投下するスレ2 28

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「…Makin?」

したらば。

RiAsONの隣で状況を見守っていたraimoが、突然そう呟いた。

「え?」

「いや、Makinの魔力の気配が、一瞬」

聞き返したRiAsONに答えながら、raimoはペンを回し始める。

「気のせい、か…?
 あー、クソ、そこらじゅうで魔力が混線してて訳分かんねーことになってる。
 感覚をつかみづらいったらありゃしねえ…」

「raimoがつかみづらい、ってのは珍しいわね」

「ここ特有の仕掛け、って奴じゃねえのか。
 こういうのは、戦闘だけじゃここまでおかしくはならねえんだが…。
 ん、いた」

そう言って、raimoが一点を指さす。

「確かに、あの回し方は…Makinだね」

RiAsONがその先にいる匿名の手を注視した後、言う。

「よし…」

raimoは、物影から飛び出すと、戦闘の合間を縫ってMakinに近づいていく。

Makinの戦闘が一段落するタイミングを見計らい、声をかけた。

「…Makin、俺だ。分かるな」

raimoの声に、少し驚いた後、うなずくMakin。

「あっちに姉御と隠れてる。おまえもちょっとこい」

「…でも」

「落ち着けよ。
 ここでがむしゃらに戦闘に参加しても、たいして効果はないだろ」

「…」

raimoの言葉を認めるようにして頷くMakin。
そのまま、raimoに従って建物の陰へと隠れる。

「Makin、どうしてここにいるの?」

RiAsONは、Makinが来るとすぐにそう聞いた。

「…たまたま近くまで来て、おかしいと思って」

「そっか…。Makinなら、止めに入るわよね、それは。
 でも、こういう匿名の場所で、おおっぴらに暴れるのは良くないと思うよ」

「でも、そんなこと言ってる場合じゃないです。
 匿名だってスピナーなんだから、こんなのは…」

こんなによくしゃべるMakinは、久しぶりに見たな、とRiAsONは思った。
それだけ、この事態にショックを受けてるんだろう。

「Makinの言葉も、一理あるぜ。
 そろそろ怪我人も多くなってきてるし、建物も崩れ始めてる」

「…でも、管理人達が動いてないわね。
 これだけの騒ぎだから、どこかのスピナーから連絡は行ってる気がするんだけどな」

「管理人さん達、ですけど…。
 すぐ外で、kUzuさん、toroさん、はさみさんに会いました」

「その3人が、どうかしたのか?」

「coco_Aさん達の指示で待機してる、って言ってた。
 動いてはいるんだろうけど、手が出せないでいるんじゃないかな…」

「…俺たちと結局一緒かよ」

raimoはそう言って、頭をかく。

「でも、その3人に俺達3人、あとcoco_AさんやSEVEN辺りもいるだろうから…。
 それだけの人数かけてやれば、止めれるんじゃないか?」

確かに、一流スピナーが8人も集まれば、これだけ人数がいようと強引に止めるのは不可能じゃないかもしれない。
なら…。

「…どうだろう」

raimoの言葉に、Makinが異論を唱える。

「ここを攻撃してる匿名達を、どう攻撃していいか分からないから…。
 誰が敵で誰が味方なのか見当がつかなくて。
 誰かに狙いを定めて、攻めようと思っても、すぐに見た目を変えて人ごみに紛れられてしまって」

