投下するスレ2 24

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「つれないなー」

RiAsONがPMのカードを片手に、不満げな声を漏らす。

裏街を歩くRiAsON、その隣にはraimo。

「…なぁ、今日はもういいじゃねーか」

「でも、今日予定なくて暇じゃん」

「適当に修行でもしてりゃいいだろ…てか、俺を巻き込むなよ…」

「んー」

思案顔なRiAsON。
それを見て、raimoは聞く。

「他に誘うって、誰にPMしてんだ?」

「えーと…」

RiAsONが、指を折りながら名前を挙げて行く。
それを聞いて、raimoは渋い表情をする。

「なんだよ…またザコテ誘ってたのか」

「うん。なんでか皆、用事があるとか言って駄目だなー、今日は。
 返信来ない子も結構いるし」

「…姉御」

raimoの声色が少し真面目になる。

「ザコテ達と妙に仲良くしようとしてるみたいだが。
 何か理由があんだろ」

「んー…どうかな」

頬を掻きながら、RiAsONがあいまいに答える。

「お前、何も考えなしにこういうことやる人じゃねーだろ」

「…別に、立派な事を考えてるわけじゃないけど。
 とりあえず、私たちって、ザコテみたいな人らと一線引きたがる所があるじゃん。
 でも、それって、ちょっとかわいそうなことしてたのかな、なんて思って」

RiAsONが、少し言葉を選びながら言う。

「だからまぁ、あの子らと適当に触れ合ってればさ、何か分かるかなって。
 お互いの関係っていうか、立ち位置っていうか」

「…変な言い回しだな」

「…だよね。自分でも違和感あった」

RiAsONが苦笑する。
raimoはため息をついた後、頭を掻きながら言った。

「まぁよく分かんないけどよ。
 変に同情するのもよくねーと思うんだがな…。
 あいつらに、目に余るようなとこがあるのも事実だろ」

「そうなんだけど…」

「…あー、分かったよ。
 さっさと暇なやつ探そうぜ。
 その辺歩いてりゃ、暇なザコテの1匹もいるだろ」

「…raimo」

RiAsONはそう言うと、表情を穏やかなものに変えて、手をぽんと頭の上に乗せた。

「な、なんだよ」

「何でもない。
 そうね、適当に歩いてれば…あ」

辺りを見回したRiAsONが、1点に目を止める。

「ん…あいつ、この前一緒に飯食ったザコテじゃねえか。
 PM送らなかったのか?」

「送ったけど返信来なかったのよ。
 何してるのかな…よし」

「…何がよし、だ」

「尾行してみよ」

「…マジで?」

「うん」

raimoはため息をつくが、それを無視してRiAsONは、ポケットからペンを取り出してた。






「何か用でしょうか?」

「…いや、えーと…」

完全に面食らってしまった。

akimaruさん。
PSNシリーズなどの有名CVに数多く出演している、ペン回し界きっての古参にして大物である。

まさか、こんな有名な人がいるとは思ってなかった。

「…その…しばらく、お見かけしませんでした、ね」

「うん、そうですね。この辺りに来るのもずいぶん久しぶりです。
 ずっと旅に出ていたから」

…なるほど。

JEBの方から仲間が来る、って分かってたから、これから旅にいく人だと思ってたんだけれど、逆。
旅から帰って来た、っていう方の人だった訳か。

でも、どっちにしろ。
旅について知ってるのは、間違いない。

「その…旅って、どちらに?」

「ん?」

俺の問いに、不思議そうな表情をするakimaruさん。

「あれ、スピナーだと思ったんだけど…違った?」

「いえ…JEBのスピナーですけど」

「登録は?」

「してあります」

「その、本当に誰からも聞いてないの?」

他の人とまったく同じ反応である。
内心苦笑しながら、頷く。

「旅ついての話は、皆教えてくれないんです。
 みんな、自分の口からは言えない…みたいなことを言って」

「んー…そうなら、やっぱり僕も言えない、かなぁ。
 これは、自分の先生から聞くのがしきたりになってるから…。
 どうして聞いてないのか、事情はちょっと分からないけど」

