投下するスレ 21

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「計算、さんっ」

「はさみ、出来るだけ離れていてくれ」

そう言うと、計算は一歩進み出る。

「・・・思ったより、早かったな」

Saizenは、口調に感情がこもらないように意識しながら、言った。

「俺の見込みでは、早くても後2時間はかかると見ていたんだが」

「兵卒さんのおかげです。
途中から、2人分の魔力を全て俺1人の移動に費やしたから、これだけの速さで来れました」

「・・・成程。それなら納得できなくも無い」

2人の間の空気は、ぴんと張り詰めている。

「良くここが分かったな」

「あれだけ派手に魔力を使えば、気配ぐらい察せますよ」

「ああ・・・最後のあれは、余計だったか。
まあいい。作業中に邪魔をされるよりは、いいからな」

key3は、冷静な目でSaizenを見つめている。

「Saizenさん、やはりあなたが黒幕、ですか」

「やはり、か・・・気付いていたのか?」

「・・・最初から、ayatoriの後ろに誰かいる、とは思ってました」

「ほう、何故?」

「最初から、です。
話の始まりは、俺がayatoriから攻撃を受けた事からです。
けど、このことの意味が、見当たらない」

Saizenは黙ってkey3の話を聞いている。

「いわゆるデモンストレーション、として処理をしてはいましたが、
ayatoriが敵だと、こちらにわざわざバラす必要性がまったく無い。
その後、わざわざPespさんとkUzuさんにも吹っかけてますしね。
まるで、俺達に、「ayatoriは敵」、と印象付けたいように」

Saizenの頬が僅かに緩む。

「どういう理由をこじつけたのかは知りませんけど、
ayatoriという存在を際立たせて、あなたへの疑いを避けるために、あなたがやらせた。
違いますか?」

Saizenがその言葉に、満足そうに頷く。

「正解だ。
それに気付いていながら、何故他言しなかった?」

「ayatoriが騙された、となると、あいつが信頼を置いてた人の可能性が高いですからね。
となれば、僕自身も「絶対ありえない」と思う人ほど、可能性があるとも言える訳ですから・・・、
人に伝えるのは避けました。ですけど、結果的には慎重すぎましたね」

key3が、ひとつゆっくりと息を吐く。

「あなたじゃないかとは、なんとなく考えてました。 さいだーさんとも仲は良いし。
ayatoriの奴は、根っこは妙にお人よしで、ちょっと餓鬼っぽいとこがあるから、
Saizenさん辺りの適当な口先にも、騙されるような気がして、ね」

