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気づけば、店の中全体の戦闘も収まり気味になっていた。 多くの匿名達が手を止め、俺へと視線を向けている。 「こいつ…」 俺に歩み寄ろうとする1人のザコテを、Uszakuが制する。 「EiH1、どこでそれを知った?」 「その前に、顔と声を元に戻してくれよ。 頭じゃ分かってても、その口調じゃ実感がわかねぇ」 「…フン」 ニヤリとすると、顔が波打つようにして動いたあと、前より少し幼い顔つきが現れる。 その顔は、間違いなく、Uszakuだ。 敬称は、もう省略していいだろう。 「どうも、Uszakuでしゅ」 高い声で、特徴的な、舌足らずな声が響いた。 「…これでいいかな?」 一転、主犯格のものである、凄みのある声。 声は魔力で変えられるけれど、口調は変えられない。 どっちが本性なのか分からないが、なんというか…器用な奴だ。 「俺がUszakuだとどうして気づいたのか、教えてもらおうか」 「ペンだ」 「…ペン?」 「前にここで話をしたとき、お前が持ってたペン。 あれ、337さんに作り方を調べてもらった奴だろ?」 Uszakuが、一瞬はっとしたような表情をする。 「337さんの部屋で、あのペンについて調べた資料を見つけたんだ。 で、聞いてみたら、あんたに作り方を教えた、って言われたんだよ。 JEBで、あのペンを使ってる奴は見たことがない。 337さんも、色々調べ回ったけれどJEB内じゃ資料が見つからなかった、って話をしてくれたしね」 「…フン。 普段は持ち運ぶペンにも気を使っていたんだが…あの時は迂闊だった」 「Uszaku。 単刀直入に言うけど、こんな真似はすぐにやめてくれ」 俺の言葉に、Uszakuは長い溜息をついた。 「EiH1、ここに入り浸っているお前なら、ここがどんどん腐っていっているのが分かるだろう。 ここは、消えるべきだ。 旋転界のためにもな」 旋転界のためにも、か。 「詳しい所、聞かせてくれよ」 俺の問いに対し、Uszakuは周りを見渡したあと、 「…いいだろう」 と言った。 店内の戦闘はほとんど止み、ザコテも住人もUszakuと俺に注目している。 ここで、俺の質問を無視することはできない、と見たんだろう。 Uszakuにしてみれば、ザコテ達を惹きつけておく必要がある訳で、 俺のこの問いに対する答えをごまかすようにして、ザコテ達がUszakuに懐疑心を抱いたらまずいからな。 この状況、予想してたわけじゃないけど、俺にとってはラッキーだ。 「今のしたらばに、何がある。 無用な叩き、意味のない議論、それを利用した工作や煽り。 そんなくだらないものがはこびっていて、有意義なものなど何1つありはしない。 こんな場所、残しておいても意味はないだろう」 「だからと言って、実力行使で叩きつぶすのがいい、ってことにはならないんじゃないのか」 「好ましい話ではないのは、承知している。 だが、多少強制的にでも、ここの排除が旋転界には必要だ。 ここは門戸が開かれているため、若いスピナー達が入り込みやすい。 彼らにとって、ここは魅力的な情報源に映るだろう。 だが、ここにまだ経験の浅いスピナーが入り浸れば、そのスピナーは腐ってしまう。 理由は、言わなくても分かるな?」 …まぁ、信憑性のない情報がここには随分氾濫してるからな。 「そういうこともあるかもしれない、が。 ここの奴らは新参には結構厳しいんだぜ、知らないか?」 「新参でも、ただ黙って話を聞いている分には、何も文句は言われないだろう」 確かにそうだ。 いわゆるROMって奴だ。 「それに、ここには理不尽で、不愉快極まりない叩きが数多く存在する。 無視すればいいと分かっていても、誰も叩かれていい気分はしないだろう。 スピナーがスピナーを苦しめる、こんなくだらない風習、意味はない」 「でも」 「EiH1、たたきが必要なときもある、なんてことを口にしないでくれよ? ここでの叩きは、デメリットの量がメリットの量を超えている。 明らかに、な」 「…」 「ここは、スピナーの醜い部分が詰まった、掃き溜めのような所だ。 誰も触らなかったから、ここまで大きくなってしまったが・・・。 そろそろ、誰かに掃除されてもいい頃だろう」 「けっ!」 どこからか、わざとらしいそんな声が聞こえた。 「たとえ醜かろうが、それがスピナーの持つ一面だろうが」 Uszakuに対する反論のようだ。 ということは、ここの住人かな。 「そうだ。 スピナー、というより人間なら、誰しもそういう面は持ってるじゃんか。 