投下するスレ2 21

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「はろー、ちょっと久しぶり」

「…よ」

「ども」

2人に軽く頭を下げる。


EiH1は王宮へ来て、raimo・RiAsONと会っていた。
特に用件があるということではなく、たまには来たら?という感じの話です。


「そういえばさ、90って自分の部屋作ったの?」

裏庭を歩きながらリア姉が話しかけてくる。

「あー…作ってないです」

「じゃ、あんまり回してないでしょ。
 空き部屋でちょっと体動かさない?」

リア姉がありがたい提案をしてくれる。

「あ、いいんですか?」

「…元々俺と姉御は、空き部屋行くつもりだったからな。
 行くぞ」

さっさと歩きだしてしまったraimoの後ろに従い、空き部屋に向かった。


「かなり前の話になるんだけどさ」

「ん、何です?」

空き部屋について、まずは数分の間、互いに感覚を確かめるような軽い戦闘をした。
その後、一息ついているときに、リア姉が話しかけてきた。

「最近ザコテが増えてる、って話をしたじゃん」

「…あー、しましたね」

ザコテ、という単語に思わず反応しそうになりながら、答える。

「あの後いろいろあってね。最近、ザコテ君たちをよく観察するようにしてるんだけど」

「そうなんですか」

「…俺も付き合わされてるぜ。
 姉御に無理矢理」

raimoが愚痴る。

「へー…」

それにしても、この2人は仲がいいな。

「なーんか気になるのよね。妙にこそこそしてる連中が多い気がして。
 90、なんか噂聞いてない?」

少し、ギクリとする。

心当たりは凄くあるけど…。
ちょっとしゃべる訳にはいかないよな。

「んー、思い当たらないっす」

「そ」

リア姉が特に表情を変えず返答する。
あんまり期待してなかったんだろうな。

「raimoー、次ちょっと相手してよ」

「分かった」

先ほどは俺とリア姉を横で見ていたraimoが頷く。
今度は俺が見学の番のようだ。

穏やかで飄々とした雰囲気のままのリア姉と、表情が真剣なものになったraimo。
一見対照的だが、どちらもけっこう本気で手合わせをする気だ、というのは分かる。

流石に俺の相手をしてたときは、こっちに合わせてくれたらしいな。

とりあえずちょっと楽しみだな・・・と思い、注目したところで、扉が開く音がした。

「失礼します」

coco_Aさんだ。

「ん、coco_Aじゃん。どうしたの?」

「えーと、EiH1さんがいると聞きまして」

あれ、俺に用なのか。
少し意外に思いつつ、coco_Aさんの所に向かう。

「よろしかったら、少しお暇をいただいていいでしょうか?」

「えーと…はい、大丈夫です。
 すいません、ちょっと出てきます」

2人に向かって声をかける。

「了解ー。
 たぶん当分ここにいると思うから」

「分かりました。終わったらまた来ます」

軽く頭を下げた後、coco_Aさんに続いて部屋を出た。






着いたのは、情報室。
入るのは初めてで、少し緊張しながら入る。

中では、なんだかごちゃごちゃとした大量のものに囲まれて、337さんとSEVENが待ち構えていた。

「おー、来た来た。
 90くんだよね。同じ数字の登録名だからなんとなく親近感があるなー」

「どうもはじめまして。
 えーと、一応登録名がEiH1ってのになってまして、そちらで呼んでもらった方が…」

「登録名とか、あんま気にしなくていいって。
 僕も337って呼ばれることほとんどないし。
 ま、よろしくね、90くん」

…EiH1って名前、呼びづらいんだろうか。
なぜだか皆90って呼びたがるような。

「えーと、いったいどうしたんでしょうか」

「少し聞きたいことがありまして」

俺の質問に、SEVENが答えてくれる。

「たまたま大臣が気づいてくれたみたいなんですけど。
 先日の事件のあと、ほとんど王宮に顔を見せてませんよね」

なんとなく予想はついてたけど、あの事件の話のようである。

「んで、まぁ気になってちょっと観察してみたけど…ある場所にかなりの割合いるみたい、だね」

「んーと、隠すつもりは無かったですけど…。
 確かにあれ以降、したらばに思いっきり入り浸ってますね」