Saizenがピクリと反応する。

「・・・安い挑発だな」

Saizenの言葉に対し、計算は何も返さない。

「で、Saizenさん。
あなた、何をする気です?」

「・・・サーバーを落として、王宮にいるスピナーを始末する。それだけだよ」

「サーバー?」

「王宮地下のエネルギーの塊とでも言えばいいか。詳しい事を話しても、お前じゃ理解できん」

「まあ、俺も別に構いませんよ。そんなの知らなくて。
で、そんなことの為に・・・ぼんさんまで引っ張り込んだ訳ですか」

Saizenがわざとらしく、意外そうな表情をする。

「ほう、気付いていたか。そうだ、俺の手には、世界最高の魔力がある。
ayatoriでさえ、歯が立たなかった。お前でも、同じだ」

芝居がかった仕草で言うSaizen。
それを、key3は冷たい目で見ている。

「慎重なあなたが、万全な状態のayatoriと闘ったとは思えませんけどね。
それに、少なくとも、歯が立たなかった、は言いすぎだ・・・隠す演技、上手いですね」

key3が、ちらりとSaizenの左手に目をやりながら言う。

それに対して、Saizenが一瞬いらついたような表情を覗かせた。


「・・・おしゃべりは、終わりにしようか」

Saizenのペンが動き出した。

強力な魔力がSaizenの周りを包み、key3を威圧する。

その魔力に怖じず、key3はしっかりとSaizenを見据えている。

日はほとんど没し、数分と持たず夜へとなるだろう。

「手加減はしないぞ、key3」

「どうぞ、お好きに」







「はじ、まった・・・」

key3に制され、邪魔にならないよう離れたはさみは、
戦闘の開始を見つめていた。

長い会話だったけど、その間、互いの緊張が途切れる事は無かった。

「・・・」

これが、最後になる。
ayatoriさんが倒れた今、計算さん以外にSaizenさんを倒せる人は居ない。

勝って、と。
私は、祈るのみだ。

・・・もう私がここにいても、出来ることはないだろう。
ただ傍観するよりも、出来ることを。
街の方でなら、何かあるはず。

心配でないと言えば嘘であったが、それよりも、計算への信頼の方が勝った。
はさみは、街の方へ駆けていった。







先に動いたのはSaizen。

小さく鋭い風の刃が、key3に向けて奔る。

それを、key3はパス系の旋転を繰り出しながら、
軽やかな動きでかわしていく。

続いて、大きな横方向の斬撃を飛ばす。
前触れ無く、恐ろしい速さで飛ぶ。

しかし、それもkey3は鮮やかな跳躍でかわす。

複雑な技を多数こなすkey3。
それに伴う動きの多様性は、相手に隙をつかせない。

更にSaizenの攻撃が続く。
ayatori戦とは違って、積極的な攻勢である。

「・・・」

さらに、Saizenの攻撃は続く。
連続的な攻撃を、key3は確実にかわしていく。

突然、Saizenのスタイルには含まれない、火球が飛んだ。
key3は一瞬ひるむも、斜め後ろに跳んでかわす。

そこへ、Saizenが畳み掛けるような攻勢をしかけた。
key3は、今までの回避に防御も加えつつ応戦する。
が、じりじりと押され、距離が開いていく。

「どうした?key3」

余裕が見て取れるSaizenの表情。
それをkey3はちらりと見る。

Saizenの攻勢が、さらに勢いを増した、その瞬間。


key3が、消えた。

その時、2人の間合いは10m近く。
key3は一瞬でその距離を飛び越え、Saizenの背後へと移動していた。

消えた、という表現以外に不可能。
それほど、key3の移動は速かった。


しかし。
背後を取ったkey3が、Saizenを貫く事は無かった。

むしろ、かろうじて、Saizenのカウンターを止めていた。


key3が即座に飛び去り、再び距離をとる。

「ほう・・・良く止めたな」

「・・・」

key3は、手をやって、一筋流れた血を拭く。

切られたのは、皮一枚のみ。
しかし、その箇所は首。数cmの差で、致命傷もありえた。

「・・・まさか」

key3が険しい表情で呟く。

「そうだ、計算。悪いが、お前の道も・・・見える。
流石はぼんさん、としか言い様がないな、まったく」

勝ち誇った表情で、Saizenが言う。



移動術。
それは、key3の最も得意とする分野であり、彼にとっては戦闘においても重要なスキルである。
一瞬にして相手の懐に潜り込み、仕留める。
その必殺の攻撃が、key3をダブルエースという地位まで引き上げた、といっても過言ではない。

「(いくらぼんさんとはいえ・・・ここまでとはね)」

俺の使う移動術は、魔力で道を作る、というもので、
一般的に用いられる単純な走る・飛ぶの強化と言えるものとは少し異なる。


そもそも単純な物理的力での加速には限界がある。

それを超える移動。詳細は使っている俺本人でも分からない部分もあるのだが、
自分のものはイメージで言うなら、ワープのようなものに近い。

自分の現在地から目的地まで、複雑に織り込んだ魔力を這わせる。
そして、その魔力の上を「通って」移動する。

物理法則を半ば無視した移動が可能な反面、難点も多い。

まず1つは、単純にこれをこなすには、相当な難易度の旋転をこなす必要があること。
そしてもう1つは、移動する前に魔力で経路を設定しなければいけないことである。

後者がネックとなり、戦闘中この方法で移動するものは少ない。
魔力を這わせた時点で相手に移動先が読まれてしまえば、高速での移動も意味が無いからである。

それを可能にしているのは、計算の複雑で多様、かつ完成度の高い旋転である。
完璧で複雑な魔力操作、それにより相手に移動経路・タイミングを悟らせず、一瞬での移動が可能となる。


