投下するスレ2 20

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んー…。
目立つのか目立たないのか、分からない人だな…。

メッセ街にて。
toroは少し困っていた。


昨日辺りから、ふと思い出したことがあって、ある人を探している。

目撃証言は結構見つかる。
どうも王宮を中心に、いろんなところをぶらついているらしい。

だが、もっと突っ込んだ話がどうも出てこない。
「この前店先で見かけたなぁ…」とか、「それっぽい人見かけた」とか。

スピナーにも結構聞いたけど、会話をしたという人も見つからなかった。
神出鬼没なあの人らしいと言えば、らしいんだけど…。

とりあえずあの人がいそうなところ、と思って歩きまわってるけど、見つからない。
参ったなー。

大臣にわざわざ頼むのもちょっと気が引けるから、自分で探そうとは思ったんだけど。
とりあえず午後いっぱいは探してみよう。

さて、っと。
メッセ街を見回ってみたけど、いまいち見つからない。

まぁ、ペン屋とかには寄らなさそうだし。
期待薄っていえば期待薄だったかなー。

「…ん」

PM。

「お」

これはラッキー、だな。

仲のいいスピナーから、目撃情報が入った。
しかも、リアルタイムで。

ペンを構え、素早く地面を蹴る。


「…いたいた」

目的の人物が出てきた。
出てきた建物は、煙草店。
僕は吸わないから詳しくないけど、建物の古さから見て老舗という雰囲気が漂っている。

なるほど、そういえばあの人は煙草をよく吸っている。
消耗品だから、定期的にどこかには買いに行くはずだ。


さて、と…ほとんど話したこと無いから、少し緊張する。
フレンドリーな人だと聞いてるから、そう気負う必要はないと思うけど…。

「すいませーん」

「…ん?
 おお、えーと…toro、だったっけ」

「そうです。知って頂いて光栄です。
 えーと…お久しぶりです、がおさん」

「がお」こと、G-Ryzer。他でもない、僕の探し人だ。

「以前、お話したことありましたよね」

「ああ、なんとなく覚えてるぜ。
 そっちはすっかり有名人になっちまったようだな」

「そんなことないですよー」

覚えてもらってたか。これなら話しやすいな。

「んで…何か用か?」

「はい。えーと、伝言を預かってます」

「…伝言?誰から?」

「あきまるさんです」

「お」

黒い眼鏡の奥のがおさんの目つきが、少し変わる。

「あいつ戻ってきてたのか?」

「いや、そうじゃないです。
 僕がこの前、あっちにちょっと行ったとき、たまたま会ったんです」

「ああ、そうなのか。
 で、なんて言ってた?」

ポケットから煙草を取り出して火をつけながら、がおさんが聞く。

「えーと…この伝言聞いたのが数日前なんですけど…。
 あと1週間か10日か…それくらいで戻ってくる、って」

「…そうか。あいつも戻ってくるのか」

煙をふー、と吐き出して、がおさんが言う。

「それで、こっちついたらすぐ連絡するから、迎えに来いって言ってました。
 頼まれてたもの、すぐに渡したいから、って」

「…あー、そうか。
 別に急がなくても良いんだけど…あいつも真面目だな」

がおさんが少し苦笑しながら言う。

「以上ですけど。ひとつ聞いてもいいですか?」

「ん?」

あきまるさんに聞いても教えてくれなかったことを、聞いてみる。

「頼まれてたもの、ってなんです?」

「ああ…たいしたもんじゃないぜ。
 ただ、久しぶりに見てみたいなーって思っただけで…わざわざ言うようなもんじゃねーんだ」

「んー、そうですか」

あきまるさんと同じような返答だ。
気になるけど、こう言われちゃうと、詳しく聞き返せない。

「じゃ、俺、いくとこあるから。
 伝言ありがとうな」

がおさんが手を振って去っていく。


よし、これでやることはとりあえず終わった。
んーと…どうしようかな。

丁度近いし、たまにははさみさんとこでも覗いてみようかな。






scissor'sが、髪止めを手にとる。