最近はたまに人に聞かれるから、自分がしたらばによく行ってる、ということを口外するのはあまり躊躇しなくなっていた。

だから、337さんの言葉に対しても、素直にそのことを明かす。

「ここからは私の想像なんですが。
 事件のことについて、調べてまわったりしてませんか?」

coco_Aさんが単刀直入に言った。

「えーと…」

どういう言い方をしようか一瞬迷う。

が、直後に「えーと」と言った時点で、肯定に等しい反応だな、と気付く。

「そういうこともしてます」

「そうですか。
 特に、咎めるとかそういうつもりはないんですけど。
 よろしければ、何か分かったことがあったら聞かせてくれません?」

再び単刀直入な質問。

「…」

これは…どうすればいいんだろう。

したらばで俺は主犯格の男と話をして、結構核心的なことを聞いてしまっている。

目の前の3人に明かしてしまって、いいものだろうか。
ザコテ達に関して、この人たちがどういう立場にいるのか、正直分からない。

無下にするようなことはないだろうし、改善を図ってくれるような気もする。

しかし、実際、あのザコテ達は事件を起こしてしまっている訳であり、武力行使のようなことも考えている。

この人たちは、国を統べている訳だし…。


「わかりました」

俺の考えがまとまる前に、SEVENがそう言った。

「話しづらいなら、無理をしなくていいです」

「…あ、えっと…そうっすか」

少し驚きながら言う。
coco_Aさんも少し意外そうな表情で、SEVENに言う。

「SEVEN、いいんですか?」

「…この人から無理やり聞き出すのは、ちょっと違う気がするので。
 EiH1さん、時間をとらせてすいません」

SEVENが頭を下げる。
coco_Aも1つ息を吐いたあと、口を開いた。

「SEVEN、じゃあ仕事を片付けてしまいましょうか。
 EiH1さん、失礼します」

「あ、はい」

2人は情報室から先に出て行ってしまった。

「もう話は終わりか。
 まったく、せっかちだなぁ」

337さんが言う。
確かに、あっという間に要件は終わってしまったような感じだ。

「お客さんが来るのは珍しいから、僕としては歓迎したいんだけど。
 ま、ゆっくりしていってね」

「あ、はい、どうも」

「そう言えば、90くんはここ入るの初めてだよね」

「はい」

「見ての通りごちゃごちゃしてるけどさ。
 いろいろ資料とかはあるから、適当に見てもらっていいよ」

「本当ですか?」

願ってもない話である。

この部屋、とにかく紙が多い。
良く分からない機械もあるけど、それ以上に本や書類がたくさんある。
情報室という名にそぐわない景観、といったところだろうか。

「その代わり、回しのデータとらせてほしいんだけどね。
 この前、ちょっと見かけて、なかなか面白いなーと思ってね。
 ま、それは後でいいから」

「じゃ、お言葉に甘えて…」

まず目に入ったのは色々なCVなどの動画だった。
見たことがないようなFSなどがかなりある。

いつも思うんだけど、この人は一体どうやってこういうものを集めてくるんだろうな…。

あー、やばい。
俺、情報室になら3日ぐらい余裕で居れそうだ。


動画類に続いて、ペン類の書類を見る。

「337さん、ペン凄い多いですね」

棚には、資料と一緒にかなりの数のペンが置いてある。

「んー、実際に回すのはあんまり多くないんだけどね。
 もらったりしてるうちに自然に増えちゃって」

「そういうもんですか」

見たことのないようなペンの記述・画像もある。

海外の人とも337さんはかなりつながりがあるようだし、
この人の情報収集能力はほんとに凄まじいと思う。

「…ん」

そんな風に考えながら資料を漁っていた時。
1本のペンの画像に、目が止まった。

「…337さん」

「何ー?」

「えーと、このペンについてちょっと聞きたいことが…」

「お、質問?いいよ、どんどんしちゃって」

目を輝かせながら、337さんは言った。






「来ねえな」

「そうね」

raimoの言葉に、RiAsONが答える。

空き部屋で体を動かすことにひと段落ついた2人は、少し休憩していた。

「…姉御、どうしてザコテの話をエイフーに聞いたんだ?」

