投下するスレ2 29

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気づけば、店の中全体の戦闘も収まり気味になっていた。

多くの匿名達が手を止め、俺へと視線を向けている。

「こいつ…」

俺に歩み寄ろうとする1人のザコテを、Uszakuが制する。

「EiH1、どこでそれを知った?」

「その前に、顔と声を元に戻してくれよ。
 頭じゃ分かってても、その口調じゃ実感がわかねぇ」

「…フン」

ニヤリとすると、顔が波打つようにして動いたあと、前より少し幼い顔つきが現れる。

その顔は、間違いなく、Uszakuだ。
敬称は、もう省略していいだろう。

「どうも、Uszakuでしゅ」

高い声で、特徴的な、舌足らずな声が響いた。

「…これでいいかな?」

一転、主犯格のものである、凄みのある声。

声は魔力で変えられるけれど、口調は変えられない。
どっちが本性なのか分からないが、なんというか…器用な奴だ。

「俺がUszakuだとどうして気づいたのか、教えてもらおうか」

「ペンだ」

「…ペン?」

「前にここで話をしたとき、お前が持ってたペン。
 あれ、337さんに作り方を調べてもらった奴だろ?」

Uszakuが、一瞬はっとしたような表情をする。

「337さんの部屋で、あのペンについて調べた資料を見つけたんだ。
 で、聞いてみたら、あんたに作り方を教えた、って言われたんだよ。
 JEBで、あのペンを使ってる奴は見たことがない。
 337さんも、色々調べ回ったけれどJEB内じゃ資料が見つからなかった、って話をしてくれたしね」

「…フン。
 普段は持ち運ぶペンにも気を使っていたんだが…あの時は迂闊だった」

「Uszaku。
 単刀直入に言うけど、こんな真似はすぐにやめてくれ」

俺の言葉に、Uszakuは長い溜息をついた。

「EiH1、ここに入り浸っているお前なら、ここがどんどん腐っていっているのが分かるだろう。
 ここは、消えるべきだ。
 旋転界のためにもな」

旋転界のためにも、か。

「詳しい所、聞かせてくれよ」

俺の問いに対し、Uszakuは周りを見渡したあと、

「…いいだろう」

と言った。

店内の戦闘はほとんど止み、ザコテも住人もUszakuと俺に注目している。
ここで、俺の質問を無視することはできない、と見たんだろう。

Uszakuにしてみれば、ザコテ達を惹きつけておく必要がある訳で、
俺のこの問いに対する答えをごまかすようにして、ザコテ達がUszakuに懐疑心を抱いたらまずいからな。

この状況、予想してたわけじゃないけど、俺にとってはラッキーだ。

「今のしたらばに、何がある。
 無用な叩き、意味のない議論、それを利用した工作や煽り。
 そんなくだらないものがはこびっていて、有意義なものなど何1つありはしない。
 こんな場所、残しておいても意味はないだろう」

「だからと言って、実力行使で叩きつぶすのがいい、ってことにはならないんじゃないのか」

「好ましい話ではないのは、承知している。
 だが、多少強制的にでも、ここの排除が旋転界には必要だ。
 ここは門戸が開かれているため、若いスピナー達が入り込みやすい。
 彼らにとって、ここは魅力的な情報源に映るだろう。
 だが、ここにまだ経験の浅いスピナーが入り浸れば、そのスピナーは腐ってしまう。
 理由は、言わなくても分かるな?」

…まぁ、信憑性のない情報がここには随分氾濫してるからな。

「そういうこともあるかもしれない、が。
 ここの奴らは新参には結構厳しいんだぜ、知らないか?」

「新参でも、ただ黙って話を聞いている分には、何も文句は言われないだろう」

確かにそうだ。
いわゆるROMって奴だ。

「それに、ここには理不尽で、不愉快極まりない叩きが数多く存在する。
 無視すればいいと分かっていても、誰も叩かれていい気分はしないだろう。
 スピナーがスピナーを苦しめる、こんなくだらない風習、意味はない」

「でも」

「EiH1、たたきが必要なときもある、なんてことを口にしないでくれよ?
 ここでの叩きは、デメリットの量がメリットの量を超えている。
 明らかに、な」

「…」

「ここは、スピナーの醜い部分が詰まった、掃き溜めのような所だ。
 誰も触らなかったから、ここまで大きくなってしまったが・・・。
 そろそろ、誰かに掃除されてもいい頃だろう」

