投下するスレ 08

前へ




「そう来ましたか」

coco_AがSEVENの話に対し、言う。
外で調査中のSaizen以外はSEVENの召集した人員が集まっていた。

「いやな話ですね」

toroが言う。SEVENが応えて、

「まったくです。協会が、こういう手口で来るとは予想外でしたよ・・・
大臣、どうでしたか?」

337に問う。来る前に、彼自慢の情報網での調査を依頼していた。

「異常な速さで広がってるね。
Pesp、kUzuが聞いたようなおばはんのくだらない噂話って感じだけじゃなく、
真面目な話としても広がってるからやっかいだね。
広がり方だけど、町中の至る所から情報が噴出してるって印象。
何者かが、それもかなり人数を使って広げてるんじゃないかな。どこから、って特定はしずらい」

「じゃあ、もう・・・」

「ここまで広がっちゃうと今からどうこうってのは厳しい。僕も気をつけてみるべきだったかな。ごめん」

337が頭を掻きながら軽く頭を下げる。

「いえ。これはしょうがないと思います。ですが、これはこちらとしても対策がしづらい・・・」

「下手に手を出したら、またわるいよーにとられかねませんからね」

toroがcoco_Aの言葉を引き継いでいう。

「とりあえず表立った動きは控えましょう。
上級スピナーさん達には自宅での待機を推奨した方がいいかもしれませんね。
kUzuさん達の様に、悪評が立ってしまう」

「おっけ。伝えてくる」

coco_Aの話を受け、337が部屋を出て行く。彼は国内のほとんどのスピナーと通信手段を持っている。

「けどさ、これはどんな意味が?」

kUzuがふと口を開く。

「正直不愉快だけど、なんか子供の嫌がらせみたいじゃないっすか。
SEVENとかは協会の仕業って断言しちゃってますが、そうなんですか?」

「この話を知っているのは僕達と協会側だけです。なら、広めたのは協会となるのは自然じゃないですか」

SEVENが答える。

「ああ、そうか・・・。じゃあ、どんな狙いが?」

「んー、世論を敵に回したら、私達も態度を変える可能性があると踏んでいるのでは?
まあ、思ったよりは、くだらないというか・・・穏やかなやり方ではありますね」

coco_Aの言葉に他の者も同意した。
戦闘が何度かあったこともあり、もっと荒々しいやり方を皆予想していた。

「どうかな」

そう言いながら、扉を開いてSaizenが入ってきた。

「大臣から話は聞いた。
さて。 coco_Aの言うような意味もあると思うが、俺は他に理由があると考える」

「他に?」

「ああ。Pesp、お前どう思う?」

SaizenがPespに話を向ける。
真剣な顔つきでPespが答える。

「・・・、そうだね。俺としては、やはり姫は誰かと付き合ってたけど捨てられたっていう線を」

「Pesp」

真剣な顔でSaizenがたしなめる。
Pespは真剣な表情を緩め、やれやれというジェスチャーをして、ぽつりと言った。

「理由づけでしょ」

「ああ、そうだろうな。俺もそう踏んでいる」

意味が分からない、という表情をする面々にSaizenが説明する。

「どう考えても傲慢だが、俺達を倒した後のことだ。
戦闘でか、他のやり方があるのか、それは分からないが、
とにかく現行の政府を倒すとなれば、 群集が納得し、支持する理由が必要だ。
倒した後、群集をすんなり支配するためにな。そのために、俺達への不満を煽っているのだろう」

「となると、今は下準備の段階ということですか?」

「ああ。恐らくもっと準備を固めてから攻めに転じるだろう」

「それなら辻褄が合います」

Saizenの答えに、coco_Aが頷きながら言う。

「事態が動くのが早すぎるな、と思っていたんですよ」

「ん?何の話だ?」

Saizenがcoco_Aの話を遮って聞く。

「SEVENさんが謁見をした際、HIDEAKIさんが相手の狙いはJapEn4thだと言っていたじゃないですか。
JapEnまではまだ期間がありますから、その下準備なら話が合うと・・・」

