投下するスレ2 23 | |
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まず、王宮近辺の警護の強化。 次に、スピナーを多数動員して、広範囲にわたる巡回・監視。 そして、王宮にて自分にSEVEN、toroさん、kUzuさん、scissor'sさんの5人が待機。 有事の際は、即座に駆け込む準備。 さらに、念のため、半年前の事件の当事者は、全員の所在位置を確認済み。 万が一の際は、いつでも大臣から連絡を飛ばせるようにしてある。 「…ふぅ」 頭の中で、状況を確認したcoco_Aは、椅子の背もたれに体重を預けた。 一晩で行った準備は、ここまでだ。 出来る限りのことはしたつもりだが…この備えが役に立つかどうかは、定かではない。 結局、相手の狙いは掴めなかった。 昨日、主犯格の男との通信で、こぼれ落ちた情報が唯一のあてだった。 『しかし、我々が現行の体制に苦しんでいるのは事実だ』という言葉である。 ここから、彼らが現状、何かしら不満を抱いてるということが窺える。 それには心当たりもある。 例えば、事件後にOREが中心となって行った彼らへのスピナーとしての教育。 その人数の多さ等から、少々荒いものとなってしまった部分もある。 これに関して、管理人達に不満を抱いていてもおかしくはない。 また、協会、あるいはayatoriさんやSaizenさんなどに対して。 「騙されてスピナーにさせられた」という恨みを持っても不自然ではない。 そのほか、いくつかの心当たりがある点を中心に、大臣に寝ずに洗ってもらった。 しかし、結局相手の狙いや主犯格の特定には至らず。 肝心のところが分からないのでは、準備に穴がないと言い切れる訳がない。 それに、問題はもう1つある。 「失礼します」 そこで、そんな言葉とともにドアが開いた。 入って来たのはSEVEN。 「ん、おはようSEVEN」 「おはようございます。 警備のチェックは終わりました。 もっとも、王宮に直接攻め入る、なんてことは流石にないとは思いますけどね」 「そうですね…。 けど、何があるかは分かりませんから」 「いつ頃動いて来ますかね」 「正直な話、今日だという確約もありませんから…。 あまり緊張し過ぎずに、待ちましょう」 「はい。 coco_Aさん、確認しておきたいのですが」 「…我々の動きについてですか」 「はい。 基本、我々は動くと、そういうことでいいですね」 昨晩、SEVENらと話し合った結論がこれだ。 昨日の通信でなされた、脅迫まがいの要求。 この要求には従わない、という方向性にまとまった。 まず、事件の公開は、基本的に彼らにとっても行いづらいだろう、という予測があった。 また、公開によって失われるのはこちらの面子・信用、その辺のものだ。 元々非は我々にあるといっても過言ではない話である。 ならば、それを恐れて、彼らに好き放題させるのは間違い。 あちらが危険な行動を起こしたら、力づくで止めに行くべきだ、と判断した。 「はい。しかし、最終的な結論はSEVENが出すことになります。 総合管理人、という名はそういう意味ですから」 「…分かってます。 彼らの好きにさせるつもりは、僕にはありませんよ」 SEVENが力強く言う。 この調子だと、いざというときに迷うということはなさそうかな、と思った。 |
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「…なんか、勢いで来ちゃったな」 目の前の橋を、ちょっと呆然としながら見つめる。 今朝。 昨晩から考えることがあったせいか、よく眠れなかった。 目が覚めた時には、まだ東の空から太陽が見え始めた頃だった。 なんとなく日の出の様子を見ていて、東という方角に思うところがあって。 「東にもう1回行ってみるか」と、思い立った。 まだほとんど人のいない街だ。 人目を気にせず、ガンガン魔力を使って来れたので、まだ日もあまり高くなっていない。 この橋を渡れば、生まれて初めてJEBを出ることになる。 別に出ると違法だとか、そういうことはないし。 関所みたいなものがある訳ではない。 けれど、なんというか精神的に、その一歩は大きい気がする。 具体的に何をすると決めた訳ではない。 ただ、スピナーとして何か知ることができることがあるような気がしていた。 リア姉もがおさんも、旅について話をするとき、少し微妙な表情をしていた。 何か秘密があるのは間違いない。 俺が旅に出たい気分になったのは、たまたまだ。 したらばに入り浸って、叩きをする奴に文句を言う、なんてことを四六時中した。 その結果、なんとなく変なテンションになっていたのだろうか、あんな事をやらかしてしまって。 自分に嫌気がさした、という表現がふさわしいだろうか。 周りの恥ずかしさともあいまって、一気に普段生活するこのJEBがいづらくなったような気がする。 