「んー、どうしてって…別に」

「見るからにそういうこと知らなさそうじゃねえか」

「別に聞いて損する訳じゃないでしょ。
 それに…」

「それに?」

「あの子、なんとなーくそういうこと、いろいろ考えてそうじゃん」

RiAsONの言葉に、raimoはしばし黙った後、

「…どうだろうな。俺はあんまピンと来ねえが、姉御が言うならそうなんじゃねえの」

「そうね、raimoは人を見る目がないからね」

「うるせえ」

ぶっきらぼうに言うraimoに対し、微笑むRiAsON。

「しかし、90一体何してるんだろ。
 PMでも送っといて、どっか行ってようか?」

「…俺はどうでもいいぜ」

「んじゃ、街でザコテ君たちと遊びにいこうかー」

「…遊ぶっつっても、なんか遠巻きに観察したり、適当に歩き回りながら会話してるだけじゃねえか。
 マジで姉御、あんなんが楽しいのか?」

raimoが冷たい目でRiAsONを見る。

「いいじゃん、どうせraimoも暇でしょ。
 そうだ、Makinとか暇だろうから誘ってこうか」

「…好きにしろ」

raimoがため息をつきながら言った。






情報室を出てから、もう数時間になる。
が、未だに考えているのは、情報室でのことだ。

一体、どう捉えるべきなのか。


EiH1は、したらばにいた。
1人でちびちび酒を飲みながら、ずっと考え事をしている。

「…あれは、絶対そうだよな」

見間違いようがない。
つまり、337さんの話からすれば…。

だから、あの人ザコテ側の立場にいる、ってことだろ。
あー、畜生、分かんねえ。

「あー!」

もう駄目だ、頭ん仲がかなりごちゃごちゃしてきた。
考えすぎるのはやめよう。

こういうときは、酒でも飲んで一晩経ってから…。

「ハハハハハ」

そこで、店中に1つの笑い声が響いた。

「ばっかじゃねえの、あいつ!」

声の大きさに、店中が静まり返る。

「馬鹿お前、大声出すなって」

「いいじゃんかよ、ここはしたらばだぜ?
 包み隠さず話すための場所だろうが」

向かいの席に座っている男の制止も聞かず、男はわざとらしい大声で話を続ける。

「お前ら聞いてくれよ。
 あるザコテがさ、なんか自分のCVに有名コテ誘いまくってるんだってよ」

「登録して1年もたってなくて、ろくに人脈もないくせにPM送りまくってるらしいぜ。
 もう迷惑考えなさすぎ」

「それひどいな。自分の立場考えろ、っていうかさ」

まあ、よくある話だろうな。
CVをやるとなったら、ゲストで上手い人に出てもらいたいってのは誰でも考える話だ。
誰でも自由にコンタクトがとれる方法となると、PMぐらいしかない。

「あんなゴミみてえなスタイルで、ずいぶんとまぁ調子に乗ってるんだな。
 ウマコテと共演とか一生無理だろうな」

…叩き、なんだろうか。
なんというか、叩きのレベルにさえ達していないもののような。

それに、今日はゆっくりと飲もう、と思ったんだし。スルーでいいか…。
グラスを手に取り、口元に運ぶ。

…待てよ。

その途中で、ふと手が止まった。

俺がしたらばに入りこんでることを、coco_Aさん達はなんとなく感づいていた。
なら、ザコテ達がここで動いてる、ってのも感づいているかもしれない。
もしかしたら、既にアクションを起こしているかも。

そうなれば、彼らも武力行使に移るしかなくなる、ってことも考えられる。
それは、よくないんじゃないか。


そうだ、ゆっくりしている暇はない。
出来るだけここを変えて。彼らを止めないと。

幸い、アホが大声を出したおかげで店中が注目してる。
多くの人の前で意見出来るチャンスだ。

思い立ったら即行動、だ。
頭の中で簡単に施行を巡らせ、軽く息を吸ったあと、

「別にCVに誘ってもいいじゃねえか、叩くようなことじゃねえよ」

と、叩いている男に聞こえるような大声で、言った。

「…お、そっちで何か話があるみたいじゃねえか」

「上手い人と共演したいと思って、PM送ることの何が悪いってんだ?」

「ウマコテの迷惑になる、はい以上」

「勝手に迷惑だって決め付けんなって。
 何度も執拗に送ったり、アポなしで直接けしかけたりしたらそりゃあ迷惑かもしれないが、
 PM送るってのはちゃんとした形式のお願いだろうが。
 叩くのは間違いだ」