「…確かに、見た目を変えられたら訳が分からなくなる。
 これだけの乱戦模様だと、余計。
 でも、それは味方も同じことだろ?」

「そう、思うんだけど…そんなことなさそうで。
 見た目をどんどん変えてるのに、複数で連携して攻めてきたりして。
 どうなってるのか、分からないよ…」

「傍目から見る以上に、出来るってことね」

Makinが頷く。

「手詰まりじゃねえか。
 手を出しても勝算が無くて、しかも手を出していいかも分からねえって…。
 こんなんじゃ、ただ見てる方がいい、って考えるしか…」

raimoが唇をかむ。

「それが、狙い…?」

RiAsONが、神妙な面持ちで呟く。

「いくつも向こうに有利な条件を重ねて、こっちの足枷にしてる、って考えると…」

「だとしても、こっちに出来ることが変わる訳じゃねえだろ」

「そうなんだけど、ね…」

RiAsONは、厳しい表情で、戦火へ目を向けた。






「大臣、PMが」

coco_Aが、テーブルの上で受信を知らせたカードを指差して、337に言う。

「あれ…PMか。珍しいな」

「そうなんですか?大臣クラスだと、かなりの数来てそうですけどね」

「いやー、そんなことないよ。
 親しい人は、ここに置いてある通信機器の方に連絡くれるしね。
 えーと…ん」

「どうしました?」

「90くんだ…何の用だろ」

鼻の頭をかきながら、337が言う。

「EiH1さんですか?
 …そういえば、彼もこの事態には気づいてるとは思いますが、いったい何を…」

「…」

表示された文面を読み進めていく337。
その表情が、少し困惑したものになっていく。

「大臣?」

「可能かも、しれないけど…となると…んー…」

337はぶつぶつと呟いている。

「大臣、どうしたんですか?」

「…ここあ、PMに使われてる魔力の波を探知するのは、プライバシーとか考えて、まずいよね」

「え?
 …えー、そうですね、好ましいことではないとは思いますが」

coco_Aは面食らいながら、337の質問に答える。

「でも、緊急事態ならしょうがない、とも思う?」

「…待って下さい。EiH1さんから、どんな内容が?」

「PM持ってる特定の人物の位置とかを探れないか、ってだけ言ってきてるんだけど…。
 こんな状況だから、ね」

「…確かに、ちょっとお茶をしたいから誰かを探してる、ってわけではないでしょうね。
 こんなタイミングで、わざわざ大臣にPMを送ってきてるんですから」

「うん…」

coco_Aは少し考えた後、こう言った。

「話によっては可能かもしれない、と返信してみて下さい。
 事態の収束に役立つなら、多少の問題もやむなしでしょう」

「おっけー」

337は頷いて、素早く文章を書き始めた。






四方から飛んでくる、火・斬撃、爆発、など。
簡単なパスで攻撃を感知しつつ、振りかかる攻撃に適宜、対処していく。

半年前の王宮の事件の時には、出来なかったであろう芸当だ。

単純な技の難易度も上がっているが、魅せ方・魔力の使い方を、前よりよく知るようになったと思う。
裏影に頼るような状況からはそれよりも前に脱したつもりであるし。

もし半年前、自分が今と同じだけの技量を持っていたなら。
複数のJapEn1stの戦士を相手にすることも可能だったのでは、と思ったりもする。
そんなことは、考えるだけ無駄なのだが。

「…無残な姿に、なってしまったな」

SEVENは、そう呟いた。

SEVENは、したらばの中にいた。
判断の前に、自分の目で見なければいけない、と思ったのが理由であった。

戦闘の中、というのはやはり居て気分のいいものではないな、と思った。


スピナーというのは、性質上攻撃より防御の方がやりやすくなっている。

スピナーは大抵、戦闘中に反射神経等の底上げをしてる。
これに探知も加えれば相手の攻撃に対して対処するのは、同程度ならそう難しくない。
そのため、魔法が飛び交う戦闘であっても、見た目ほど負傷者が出ないことも少なくない。

だが、ちょっとしたミスで大けがを負うことは当然あるし。
周りの建物などの、物的な被害は容赦なく生まれてくる。


ここは、陰鬱とした雰囲気ながら、何とも言えない熱気のあった。
自分は好きになれなかったが、魅せられる人がいるというのも理解できる気はしていた。

そんな面影は、もはやない。
元々廃墟のような雰囲気はあったが、完全に廃墟となっては人も集まらなくなるだろう。


スピナーの同士戦闘を許すわけにはいかない―という理由で、止めに入ることもできたはずだ。
こんなことになっては、匿名には不関与という方針など、無視して当然のことなのだ。