Saizenが眉間にしわを寄せたままなのを見て、coco_Aがまさか、という表情をする。

「あの、もしかして話してませんでした?」

「・・・ああ、聞いていなかった。そうか・・・唯一神がそうだと・・・」

Saizenが何かぶつぶつと呟いている。

「Saizenさん?」

「ん・・・ああ、すまない。とにかく、相手の狙いがそうなら期間はある。
JapEnまでには、何とか終わらせないとな」

全員が頷いた。国内最大の祭典、JapEnを潰されるわけにはいかない。







「では、皆さんよろしくお願いします。さいだー、行こう」

ayatori、そしてoutsiderが階段を登っていく。
話し合いは終わったが、まだ張り詰めた雰囲気は残っている。

その雰囲気を破るように、Sunriseが音を立てて椅子から立った。

「姫」

「・・・何?」

「どうなってるんですか・・・まるで、彼等が主導者のようじゃないですか」

「・・・、そうね。そう見えるかもしれないわね」

「しっかりして下さい。姫が、新しいJEBを率いなきゃならないんですよ」

「分かってるわ」

Sunriseはとりあえずayshの答えに納得したような表情をし、
何も言わずに階段へと向かった。

階段を登りきった辺りで、その肩がたたかれた。Mizmだ。

「・・・Sunriseさん」

「Mizm、なんだ?」

「その・・・Sunriseさんは・・・どこまで続けるんですか?」

「・・・、なんだMizm、お前抜けたいのか」

「・・・」

Mizmは何も言わない。

「確かに最近は少し雲行きが怪しいが、これも仕方ないだろう。
それに、ayatori達も本当に超えてはいけない一線は守るといっている」

「でも・・・」

「信じろよ。姫、imuさん、そしてayatori、だぞ」

「・・・そうですか」

「ああ。じゃあな」

Sunriseが手を振りながら廃屋から出て行く。
Mizmは、握り締めたペンをじっと見つめつつ、つぶやいた。

「やっぱり、私1人で・・・。はさみも何か考えがあるみたいだし・・・私も・・・」

Mizmも歩き出す。

「ん・・・」

その時、ふと気付く。
enotさんはSunriseさんより早く出て行ったし、今下にいるのは姫とimuさんだけだ。

現在、自分から見て動きが少し怪しい2人。

周りをうかがう。人影は無い。
Mizmは廃屋の隣の、同じくらい古びた小屋に入る。ここなら人が来ても大丈夫だろう。

ペンを回す。独特の構成。スピードはない。必要ない。ゆっくり、紡ぐような旋転。

地下の会議場に心を這わせていく。

「・・・あ・・・す・・・・・・・・・」

音声が、頭に流れ込んでくる。
雑音がかなり混じっているが、送り込む魔力を制限しているせいだ。
気配を悟られないためには、これくらが限界だと思う。

「・・・くらさんと、コンタク・・・はとれた?」

姫の声だ。それにimuさんの声が答える。

「はい・・・あとは、あのひ・・しだい・・・」

「とりあえ・・・まつしかな・・・わね・・・・・・なら・・・んとかしてくれる」


間。

「・・・じゃ、おさきに」

「ええ」

imuさんが姫に別れの挨拶をしたように聞こえた。
すぐに旋転を止め、周りを窺いながら小屋から出る。

そのまま、imuさんが出てくる前に走り去った。


「・・・」

少し離れた後、通りを歩いていたら、いまさらになって緊張してきた。
盗聴なんてしたの初めてだ。当然だけど。

そんなに重要なことは聞けなかった気もする。
ただ、くらさん、と姫が口にしたように感じた。

くらさんは、なんでも国外に放浪しているらしく顔は見ていない。
今回の話にも、恐らく加わっていないと思う。

「そのくらさんと・・・コンタクトをとって・・・どうするんだろ・・・」

あの人次第とか言ってた気もしたけど・・・なんだろう。分からない。

ただ、とにかく。くらさんとコンタクトをとる、なんて話は私は聞いていない。

何か、隠し事があるんだろう。予想はしてたし、その内容が分からないからなんともいえないけど、
やっぱりショックといえばショックだ。


街の合間からも見える、聳え立つ王宮。
そこをじっと見据える。

協会勢力は、あそこに挑もうとしている。それは、正しいのか。

自分は協会が好きだ。
今回、話を持ち出したのはその代表・姫をはじめ、信頼できる人ばかり。
自分が聞いている通りなら、JEBは許されるべきではない。

けれど。本当だとは思えない。協会のやり方に不審な点も多い。