先生から、か。
そういう所だとは思ってたけど…そうなら、俺はちょっと特例だな。

「俺、先生がいないんです」

「…いない?じゃあどうやって、ペン回しを?」

「匿名で、スピナーに混ざって教えてもらったのが最初です。
 つい最近登録するまで、ずっと匿名の中でだけ、活動してました」

「ああ、なるほど」

思ったよりあっさりとした反応で、軽く拍子抜けする。
冷静なのか、のほほんとしているだけなのか、判断が難しいけど。

まぁ、嫌な顔をされるよりはマシか。

「それなら、確かに知らないのも頷けるかな。
 んー…参ったな、どうしようか」

「お願いします…どうしても気になるんです」

「…まぁ、そのうち知らないとまずいことだし。
 でも、突拍子もない話だから…」

これは、教えてくれる、ということか。
少々興奮しつつ、言う。

「心の準備は出来てます。教えてください」

「そこまで言うなら…」

「秋丸、ちょい待て」

そこで、akimaruさんの声を遮る声があった。
驚きながら振り向く。

「お、がお。ひさしぶりー」


秋丸さんが穏やかに声をかける。

そこに居たのは、黒い眼鏡をかけた、少し変わった雰囲気を纏う人―G-Ryzer。

「久しぶりだな。
 ま、相変わらずだな…律儀に、こっちの服着てきたのか」

「帰ってくるスピナーは、皆そうしてるじゃん。
 がおはサングラスまで持ってきたの?」

「うるせ、気に入ったんだよ。
 それよりも、90。お前、こんなとこで何してんだ?」

「…何を、と、言われましても…。
 えーと、旅についての、調査を」

「成程な。
 自分じゃ結局分かんなかったのか?」

「…そんな感じでしょうか」

少しお茶を濁した言い方で答える。

「がお、この人と知り合い?」

「1回、少しだけ話したことがあるだけだ。
 事情はなんとなく聞いてる」

「じゃあ、しょうがないでしょ。
 あんなの、自分で推理しろって言っても無理な話でしょ」

「だけどな、しきたりがある以上、俺達無関係な奴が教える訳にはいかんだろ。
 こいつは確かに特例だが…。
 しっかりとした形でスピナーにならなかった責任は、こいつにあるんじゃないのか」

がおさんが、少し厳しい口調で言う。

秋丸さんの方を見て言った言葉だったけど、なんだか自分に向けられた言葉のような気がした。


初めて、こうしてはっきり言われたけど。
そうだよな、俺のスピナーへの「なり方」は正しいものじゃない。

…他の人が教えてくれなかったのも、こういうことを暗に言っていた、のだろうか。

でも、なんとなく、それには気づいてたんだろうか
がおさんの言葉に、そうショックを感じはしなかった。

「まぁ、そうかもしれないけど…」

「そうだろ。
 90、お前もなんとなく分かるだろ」

がおさんがこっちを見て言う。
黒眼鏡の奥の目は、どんな表情をしているのだろうか。

「…確かに、ただ教えてもらおうというのは虫がいい話かもしれませんが。
 自分なりに調べたり、考えたりして…。
 思うところがあって、こうしてJEBの外まで来たんです」

その目に、負けないように視線を返しながら言う。

「akimaruさんの話じゃ、自分で推測するのが難しいことらしいし…。
 どうしても、教えてくれませんか」

俺の問いに対し、がおさんは黙ったままだ。

「がお…」

秋丸さんが呟くように言う。

それを受け、がおさんがゆっくりと口を開く。

「その思うところ、ってのを言ってみろ」

「え?」

「なんか考えがあって来たんだろ。
 なんだか知らんが、それを話してみてくれ」

「…分かりました」

つまり、答え合わせはしてくれる、ってことだろうか。

「つい、昨日の話ですが…」

昨日、匿名でちょっとへまをやらかしたこと。
それで、なんだかJEBに居づらくなったこと。
そこで、スピナーという立場の辛い面に気づいたこと。

「それから逃れるためには、国外に出るしか、ないじゃないですか。
 だから、それが旅の動機なんじゃないか、って思ったんです。
 その動機を持ち合わせた今なら、何か分かることがあるんじゃないか、って思って。
 …こうして、来たんです」

話し終わる。

秋丸さんは、なんと言ったらいいだろうか…「なるほど」、って感じの表情。
がおさんは、なんだかどこか嬉しそうというか、笑顔に近い表情になっている。

「えーと、どう、でしょうか」

…これは、どうなんだろう。
2人の表情を見る限り、手ごたえは、結構…。

「フフッ」

そこで、突然がおさんの表情が崩れた。
というか…吹き出した、のか?