更に、kUzuさんに対しては、脅迫のことも口にしてしまった。
昨日coco_Aさんと話し合って、それは無視すると決めたはずなのに、だ。

決断し切れず、ぶれているのが自分自身でも分かる。


客観的に状況を見据えたなら、止めに入るのが正解な気がする。
でも、それでいいのか分からない。

総合管理人は、JEB全体の方針を定めるのが仕事である。
冷静に状況を判断して、最善の方向へ進めるのが第一なのは、当然の話だ。

その「最前」とは、いったいどういうことなのか。

損得を判断するのも大事だ。
しかし、それと同じくらい大事なものが、他にもあるはずなのだ。

そんな意味でも、このしたらばをどうするか、というのは大きな意味を持つ。
歴史がある場所で、腐ったといわれようと人が集まっているのも事実だ。

けれど、自身が納得できないまま、ここを守っていいのか。

分岐点なのではないかと思う。
ここが残るべきなのか、消えるべきなのか。

「とりあえず残しておこう」、みたいな曖昧な判断は、下せない―。


「おい、今の回し方…」

「…俺も思った」

そんな声が聞こえ、我に帰る。

「おいてめー、あのSEVENか?」

…少し考えに没頭してしまって、手元が疎かになったかもしれない。
特定されないよう、無個性な回しを心掛けていたつもりだったが、癖が出てしまったか。

「戦えば分かることだ…覚悟しやがれ」

数人が俺を標的に定めたようだ。

考え事は、いったん中断だ。
この程度の奴相手なら、自分の個性を封印しても、すぐに片付く。

2人が、全く同時に距離を詰めてきた。
示し合わせたように左右に分かれると、挟むようにして斬撃を打ってくる。

落ち着いて、2つ同時に打ち消す。
荒い構成のソニック系だが、十分。

その瞬間を狙うようにして、正面から攻撃。
強力な火炎だが、狙いが甘い。
軽く体を反らしてかわす。

・・・っ!