まだ、ちょっと盗み聞きしただけだ。このまま協会にしたがって行動するのになんら支障は無い。
私は・・・


思い悩むMizmは、近づく影にまったく気付かなかった。







日が傾いてきた頃。
会議の後、SEVENはずっと337の情報室で彼の手伝いをしていた。

「・・・。はい。了解。
SEVEN君、やっぱ駄目だったよ」

「そうですか・・・」

時間を費やした作業は、協会メンバーと思わしき人間と連絡を試みることであった。

Sunriseさん、Mizmさん、awawaさんなど。
しかし全員とコンタクトはいっさいとれず、
駄目元で協会勢力と分かっている姫、enotさん、imuさんとの連絡も試みたが、やはり失敗した。

「まあ仕方ないです。この人たちは協会勢力と見ていいでしょうか」

「断言はできないけどね。他に連絡が取れない理由なんていくらでも思いつくし」

「そうですね・・・あ、来ましたか?」

「おっ、来たね」

情報室の装置の電球が点滅したのが目に入った。すぐさま大臣がペンを手に取る。

「はろー。いえーす、いえす」

装置は、魔力を使って他所と通信できるもの。
遠く離れた地とも連絡が取れるもので、開発者は大臣その人である。

「やー。あは?おー・・・やはー・・・」

しかし、もう聞くのは何度目かだが、やはりどう考えても大臣の外国語は流暢ではない。
自分の方がそれらしくしゃべれるんじゃないか、と思うくらいだが、実際しっかり通じてしまっている。
大臣曰く、「ポイントを抑えればあとは結構適当でいい」らしい。

連絡相手は、FPSBの人物。誰かは聞いていない。
先日出没した可能性のある、s777の調査を依頼していたのである。
多分、その結果を報告する連絡だろう。

「おけおけ。さんくす。あは。ぐっばーい」

終わったようだ。

「えーと、どうでしたか」

大臣がなんとも難しい顔をする。
芳しくなかったのか・・・とSEVENが予想した時、大臣が言った。

「見つかったって」

「え?本当に?」

予想を外されたSEVEN。意外さを滲ませた返答をする。

「うん。森の中で虎を狩ってた・・・って話は冗談だろうけど、まあ放浪してたようだね。
FPSBの近くの森で見つかったって」

「じゃあ」

「昨日、s777がJEBに居るのは物理的に不可能ってことだね」

「・・・なるほど」

大臣の表情の理由が分かった。
s777がFPSB周辺で見つかったということは、考える事がまた1つ増えたという事だからだ。
他国との対立の可能性は消えたが、喜ぶべき情報と言えるかは微妙だ。

「もうちょっと詳しく分析してくるね。本物じゃないと仮定すれば、何か新しい面が見えるかも」

NIKooが持ってきた資料のことだろう。

「お願いします」

「ん」

大臣が再びペンをとり、旋転をしながらしゃべり始める。
別な通信が入ったようだ。

「はいはい・・・へ?あー。そうなんだ・・・じゃあとりあえず王宮に・・・うん。よろしく」

「どなたです?」

通信はすぐに終わった。SEVENが聞く。

「んー・・・toroさんなんだけど、今から来るって。その、なんか兵卒さんを連れて」

「兵卒さん?」







337に連絡が入る少し前。
王宮での会議の後、toroはPespとkUzuがayatoriと戦闘をした場所を訪れていた。

「んー・・・わからないなぁ・・・」

建物にはayatoriさんの魔力の気配が残っているが、
そこから移動した際の魔力はどうもはっきりしない。それが分かれば、その後の移動先もわかるのに。

「Pespさん魔力ばら撒きすぎー。もー」

Pespの戦闘の際の魔力がそこらかしこに飛び散っていて、調査がしずらいったらありゃしない。

「まー、仕方ないか・・・どれ、他をあたろうか」

外に出ようとしたとき。何者かが建物に入ってきたのを感じた。

反射的にペンを握りなおす。だが・・・

「戦があった匂いだ」

「え?」

入ってきたのは。

「これはtoro。久方ぶりだ」

「へ、兵卒さん?」

「うむ」

「うそー!マジで兵卒さん?」

「そうだと言っている」

目の前に居る、妙に汚れた服装で、妙に古びた言い回しをする男。
JEBきっての変わり者で、戦場に生きる男、兵卒である。

toroが先程から見せる驚愕。それは普段の彼の行動に由来する。

兵卒は国内にいることはほとんどない。
彼は、世界中を旅し、常に戦に身を置いていると言われている。
傭兵として雇われる事も多いと聞くが、己の正義感は何があっても貫く男である。

