺。


なんだか気分がよくなった俺は、自分以外のメンバーの旋転の議論に、匿名どもと花を咲かせた。


「普通の家、だな」

「見た目はね。中を昨日toroさんが探ってくれたんですが、
 1階全て使って1つの部屋になってるみたいで。
 そこに集まるなら、かなりの人数入れるでしょうね」

「なるほど。
 確かに、かなりの人数既に入ってるようではあるな」


東町の、ある一角。
coco_AとkUzuが、一軒の家を物陰から見ながら話をしてる。

「まぁ、こんな所に人が集まってても、
 気づかないし、気づいても気にはかけないか」

「でしょうね。toroさんがよく見つけてくれましたよ。
 …思ったより大ごとのようですし」

kUzuが頷く。

3人組が何やら企んでいるという話だったので、最初はcoco_A1人で対処する予定だった。
が、軽く調査をしたところ、予想より多い人数のスピナーがここを訪れていることが分かった。

それを受け、念のためにcoco_A、kUzu、そして家の裏側に張るtoroの3人でここを監視することになった。

今のところ、確認した人数は20人を超えている。
これだけのスピナーで何か企むとすると、かなり大きなことが出来る。

「toro、まだ始らないか?」

『まだですね。中はまだがやがやと雑談してるだけなんでー』

kUzuがtoroと魔力で通信する。
toroは事前に防壁を破って、中の様子を実況してくれている。

「でも、いったい何をする気でしょうか」

「判断が難しいな。
 これでたいしたことない話だったら拍子抜けするけど」

「そうですね・・・でもそれが一番いいかな、私は」

coco_Aが苦笑いする。
事件となったら、色々な作業に追われることになるのは目に見えているからである。

「お、また1人入ってった。
 にしても、顔も知らないやつばかりだな」

たまに家の中に入っていく人物がいる。
恐らくスピナー、そうでないとしても何かしらの形での関係者だろうが、
kUzuはその中の誰1人として、名前を知っている者はいなかった。

「私は何人か知ってる顔も見ましたよ。
 といっても、王宮内で見かける程度の相手ですが・・・。
 あの人も、分かります。確かOREが何か…」

「ふーん」

「何だったかな。よく覚えてないんですが・・・ん?」

coco_Aが、何に気付いたような仕草を見せた。

「どうした?」

「すいません、OREに確認を取ってみますけど…。
 私が顔を知っていた相手なんですが…全員、例の子ら、な気が」

「…例のって、ザコテ?」

coco_Aが渋い顔をしながら頷く。

「…悪い。にしても、マジか。
 じゃあ、もしかしてここに集まってるのって、全員例の奴らか?」

「…いや、それはないと思います。
 だとしたら、もう少し私も顔を知ってると思います。
 たまたまだとは思いますが・・・」

「そうか…まぁ、少し気には止めておこうか」

「そうですね」

『…あ、ちょっと待って下さい。
 動きが…んーと』

「なんだ?」

『ちょっと様子の違う人が、前に立ちました。
 …んー、顔は見たこと無いけど…まとめ役っぽいっすよ』

「じゃ、そろそろ始まるな。
 中の様子、こっちにも流せないか?」

『んー…音なら…』

数秒後、kUzu・coco_Aの耳にも、中の音声が流れ始めた。


最初はがやがやという騒音が聞こえていたが、
しだいにその音が収まっていき、ついには静まり返った。


「『えー、皆。今日は集まってくれてありがとう」

続いて、拍手。

「まず、軽い気持ちで来た輩は帰ってほしい。
 覚悟のない奴の参加は、そいつにとっても俺たちにとっても、害となる」

朗々としゃべる男の声が聞こえる。
それ以外の人物は、静かにその話を聞いているようだ。

「では、概要を話していこう。
 一言で言えば、殴り込みをかける訳なんだが…相手は少々不確定要素が多いからな。
 勿論予測は立てているが、まず、いつでも臨機応変な対応を心掛ける、
 ということは頭に入れていて欲しい」

「…殴りこみ?」

『穏やかじゃないですねー』

kUzuの言葉に続き、toroが感想を漏らす。

「じゃあ、細かい中身を言っていく」

coco_A、とtoroは耳に意識を集中させる。

「…あ」

そんな中、kUzuが声を出した。

「kUzuさん?」

「あれ、キューちゃん、だよな・・・」

kUzuは、家の前を歩いている少年を見て言った。





「…普通の家、だよなぁ」

EiH1は目の前の、少し新しい感じの家を見つめている。

「ここに、何かあるのかなぁ…」


なぜ、俺がこんな所にいるのか、というと。



つい30分前、俺はまだしたらばにいた。
CVの話に加わったりしてまぁ楽しんで、
そろそろ帰ろうかと本スレを出たとき、同じようにしたらばを去っていく2人組を見かけた。

