投下するスレ 09 |
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木の間を縫って、走る。 右手がエアスピを交えた派手なFSを繰り返している。 それと同時に、自分の移動は加速する。 前を走る兵卒さん。 こういう地での移動には手馴れているのか、移動術が得意な自分から見てもかなりの速さで進んでいく。 3時間ほどの仮眠、それ以外は夜通し走り続けた。 おかげで、まだ正午まで時間がありそうだが、目的にかなり迫っている。 少し移動速度を上げ、兵卒さんの横につく。 「あとどれくらいですか?」 「このまま行けば、そう長くはかからん」 「そうですか・・・その、集落ってどんな所なんですか?」 「・・・、仲間から聞いた話なのだが。 スピナーはいない、とは昨日話したな」 「はい」 「スピナーという人種とは、価値観が異なるものたちだそうだ。 だから、国に属さずに生き、己の思うままに生きている」 「研究をしている、とか言ってましたね」 「それに関しては詳しくは知っておらん。 その話になると、某には話してくれなかった」 「どうして?」 「さあな」 ちらりと横を見る。兵卒は無表情を保っている。 「(兵卒さんに話せない理由か・・・)」 今は分からない。ただ、これからその場所に行くんだ。 もしかしたらその理由も分かるかもしれない。 それから数十分後。2人は目的地に到着した。 「・・・、思ったよりずっと立派ですね」 山間に、家屋が立地しているが、 イメージしていたものとは随分違う。 「廃村のような所を想像していたか? 旋転を使わない技術では、ここの者達はかなりのものを持っている」 「へえ・・・」 JEBの中心地と変わらないくらい見事な建物。 その1つから出てきた若者を見つけた。その出で立ちも、JEBの人とそう大差はない。 「あのー」 声をかけてみる。 若者はじっくりこっちを観察するようにした後、何も言わずに去ってしまった。 「スピナーは好かれていないのかもしれんな。まあ構わん。 自分達で勝手に探るとしよう。2手に分かれるか。 某は少し東の別な集落を見てくる」 「はい」 key3は頷き、建物の方に近づいていった |
王宮。 SEVENが自室で日常業務をしていると、ノックをして使いの者が入ってきた。 「はい。って、なんです、それは」 使いの者は箱を抱えている。 「あの・・・その、要望書です」 「全部?」 「ぜんぶです」 受け取る。ざっと見た所、100は超していそうだ。 普段は、一日せいぜい数通なのに・・・ なんとなく嫌な予感がしながら、1通を手に取り開けてみる。 短くひとこと。 『世紀の大悪党SEVEN』 「いやいやいや・・・」 もう数通開けてみるが、同じような中身。おそらく残りもほとんどそうだろう。 昨日広まっていたという噂のありか、ということ、なのか? いや、いくらなんで一日でここまでは・・・。 SEVENはショックを受ける、というよりは不自然さを感じ取っていた。 「大変です!」 さっきとは別の使いが、今度はノックもなしに入ってきた。 「はい、何かあった?」 「門の所に数十人の人が押し寄せて・・・」 「・・・、分かった。すぐ行く」 |
JapEnCupの試合等、行事が無い時以外は王宮の門は閉ざされ、一般の人は入れない。 その門の前、数十人の人が集まって何かを叫んでいる。 門を見下ろせる王宮中腹の階段の踊り場。 SEVENが向かうと、そこには既にcoco_A、RYO、そしてSaizenが居た。 「一体なんですか?」 「デモ、って奴だな」 Saizenが言う。 「デモ・・・」 「何でもSEVENの辞任を要求してるらしい」 「・・・僕ですか」 「SEVEN、なんか一言挨拶してきたらどうだ?」 「RYO、それは駄目だな」 RYOの提案にSaizenが対して、 「こういうとき、こっちの行動なんてどうとでも取れる。 下手に動いたら立場が悪くなる可能性が高い。 今は静観だ」 「何言ってんだよ、こっちが何もしなかったら、それこそ何かあるって認めることになるぜ」 「いや、駄目だ。 ・・・あれは、とりあえず俺がなんとかしてくる。余計な手出しはするなよ」 そう言ってSaizenは階段を下りていく。 そのSaizenを、RYOが鋭い目で見つめた後、RYOも追いかけるように下っていく。 そして、Saizenの耳元に、何か囁いた。 「coco_Aさん、やはりおかしいです」 「はい。私もそう思う。 噂が流れ始めたのが昨日だというのに、もうあんなデモになるなんて不自然だ」 「あれは、多分全員協会の・・・」 「そうでしょうね。 