投下するスレ2 27 | |
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したらばと塀をはさんで隣接している森。 木の根元に腰掛けているkUzuが、すぐ横で木に寄りかかっているscissor'sに話しかける。 「…SEVENから連絡は…」 「私のところにはないよ」 「そうですかか…」 scissor'sの返答に、kUzuは神経質な様子で髪をかきあげる。 「…kUzuくん、あんまり焦ってもしょうがないよ。 まだ、したらばも持ちそうだし、怪我人もそう多くなさそうだし…」 「誰か来ます」 scissor'sの言葉を遮る形で、toroの声が木の上から響く。 kUzuが即座に立ちあがる。 だが、そこでtoroが木から飛び降りてくる。 その表情はリラックスしている。 「すいません。敵ではなかったです」 「じゃあ…あ」 toroに問いかけようとして、kUzuは木の陰から現れた人影を見つけた。 「Makinさん」 kUzuに名前を呼ばれ、Makinは頭をぺこりと下げる。 「あの…一体これは、どうしたんですか?」 遠慮がちで、少し不安げな声をMakinが出す。 「したらばを潰そうとしてる連中がいて、住民と戦闘になってる、ってとこですかね。 だいぶ端折ってはなしますと」 toroが返答する。 「…皆さんは、どうしてここに?」 「元々何かまずいことになりそうな予兆があったので。 SEVENやcoco_Aさんの手伝いで、もともとはってたんですけど。 今は指令待ち中、まー、待機ってとこですねー。 SEVENもどうしたらいいか迷ってる感じなんで」 「…ああ、そう、だよね」 Makinはしたらばの方をちらりと目をやりながら、答える。 事情はなんとなく察したのだろう。 「…じゃあ、僕は中に行ってみます」 「中に?」 「その、戦闘は良くないと思うので」 小さな声で、だがしっかりとした口調でMakinは言った。 「…そうですか」 kUzuはそれだけだけ言うと、静かににMakinを見送った。 「kUzuさん、行きたきゃ行ってもいいんじゃないですかね。 誰も責めはしないですよ」 「いや…SEVENの決断を待つよ」 「…みんなSEVENに関しては、甘いというか厳しいというか。 特別扱いしますねー」 toroは、頬をカリカリとかきながら、誰に向けるでもなくそう言った。 |
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「どうしてこんなところに…」 「ん?」 思わず漏らした呟きに、不思議そうな表情をkey3さんがする。 key3さんとayatoriさん。 JapEn3rdの頃を中心にして、この2人はJEB内では圧倒的な実力と人気を持ち、JEBの最高峰に立っていた。 しかし、それ以降、少しずつ活動が減っていき、ここ最近はほとんど表舞台に顔を出していない。 今は、他のスピナーの成長もあって、絶対的な存在だと言うことはできなくなっていると思う。 しかし、未だにJEB最高のスピナーとしてこの2人を挙げる人は少なくなく、 カリスマ的存在として、影響力は未だ大きい。 最近はJEB内で見かけたという話も全く聞かなかったし、てっきり旅に出ているとばかり思っていた。 「…どこかで見たことがあるような」 ayatoriさんが、俺の方を見ながらそう言う。 …えーと、俺は初対面のはずだけど…。 「…俺は覚えがないな」 key3さんが言う。こちらも同じく初対面である。 「どこでだったかな…ああ、そうだ。 この前、何かのCVに出ていたよね。 確か名前は…EiH1くん、だったかな」 「お、覚えてもらっていて恐縮です。はい、EiH1と言います」 「じゃあ、君ががおさんの連れか?」 「え?」 key3さんの質問に、少し驚く。 「どうしてそれを?」 「僕と計算は、さっきがおさんからPMをもらってここに来たから。 久しぶりにwikiを開けたんだけど、良かったらお前らもどうだ、ってね。 そのPMに、がおさん・秋丸さんのほかに、もう1人連れがいるって書いてあったから」 「…なるほど」 「あやとり、CVって何のCVだ?」 「この前はさみがやってた、即席CV」 「ああ…」 …この2人を、がおさんが呼んだ、のか。 さっき、ってことは移動中にPMを送ったのだろう。 そう言えば、それっぽい仕草をしていた。 がおさんと秋丸さんは、俺を置いて上の階へと行ってしまっている。 