「お前はよー…。
 レベルが低いCVに出るのをウマコテが断るのは普通のことだろ。
 で、断られるのが明確なのにPM送って、相手に断らさせるとか、明らかに気遣いが足りねえな」

「駄目元でお願いしてみる、ってのは悪いことなのか?
 そういう気遣いが出来たら理想かもしれないが、聞いてみなければ分からないことだってある。
 ウマコテがレベルの低いCVに、まったく出ないわけでもないんだし」

ここで、相手は押し黙った。
…まだまだ、こっちの論理には穴があると思うんだが、相手は反論が見つからない様子だ。

「…後は、お願いしまくって出てもらってのに、ひどい編集をするCVとかも出したりするじゃねえか。
 ああいうのとか、失礼すぎるだろ」

「編集技術の未熟さや、センスに関してはしょうがねえだろ。
 出来うる努力をしたのなら叩く要素はないな。
 出る方もそれは承知で出てるんだろうし」

「…」

「正直、お前はザコテだから、って理由で叩いてるとしか思えねーんだよ。
 批判するのは結構だが、根拠もない批判は迷惑になるだけなんだよ。
 それで、人の意見を曲げちまったりするんだからよ」

本当は、こういう叩きは見たり聞いたりする方が、スルーなどの取捨選択をしなきゃならないと思う。
でも、叩きを止めるというのも方法の1つではあるし、俺の今の目的はそれだ。
だから、こういうことを言わなきゃならない。

「…随分と、何から何までザコテよりな意見だな」

そこで、別な奴から声が飛んできた。

「ザコテの自演臭が半端じゃなくするんだが」

「俺も思った。こいつ本人じゃね?」

…まぁ、こういう流れは何度か経験してるけど。
よくぞまぁ根拠もなしにこんなことが言えるもんだ。

「そこの、えーと…え、90?」

「…ああ、90だよ」

今日は90が空いてたから、特に考えもせず「90」にしておいた、んだけど。

「ハハハ…こいつはひでえ」

俺の番号を知ったとたんに、相手がにやにや顔になった。

「最近EiH1が話題だからって、90を選ぶとか。
 正直痛いんですけど」

からかうような口調。既に議論をする気はないように感じられた。

「そういうネタに乗っちゃう、ってのがそもそも痛いし。
 乗っかるネタも、よりによってあんなポッと出野郎とか、痛すぎるだろ」

まるで俺がネタキャラみたいな言い草だな。
言ってくれる。

「…この番号は、そういうんじゃねえよ。
 昔からよく使ってる、ってだけだ」

「お前、冗談が上手いな。
 何、EiH1本人とか言いだす訳?うん?」

落ち着けって。
完全に挑発に来てるんだ。
こういうのに乗ったら、絶対駄目だ。

「そういうことしちゃう奴に限って、回しとかもEiH1に全然敵わないんだよな。
 酒がまずくなるんで、ご退場願いますかね?」

男はそう言うと、おもむろにペンを取り出した。

少し予想外の行動に、店全体が軽くざわつく。

「落ち着け、って。別に仮面はがしたりしねえよ。
 いいか、昔から使ってるとか言うけどな、90はEiH1が昔から使ってる番号な訳よ。
 だから、こいつの今の言葉は嘘なのがバレバレな訳。
 いくらしたらばだからって、明確な嘘ついた輩にはご退場頂こうぜ」

そういって、軽くペンを回す男。
脅すように、男の前で小さく風の刃が音をあげた。

「…お前、マジで屑だな」

絞り出すように言う。

したらばでペンを取り出した、ってのは、ちょっと我慢の限界であった。

ポケットから素早くペンを取り出し、短く回す。

喧嘩の気配を感じ取ったんだろう。
周りの野次馬が一斉にペンをとる。

しかし、戦闘は起きず。
カチ、という小さな音が響く。

自分では確認出来ないが。
周りから見れば、俺の本当の顔が、明らかになってるはずだ。

起きるどよめきを無視して、言う。

「俺がEiH1だ。嘘はついてなかっただろ」

「な・・・」

「お前みたいな屑がいるから、ここはちっとも良くならねえんだよ」

思い切り男を睨みつける。


俺の視線は目の前の男だけをとらえていて。

周りの自分への視線を確認する余裕はなかった。




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