鋏を模したこの髪止めは、単なる髪止めではなく。
彼女の、戦闘の際の「武器」である。

「水無、援護お願いね」

髪止めが、scissor'sのペンの動きとともに巨大化して、1mを超す大きさの「鋏」と化す。

「…ん」

構えて、相手の出方を窺う2人。
対するザコテ達も、動かない。


先に痺れを切らしたのは、scissor's。

跳ねるように飛んで、数人の集団の方へ向かう。
右手でペンを操りながら、左手の鋏を高速で繰り出す。

刃と刃がかみ合う音が、幾度も響く。
傍目から見れば、鋏というよりは、斬撃が飛んでいるように見えるだろう。

だが、刃と刃のかみ合う音は、相手がかわしていることの、証拠でもある。

「…速い」

Mizmが呟く。

scissor'sの波状攻撃が止むと、即座に相手の攻撃が奔った。

四方八方からの攻撃。

「…っ」

回避をしようとしたscissor'sの動きが、一瞬止まる。

避けられない。
あらゆる方向から攻撃が飛んできている。

scissor'sが一瞬動きを止める。

同時に、攻撃の一角が、消える。

Mizmが動いていた。
正確な防御でscissor'sの逃げ道を作る。

素早く包囲網から脱したscissor'sは、Mizmと背中合わせになる。

「いい連携してくるね」

「…うん」

2人に向かって、一斉に火球が飛んでくる。
示し合わせたように、四方八方から、同時に。

Mizmのペンが、それに対し正確に反応する。
スピードを殺して、丁寧さを重視。
攻撃に対して、より効果的な魔力を生みだす。

防御に関しては定評があるMizm。
数人がかりの大量の火球にも、正確に対処できる力量があった。

「…後ろに、第2陣…はさみ、お願い」

「うん、了解」

火球が一斉に消える。

瞬間、その裏に構えていた2人の男が、scissor'sに向かって切りかかる。
斬撃。しかし、飛ばさずに、直接叩きこむ気のようだ。

scissor'sは、上等とばかりに鋏を構えると、まずは横一文字に鋏で薙ぐ。

鋭い攻撃に防御する2人。
片方の体制が揺らいだのを、scissor'sは見逃さない。

一瞬で距離を詰め、鋏を閉じて、鋭く突く。
紙一重で男はかわす。

かわされた、瞬間、鋏が動きを変え、横に振られる。

「峰」での強打。
1人片付いた―と、scissor'sは一瞬思った。

が。

scissor'sの鋏が、男の直前で止まる。

「…っ」

何かに引っかかったような感触。

鋏の先端に、草の弦が巻きついていた。

「…え?」

一瞬虚を突かれるscissor's。
その隙に、2人は素早く距離をとる。

「…はさみっ」

「あ、うん。ごめん。
 ちょっとびっくりしちゃって」

弦を素早く切断し、scissor'sは再び構える。

一瞬、NIKoo君かと思ったけど、違う。
NIKoo君のとは、雰囲気も力強さもまるで違う。

「…ただの真似、気にしちゃだめ」

「うん」

scissor'sはうなずく。
そう、ただの真似ごとだ。


自分より上手いスピナーに憧れる、というのは誰しもあることで。
その人に似たスタイルを目指し、真似をしてみるというのも、多くのスピナーが経験していること。

けれど、真似ではスピナーは、本当の意味で成長しない。
自分で自分の回しを作る、そういう感性がなければ、上級スピナーへは進んでいけない。

だから、さっきのNIKoo君に似た魔法を使ったスピナーも、まだまだ。
自分のスタイルを見つけれていなくて、実力はそこまである訳じゃない。

…けれど、そんなレベルなのに…。

scissor'sは、相手の攻撃を受けながら、少し困惑していた。

ひとつひとつの攻撃はたいしたことないんだけど、連携がものすごく上手い。
まるで、1人のスピナーから繰り出されるように、計算された攻撃が飛んでくる。

2対6、という人数差は、普通なら問題にはならない。
スピナーとスピナーの勝負は、いくら束になっても、ある程度実力差があれば、敵わない。
この戦闘は、お互い正攻法でしっかりと攻め合い守り合いをしているから、なおさらだ。