そんな彼とJEB国内で会うのは、toroにとって予想外であった。

「もしかしてJapEn以来ですか?」

「JEBにくるのはな」

「本当に珍しーですね・・・一体どうしたんです?」

「それは、こちらが聞きたい」

兵卒が質問で返す。

「某が訪れる土地は、戦がある土地だ。そして、今回も例外ではない。
何があった?JEBで戦の匂いを感じるのなど、初めてだ」

「・・・」

toroは思わず黙った。心当たりがありすぎる。

「えーと・・・」

toroが答えかねていると、兵卒が目を瞑った。

「・・・ayatori、Pesp。ああ、kUzuも戦をしたようだ」

「おー・・・」

ペンも回さずにここでの戦闘を言い当てた。この人ならではの感覚があるらしい。

「色々あって・・・僕から言っていいことか、ちょーっとびみょーなんです」

「そうか。無理にとは言わん。しかし、ayatoriか。
そういえばCrasherは総合管理人を引退したそうだな?」

「あー、そーです。ほんの1週間前のことですけど、どうかしました?」

「ふむ。ではその直後になるが、ayatoriとCrasherの組み合わせを見かけたと思ってな」

兵卒が、さらりととんでもないことを言った。

「ま、まじですか?」

動揺をあらわにしつつ、toroが聞く。

「ん?なんだ、何か重要な話だったか?北でな。気になって少し尾行したりもしたが」

兵卒はさらにとんでもないことを言っている。

これはもっと詳しく聞く必要がある、とtoroは判断する。

「へ、兵卒さん、その、ちょっと王宮までいらしてもらえますか」

「王宮?あまり好きではないが・・・」

「めっちゃ大事な話なんです」

「そうか。別に構わん」

「ありがとーございますっ」

すぐさま337に連絡を入れる。
意外な形で訪れた突破口に、toroは驚きながらも期待を寄せた







「ふむ」

coco_Aから一連の話を聞いた兵卒。表情はまったく変わらない。

「なかなか、難儀なことになっているな」

「まったくです。とゆーことで、兵卒さんの目撃情報が大事なわけです」

toroが言う。

場所は会議場。coco_A、兵卒、toro、Saizen、SEVEN、337、さらに一報を受けたkey3も来ている。

「ああ、把握した。詳しく話させてもらおう。
とはいえど、あまり多く語ることもないがな。
総合管理人の交代があったという日から2日後になるが、ここより北の地だ。
某も放浪していたのだが、森で野宿をしている所を見つけた。
2人で旅に出てもおかしくない組み合わせだとは思ったのだが、雰囲気がなんとなく気になってな。次の日尾行した」

「尾行・・・」

coco_Aが呟く。この人ならではだ、と思った。

「戦の可能性を感じたら探り、己が力を貸すべき者に助太刀する。
それが某の生き方だ。今回も、そういう可能性を見て尾行した。
次の日もさらに北に向かって移動していた。南中までは某も追ったが、
好きではない方向に向かったので途中でやめた」

「好きではない、というと?」

「戦とは程遠い所、だと思った。そういうことをする者がいる場所ではない。
地図はあるか?」

337がJEB周辺を表した地図を差し出した。

北の険しい山地を兵卒が指差す。
JEBからは普通に歩けば数日はかかるであろう距離になる。

「こんなとこに人が?」

key3が問う。
winterも話していた、どこの国にも属さない荒地だ。人がいるとは思えない。

「どこの国にも属さない人、というのも結構存在するんだよ」

国際情報に通じる337が答える。

「国を何かの理由で追われたり、スピナーを恐れてスピナーの治める国というものを信用してなかったりとかね。
あとは、まあ物好きじゃないかな」

「ここは、337が言う所の物好きが居住する地だ。
この山地は確かに険しいが、動物と土に恵まれ、ニ、三集落が存在する。
何かの研究をしている、我々にはない技術がある、などといった話は聞いた事がある」