「けっ!」

どこからか、わざとらしいそんな声が聞こえた。

「たとえ醜かろうが、それがスピナーの持つ一面だろうが」

Uszakuに対する反論のようだ。
ということは、ここの住人かな。

「そうだ。
 スピナー、というより人間なら、誰しもそういう面は持ってるじゃんか。
 それを、臭いものにフタをするみたいに、隠しても、単なるごまかしじゃねえか」

「フン…。
 あらゆることをさらけ出すのが正しい、等という考えは、幼児の頃に卒業するべきだろう。
 心の中で思うのと、実際に口に出してしまうのとでは、天と地ほどの差がある。
 真実を見せること、正直なことが常に正しいとは限らない。
 出してはいけないものを出させるのが、匿名だ」

「…」

「このしたらばを見て、旋転界に嫌気がさすようなスピナーも、少なくないのではないか。
 JEBを支えるスピナー達が、ここを離れていくのをよしとしていいのか。
 今や、こんなところはなくても、スピナーは活動する場所に困りはしない。
 文具板全盛の頃とは、時代違うのだ。
 互いの顔と名前を明かして、誠意ある活動を、するべきだろう」

身振り手振りを交えながら、Uszakuが語る。

ちょっと言い方が気取ってる感じなのは気になるけど、
思っていることは伝わるような気がする。

なんというか、こいつも意味もなくやってるわけではないんだな、ということは分かった。

けど、それが正しいのかどうなのか、ってのは…分からない。

「…なるほど、こんな演説をして、ザコテ達をたぶらかしたのか?」

「人聞きの悪いことを言わないでくれ」

Uszakuが鋭い視線で俺を睨む。

「俺の考えは、簡単には話したが彼らに理解は求めていない。
 彼らとは、別な条件で協力を願っただけだ。
 したらばは彼らの不遇となっている最たる場所であるし、
 こうして実力行使をすることで彼らの持つ力を示すデモンストレーションにもなる。
 利害が一致していると考え、話を持ちかけた」

淡々とした口調で、Uszakuが述べていく。

「…彼らの置かれる状況を一考する機会があってな」

今の話を信用する限り、ザコテ達をだまして利用した、ってわけでもないのかな。

…まぁ、ここはそんなに重要なところではないか。

「EiH1、君のことはそれなりに買っている。
 ここの住人としては珍しく、話が通じると思っているのでな。
 君はまだ、ここを擁護するのか?
 それなら…」

Uszakuが、ペンを軽く回した。

同時に、取り巻きのザコテ全員から、魔力の気配が立ち上る。

「君のことも、倒さなければならないだろう」

「えーと、ちょっと、落ち着いてくれ」

このまま戦闘になったらまずいと思い、慌てて声を出す。

「その、色々と煽って悪かった。
 お前が何を考えてるか、しっかり聞いときたかったからな…。
 今度は、俺が自分の考えを言う番だな」

「…ほう」

深呼吸をしたあと、話すことを頭の中で簡単にまとめて、こう切り出した。

「俺もさ、最近のしたらばって、ホント、クソだと思うんだよ」


…つまらない冗談を言ったときと同じだ。
空気が凍った、まさにそんな感じ。

こいつは何を言ってるんだ、という雰囲気が周りからはっきりと感じられる。
Uszakuでさえ、驚きが表情ににじんでいる。

「お前の言うとおり、最近話題になることってくだらないことばかりで。
 まともな話題が出たと思っても、精神年齢が低いっていうかさ、議論する気にならないような奴ばっかで。
 スピナーが嫌気をさしてもおかしくないし。
 ちょっと考えても、デメリットばっかだ。
 もっとも、今に始まったことじゃないのかもな…匿名って、クソみたいなやつが集まるとこなのかもしれない」

明らかに不穏な空気になっていた。
失望したような表情をしている奴は、住民だろうな。

そんな中、Uszakuだけは、その表情を再び鋭いものに変えている。

「…何が言いたい」

「クソみたいなところだけどさ。
 これはこれでアリなんじゃね、って思うんだよね」

再び、空気が変わる。

「たくさんの人に迷惑をかけるどうしようもないとこだけど。
 たまにはいいことしたりするし。
 つぶさなくてもいいんじゃないかな、って思うんだよ。
 えーと、その、手のかかる子ほとかわいい、とか言うじゃんか」

「EiH1…」

Uszakuの表情が変わり始める。

「お前の狙いは、ここで俺を論破することで、ザコテ達を俺から引き剥がすとだと俺は踏んでいた。
 彼らが3分の1も手を止めれば、そちらが有利となるからな。
 …違かったのか?」