体を動かしたその瞬間。
そこに狙い澄ましたように、攻撃が飛んできた。

斬撃が3つに、瓦礫を用いた攻撃が1つ、それと爆撃のような攻撃。
…種類が多く、1度に止めきれない。

即座に魔力を移動術に切り替え、上に飛びあがって攻撃をかわす。

飛び上がった瞬間、そこにさらに飛んでくる攻撃。

1対1の戦闘ではなかなか体験できない、波状攻撃。
覚悟していなかったわけではないが、予想以上にその精度が高く、驚異的であった。

すんでのところで防御し、転がるようにして着地する。

「危、な…」

危なかった、と言おうとした、その瞬間。

背後に気配。

瞬時に振り向くと、そこには1人の匿名。
目に飛び込んだのは、左手から伸びた、魔力製の白い刃。


まず、いっ…

防御も回避も、行う暇がない。

やられた、と思った。

しかし。

匿名は、左手を振り上げたところで、動きを止めた。

「…?」

いつの間にか、刃は消えていた。
苦痛の表情を浮かべ、男が左手をおさえる。

そこに1人の少年が素早く近づくと、素早く一撃を放ち、ペンを弾き飛ばした。

「あ…」

そのまま、礼を言う間もなく、少年は走り去っていく。

「今の人は…」

横顔が見えた。

見知らぬ顔ばかりの中で初めて見た見知った顔だ。
強い存在感があった。

「…」

ペンを握り直す。

後ろから、数人の攻撃が飛んでくる。
だが、ゆっくり相手をしている暇は、なくなった。

34からペンを、掌へと放つ。


裏影で作った分身に処理を任せると、少年の姿を追った。






「思ったより、ひどいな…」

したらばの中を走るEiH1は、その惨状に思わず顔をしかめていた。

近づいた時点で、中で何かが起こっているのが分かったが、これは予想通り。
中で起こっていることも、大体がおさんの言っていたことと同じで、これも予想通り。

だが、実際に中に入って、戦闘や荒れ果てた建物を見ると。
予想以上にひどい、と、そんな感想を、どうしても持ってしまった。

「急がないと…」

さっきは思わず、多勢に囲まれてやられそうになっていた人を助けてしまったけど、
そんなことを繰り返しても、俺の腕ではどうにもならないだろう。

というか、この形勢を見るに、JEBを代表するようなスピナーだとしても、1人や2人ではどうにもならないと思う。

そんなことよりも、他に俺にはやるべきことがある。

ポケットからPMを取り出し、337さんからさっきもらったメッセージを確認する。

『本スレの辺りから動いてないみたい。
 こっちももっと精度を高めてみるから、90くんも頑張って』

「本スレ、か…。
 この辺り、だけど…」

目の前の本スレは、まだ原形を保ってはいる。
しかし、建物の中は随分とひどいことになっている様子である。

流石は本スレといったところか、この辺りはだいぶ戦闘が激しく、
匿名側・ザコテ側、ともに人が多い。

「…ここから、探すのか」

この中から、1人の匿名を見つける。
普通に考えて、楽なことではない。

視線を右に左に動かしながら、必死にあの男を探す。

「…」

見つからない。これはいくらなんでも厳しい。
じっくりと探せればなんとかなるかもしれないけど…。
周りから標的にされないためにも、動き続ける必要がある。

時間がないってのに…。

焦りはじめたそのとき。
ポケットから振動を感じる。

急いで取り出して見る。
337さん、だ。

「…店内、北側」

流石だ、337さん。
したらばで、しかもこんな状況下の場所で、個人のPMカードの場所を探知できるってだけでも凄いのに。
これだけの精度が可能ってのは、恐れ入る。

よし…。

急いで店内の中に駆け込む。

向かって奥が、北にあたる。

じっと目を凝らす。

「…いた」

集中して見れば、すぐに分かった。
戦闘に積極的に参加しない挙動は、注意して見ると違和感がある。

何より、纏っている雰囲気が、あの男―ザコテ達をまとめている、この事件の仕掛け人。

いくら顔を隠しても、雰囲気や話し方・挙動は隠せないし、変えた後の顔にも特徴が現れる。

と言っても、そこまで気づける人間は多くないはず。
そんなんが出来るのは、匿名に入り浸っている俺みたいなやつだけだと思う。
誇れることなのかどうかは、分からないけど。


俺がここに来た目的は、あいつと話をすることだ。

この戦闘を俺が止めれるとすれば、それがたぶん、唯一の方法だ。

45からの始動。
滑らかさと速度のバランスに注意しながら。
23まで上って、また45へ。

素早く相手の近くに近寄る。

しっかりとした話をするためにも、まずは不意打ちで相手のペンを―。

「うっ」

近づく途中で、攻撃が来る。
男からではなく、横から。

それも1発ではない。

「っ…」

10人ほどのザコテが、一斉に俺に向かってきた。

護衛がいるだろうな、とは思っていたけど…。
流石にこれだけ多いと、厳しい。

雨霰と飛んでくる攻撃を必死に防御する。

かろうじて1波目を受けきったところで、男と目があった。

「…お前か」

「おい、ちょっと話が…」

「片付けていいぞ」

「っ」

男の号令に、ザコテ達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。

普通はこれだけの数で一斉に攻撃しても、攻撃同士が干渉してしまったりするものだ。
それを、しっかり人数分の力で攻撃が飛んでくる。
互いの連携や打ち合わせが、非常にうまい、ってことか。

1波目とは比べ物にならない密度だ。
さっきのは、様子見だったのかよ。

「くそっ」

まずい。

「おい、お前、話を聞けよっ」

大声を張り上げる。

「こっちを向けって…!」

が、男は、見向きもしない。

クソっ…。

「話を聞けよっ!
 おい、Uszakuっ!」

思わず、そう叫んでいた。

とたんに、攻撃が弱くなった。
ザコテ達が驚きと困惑をあらわにしている。
男も、素早く反応してこっちを見た。

男がすっと右手を挙げると、攻撃が止んだ。

「…貴様」

「正解か、やっぱり」

内心では、合っていてホッとしていた。
ほぼ確定ではあったけど、100%ではなかったからな。

とにかく、話をする舞台は整ってくれたようだ。


EiH1は、目の前の主犯格―Uszakuを、鋭く見据えた。




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