「ふむ。ここに2人が向かった、というのは間違いないんですね?」

「ここより北に人が住む地は無い。ここに訪れたのは間違いない」

兵卒が断言する。

「じゃあ・・・ここに何かしらの手がかりがあるってのは間違いなさそうですね」

SEVENが期待を持った目で言う。

「そうですね。少し遠いですが、怪しい所ですし調査に行く価値はありそうです」

coco_Aが同調する。

「問題は、誰が行くかですが・・・」

「計算、行ったらどうだ」

coco_Aの言葉に、Saizenが意外な言葉を発した。

「俺ですか?」

「ちょっと待ってください、key3さんは国内に居てもらわなくていいんですか?」

SEVENが待ったをかける。しかしSaizenは、

「相手が実力行使に来るのはまだだ、とさっき話に出ただろう。
それに、これは俺の勘だが、その地ではkey3しか見えないヒントがある気がする。
ayatoriの狙い、それを一番察する事が出来るのは、恐らくkey3だ」

Saizenがkey3に対する強い信頼をこめた言葉を言い、key3のほうを見る。

「key3、自分の目で見たいとは思わないか」

「・・・、Saizenさんがそこまで言うなら」

「じゃあ、決まりだな。兵卒さん、案内役を頼みます。
key3と兵卒さんなら、片道1日もかからないかもな」

「そうですね。2、3日なら問題はないでしょう」

coco_Aが同意する。

「じゃあkey3、明日の朝にでも発つか?」

兵卒の申し出に対し、key3は首を振る。

「いや、今すぐにでも出ましょう。機を逃さないように」

「そうか。某は構わん」

機、というのはなんだろうか、とcoco_Aは思った。
だが、何か感じる事があるのだろうと思い、口には出さなかった。







「ふぅ」

多分、もう夕方だ。つまり、この地下の部屋でずっと過ごしたことになる。
何冊か本が置いてあったからなんとかなったけど、それがなかったら厳しかっただろうなぁ・・・。

はさみはしみじみとした気分にさえなってきていた。
その時、ノックの後ドアが開いた。

入ってきたのは、outsiderであった。

無言のまま、ついてこいというジェスチャーをする。
はさみも黙って頷く。

廊下に出た後、降りてきた会議場ではなく、別の部屋に通された。

「広い・・・」

何も無い部屋。なのに、広い。

隣のoutsiderが手のペンを回す。
すると、目の前にたくさんの瓶や紙、ペンなどの器具。
そして、一冊の本が現れた。

「その本にやる事、必要な理論が書いてある。
完成させてくれ。編集の速いはさみなら、丸一日だけでも不可能じゃないと言っていた」

「・・・」

頷きはせず、とりあえず本を手に取る。
綴じ方は無骨で、いくつものレポートを本という形にした、という感じだ。

中を読み進めるはさみ。
そして、次第にその表情がどんどん険しくなっていった。

「さいだーさん・・・」

はさみが声を絞り出す。


「これ・・・」

outsiderは何も言わない。

「出来ません」

「そう言うと思っていた」

「だって、こんなの・・・」

「まあ、言いたいことは分かる。だが、やってもらわなくてはいけない」

outsiderが1度フィンガーパスをした。
右側の壁の一角に、映像が浮かび上がる。

「っ」

はさみが思わず声を出す。


Mizmであった。

牢を連想させる場所に、横になっている。まともな雰囲気ではない。

「気は失っている。命に別状はない。が、今からどうとでもなる。
つまり、人質だ。ということで、頑張ってくれ」

outsiderは無機質に言うと、部屋から出て行った。

はさみは本を握り締めたまま、しばらく動けなかった。
しかし、未だ浮かび続けるMizmの映像。
たまに少し体が動き、ライブの映像である事が分かった。

その姿に強いられるようにして、はさみは作業を始めた。




次へ
 
ページトップへ移動

サイトトップへ移動