その2人が出て行く時、俺はあることに気づいた。
それは、その2人が顔を戻さないまましたらばの外に出て行った、ということだ。

本来、したらばを出る瞬間の人の顔を見てる、ってのはマナー違反だ。
特に、ある匿名の後ろをこっそりつけてそいつの顔を知ろうとした場合、
「特定」と呼ばれる、かなり良くない行為となる。

が、こういう風に偶然見てしまった場合は仕方ない。
そういうこともたまにあるし。

そして、たまたま見かけた2人がその顔のまま出て行った。
したらばや曲芸以外の場所で匿名、っていうのはもっとマナー違反、というかアホだ。

少し前に、同じく外で匿名をしていた奴らを思い出す。
ああいう奴ら、かもな・・・。

俺は顔を元に戻してしたらばより外に出ると、そいつらを追い始めた。

その途中で耳に入った会話によると、このあと何やら集まりがあるらしい。
どういう集まりか知らないが、是非ともその場を抑えてやりたいと思って尾行をした。

で、ここにたどりついた、と。そういう話である。


んー。
ここ、普通の家っぽいな。
単に自宅に寄った、という可能性もある。

でも、その前の会話の雰囲気からして、そういう感じじゃ無い気もする。

「…んー」

なんとなーく探りを入れてみたが、壁には防壁が備わってる。
raimoの研究室もそうだったし、スピナーのいるとこは大体そうなのかも。

破れなくもないだろうが、無理はしないでおこう。

どうしようか。
とりあえず、物陰で出てくるの待ってみようかな。
でも、めんどくさいな・・・。


「おい」

「え?あ、はい?」

思案していると。
後ろから、突然声をかけられて驚く。
そこには、見知らぬ男。

「お前もか?」

「え?」

…何の話だ?

「いや、俺も遅刻して一人じゃ入りずらいと思ってたとこなんだ。
 丁度いい、一緒に入ろうぜ」

「あ、えーと…」

まずい、俺も中に用があると思われたらしい。
…だが、これで中で何かが行われてる、ってことが分かった。

ここで断るのは不自然だし、うまくいけば中の様子が窺えるかもしれない。

「おー、じゃあそうするか」

「分かった。じゃあ入ろうぜ」

男がドアを開ける。
中には、かなりの人数の人影。

よし、これだけ人数がいればうまく紛れることが…。

「…90?」

入室後、3秒でバレた。

俺、意外と名を知られてるんだな。
だが、今は全然嬉しくない。




「…入っていきましたね」

「ああ…」

coco_A、kUzu、それに裏手のtoroは、中に入っていくEiH1を注意深く観察していた。

「彼もこの案件にかかわっている、のでしょうか?」

そうcoco_Aが呟く。

中の声が、2人の耳に流れ込んでくる。

『…90?』

『90じゃねえか』

『なんでこんなとこにお前が?』

『え?いや、その…』

『な・・・90って、お前、あのEiH1なのか?』

『おい、隣のお前誰だ?』

『ち、違うって!
 俺はただ、すぐそこのところで中の様子をうかがってる奴がいたから、
 声かけて一緒に入ってきただけだよ!』

『…中を窺ってた?』

『…こいつは、この件には関係ない、というより真逆の立場だよな』

『ああ』

『あー、えーと…』

そこで、沈黙。

「…とりあえず、中の奴らの仲間ではなさそうだな」

kUzuが言う。

「…ええ、そうですね」

「何をやってるんだかな・・・」

『どーしますー?
 どうも力づくて口封じしそうな流れですけど』

toroが通信で言ってくる。

『1対30じゃ、あの人も流石にぼっこぼこにされますねー』

coco_Aは少し考えた後、

「…見殺しにする、訳にはいかないでしょうね」

と言って、溜息をついた。

「仕方ないですね。
 今のEiH1さんへの反応からも見て、よからぬことを考えているのは間違いないでしょうし…。
 詳しい話は捕まえてから聞き出すことにしましょう」

「分かった」

『了解すー』

kUzuとtoroは素早く返事をした。









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