なのに、なかなか勝負がつかず、「いい勝負」になっている。

「水無」

「…うん。手ごわい…」

水無も同じ感想のようだ。

今まで見たことのない連携。
それが、実力差を埋めている正体だろう。

こういう相手は初めてだから…手探りでの戦闘になりそう。

scissor'sが、鋏を持つ手にぐっと力が入った。






「あれ」

SPSLの前にきたtoroだったが、「閉店」の表示がされていた。

「休みかー…残念」

あんまり休みは多くないんだけど、不定休でたまに休みになる。
多分はさみさんの私用とか、そういうんだろう。

「あら、toroくんじゃないのー」

「…あ、ども」

近所のおばさんらしい2人組に声をかけられる。

「はさみちゃんのとこ、今日はお休みみたいねー。
 商店街でお買い物してるの見かけたわよ」

「あー、そうなんですか」

「男の子とデートかしらね、裏路地の方に入ってったわよ」

ニヤニヤとしながらおばさんが言う。
苦笑を返す。それ以外思いつかない。

「デートって、Mizmちゃんも一緒だったじゃないの。
 3人だったわよ」

「はぁ…」

…3人?
なんだかよく分からないが、僕が気にする話ではなさそーだ。

この辺りの商店街、か。
あっちにある、小さい商店街のことだろうな。

あそこの裏路地、っていうと…かなり狭いとこだったような。
あんなところで何してるんだろう。

なんとなく、その方角に目を向けていると。

…?

気のせい、かな。

ペンをさりげなく構えて、控え目に回す。

「…っぽいな」

伸ばした探知魔法。
戦闘の雰囲気を感じさせる結果が返ってきた。

…はさみさんとMizmさんがいるなら大丈夫だとは思うけど。
最近物騒だし、一応見に行ってみよう。


おばさん2人組に軽く頭を下げた後、地面を蹴る。
建物の屋根の上にあがって、周りを見渡す。

「…あれ」

戦闘はしていた。
遠くの方にそれらしい姿が見える。

路地裏で小競り合いしてるなら、上から行った方が都合がいいかなーと思ったのだが。
どうも、もっと奥、空地の方でやっているらしい。

いくつもの建物の屋根を拝借して、近づいていく。

近づきながら観察・探知。

状況はなんとなくつかんだ。
2対7で、面子はたぶん例のザコテ達。
戦況は、ザコテ達がどうやら押しているようで、2人は本調子じゃないのかもしれない。

これだと、一気に奇襲して、出来れば全員捕まえたいところだけど…。

ある程度近づいてきたところで、スピードを落とす。
んー…。

思案していると。

「…っ」

7人が、さっと散った。

「まずっ」

あわてて追おうとするけど、反応が早かった。
…んー、逃げられたな、こりゃ。

仕方なしに、空地にストンと着地する。

「toroくん」

はさみさんが少し驚きの混じった表情で言う。

「ども、お2人さん。
 んー、逃げられちゃったか…」

「…突然、『邪魔が入った』とか言いだしたから…何かと思ったけど…toroかぁ」

「そのようで。
 えーと、なにもんです?」

「ちょっと、よく分からない…。
 1人に呼び出されてここに来たら、いきなりけしかけられて」

「んー…そうですか…」

どうしようか。
完全に確認はしてないけど、細かいのがたくさんいた感じから見て、
最近の「ザコテ」の問題と関係あるのは間違いなさそうだ。

「えーと、ちょっと事情詳しく聞きたいんすけど、いいですかね?
 出来れば王宮で…coco_Aさん辺りと一緒に」

最初はちょっと驚いたような顔をした2人だったが、すぐにうなずいてくれた。







路地を素早く走りながら、2人組が話をしている、

「…邪魔者、ですか?」

「ああ。toroが近づいていた」

「はぁ…なんであの人が」

「まぁいい。収穫はあった。
 もう少し調整すれば、十分実戦で役に立ちそうだな」

「はい。いい感じで、共有できてましたよ」

「あと数日だな…。
 数日内に、動くぞ」

「はい」




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