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「したらばを…?」 scissor'sが、完全に虚を突かれた様子で、そう口にする。 『その可能性が高いと私も思います。 匿名の装いをしていたから、彼らは匿名に肯定的かとばかり…。 完全にノーマークでした』 「…匿名のザコテ叩きは厳しいからな。 あそこなら、あいつらの恨みを買ってもおかしくはないか…」 kUzuが顎に手をあてながら言う。 「こうなったらしょうがねえ。 SEVEN、中に入って止めよう。したらばだから、とか言ってられない」 kUzuがSEVENに向かって言うが、SEVENは無言を保ったままである。 「おい、SEVEN?」 少し考えた後、SEVENはゆっくりと、こう問いかけた。 「我々が止めても、いいのでしょうか」 「…SEVEN?」 toroが思わず聞き返す。 「管理人達には、匿名を守る義務はありません。 ノータッチという形を貫いて来ましたし、向こうもこちらの介入は頑なに拒んできました。 ここで、我々が動く義理はない…」 「おい待てよ、目の前で戦闘になってるのに放置するってのか?」 『物的な被害は出るでしょうが、人的な被害はそう大きくはならないかもしれませんね。 あそこの住人達は、危険を感じればしたらばの外に出ればいい訳ですから…。 匿名としてあそこにいなければ、狙われる危険はありませんので』 coco_Aが冷静な声で引き継ぐ。 「…coco_Aまで」 『客観的なことを言ってみただけです、落ち着いて下さい。kUzuさん。 …私も悩んでます、あそこに手を出すのが正しいか、判断が難しい…』 「元々、最近の匿名は目に余るところがありましたし…。 今回は、身から出た錆だと言えなくもないですから」 SEVENの言葉に、場は静まり返る。 「…でも、JEBのペン回しの発展を支えてきたのも、文具板とかの匿名なんだよ。 JEBにとって、大切な存在だったのも、事実だよ」 scissor'sが言う。 「…それは理解しています」 SEVENは、したらばの方に目を向けながら言う。 「…ですが、昨日の脅迫の件も、ありますし…。 我々には、デメリットが多すぎはしないでしょうか」 kUzuはそれを聞いたすぐ後に、ペンを握ると窓に足をかけた。 「く、kUzuさん」 scissor'sが声をあげて引きとめようとする。 「…心配しないで下さい。 今日は、管理人達の手伝いとして来てるから…SEVENの決定には反論する気はないっすよ。 ただ、行けと言われたらすぐに止めに入れるように、出来るだけ近くに行っておきます」 「…じゃあ、私も行きます」 「僕も行っときましょーかね、状況把握のためにも」 scissor'sとtoroがkUzuに従う。 「SEVEN、待機してるからな」 そうkUzuが言い残し、3人はしたらばの方へと飛び出して行った。 『SEVEN…』 coco_Aが心配そうな声で、SEVENの名を呼ぶ。 1人残されたSEVENは、床に腰をおろし、無言のまま拳を握りしめた。 |
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「したらばを…?」 「ああ。叩きつぶすつもりだそうだ」 予想外のがおさんの発言に、思わず言葉に詰まってしまった。 「それ、ほんと?」 akimaruさんの問いに、がおさんは頷く。 「待って下さい、ザコテ達も、仮面をかぶったり…」 「匿名という形を取っていただけで、あいつらは匿名をそんなに好ましく思っていないんだろうな。 理由はなんとなく分かるだろ。あそこの叩きを考えれば」 あの男も、したらばには嫌気が差すとは言っていた。 確かにこの話は、自然であるようにも思えるけど…。 「したらばは夜の方が人が多いから、昼間のうちに動く可能性が高いと思うぜ。 もう始ってるかもしれないな」 「…その、叩きつぶすって、具体的に何を…」 「俺も詳しい話は知らねえよ。 ただ、単純に建物を壊したりするだけで、効果があると思うがな。 あーいうとこは、1度人が離れたらそう簡単に戻ってくるもんじゃない。 ・・・かつての文具や曲芸も、そうだったが」 がおさんが少し懐かしそうな表情をして、そう言う。 …まずいことになったな、これは…。 「えーと、さ」 akimaruさんが話に入ってくる。 「ザコテさん達のことはあんまり詳しくないんだけど。 自分達が叩かれてるから、そこをつぶす、ってのはちょっと幼稚過ぎる気もしない?」 「別に、それだけが理由ってことはないじゃねえか。 叩きを批判する理由なんて、他にもちょっと考えりゃいくらでも思いつくぜ」 「そっか…そうだよねぇ」 「…あの、がおさんは、どうして静観なんですか?」 「ん?」 「やっぱり、匿名にはあんまり良い感情を持ってないんですか?」 「ああ…そういう話か。 別に否定的、って訳ではない。 匿名には、文具時代に俺もお世話になってるからな。 ただ、今回のしたらばに関しては、嫌う理由もないが好く理由もない、ってだけだ」 …少し言い方を変えてはいるけど、やっぱりしたらばを良く思ってないんだろうな。 がおさんの言葉を聞きながら、そう思った。 叩かれて落ち込んだばかりの俺が言うのはどうかとも思うのだが、 やっぱり叩きは良くないような気がしていた。 勿論、正論であれば多少の叩きは致し方ないというか、むしろ必要なことなんだろう。 けど、今回知ったリアルという世界のことも、ある。 スピナーには、もう1つの世界がある。 元々スピナーにとって、こっちは体に毒な世界とも言えるらしく、 向こうの世界は、こっちより技術も進んでいるらしい。 この2つだけで、スピナーが向こうから帰ってこない理由に十分なるのだ。 叩きは、そこに更に追い討ちをかけるような存在になりえるような気がする。 体の異常を抱えながらペンを回していて、それなのに人に非難されるというのは理不尽なように思える。 そう考えれば…。 匿名がこうしてつぶされようとしているのも、当然なんじゃないか。 ザコテ達も、自分達の保身だけでなく、そういうことも考えているのかもしれない。 それなら。 「90」 がおさんに声をかけられ、はっとして顔を上げる。 「何度も言うようだが、のんびりしてていいのか?」 「…理由がないような、気がしてきました。俺も。 あそこが潰れるのは、仕方ないような、そんな気が」 俺の答えに、2人は少し驚いたような表情を見せた。 「いいの? ずっと匿名でいたってことは、EiH1くんもあそこで活動してたんだよね。 愛着とかも、あるんじゃないの?」 akimaruさんが言う。 「でも、あそこの叩きのせいでこっちに帰ってこないスピナーとかもいるのかな、って思ったら…。 愛着がないと言えば嘘にはなりますが」 そう答えた後、付け加えるように、 「それに、その、俺1人どうしたところで、たいして状況は変わらない気がしますし…」 と言った。 「おい」 そんな俺の言葉に対して、がおさんが鋭く声を出した。 「それは自分に対しての言い訳だな。 決断しなくてもいいように、自分に都合良く考えてるだけだろ」 …。 図星な気がした。 「…すいません。でも…」 何か言おうとするけど、はっきりとした言葉が出てこない。 どうすればいいのか分からない、というのが正直な気持ちだ。 「…ったく」 そんな俺を見かねたように、がおさんがため息をつく。 「秋丸、頼んでたもの、今持ってんのか?」 「…え?」 突然声をかけられて、思わず声を漏らすakimaruさん。 「ああ、うん。 持ってきたけど、どうしたの急に」 「じゃ、行こうぜ。 90、お前も来るか?」 「…来る、って、どこにですか?」 「wikiだ。そこでウジウジ考えてるよりはましだと思うが」 …wiki? その行き先に対し、頭の中に疑問符が浮かんでいたが、気づけば首を縦に振っていた。 |
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「…ひどいね」 「ああ」 となりの、なにやら長身な男に話しかける。 身長までどうしていじるんだろうか、と疑問に思ったけど。 今は本人には聞かないでおいてあげよう。 軽々しく冗談を言える雰囲気ではないし、ね。 一見、どこにでもいそうな男の2人組である。 しかし、その中身は、JEB内で有数の有名スピナー、raimoとRiAsONであった。 見た目が変わっている理由は、単純。 2人が今立っている場所が、したらばだからである。 