その声には、怒りが滲んでいる。

「あー、バレてたのか…」

俺の言葉に、Uszakuの憤怒がさらに濃くなる。

「貴様…。
 そんな、訳の分からない理屈で、俺を言い負かせられるとでも、思っていたのか…?」

Uszakuは、屈辱だと言わんばかりに掃き捨てる。

怒らせてしまったのは予想外だけど、仕方ない。
大した理由じゃないと、自分でも思うし。

「俺さ、ここは糞だと思うけど、嫌いじゃないんだ。
 嫌気がさしたりするけど。この前も、嫌な思いしたりしたけどさ。
 やっぱ、ここが嫌いになれないんだよ」

自分が思ってる事を、正直に話していく。

俺は、したらばに入り浸ってることからも分かるかもしれないが、根が根暗で考え事が好きなタチだ。
でも、ごちゃごちゃ考え過ぎない単純なことも、嫌いじゃない。

「何で嫌いになれないのか、って思うんだけど。
 たぶん、俺はここの住民が、ペンを回してるから、嫌いじゃないと思うんだ」

「…は?」

「スピナーに悪い奴はいない、そうだろ?」

Uszakuの怒りが、今度は呆れに変わっているのが、感じ取れた。

「あいつの回しがどうだの、あのFSがこうだの。
 ペン回しと関係ないとこで人をたたいたりもしてるけど、
 ペン回しと関係ない人の話をする奴は、ほとんど聞いたこと無い。
 ここは、ペン回しの話題しかない」

「…当然だろう、そういう場所だ」

「ああ。なのに、よくもこう人が集まるな、って。
 俺みたいに、毎日来てるような奴も、実は少なくないと思う。
 大っぴらにここの話をするのは嫌いでも、実はよく見に来るってスピナーもいると思うし。
 酒なら、もっと別な場所で飲めばいいのに、さ」

周りの空気が変わり始める。
ようやく言いたいことが伝わり始めた、だろうか。

「どうしようもない奴ばっかりだけど、結局はここにいる住民は、ペン回し馬鹿なんだよ。
 そりゃそうだろ、そうじゃなきゃスピナーになんてならないし。
 魔法が使えるのは勿論魅力的だけど、スピナーになるのは簡単じゃない。
 そんな中、必死に練習してスピナーになった奴らなんだ。
 その中でもここにいつも来るような奴は、ペン回しが好きだよ。確実にさ」

「…だから嫌いにならないと、そう言いたいのか?」

「ああ。
 根本的なとこは、まっすぐなはずなんだ。
 何度も言うけど、スピナーに悪い奴はいない、しな。
 今は糞みたいな場所だけど、きっと必要な時が来るし、そういう場所になる」

「その根拠は?」

「住民が、ペン回しが好きだから。
 ペン回しが好きな奴らが、ペン回し界を壊すはずがない。
 長い目で見れば、必ずペン回し界のためになる存在になってくれるはず。
 単純な理屈だよ」

「…甘い考えだ。
 ただの惰性でいるような奴も少なくないだろう。
 それに、たとえお前の言う通り、旋転界が壊れることを望んでいないとしても、
 気づかぬうちに壊してしまう可能性は十二分にある」

「その辺は、議論してもどうしようもなさそうだな。
 ここに対する信頼感の違いだろ。
 まぁ、その辺は、俺は匿名として年季が入ってるからな。愛着もあるし」

Uszakuは、俺の言葉にため息をついた。

「もう少し賢い人間だと思ってたが、買いかぶりだったようだ」

そんなん言われてもなぁ。

「とにかく、そういう訳で、ここは残す価値がある。
 お前との意見の違いが簡単に埋められるとは思わないけど。
 少なくとも、潰してしまうには、時期尚早なんじゃないか」

「…勝手に貴様が意見を述べただけだろう。
 私の意見は揺らがない」

「俺はお前を論破できないけど、お前も俺は論破できない、そうだろ。
 こんな状態で強行するのは、どうなんだよ。
 Uszaku、お前は人並みの道徳観・公平さがあると踏んでる。
 止まるのには、遅くない」

「…フン」

「Uszakuっ」

「今更、止まれるものか…」

「おい、待てっ」

まずい。
論理的に考えるタチのようだったから、筋が通った話をすれば止まってくれると、思ったんだが…。

「交渉は決裂だ。
 叩きつぶす。貴様のような弱い意見で、我々を揺らがせるとは思うなよ…」

Uszakuの右手に、火が宿る。


さっきまでのような戦闘になれば、俺には何もできない。
ザコテ達を倒すどころが、Uszaku1人でも俺じゃ、厳しいかもしれないんだ。

…結局、俺にこの騒動を止めるのは無理だったのか?