key3さんとayatoriさんがここにくることは、当然知っている訳で…。 俺とこの2人を会わせようとした、のか…? 2人の様子だと、今日したらばで何か起こっている、ということは知っていない気がする。 知っていたとしても、何か行動するとか、そういう気はないようだ。 でも、意味もなく呼ぶような人ではないはず。 なら…。 「あの」 「ん、何かな?」 掲示を眺めていたayatoriさんが、良く整った顔をこちらに向ける。 「聞きたいことが、あります」 話をしながら、その「意味」を、探り当てないと。 「あの、ayatoriさんはあのCVを見てくださったなら、知ってるかもしれないんですけど。 俺が90、とかって呼ばれてるのは知ってますか?」 「その呼び方、聞いたことがある」 俺の質問に、key3さんが反応した。 「そうか、君のことを指していたのか」 「僕も聞いたことがあるな。それがどうかした?」 「俺のその、90っていうあだ名の由来が、匿名だってのは知ってますか?」 「…初耳だ」 key3さんが答える。 ayatoriさんも、表情からして知らなかったようだ。 「俺、匿名の出身で。 番号に90を良く使ってたから、そう呼ばれたりするようになったんです」 「ふーん…じゃあ、由来は大臣と一緒なんだね」 「はい」 とりあえず、身の上話はここまで。 一瞬迷うが、結局ここを切り出さなければ話は進まないと思い、口を再び開く。 「お2人は、匿名―特に、今のしたらばをどう思われますか」 「…したらばを?」 key3さんが眉をひそめる。 「藪から棒な質問で、申し訳ありません。 でも、率直な意見を教えて欲しいんです」 「んー…」 ayatoriさんが、軽く表情を引き締める。 真剣な口調で言ったから、何か察してくれたのかもしれない。 「したらばも、それより前からある場所も、当然訪れたことはあるし、様々な形で関わって来た所だ。 お世話になったこともあるし、迷惑をかけられたこともある。 でも、これはほとんどのスピナーに言える話だと思う。 意見と言っても、変わった言葉は用意できないよ」 ayatoriさんが、言葉を選びながら、話していく。 「あやとりに同感だ。俺にしろあやとりにしろ、一般論以外は持ち合わせていないぜ」 「…そう、ですよね」 この2人は、確かにその実力や知名度は特別なものがある。 でもこの話に関しては、意見を仰いだところで何か特別なことが出てくるとは思えない。 「すいません、変なこと聞いて」 「いや、別に構わないさ。 …何か、事情があるのかい?良かったら、相談に乗るけれど」 「…少し、悩み事がありまして」 ayatoriさんの言葉に甘えて、話しはじめる。 「したらばが、どういう存在なのか分からない、って言うか…。 善なのか悪なのか、っていう言い方が正しいかはわからないんですけど。 スピナーって、こことは別にもう1つ、住める世界があるじゃないですか」 と言っても、さっき知ったばかりなんだけど…。 「だから、ああいう厳しい叩きや批判がある場所があると、スピナーがどんどん去ってしまうような気がするんです。 もしかしたら、したらばがもし無くなってしまうとしても、しょうがないんじゃないか、とか。 無い方がいいんじゃないか、とか、考えてしまって…」 上手く言葉に出来ず、声の大きさも尻すぼみになってしまった。 「…すいません、なんかまとまってない話をしてしまって」 うつむきながら、謝る。 相談っていうか、ただ愚痴を言っただけのような…。 参ったな、これじゃ2人を困らせるだけだ。 目を合わせられないでいると、key3さんが、こう言った。 「ayatoriみたいなこと考えてるな」 え? 驚きつつ、顔をあげる。 「出来れば掘り返さないでほしい所だけど…。 まぁしょうがないな。僕も、そう思っていたし」 苦笑いをしながら、ayatoriさんが言う。 「えっと、どういう…」 「僕も、似たようなことを考えてたことがあってね。 対象は違うけど、考え方は似てると思う。 そんな考えから、今考えれば恥ずかしい、間違った行動に走ってしまったことがある」 「まったくあのときは、本当にこいつは…」 「計算、やめてくれよ」 ものすごく興味を引かれる話だと思った。 「その、もう少し話を聞かせてもらってもいいですか?」 「ああ、いいよ」 ayatoriさんは、ゆっくりと話しはじめる。 「あの頃僕が疑問に思ったのは、新しくスピナーになる人に対しての制度だ。 現役のスピナーに認められる、という現行の制度は、門が狭すぎるって考えていてね。 