「ハハハハハ、成程、そんなこと考えてたのか」

「がお、笑ったら失礼だって」

ポカーンとする俺。

「悪い。
 だが…90、お前、なんていうか馬鹿な奴だな」

「え、あの、それは…」

「匿名で一回叩かれたぐらいで、JEBに居づらいってのはちょっと大げさだろ。
 そんなこと気にしてたら、スピナーなんてやってられないぜ」

「はぁ…」

「細かいこと気にしすぎなんだって」

「がお、笑いすぎだよ。
 ああいうの、気にする人は凄い気にするんだよ…。
 それに、そこまで的を得ていない回答ではないでしょ」

「まぁ…そうだな。
 だが、90。そういうことも確かにあるかもしれないが。
 たとえば、今JapEn1stのメンバーで国に残ってるのは姫、あとはおいるぐらいだろ。
 11人中9人っていう割合で、その理由で国を去ると思うか?」

「…そう、言われてみれば」

確かに…。
凄く多くのスピナーが国を去るような理由ではない気がする。

それに、旅から帰って来た目の前の2人は、そういうのを気にするようには見えない。

「ま、お前も色々考えたんだろうが。
 残念ながらハズレだ」

「そうですか…。残念です」

ハズレだと分かっただけでも前進、なのかもしれないが…。

落胆したところで、秋丸さんが口を開いた。

「がお」

意味ありげな視線を送る。
それに対して、がおさんが頷く。

「ああ、いいんじゃねえの。
 ホントは自覚症状が出てから、って思ったんだが、まぁいいだろ。
 お前の口から教えてやってくれ」

「分かった」

「ほ、ほんとですか?」

思わず大きな声を出してしまう。
akimaruさんは、穏やかな表情を保ったまま頷いた。

「うん、教えるよ。
 僕らがどこに行ってたのか、スピナーがどこを旅しているのか」






「そろそろかな」

したらばの近くにある民家を借りて、SEVEN達はしたらばを見張っていた。

見張る、といっても直接目視できる訳ではなく、映像を魔力でモニタリングしている形だ。
それも、中の鮮明な様子ではない。
入口付近の映像や、大まかな人の動きが監視できる程度の遠くからの映像である。

「toro、出入りを監視っても、ここだけじゃないよな?」

kUzuの確認に、toroが頷く。

「もちです。
 この入口以外も、したらばを360度ぐるっと囲んでありますよー。
 それは、なんだか色々妨害があって精密なもんじゃないですが、人が通ったかどうかくらいは分かります」

「それで充分だろ。
 とにかく、動き始めてもおかしくない様子だから、しっかり警戒してくれな」

「はいー」


監視を初めて数十分。

したらばには、時間帯に似合わない多くの「入場者」が確認されていたが、
今はその波はかなり落ち着いて、したらばへの出入りは数えるほどしかなくなっている。

「中に、集まるべき人は集まったのでしょうね。
 ここから、何をする気なのか…」

SEVENが言う。

「えーと、例えば、ここから皆でぞろぞろ移動しだしたりしたら、どうするの?」

scissor'sの質問に、SEVENが答える。

「魔力を使って一斉に走り出すようなことがあれば、その場で抑えてもらって構いません。
 不必要な魔力の行使、という名目で」

「…うん、分かった」

そう言ってscissor'sはペンを握りしめる。

「大臣、そっちはどんな感じ?」

kUzuがSEVENのPMカードを通じて、大臣に話しかける。

『国内どこも、変な動きはないね。
 最初に察知できるのはそっちかもしれない、注意して見といて』

「了解」

kUzuが通信を切る。
部屋には、自然と緊張感が満ちていく。

「…あのー、ふと思ったんですけど」

そこで、toroが口を開いた。

「ん?」

「したらばに入って行った顔ぶれや人数からして、ザコテの集団が中にいるのは間違いないですよね」

「そうですね、間違いないです」

SEVENが同意する。

「なんでわざわざしたらばに最初に集まったんでしょーか。
 こっちが警戒してるのはあっちも予想してるでしょうし、ちょっとあからさまかなーって」

「でも、したらばに集合しちまえば、こっちとしては中に居る間はどうも出来ないぜ。
 集合場所としてはしたらばってのはアリだろ」

「そうなんですけど…普通になんて言うか、その…。
 現地集合みたいな感じでも良いような気もするんですけど」

「…何にせよ、これから分かることです。
 ん?」

SEVENが、壁に映し出された映像に顔を近づけた。

「今、誰かが走って出てきました」

「走って?」

scissor'sが眉をひそめる。

「ええ。2人組だったように見えました」

「toroさん」

「やってまーす…ちょい、お静かにー」

toroがしばらく、自分の耳に集中する。
入口付近の音声をかき集める。

「えーと…なんか、中で喧嘩が始まった、みたいな感じですけど」

「喧嘩?…仲間割れか?」

kUzuが眉をひそめる。

「その可能性もありますねー。
 こうなると、中の様子が知りたいとこですけど…」

『近くのスピナーに、匿名を装って中に入ってもらいましょう。
 こちらで手配します』

通信でcoco_Aが言う。

「お願いします」

SEVENが返答する。

coco_Aの使いを待つ間、部屋には沈黙が走る。

「なんだろう、なんだか…気になるよね」

scissor'sが、呟くようにして言った。









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