そして。
今、その誰にも読まれたことの無い、魔力の道を、ぼんさんの魔力に、看破された。

「残念だったな、計算。お前に勝ち目はない」

Saizenがニヤリと笑い、攻撃を仕掛けてくる。

上下左右、様々な角度から刃が迫る。
それを、かわして、

「・・・っ」

すんでのところで刃を雷撃で止める。

普段から、回避にも移動術を用いる事が体に染み付いている。
思わず今も使ってしまったが、またもや正確に、移動後をSaizenは狙ってきた。

見切られている、のは確実。

「・・・」

着地後、息を1つ吐く。

窮地だ、な。

key3が、目つきをすっと鋭くする。

そこには焦りも戸惑いもなく、ただ純粋な、目の前の敵への「集中」のみがある。

その姿に、Saizenの集中も意識せずとも高まっていく。

「・・・」

Saizenが、ペンの動きを変える。
ここまでは、細かい制御はbonkuraの魔力に頼り、攻撃重視の旋転を繰り広げていた。

が、目の前の男への警戒から、さらに慎重な攻撃をしようと判断していた。

Saizenが、攻撃をいくつか放ちながら、距離を詰める。
右腕では風が唸りを上げている。

十分に近づいた所で、右手を振るう。
強力な縦の斬撃が、key3に向かう。

key3がそれを、正面から受け止める。
―やはり、回避は出来ないな。なら、慣れない防御で、いつまで持つ?

そのまま、key3の周りから直接刃を生み出し、key3に向かわせる。

key3も、流石である。
生み出される無数の刃を、正確に把握して防御していく。

強力な攻撃は持ち合わせていないkey3であるが、それを補って余りある、技の正確性・出の速さがある。

しかし、やはり力での勝負は、Saizenの方に分があった。
key3の防御は、次第にかすり傷を容認しざるを得ない状況に達し、小さな傷が少しずつ生まれ出す。

あと少しだ。
そうSaizenが感じた頃、
key3が、大きく後ろに跳び去り、距離をとった。

「・・・普通の移動術も、出来たのか?」

ここは、答える必要ないかな―と判断して、key3は何も言わなかった

正直に言うなら、使うのは本当に久しぶりだ。一発で成功したのに自分で驚いてる。

さて。

このままじゃ、負けるな。

今の俺のスキルだと、単純な攻防じゃ明らかにSaizenさんに分がある。
高速の移動を伴う戦闘に特化していると言ってもいい自分の攻撃・防御。
こういう戦闘だと、まったく力を出し切れない。


事実上―この戦闘は、俺の移動術対、ぼんさんの魔力感知能力となる。
そういう観点で見ればSaizenさんは関係ないと言えるかもしれない。

俺が、ぼんさんを破れるのかどうか。
それが勝敗を分ける。


いい、機会だ。

ぼんさんを超える。JEBを救う。
どちらも、俺―本来なら、ayatoriもだが―が、JEBのエースとして果たす使命だろう。


高い地位自体に魅力を感じるわけではないが、
上にある存在を超えること、そしてそのための挑戦をすること、というのは、
人生において何より大切にしなければいけないものだと俺は思う。

エースとして、ayatoriと並ぶ国内最高のスピナーとしての地位は確固たる物となった。
そんな俺が今、超えるべき存在―それは、今は無き天才、bonkuraだと。ずっと思っていた。

彼ほどの人物なのだから、永遠に超えられないものであってもいいとも思う。
けど。
彼を超えていくような旋転が、エースならば求められて、
それに―自分勝手な言い分かもしれないが、それをぼんさんも望んでいると思う。