この世界の花形であるスピナーという存在。 その知名度、人気…そういったものが、こういうときに重くのしかかるということを、思い知らされた気がする。 「何か、つかまなきゃ」 ただ、こうして旅に出るという機会が得られたとも言える。 だから、JEBから出てみて、そこで何か掴めれば…。 そう長い間いるつもりはない。 何か分かったら、日帰りだって構わない。 ただ、重要なことを知らないままではザコテ達に説教出来る立場じゃないないんじゃないか、と思った。 したらばに戻って今までのようなことを続けるにしろ、他のことをやるにしろ、この経験は役に立つ気がする。 橋をゆっくりと渡っていき、橋に辿りつく。 「…」 深呼吸した後、ゆっくりとJEBの外へと、一歩踏み出す。 「…うん、何もないな」 当然だが、特に何かびっくりするようなことが起こる訳ではない。 足の下の地面は、JEBのものと何ら変わりはない。 あっけなく国の外へ、って感じだ。 まぁ実際はこんなもんなのかな…。 「よし」 こうして東側から国の外へ出たんだ。 行ってみたいとこがある。 「えーと…とりあえずこのまま道なりに行ってみるか」 そうすれば、そう時間もかからずに、見えてくるはずだ。 ―海が。 こっち方向に旅、と聞いたとき、なんとなく思い浮かべてたのが海の風景だ。 行くあてもないから、とりあえず目指してみようと思っていた。 さて・・・風景を見ながらゆっくりいきたい所だけど、あまりのんびりしているのは良くないな。 行こう。 軽く跳ねるようにして走る。 一歩で何メートル進んでるのかな。数えたことないから分からんけど。 速度にして、魔法を使わずに走ったときの4倍くらいは出ていると思う。 これでも足回りに魔法を使って軽く疲れない程度に走っているし、ちょっと調子が悪い気がするけど。 何にせよ、傍から見れば異常な速度であるのは確かだ。 走る道は、JEB内のように石畳の道ではないが、そんなに荒れてる感じはしない。 それなりに人通りがあるんだろうな。 国外を「荒れ地」だなんて表現している人を見たことがあるが、その表現はあまり適していない気がする。 「…ん」 国外に出て、初めて人を発見した。 以前国境の辺りに来た時に見かけたような、荷馬車である。 高速で横を通り過ぎるのはアレかな、と思ったのでスピードを緩める。 ある程度近づいたところで、御者が声を掛けてきた。 「あのー、あんたスピナーの方ですかね?」 「はい、そうですが」 「おー、じゃああんただ。伝言聞いてるんだよ」 …伝言? 待て、こっちに来ることは今朝思いついたことだし、誰かが知っている筈は…。 「浜辺でちょっと休んでるから、浜辺まで来てくれーって。 そんじゃ、よろしくー」 そう言って、少し訛りの入った御者さんは去っていこうとする。 「ちょ、ちょっと待って下さい。 人違い、じゃないですか?」 慌てて引きとめる。 「んー?つったって、あんたスピナーだろ?」 「いや、そうですけど…」 「じゃああんただと思うんだが…話聞いてないのか? 浜辺の近くで兄ちゃんに話しかけられてな、JEBの方に行くなら伝言を、って言われて。 この道を走ってるスピナーが居るはずだから、そいつに、って」 「はぁ、そうですか…。 えーと、俺がこっちに来るのは、特に予定もしてない思いつきなんで…。 その人が言ってたスピナーは、俺ではないと思うんですが」 「あれ、そうなのか。参ったなぁ…」 この辺りにスピナーが来るのは珍しいことだと思う。 だから、そういう伝言の頼み方も別に問題ではないんだけど…。 もうちょっと具体的に話してくれてもいいのに。 「んじゃ、もうちょっと行ったとこにいるのかな…」 御者さんもちょっと困り顔だ。 …でも、国外でスピナーと待ち合わせってどんな用なんだろう。 「あ」 もしかして。 スピナーと待ち合わせなら、相手もスピナーの可能性は高い。 東の国境を出た先に、いるスピナー。 これから旅に出るとか、そういう可能性は高いんじゃないか? 「ん、どうした?」 「いえ…。 えーと、じゃあ念のため、僕その浜辺に行ってみます。 この道をまっすぐ行けばいいんですか?」 「ああ、そうだな。 ずーっと行くと、海が見えてくるな。 最初に着くのは磯だけど、少し北に行けば浜になってるから」 「分かりました」 「おう、じゃあすまんね。 俺も他の人見かけたら、そいつにも声かけとくから」 「宜しくお願いします」 御者さんに頭を下げると、ペンを握って走り出す。 国外までわざわざ出てきてるんだ。 何か教えてもらえる可能性は高いはずだし…。 カマをかけてみるとかいう手もあるな。 何にせよ、意地でも情報を引っ張り出してやる。 意気込んで、進む足を速めた。 |