それを、臭いものにフタをするみたいに、隠しても、単なるごまかしじゃねえか」 「フン…。 あらゆることをさらけ出すのが正しい、等という考えは、幼児の頃に卒業するべきだろう。 心の中で思うのと、実際に口に出してしまうのとでは、天と地ほどの差がある。 真実を見せること、正直なことが常に正しいとは限らない。 出してはいけないものを出させるのが、匿名だ」 「…」 「このしたらばを見て、旋転界に嫌気がさすようなスピナーも、少なくないのではないか。 JEBを支えるスピナー達が、ここを離れていくのをよしとしていいのか。 今や、こんなところはなくても、スピナーは活動する場所に困りはしない。 文具板全盛の頃とは、時代違うのだ。 互いの顔と名前を明かして、誠意ある活動を、するべきだろう」 身振り手振りを交えながら、Uszakuが語る。 ちょっと言い方が気取ってる感じなのは気になるけど、 思っていることは伝わるような気がする。 なんというか、こいつも意味もなくやってるわけではないんだな、ということは分かった。 けど、それが正しいのかどうなのか、ってのは…分からない。 「…なるほど、こんな演説をして、ザコテ達をたぶらかしたのか?」 「人聞きの悪いことを言わないでくれ」 Uszakuが鋭い視線で俺を睨む。 「俺の考えは、簡単には話したが彼らに理解は求めていない。 彼らとは、別な条件で協力を願っただけだ。 したらばは彼らの不遇となっている最たる場所であるし、 こうして実力行使をすることで彼らの持つ力を示すデモンストレーションにもなる。 利害が一致していると考え、話を持ちかけた」 淡々とした口調で、Uszakuが述べていく。 「…彼らの置かれる状況を一考する機会があってな」 今の話を信用する限り、ザコテ達をだまして利用した、ってわけでもないのかな。 …まぁ、ここはそんなに重要なところではないか。 「EiH1、君のことはそれなりに買っている。 ここの住人としては珍しく、話が通じると思っているのでな。 君はまだ、ここを擁護するのか? それなら…」 Uszakuが、ペンを軽く回した。 同時に、取り巻きのザコテ全員から、魔力の気配が立ち上る。 「君のことも、倒さなければならないだろう」 「えーと、ちょっと、落ち着いてくれ」 このまま戦闘になったらまずいと思い、慌てて声を出す。 「その、色々と煽って悪かった。 お前が何を考えてるか、しっかり聞いときたかったからな…。 今度は、俺が自分の考えを言う番だな」 「…ほう」 深呼吸をしたあと、話すことを頭の中で簡単にまとめて、こう切り出した。 「俺もさ、最近のしたらばって、ホント、クソだと思うんだよ」 …つまらない冗談を言ったときと同じだ。 空気が凍った、まさにそんな感じ。 こいつは何を言ってるんだ、という雰囲気が周りからはっきりと感じられる。 Uszakuでさえ、驚きが表情ににじんでいる。 「お前の言うとおり、最近話題になることってくだらないことばかりで。 まともな話題が出たと思っても、精神年齢が低いっていうかさ、議論する気にならないような奴ばっかで。 スピナーが嫌気をさしてもおかしくないし。 ちょっと考えても、デメリットばっかだ。 もっとも、今に始まったことじゃないのかもな…匿名って、クソみたいなやつが集まるとこなのかもしれない」 明らかに不穏な空気になっていた。 失望したような表情をしている奴は、住民だろうな。 そんな中、Uszakuだけは、その表情を再び鋭いものに変えている。 「…何が言いたい」 「クソみたいなところだけどさ。 これはこれでアリなんじゃね、って思うんだよね」 再び、空気が変わる。 「たくさんの人に迷惑をかけるどうしようもないとこだけど。 たまにはいいことしたりするし。 つぶさなくてもいいんじゃないかな、って思うんだよ。 えーと、その、手のかかる子ほとかわいい、とか言うじゃんか」 「EiH1…」 Uszakuの表情が変わり始める。 「お前の狙いは、ここで俺を論破することで、ザコテ達を俺から引き剥がすとだと俺は踏んでいた。 彼らが3分の1も手を止めれば、そちらが有利となるからな。 …違かったのか?」 その声には、怒りが滲んでいる。 「あー、バレてたのか…」 俺の言葉に、Uszakuの憤怒がさらに濃くなる。 「貴様…。 そんな、訳の分からない理屈で、俺を言い負かせられるとでも、思っていたのか…?」 Uszakuは、屈辱だと言わんばかりに掃き捨てる。 怒らせてしまったのは予想外だけど、仕方ない。 大した理由じゃないと、自分でも思うし。 「俺さ、ここは糞だと思うけど、嫌いじゃないんだ。 嫌気がさしたりするけど。この前も、嫌な思いしたりしたけどさ。 