「まずは、貴様のうるさい口を封じさせてもらおうか」

Uszakuと取り巻きたちが構える。
したらばがどうのこうの、の前に、俺の身が危うい。

やばい、と思った、その瞬間。

俺とUszaku達との間、俺のすぐ目の前に火柱が立ち上った。

大きさはたいしたことないが、その質の高さは驚異的だった。
その強烈な熱と迫力に、咄嗟に後ずさりして、その拍子に転んでしまう。

これだけのものを出せるのは…。

「はろー、きゅーちゃん」

尻もちをついた俺に向けた、場にそぐわない軽さの挨拶が聞こえた。






「EiH1さんから、連絡はありませんか?」

coco_Aが、少し神経質な様子で337に言う。

「まだないね」

「EiH1さんが今どうしているか、分かりませんか?」

「おそらく、Uszakuとは接触しているはず。
 どっちも本スレの中から動いてない、ってのは確認できるから」

「そうですか…。
 そろそろ、限界ですよ…」

『coco_Aさん』

2人の会話に、通信が割って入る。

「SEVENっ」

『…EiH1さんの手助けをしていたのって、もしかして大臣辺りではないですか?』

「おー」

337が感嘆の声を上げる。

「ご明察。ということは、今したらばにいるの?」

『…はい。彼を見つけて、気になって観察していたんですが…。
 Uszakuさんの所に、カードを見た後に凄い速さで直行していたので、
 誰か手助けしてるんだな、とは思ったんですが…本当に大臣でしたか』

SEVENの溜息が、情報室に流れる。

『よく、協力してみようという気になりましたね。
 したらばにいるスピナーの位置を探るのなんて、楽じゃないでしょうに…』

「SEVEN、したらばにいるのなら状況は分かっていると思いますが、そろそろ…」

coco_Aが焦りを隠さずにSEVENに言う。

『分かってます。
 coco_Aさん』

それを、落ち着き払った声で、SEVENは制した。

『kUzuさん達に…力づくで構いませんので、全力でしたらばの戦闘を止めるように、と。
 伝えてもらえますか』

coco_Aは一瞬目を丸くした。

しかし、すぐに表情を元に戻すと、

「…了解です」

と、力強く言った。





はろー、なんていうやけに軽い挨拶は、凄く聞きおぼえる女性の声だった。

「…よう」

それに、低く、聞き取りづらい声が続く。

2人の横には、もう1人。
何も口にはせず、ただキッとした表情でUszakuを睨む少年。

「リアさんに、raimo…Makinさんも…」

すぐに分かった。
なぜか、顔を変えていなかったからだ。

そういえば俺も変えてないけど、それはすっかり忘れてたからで…。
普通は、ここに入ったら変えるはず、なのに。

「…どうして?」

「どうして、ってもね。
 知り合いがやられそうだったら助けるでしょ、普通」

「でも、こんなとこで…というか、顔、なんで…」

顔をわざと変えてない、とすれば。

それはすなわち、匿名としてじゃなく、コテとして動いてる、ってことになる。

リアさんはRiAsONとして、らいもはraimoとして、そしてMakinさんは、Makinとして。
自分の今からする行動に、はっきりとした責任を持つ、ってことだ。

「手、貸してやるよ。お前1人じゃ何もできないだろ」

「…いいの?」

「…戦闘を良しとするような考えの人は、許せませんし。
 それに、90くんの考えに、共感できたので」

Makinさんが、控え目な声量で言う。

「…あー、まぁ、そういうことだ」

頭を掻きながら、raimoが同意する。

「Uszaku、あんたがそんなしゃべり方出来るとは知らなかったけどさ。
 ちょっとやりすぎたみたいね。
 観念なさい」

RiAsONさんが、ペンをUszakuにつきつける。
raimo、Makinさんもペンを構える。


なんだろう。
俺と普段気さくに話しているときとは、雰囲気が違う。
何と言うか…オーラが出ている。

これがウマコテ、って奴か。
かっこいいな畜生。


「…あの程度の安い演説に乗るような人達だとは思いませんでしたよ」

「安っぽい話だってのは同意するわよ。
 けど、あんなことを本気で思っちゃうような人が、ここにまだいるっていうなら、
 まだここにも価値があるんじゃない?」

リアさんの言葉に対し、Uszakuの表情がさらに険しくなる。

そんな中、Uszakuがおもむろに右手を耳にあてた。
そして、何かを聞くような仕草を見せた後、舌打ちを1つした。

「…管理人共も、動きだしたか」

…管理人達が?

SEVEN次第だ、っていうことは337さんがPMで言っていたけど、
SEVENさんが決断してくれた、ってことだろう。

「…面白い。
 ここまで来たら、我々も退く訳にはいかんのだ…。
 ある程度の数のウマコテを相手にすることになるのも、想定内だ」

Uszakuが、誰に言う訳でもなく、そう口にする。

「ほう、上等じゃねえか」

raimoが挑発気味にそう口にする。

「そう簡単に破れるような戦術を組んではいない…。
 受けて立とう、我々が気づきあげたネットワーク―Zakote Uzakote Networkでな…!」

Uszakuの言葉と同時に、本スレ内のザコテ達が動く。
それに対し、俺のすぐ横に立つウマコテ3人も、鋭くペンを始動させた。




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