とあるザコテの後をつける、という形したらばの近くまで来た2人は、 中の異変を感じとって、したらばの中へと入っていき、その状況を目の当たりにすることになった。 したらばは、ひどい惨状になっていた。 大量の匿名がしたらばという町全体に攻撃をしかけていた。 それを止めようとする勢力の匿名も数多くいて、したらば全体が乱戦模様となりつつある。 そんな中、様々な店が襲われて、火がついたり中がグチャグチャになったりしていた。 それでもまだ建物が倒壊するような、壊滅的な被害は出ていない。 これはひとえに、この地に幾重にもかけられた魔法のおかげだろう。 ただ、そこを襲っている者達はその魔法を強引に破りにかかっている。 いつかは、限界が来るのは明らかであった。 「っと」 raimoがペンをすっと取り出す。 まだザコテ達の手にかかっていない建物の影から状況を見守っていた2人だが、 ふらっと2人の目の前に1人の匿名が現れた。 その匿名は、2人を見つけるなり、即座に攻撃を放ってきた。 「…危な」 raimoがそれをあっさりと止めると、RiAsONがほぼ同時に反撃を放つ。 匿名は吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、気を失う。 「変ね」 男の手からペンを没収しながら、RiAsONが呟く。 「何がだ?」 「今、一瞬も迷わないで私たちを攻撃してきたでしょ」 「ん…それがどうした…って、そうか。 そういえば、俺たちも顔は変えてるんだよな」 「うん。ここを攻めてるのも守ってるのも、匿名じゃない。 普通なら、どっちがどっちか分からなくなってもおかしくないんだけどね…」 「前もって変えた顔を覚えておいただけじゃねえのか?」 raimoが頭を掻きながら答える。 「んー…。かなりザコテ達の人数も多いから、それは簡単じゃない気がする。 変えた後の顔って何か特徴がなくて、印象に残りづらい感じにみんななるじゃん。 何か、目印でもあるのかな・・・」 「まぁ確かに、守ってる方は誰が敵で誰が味方か分からない感じだな」 「うん。そのせいで、ちょっと旗色が悪いわよね。 でも、思ったより頑張ってると思うよ。匿名の底力って奴かな」 RiAsONが少し感嘆したように、言う。 ザコテ達によるしたらばの侵攻は確実に進んではいたが、 その速度は中での戦闘の激しさと比べると急激ではない。 したらばの住民たちが奮闘している、というのは事実と言えた。 「…攻めてるの、ザコテ達だよな」 「うん…」 raimoの呟きに、RiAsONが小さな声で答える。 2人とも、最初の方から気づいていたが、こうして声に出して確認したのは初めてであった。 「姉御はどうすんだよ、とりあえず静観か?」 「そうは言っても、こんな中に飛び出して堂々と戦闘に参加する訳にはいかないよ」 「まぁそうか…」 そう答えながら、raimoはもどかしそうにペンを握り直した。 |
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「だいぶ中の戦闘は激しくなってきてるかな」 情報室。 337が様々な機器を操りながら、言う。 「遠景からでも確認できるような被害も出てきていますね。 どれくらい持つでしょうか…」 coco_Aがそれに対し、337が流す映像を確認しながら、言う。 「今は人が多く出入りしてる建物を壊してるとこだからね。 これが普段使わないところとなると、もっと魔法のガードも薄いだろうから加速するだろうね。 まぁ、どれくらい持つかは住人さんの頑張り次第、ってとこだろうけど。いまんとこ。 なんにせよ…」 337は動きをいったん止め、一息ついてから、続けた。 「動くんなら早くしないと、手遅れになる、かな。 動かないにしても、退くならさっさと退いちゃったほうがいいだろうね。 kUzuくん達をやきもちさせる必要はないからね。 こっちで決めなきゃ、彼らは個人的な考えで動けないから」 「…その通りですね。申し訳ないです」 「謝る必要はないよ。それより、SEVENに何かアドバイスしてあげたらいいんじゃないの?」 「…彼も、難しい立場にいます。 SEVENは、彼らと匿名の両方にいい思い出がないでしょうから。 