やっぱ、ここが嫌いになれないんだよ」 自分が思ってる事を、正直に話していく。 俺は、したらばに入り浸ってることからも分かるかもしれないが、根が根暗で考え事が好きなタチだ。 でも、ごちゃごちゃ考え過ぎない単純なことも、嫌いじゃない。 「何で嫌いになれないのか、って思うんだけど。 たぶん、俺はここの住民が、ペンを回してるから、嫌いじゃないと思うんだ」 「…は?」 「スピナーに悪い奴はいない、そうだろ?」 Uszakuの怒りが、今度は呆れに変わっているのが、感じ取れた。 「あいつの回しがどうだの、あのFSがこうだの。 ペン回しと関係ないとこで人をたたいたりもしてるけど、 ペン回しと関係ない人の話をする奴は、ほとんど聞いたこと無い。 ここは、ペン回しの話題しかない」 「…当然だろう、そういう場所だ」 「ああ。なのに、よくもこう人が集まるな、って。 俺みたいに、毎日来てるような奴も、実は少なくないと思う。 大っぴらにここの話をするのは嫌いでも、実はよく見に来るってスピナーもいると思うし。 酒なら、もっと別な場所で飲めばいいのに、さ」 周りの空気が変わり始める。 ようやく言いたいことが伝わり始めた、だろうか。 「どうしようもない奴ばっかりだけど、結局はここにいる住民は、ペン回し馬鹿なんだよ。 そりゃそうだろ、そうじゃなきゃスピナーになんてならないし。 魔法が使えるのは勿論魅力的だけど、スピナーになるのは簡単じゃない。 そんな中、必死に練習してスピナーになった奴らなんだ。 その中でもここにいつも来るような奴は、ペン回しが好きだよ。確実にさ」 「…だから嫌いにならないと、そう言いたいのか?」 「ああ。 根本的なとこは、まっすぐなはずなんだ。 何度も言うけど、スピナーに悪い奴はいない、しな。 今は糞みたいな場所だけど、きっと必要な時が来るし、そういう場所になる」 「その根拠は?」 「住民が、ペン回しが好きだから。 ペン回しが好きな奴らが、ペン回し界を壊すはずがない。 長い目で見れば、必ずペン回し界のためになる存在になってくれるはず。 単純な理屈だよ」 「…甘い考えだ。 ただの惰性でいるような奴も少なくないだろう。 それに、たとえお前の言う通り、旋転界が壊れることを望んでいないとしても、 気づかぬうちに壊してしまう可能性は十二分にある」 「その辺は、議論してもどうしようもなさそうだな。 ここに対する信頼感の違いだろ。 まぁ、その辺は、俺は匿名として年季が入ってるからな。愛着もあるし」 Uszakuは、俺の言葉にため息をついた。 「もう少し賢い人間だと思ってたが、買いかぶりだったようだ」 そんなん言われてもなぁ。 「とにかく、そういう訳で、ここは残す価値がある。 お前との意見の違いが簡単に埋められるとは思わないけど。 少なくとも、潰してしまうには、時期尚早なんじゃないか」 「…勝手に貴様が意見を述べただけだろう。 私の意見は揺らがない」 「俺はお前を論破できないけど、お前も俺は論破できない、そうだろ。 こんな状態で強行するのは、どうなんだよ。 Uszaku、お前は人並みの道徳観・公平さがあると踏んでる。 止まるのには、遅くない」 「…フン」 「Uszakuっ」 「今更、止まれるものか…」 「おい、待てっ」 まずい。 論理的に考えるタチのようだったから、筋が通った話をすれば止まってくれると、思ったんだが…。 「交渉は決裂だ。 叩きつぶす。貴様のような弱い意見で、我々を揺らがせるとは思うなよ…」 Uszakuの右手に、火が宿る。 さっきまでのような戦闘になれば、俺には何もできない。 ザコテ達を倒すどころが、Uszaku1人でも俺じゃ、厳しいかもしれないんだ。 …結局、俺にこの騒動を止めるのは無理だったのか? 「まずは、貴様のうるさい口を封じさせてもらおうか」 Uszakuと取り巻きたちが構える。 したらばがどうのこうの、の前に、俺の身が危うい。 やばい、と思った、その瞬間。 俺とUszaku達との間、俺のすぐ目の前に火柱が立ち上った。 大きさはたいしたことないが、その質の高さは驚異的だった。 その強烈な熱と迫力に、咄嗟に後ずさりして、その拍子に転んでしまう。 これだけのものを出せるのは…。 「はろー、きゅーちゃん」 尻もちをついた俺に向けた、場にそぐわない軽さの挨拶が聞こえた。 |