当然、簡単な話ではない。

だからこそ。やる価値がある。


「まあいい。時間の問題だ」

そう言って、Saizenさんが再び攻撃を仕掛けてくる。

・・・正直キツイが・・・やるしかないな。

ペンを動かす。
多数の技を組み合わせた、複雑な旋転。

key3は攻撃をギリギリまでひきつけ、それを、かわした。

「・・・っ」

一瞬虚をつかれかけたSaizen。
それは普段key3が使っている移動術であった。

すぐさま反応して、移動後の場所に向けて攻撃を撃つ。

ギリギリで、かろうじてそれを防御するkey3。
Saizenは畳み掛ける、も、再びkey3が回避に移った。

「(・・・なんだ?)」

今までの単なる防御とは一転。
見切られていると分かっているのに、移動術を使ってきた。

「・・・」

3度目の移動。
回避先に狙い撃った刃が、左腕にかすった。

・・・何を狙っているかは、分からん。
が、俺もkey3の移動に体が慣れてくれば、攻撃も入りやすくなる。
続ければ、先に倒れるのはkey3だ。

Saizenは、攻撃を続ける。
key3は、毎回ギリギリの防御となるにも関わらず、移動術を用いてくる。

「・・・?」

おかしい。

次第に掴めて来た筈の感覚。
しかし、なのにいつまでも、捕らえきれない。

俺の狙いは正確になってきている筈。何故だ?