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「さて、動き始めたかな」 「どこです?」 337の言葉に、SEVENが反応する。 情報室に、王宮で待機しているスピナーは集結していた。 機器の表示を見ながら、337が答える。 「まだ気配って感じだけど。 したらばの方に行く人がかなり増えてきてるね。 時間帯も考えて明らかに不自然。 終結場所はしたらば、ってとこかな」 「…なるほど」 「どうする?ちょっと動いてみる?」 337が周りを見渡しながら聞く。 「何にせよ、したらばの中で集まられる分には手が出せませんね。 …前回集まったとき、どうしてこれを使わなかったんだろう」 SEVENが呟く。 「今日が最後なのでなりふり構ってられない、ということかもしれません。 あそこで集会するというのは、住民にあまりいい顔はされないでしょうからね」 「えーと、どっちにしろ動くなら早め早めの方がいいんじゃないかな」 scissor'sが進言する。 「んー…」 SEVENは少し考えた後、こう言った。 「coco_Aさん、ここ任せてもいいですか?」 「SEVEN、お前あっちに行く気か?」 kUzuが少し驚きながら言う。 「はい。近くで待機します。 したらばから動くなら、したらばの近くが一番早く反応できます」 「…ここは大丈夫ですが、SEVEN、1人で?」 「はい。あくまで本陣はここという形がいいでしょう。 ただ、自分は出来るだけ近い所にいたい、というのが本音でして」 「…なるほど」 SEVENの提案に、coco_Aは少し考え込む。 「んー、じゃーさ、ここはcoco_Aさんと大臣に任せて、残りはしたらばの方に出てませんかー?」 それに対し、toroが意見する。 「最終的な決定権があるSEVENが、単独で動くのはちょっとまずいし。 僕たち兵隊は、あっちにいた方が都合がいいんじゃないでしょーか」 「そうだね、私たちも近くにいた方が良い気がする」 scissor'sも同意する。 「…そうですね、それがいいかもしれません。 SEVEN、それでいいですか?」 SEVENは、coco_Aの問いに頷く。 「よし、じゃあさっさと移動するか。 したらばの近くっていうと…どこがいいかな」 「一か所に固まりましょーか? それとも適当に散ってましょーか?」 「そうだなー…」 話をしながら、coco_A・337を除く4人が出ていく。 「SEVENはどうした方が…おい、SEVEN?」 kUzuがSEVENの肩を叩く。 顎に手をあて、何かを考えていた様子のSEVENははっとした表情を見せた後、言う。 「あ、はい、どうしました?」 「SEVEN、大丈夫か?」 「はい、気にしないでください」 「…ならいいんだが」 kUzuは心配そうな表情をしながら、そう言った。 |
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15分ほど道なりに進んだところで、耳に何か聞こえてきた。 初めて聞くが、これが波の音か。 となると。 道はだんだん左に曲がってきていて、少し先のあのカーブで完全に北を向く計算になる。 なら、そのカーブの先、林を抜けたら…。 林に入る。 木々の厚みはほんの僅かで、すぐに視界が開ける。 「うわ」 思わず声が出る。 林を抜けた先は、崖。 その先には、大量の、水。 「…これが海か」 呆然としながらその風景を見つめる。 どこまでも水が続く風景に、独特の匂い・音と混ざり合う。 流石に、画像で見たのとは迫力が違うな・・・。 少しの間見入っていたが、すぐに目的を思い出す。 後ろから来たスピナーに追い越されて、浜辺に居る人がどっかに行ってしまってはまずい。 早く行かないと。 「えーと…このまま海岸線に沿っていけばいいんだよな」 左の方を見る。 ここからでは見えないが、この先に浜辺があるはず。 よし、さっさと行こう。 一旦崖から離れ、林を通って道に戻る。 しばらく道を進んでいくと、右手の林が途切れて、道からも海が見えるようになった。 「…見えた」 右前方。 崖や岩場の海岸線が、砂浜に変わっている。 あそこに誰かいるはず…。 「お」 見えた。 砂浜に腰を下ろした人影。 他に人は見当たらないし、あの人で間違いないだろう。 よし…。 回しの難易度を少しだけ上げ、一気に距離を詰める。 「スピナー」というとこを、アピールしとこう。 雰囲気を察知して、座っていた人がこちらを向いた。 「すいま…せ…」 すぐ近くに立ち、声をかけようとしたところで、気づく。 「はい?」 不思議そうな表情でこっちを見ている人。 眼鏡をかけて、知的な雰囲気を醸し出していて。 表情はのほほんとした感じで。 こんな近くで会うのは初めてだけど…何度もこの顔、そしてその旋転は見ている。 「…あの、えーと…。 akimaruさん、ですよね」 「はい、そうですが」 akimaruさんは、穏やかな口調でそう答えた。 |
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