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「EiH1さんから、連絡はありませんか?」 coco_Aが、少し神経質な様子で337に言う。 「まだないね」 「EiH1さんが今どうしているか、分かりませんか?」 「おそらく、Uszakuとは接触しているはず。 どっちも本スレの中から動いてない、ってのは確認できるから」 「そうですか…。 そろそろ、限界ですよ…」 『coco_Aさん』 2人の会話に、通信が割って入る。 「SEVENっ」 『…EiH1さんの手助けをしていたのって、もしかして大臣辺りではないですか?』 「おー」 337が感嘆の声を上げる。 「ご明察。ということは、今したらばにいるの?」 『…はい。彼を見つけて、気になって観察していたんですが…。 Uszakuさんの所に、カードを見た後に凄い速さで直行していたので、 誰か手助けしてるんだな、とは思ったんですが…本当に大臣でしたか』 SEVENの溜息が、情報室に流れる。 『よく、協力してみようという気になりましたね。 したらばにいるスピナーの位置を探るのなんて、楽じゃないでしょうに…』 「SEVEN、したらばにいるのなら状況は分かっていると思いますが、そろそろ…」 coco_Aが焦りを隠さずにSEVENに言う。 『分かってます。 coco_Aさん』 それを、落ち着き払った声で、SEVENは制した。 『kUzuさん達に…力づくで構いませんので、全力でしたらばの戦闘を止めるように、と。 伝えてもらえますか』 coco_Aは一瞬目を丸くした。 しかし、すぐに表情を元に戻すと、 「…了解です」 と、力強く言った。 |
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はろー、なんていうやけに軽い挨拶は、凄く聞きおぼえる女性の声だった。 「…よう」 それに、低く、聞き取りづらい声が続く。 2人の横には、もう1人。 何も口にはせず、ただキッとした表情でUszakuを睨む少年。 「リアさんに、raimo…Makinさんも…」 すぐに分かった。 なぜか、顔を変えていなかったからだ。 そういえば俺も変えてないけど、それはすっかり忘れてたからで…。 普通は、ここに入ったら変えるはず、なのに。 「…どうして?」 「どうして、ってもね。 知り合いがやられそうだったら助けるでしょ、普通」 「でも、こんなとこで…というか、顔、なんで…」 顔をわざと変えてない、とすれば。 それはすなわち、匿名としてじゃなく、コテとして動いてる、ってことになる。 リアさんはRiAsONとして、らいもはraimoとして、そしてMakinさんは、Makinとして。 自分の今からする行動に、はっきりとした責任を持つ、ってことだ。 「手、貸してやるよ。お前1人じゃ何もできないだろ」 「…いいの?」 「…戦闘を良しとするような考えの人は、許せませんし。 それに、90くんの考えに、共感できたので」 Makinさんが、控え目な声量で言う。 「…あー、まぁ、そういうことだ」 頭を掻きながら、raimoが同意する。 「Uszaku、あんたがそんなしゃべり方出来るとは知らなかったけどさ。 ちょっとやりすぎたみたいね。 観念なさい」 RiAsONさんが、ペンをUszakuにつきつける。 raimo、Makinさんもペンを構える。 なんだろう。 俺と普段気さくに話しているときとは、雰囲気が違う。 何と言うか…オーラが出ている。 これがウマコテ、って奴か。 かっこいいな畜生。 「…あの程度の安い演説に乗るような人達だとは思いませんでしたよ」 「安っぽい話だってのは同意するわよ。 けど、あんなことを本気で思っちゃうような人が、ここにまだいるっていうなら、 まだここにも価値があるんじゃない?」 リアさんの言葉に対し、Uszakuの表情がさらに険しくなる。 そんな中、Uszakuがおもむろに右手を耳にあてた。 そして、何かを聞くような仕草を見せた後、舌打ちを1つした。 「…管理人共も、動きだしたか」 …管理人達が? SEVEN次第だ、っていうことは337さんがPMで言っていたけど、 SEVENさんが決断してくれた、ってことだろう。 「…面白い。 ここまで来たら、我々も退く訳にはいかんのだ…。 ある程度の数のウマコテを相手にすることになるのも、想定内だ」 Uszakuが、誰に言う訳でもなく、そう口にする。 「ほう、上等じゃねえか」 raimoが挑発気味にそう口にする。 「そう簡単に破れるような戦術を組んではいない…。 受けて立とう、我々が気づきあげたネットワーク―Zakote Uzakote Networkでな…!」 Uszakuの言葉と同時に、本スレ内のザコテ達が動く。 それに対し、俺のすぐ横に立つウマコテ3人も、鋭くペンを始動させた。 |
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