Saizenが攻撃を止めた。


「計算、お前、何をしている?」

key3は肩で息をしている。

「・・・」

何も返答はない。

何か、狙いがある。
無駄なことをするような奴ではない。
なんせ、こいつは、JEBのエース・・・

「・・・っ」

いや。何を恐れている。
俺は今、計算を超えられる。
そのための装置、そのためのぼんさんの力だ。

Saizenが表情を引き締め、目の前の男を見据える。

次で、終わらせてやる―。

ペンを回す。

難易度も、美しさも、兼ね備える。
高度なバランス、練りこまれた理論、確固たる実力。

日はもう暮れ。
しかし、妙に月が明るい。

そんな中で織り成される、雰囲気も影響して。
Saizenの前で磨かれ始めたその刃は、恐ろしいまでの威圧感を持って、key3に対峙した。

「・・・」

それを見つめながら、key3は、ペンを中指と薬指の間に構えた。

「(・・・感覚は掴んだ。後は・・・)」

これで、試すだけだ。

目の前の刃を見つめる。


Saizenが、5軸のバクアラで旋転を締める。

key3のペンが、動く。

神速で刃が迫る。

瞬間。

key3の手から、僅かな閃光が発せられた。


Saizenの攻撃が―空を、切った。

Saizenが一瞬、呆然とする。

その背後に。

key3がいた。

「・・・っ!」

key3の雷撃。

かろうじて、Saizenは決定打となるのを防いだ。

そして、すぐさま飛び退き、距離をとる。


「馬鹿、な・・・」

攻撃を当てられた左肩に手を当てたSaizenは、驚愕を露にしていた。


「魔力、など・・・」

感じなかった。
経路が作られたのを、感知できなかった。

その速度は、彼の移動術と同等。だが、それとは異なる。

Saizenは、僅かに見えた閃光を、思い出す。

「・・・フラッシュ、ソニック?」

フラッシュソニック。
2軸から5軸まで、4本の指を複雑に組み合わせながら、美しい円軌道を描く技。
その生み手は、ほかでも無い計算である。

「正解です、Saizenさん」

「だが、フラッシュソニック、は・・・」

フラッシュソニックによる魔力を使った技は、閃光を伴う雷撃の一種だったはず。
Saizenは、それが放たれた所を何度も目撃していた。

「確かに攻撃技ですが・・・こういう使い方もずっと考えてはいました」

そう言うと、key3が再び消えた。

まだ動揺の治まらぬSaizen。
その左側に瞬時で移動したkey3は、雷撃を鋭く打ち放つ。

かろうじて防御するSaizen。
しかし、その反応は、明らかに移動後のkey3を感知してからのものであった。


「・・・参ったな」

計算は、そう呟いた。

参った、とは自分自身に、だ。
少し自分の反応が遅れて、移動後の攻撃がほんの少し遅れる。
もう少し慣れが必要かな。

だが、成功した。
それだけで十分か。贅沢を言う必要は無い。

「どう、なって・・・」

再びkey3が一瞬で近づく。
先程と同じ左側に一旦現れ、そして次の瞬間には右側に。

雷撃が、確かに捉えたのをkey3は感じた。

Saizenが右腕を押さえながら、考えを巡らせる。


フラッシュソニック。今まで、計算はどう使っていた?
撃った瞬間、鋭く細い雷撃が一直線に相手に迫る雷撃が、思い出される。
一直線に、鋭く・・・

「お前・・・まさか」

Saizenの頭の中で、その雷撃と、計算が這わせる移動術の経路のイメージが重なった。

「ただ、速くした、だけ、なのか?」

「・・・ええ、そうです」

別に、特殊な新しい技を使ったわけではない。

key3が誇る神速の移動術、それの実行「自体」も、高速で行っただけだ。


フラッシュソニックの最大の特徴は、閃光のごとき、素早い魔力生成だ。
それを用いて、魔力の精錬から経路の作成、移動開始までの行程も、高速で行う。

感知能力が、どんなに高くて、経路を見切ることが出来るとしても。
それに反応できなくては意味が無い。


当然こんなこと、今までやった事は無い。

だから、その前にフラッシュソニックを使わない移動術で感覚の概算を立てた。

とはいえ、本番で成功する確証があった訳では無く。
ただ。自分が今までやってきた旋転を信じただけ、と。いうことになるかな。

「・・・やって、くれる」

そう言うなり、Saizenが一気に攻勢に入った。


今までの挑戦者と、同じだ。
key3に移動術を使わせたら勝ち目は無いと悟り、