もっとひろく、誰でも旋転に触れられるようにするべきだと思っていた。 その理由は、君と同じだよ」 「同じ?」 俺の問いに、ayatoriさんは頷く。 「当時、僕も旅へ出る時期が近づいていてね。 自分のように、スピナーがどんどんこの世界を去ってしまうような状況が、怖かったんだ。 今はまだ大丈夫だけど、いずれはスピナーの数が減少に転じることもありえる。 そうならないためには、もっと多くの人で旋転の技術というものを、共有するべきだと思った」 …なるほど。 「スピナーがかかる病も、スピナーとしての重荷も、共有できればそれがいいんじゃないか、なんてね。 格好をつけた言い方をすれば、旋転界の未来を憂いて、とでもなるのかな」 確かに。 形は違うけれど、確かになんとなく似ているような気がする。 スピナーが世界から消えてしまうことを憂いている点とか、 そのために、スピナーがもっと暮らしやすい世界にしようと思ってる点、とか。 …でも。 「今は、その考えが間違いだって思ってるんですよね?」 「そうなるかな。 もちろん、全てが全てではないよ。 スピナーが持つ重荷を減らすような努力は、していかなければならないと思ってる。 けれど、リアルのことはスピナーがずっと守ってきた秘密だし。 あらゆる人がこの力を持つようなことは、それこそ秩序の崩壊につながるとも思ってるし。 何より…」 「何より?」 「まあ、これは自分で気づいて欲しい所かな。 君は、文具板が全盛のころにも、あそこにいたのかい?」 「はい、まだ駆け出しではありましたが」 「なら丁度いい。 このwikiが、良いヒントになると思う」 「…ここが?」 このwikiが…か。 周りを見渡す。 思い浮かぶのは、懐かしい思い出ばかりで。 過去だから美化してしまっているだけなのかもしれないが、 当時の文具板は良かったな、という思いが浮かんでしまって。 逆に、今のしたらばへの否定的な感情が浮かんでしまう。 …分からない。 がおさんが俺をここへ連れてきたことも考えれば、ここには何かあるのだろう。 でも、それは一体、何なのか。 「…初心に帰れ、ってとこか」 「そんなところかな」 key3さんの呟きに、ayatoriさんが頷く。 初心…。 |
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俺は、ここからほんの少し歩いたところにある場所で、 スピナー達が集まって何かをやっているのを知っていた。 一般の人は存在自体知らない人が多かったし、 知っていても怖がったりして、近づく人はいなかった。 そんな中、俺はふらっとそこを訪れて。 顔も変えずに、中に入った。 最初から、皆が顔を変えているということは知らず、この顔のまま入った。 俺が人畜無害そうな顔をしていたのが幸いか、バレることはなかった。 それからずっと顔を変えないまま匿名の地に居座り続けた訳だが。 中で、スピナー達を見て、何やらかっこいいと思った。 そこを何度も訪れて行くうちに、ペン回しにどんどん魅せられていった。 素人だとバラす訳にはいかなかったので、見よう見まねやここの資料何かを見ながら自力でペン回しを覚えて。 進んでいく技術、活発になっていく王宮等での活動。 それらとどこか距離を置きながら、匿名として、同時にスピナーとして過ごしてきた。 俺が、いっぱしのスピナーらしくなろうとしていたあの頃は、何を思っていたのだろうか。 そして今、俺は何を考えている? したらばの住民達は? ザコテ達は? 皆は、いったい何を考えて、ペンを回しているのか。 「あ…」 はっきりとした答えが見つかった、というのとは違う。 でも、朧げななにかが、分かった気がした 「あの…なんとなく、分かった、かも」 「そうか」 ayatoriさんが軽く微笑んだ。 「じゃ、俺、行かないと…」 「分かった。行ってらっしゃい」 「はい」 2人に頭を下げると、入口に向かって走る。 …あ、そうだ。 扉に手をかけた時、気づいて後ろを振り返る。 「あの、がおさんと秋丸さん、2階にいるんで…。 ありがとうございました、って伝えてもらえますか?」 「分かった」 key3さんが頷いてくれたのを確認した後、扉を開ける。 何やら、外はまぶしく感じだ。 「…急がなきゃ」 どんな状況になっているかは分からないけど。 とにかく、今は急いで行かなければ。 したらばへ。 |
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