でも、彼自身が決めないと」 「厳しいね、coco_Aは」 「いえ・・・それに、私自身もどちらが正しいとは言い切れないのが正直なところですし」 「ま、そうだろうね。 さて、SEVENはどうするのかな…」 337はそう言うと、再び機器の操作に集中を傾けた。 戦闘の中。 その最前線に身を置きながら、戦闘には参加しない男が1人。 その男に、刃を建物に向かって放ちながら、1人の匿名が話しかけた。 「順調ですね」 男は、低い声で答える。 「ああ。日が暮れる前にはケリがつきそうだ。 ここをさら地にしてしまえば、当分大きな匿名の地が出来ることはないだろう」 「はい。 本当に、あなたのおかげです。 俺達、ほんとにこれですっとしますよ…」 「…別に、お前達のためにやってる訳ではない」 男は、声をさらに低くしながら言う。 「ここは、潰れるべき存在だ、というだけだ」 「はぁ…」 「…さぁ、頼むぞ」 男は、匿名の肩を軽く叩くと、また戦火の中へ、身を隠していった。 |
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「あ…」 どういう経路を通って行くんだろう、と道中ずっと不思議だったんだけど。 そうか、wikiって…ここのことか。 「ここか…」 「どうしたんだ?」 「いえ、wikiって言われて、資料室の中にあるあそこを想像してたので…」 ayshさんの管理する、ペン回し界における重要な資料を数多くそろえた資料室。 その中に、ちょっと小難しい内容をまとめた施設があり、「penspinningwiki」という名前が付いている。 でも、今着いたこの場所は、そこではない。 「EiH1くんもここには来たことあるでしょ?」 「…はい。昔は、ほんとにお世話になりました」 そことは別な、wikiと呼ばれる場所。 小難しさとは対極…とは言い過ぎかもしれないが、少なくともあそこほどの堅苦しさはない。 かつて栄えた匿名の地の1つ、文房具板。 その近くに作られたこのあまり大きくない、無機質な建物。 ここが、wiki。 中は、匿名達の文具板での活動が、乱雑に掲示されている。 まじめなペン回しの研究から、文具板で流行したくだらない冗談まで。 活動記録というか、まとめというか。 そんな場所である。 「入るの、ホントに久しぶりです…」 「ま、そうだろうな。 ここはずっと閉鎖されてたからな」 「そうなんですか?」 「ああ。秋丸が向こうに行く前に、荒らされないように閉鎖していったんだよ。 俺も久しぶりにちょっとのぞいてみたくなってな。 こっちに来る時には鍵をもってきてくれるように頼んどいたんだ」 …ああ、ここの管理人が秋丸さんだっていう噂は本当だったのか。 「…懐かしい」 乱雑に置かれた資料を手に取って見る。 まだペンを回し始めて間もない俺には、ここの資料は本当に貴重で、役に立つものばかりだった。 当時の文具板は、一番最先端の研究と俺のようなビギナーとが同居していて、 そのくせ妙な一体感があって、本当に居心地が良かったのを覚えている。 「たまにはこういうとこに来るのも、悪くないんだ。 じゃ、俺と秋丸は少し奥に行ってる」 「あ、はい…」 2人は階段を上っていってしまった。 「…どうしよう」 久しぶりに訪れて嬉しい気持ちはあるが。 今は、悩み事が頭を支配して、正直あまり楽しむ余裕はない、かな。 今襲われているしたらばに対して、俺はどんな行動をとるのか。 がおさんの言う通り、俺が動いたからどうなるとか、そんなのは問題じゃない。 俺自身が、はっきりと見極めなければいけない。 その結果がどうなろうとも、俺はしたらばに対してどう行動したか。 それは、多分、ものすごく重要なことだと思う。 「…でも、ここで、どうしろっていうんだろ…」 多分、ここに何かヒントがあるんだろうけど…。 「本当だ、開いてる」 そこで、ドア越しに声が聞こえた。 誰か、来たのか? 直後、ドアノブが回って、人が入ってくる。 2人組だった。 「は?」 思わず、そんな失礼になりかねない言葉を出してしまった。 「どうも、こんにちは」 「こん…にち、は」 目の前にいたのは。 恐らく、JEBで一番有名な2人組―key3さんと、ayatoriさんであった。 |
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