猛攻を持ってそれをやらせまいとする。

だが、無駄だ。
俺は、そんな相手を、ずっと退けてきたのだから。

防御と、細かい回避。

相手の攻撃を受け流して。
そして、タイミングが取れた瞬間に。

相手との距離を、0にする―

Saizenが、体勢を崩す。

足に正確に雷撃を打ち込んだ。もう、しばらくはろくに走れないだろう。


しかし、それでもなお反撃を仕掛けるSaizen。
素早く距離を開いたkey3には、掠りもしない。

「Saizenさん、終わりです」

key3が言う。

それを、Saizenは拒絶する。

「・・・まだだ」

その眼光は、未だ鋭い。

key3が、再びペンを構える。
今度こそ引導を渡してやる、と言わんばかりに。

それに対し、Saizenもペンを動かした。

「・・・」

Saizenの周りを、唸る風の障壁が球状に包んだ。

key3が動きを止める。

「どれだけ、速くても、全方向を、防御壁で囲まれれば、手出しのしようがあるまい」

Saizenが息を荒くしつつ、言う。

「・・・無駄です」

key3は、冷静なまま。

この手を使った敵が、居なかった訳ではない。
しかし、それも全て破ってきた。


360度全てを、自分の攻撃を完全に防げる魔力で囲める人間など、恐らく居ない。
障壁が薄すぎて、一転突破で簡単に破れたり、或いはどこかに隙があったり。


Saizenの守りは、見事だ。
ぼんさんの魔力も含め、このために惜しみなく使い切っているようであり、
今までの中で一番完成度は高い。

けれど。

「(単純な防御で、ぼんさんの最高の力が発揮されるはずなど、ないのに)」

彼の旋転の良さを度外視した壁だから。
完璧である、訳が無いのだ。

key3が、消えた。
そして、Saizenの壁の薄い点を、雷撃で突き破り、
その背中へ、雷撃を―

「かかったな」

Saizenが、鮮やかなカウンターを撃った。

壁を一点だけ薄くしたのは、ダミー。
そこを計算が狙ってくるのを、待っていた。

そして、来る場所を予測できていたなら。
高速で生まれた経路でも、ギリギリで反応するのは、可能だ。

風の刃。

key3が、致命傷となる箇所、そして利き腕だけは、寸前で防御した。

畳み掛けるSaizen。
これが最後の勝機と、全力をかける。



―さらに。Saizenは、この勝機を逃さぬ、策を1つ持っていた。

連撃を、key3が受ける。
その右手を、bonkuraの魔力が観察していた。

高速で踊るペンと手。
そこを観測しようなど、考える者はいない。
しかし、ぼんさんの魔力なら、可能だ。

Saizenの痛烈な一突が、key3を襲う。
首に迫るそれを、key3は防御し―
そのペンが、手伏せでの45ピポットに動いたのを、Saizenは確認した。

強力な攻撃技として用いられる2つの系統、スプレッドとバックアラウンド。
そのどちらへも、手が伏せられた45からは、最も移行しにくい。

その瞬間を待ち構えて。

Saizenの、出来うる最速の攻撃が走った。

それに対して、

key3のペンは。

僅かにフェイクトソニックの素振りを見せ。

そのまま指の間から放たれて。

そこで立てられた、小指へと巻きついていく。

そこから、さらに、key3の手首が鋭く動き。

ペンは鮮やかに旋転し。

遠く離れた、親指へと巻きついて。

更に、人差し指をも巻き込んで、止まった。

5,1,2スプレッド。


key3の雷撃は、Saizenが撃った刃を打ち破り、そしてSaizenを貫いた。







「―お前に、は、それがあったな。 見落として、いた」

「・・・Saizenさん」

「本当に、憎らしいほど・・・お前、いやお前等、は・・・」

Saizenが、かろうじて搾り出していた声を、途中で切った。

「・・・いや、いい。流石に、俺の・・・負けだな」

そう言って、Saizenは倒れた。

その後に、使い手を失ったぼんさんの装置だけが、残っている。

「・・・」

key3はゆっくりとペンを振るい、それを砕いた。

音を立てて地に落ちるボールサイン。







「・・・超えた・・・のかな」

いざ終わってみると、なんとも言えないな。
まあ、そんなことは後からいくらでも考えられる。

まずは、王宮に行こう。



王宮内のメンバーは、全員が正門前に集まり、一点集中的に攻撃を行っていた。

「いいっ、加減、壊れろ!」

叫びながら、kUzuが壁に攻撃を撃つ。

その攻撃が、空振った。

目標を失った雷撃は、虚空へと跳んでいく。

「・・・え?」

壁が、消えていた。

「これは・・・」

imuの呟き。

それに答えるようにして、門へoutsiderが現れた。
その両手は、上へと挙げられている。

「降参、だ」

「・・・なぜです?」

imuの問いに、outsiderは無機質な声で答える。

「前菜が負けた。それだけだ。もう俺にお前等の邪魔をする意味は無い」

「じゃあ、ayatoriが・・・」

「いや・・・そうではなく・・・」

そこで、outsiderの頭上。
正門の上に、静かに降り立った人物―key3。

「計算さん!」

「じゃあ・・・」

「・・・こちらも終わりましたか」

「かっけえええええええええええええええ」

「いや、これは、かっけえええええ」

Pesp、そしてそれにつられてkUzuも叫ぶ。

「まだ、小競り合いは続いてるようですので・・・
各自、街に散って、さっさと片付けてしまいましょう」

key3の言葉に、スピナー達は頷いて、次々に散っていく。

key3は、門の下に降りると、outsiderに向かい合う。

「あれを倒したのか。流石だな」

「いえ・・・それより、えーと、逃げませんよね?」

「逃げて何になる。
・・・王宮にいる。収拾がついたら、裁くなり殺すなり、好きにしてくれ」

そう言うと、outsiderは門をくぐって中に入っていった。

「・・・さて、俺も行かないと・・・ん」

見送った後、振り返ったkey3の目に入ったのは、はさみ。

「計算、さんっ・・・勝った、んですね・・・」

その目が、心なしか潤んでいる。

「ああ。そうだ、はさみ、ayatoriは?」

「え?あ・・・ん、と、今、様子を見てきました。
Mizmが応急処置とかをしてくれてて。命は、なんとか」

「そうか。良かった。じゃあ・・・事態が落ち着いてきたら、見に行くよ」

「・・・、そう言わずに、今すぐでも行ってもいいんじゃないですか?」

はさみが不思議そうな顔をして聞く。

「とりあえず、あいつがまともに話を聞けるようになってからだ」

それに対して、key3は微笑みながら答えた。

「説教でも、してやろうと思うからな」







「はいはーい。あ、カツオね。今日はちょっと入って無いんだよね。
ねー、ウチがカツオ置いてなくてどうするんだってね。本当にね。
あー、アジ捌けましたよ!どうぞー!」

西街、Bonitoの魚屋。
相変わらずの繁盛っぷりで、Bonitoも嬉々として客の相手をしている。

「すいませーん」

「はいはーい・・・って、toro。NIKooもか」

「どもー」

NIKooは不機嫌そうな表情を浮かべて、挨拶はしなかった。

「はい、今日は秋刀魚がいいよー。はい、了解ー。
・・・ああ、JapEnCupの決勝の帰りか。どうだった?」


騒動で随分進行が止まっていたJapEnCupであったが、ようやく今日決勝を迎えた。

客の相手をしながら、器用に2人と会話をするBonito。

「僕は5位で。NIKooは・・・」

「最下位だよ、わりーかよ」

不機嫌な理由はそれか、と納得するBonito。

「ったく、マジ温ぃんだよ、審査もルールも・・・マジ・・・」

「わーったわーった。
あ、はい、マグロ?何?刺身?あ、トロ。トロね、トロは、今捌きますんで。ちょいお待ち。
で、お前らは何の用だ?」

「いや、特には。繁盛してるなー、って思いまして」

「そうか、じゃあ悪いけど、今忙しいから・・・ん」

Bonitoが、店の外にちらりと目をやり、そこで何かをしている人物が目に入る。

「(ビラ・・・?)」

何やら紙を配っている。

toroも気付いたようで、NIKooと2人で近づいていく。
そしてそれを受け取って、2人が一瞬びくりとしたのが分かった。

そして、toroはどこかへ駆けて行き、NIKooだけが戻ってきた。

「何のビラだ?」

NIKooが無言で紙を差し出す。
新聞のような感じで、細かい字がびっしり書かれている。

『衝撃スクープ!JEB反乱騒動の真実!』

「っ・・・」







どこかで、話が漏れ・・・

一瞬顔を青くしたBonitoだったが、
その記事をよく読むうち。

「関係者は、語る―。
ええ。まちがいないですね。a○shさんが、二股をかけられてたんですよ。
それも、他でもない、SEVE○さんにね。いやー、あれは衝撃的でしたね。
もう、目から鱗ならぬ、目からコンタクトレンズって感じで」

目からコンタクトレンズ、って・・・それはむしろ視力が落ちるだろ。

「・・・Pespか」

少々やりすぎな気もするけど、まああいつらしい。
toroが呼んで来たkUzuが、手際よくPespをしょっ引いていく。


なんというか・・・平和だな。もうすっかり元通りだ。

ほんの2週間前、あんなんだったというのに







王宮内の廊下。

張られた張り紙を、ayshが仏頂面で見つめている。

「・・・やっぱり、気に食わないわ・・・」

「何が、ですか?」

ayshが振り返ると、そこにはSEVENがいた。

「こんにちは、姫さん」

「もう体は良いの?」

「今朝、やっと自由に動き回っていい許可をもらった所です。
本当に長かったです」

「長い、ときたか」

SEVENの言葉に答えながら、1人の人物が現れる。


「くらさん」

「2週間で動けるようになったは、むしろ幸運とも言えると思うがな。
あれだけ、無茶をしておいて」

「えーと、無茶でした?」

「無茶だろ」

「無茶だったわね」

「・・・やっぱりですか。ですけど、僕も総合管理人ですし。
ああいう場面で、無茶をする責任がある、とも思ったりしまして・・・」

CrasherはSEVENの言葉に、ふむ、と1つ頷き、

「それも、1つのやり方だろう。
だが、上に立つ者のすべきことは、それだけではないということも覚えておけ。
なあ、aysh」

「・・・何よ、Crasher。
それよりSEVEN。やっぱり私はこれには納得できないわよ」

掲示されている紙を指して、ayshが言う。

それは、今回の騒動についてJEB側が出した公式文書。
出されてから3日程になる。もう、国内に目を通していない者はいないだろう。

「私達協会に、そしてそのトップの私に、過失があったのは明らかじゃない。
それを、こうやって皆に隠すなんて・・・私のプライドが許さないわ」

そこに書かれている内容を要約すると。

―今回の騒動は、国外に本部を置いた無国籍の少数団体によるものであり、
流された協会等の名を語った情報により、混乱を与え、さらにそれに乗じて、JEBに武装反乱を仕掛けた。
禁忌を破り卑劣な手段を用いる敵に、苦戦を強いられたが、無事鎮圧した。
犯人は捕獲済みであり、取調べの後、地下牢に繋いでいる―というもの。

そこには反乱側の人物として、協会・ayatoriはおろか、Saizenの名もない。

「ですけど、必要以上に混乱を招くのは無用ですし・・・。
それに、皆さんも納得してくれてますよ。元々、噂を信じてた人は多くなかったみたいですし」

「・・・公にはそうでも、秘密裏にでも何かしら処分をするべきよ。
正しい話を知るスピナーに示しがつかないわ」

「そういうな、aysh。君の行動全部、JEBのことを考えた正しいものだった、と俺は思っている」

「そんなことないわ。 自分の利き手可愛さに、こんなことを起こしたと言われても、仕方ないわ」

「・・・JEBに、あらゆる人に慕われるカリスマ性というか、そういうものを持っているのはお前だけだ。
かつてで言えば、bonkuraさんのように。 key3もayatoriも、まだその域には達していない。
だから、JEBのためにも、その手を失うわけにはいかなかった。 そうだろ?」

Crasherの言葉に、SEVENはなるほど、と納得した。
「他のやり方」、ってのはそういう事なんだろう。
自分の身を犠牲にするのが、国の為に本当になる、とは限らないから。

「・・・・・買いかぶりすぎよ、Crasher」

そう言うと、ayshはSEVEN・Crasherに背を向けて、どこかに歩き去ってしまった。


「アレ、多分照れてるな」

CrasherがSEVENに耳打ちする。

「・・・マジですか?」

「ああ。
それよりも、SEVEN、ayatoriはいつ出すつもりだ?」

Saizen、outsider、そしてayatoriの3人は、流石に罰則なしとは行かず、
3人とも、牢に拘留されている。

「出来るだけ早くしたいですね。
そろそろ、JapEn4thへの動きも、本格になってきましたから、ね。
ayatoriさんにも、出演とまでは行かないにしても、協力して欲しいですから」

「ああ、そうだな」

「正直、後は計算さん次第って感じなんですけど。
計算さん、ayatoriさんにだけは厳しいから」

SEVENが苦笑する。

「・・・今年も、JapEnの季節が来るな。
そういえば確か、今回の騒動について、神がJapEn4thとの関連を言っていたとか」

「ええ。でも、それは装置へのヒント、だったように思いますが」

「勿論そうかもしれんが。
時期が時期だけに、何か関わりがあってもおかしくない。
というより、ある意味、必ず関係してくるさ」

そこで、Crasherは間を作り、

「今回、JEBの為に闘ったメンバーが・・・きっと、JapEn4thの中心になるだろうから」

「・・・なるほど」

「お前も、頑張れよ」

Crasherは、SEVENの肩を軽く叩き、去っていった。
その表情は、朗らかな笑顔であった。






あとがき
 
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