何を考えているのか・・・JapEnまでまだ期間があるというのに、むしろ焦っているような・・・」 「・・・」 2人は押し黙る。 「あの・・・協会の目的がJapEn以外、という可能性はありませんか?」 「私もそれは考えました。でも、唯一神の言葉は絶対ですし・・・」 「ですよね・・・」 再び押し黙る2人。 そして、SEVENがはっとするようにした後、口に手を当てた。 「SEVEN?」 「いや、その・・・唯一神は、JapEn4thが目的とは、言っていなかった」 「何?」 SEVENが続ける。 「ただ、『JapEn4thが関わっている』とだけおっしゃられてました。 僕、てっきりそれがayatoriさんの目的だと・・・」 「・・・」 確かにそうだ。よくよく考えればおかしい。 唯一神に有事の際に謁見するのは定例事項だが、唯一神がいつもくれるのは「抽象的なヒント」。 HIDEAKIさんはあくまで神として存在していて、 それゆえはっきりとしたアドバイスを与えて、歴史に介入するのをあまり好まないからだ。 それを考えれば、相手の目的がJapEn4thだ、なんていう助言はあまりに直接的すぎはしないか? 「なら・・・JapEn4thというのは、何かのヒント?」 「そうなのかも・・・」 それならいくらでも考えようがある。 JapEnは、国内最大の祭典で、最高のスピナーが集まる祭典。 「かつてJapEnに出ていた人も敵に含まれる、というのを示しているとか。 JapEnのように、JEBにおける最大規模の事件であると言いたいのか・・・」 coco_Aが思いついた案を述べていく。 「・・・、いや、待って下さい、HIDEAKIさんははっきりと4thと言いました。JapEn4thと。 だから、3rdまでのJapEnでは当てはまらないことじゃないですか?」 「なるほど。しかし、JapEn4thについてなんて、まだほとんど・・・」 既にJapEn4thについて決まっていて、かつ今までのJapEnと異なることと言えば・・・ |
「なんだ、これは」 key3は愕然としていた。 建造物群の中、大きくて1つ異彩を放っている建物があった。 窓から覗きこんだところ、見覚えのある風景が広がっていた。 ペンの製造所だ。 スピナーが回すペン。 これは、各国に存在するペンの製造者―JEB内であればぺんてる氏等が有名である―が作ったものだ。 製造者は、独特の技術を用いてペンを作り、 その起源は、「書くための道具」であり、旋転の発祥より古くから存在する。 スピナーとしてのしきたりに、「回すのはペンであれ」というものがある。 スピナーが回すのは、昔からペンとして存在するもの、及びそれを改造したものである。 今はある程度制限があるにせよ容認されているペンの改造だが、それさえも許されない時代もあった。 製造者も、昔から存在するペンと同じものを作ることが義務付けられている。 ここは、いつか訪れた製造者の作業所のような様子だ。 しかし、明らかに異なる点が1つある。 覗いた時に予想はしたが、こうして中に入ったらはっきりと分かった。 ここで作っているのは、既存のどのペンでもない。 未知のペンだ。 いや、未知という言葉はふさわしくないかもしれない。 俺は、一度このペンを見ているから。 ―あの、冬さんを襲撃したスピナー達が持っていたペンだ。 どこかに実物は無いか。周りの棚などを探し回る。 1つの引き出しから、資料らしきものが見つかった。 その表紙に記された名前。 「PEN’Z GEAR・・・」 旋転の為に作られた、禁忌を犯して作られたペンだ。 兵卒さんが、仲間からこの村の詳細を聞けなかった理由が分かった。 こんな所だと兵卒さんが知ったら、正義感の強い彼のことだ。すぐに飛んでくるに違いない。 key3は建物を飛び出し、東に向かって走った。 少し東に行くと、また雰囲気が異なる集落についた。兵卒さんがいるのは多分ここだ。 周りを見渡す。1つ大きな建物が見つかる。 あそこか? 走る。そして、その入り口で村人らしい人の首根っこを掴んでいる、兵卒を見つけた。 「兵卒さん!」 止めようとするkey3を、兵卒が片手で制する。 兵卒は一見無表情だが、その周りがゆがんで見えるほどの激しいオーラが出ていた。 戦場を生き抜いてきた兵卒だからこそ出しうる、 離れて見ている自分まで凍りついてしまいそうな殺気だ。 どうやら、この男に吐かせる気らしい。 「話すか?」 「は、はい」 兵卒が手を離す。男が崩れ落ちる。 「ayatoriとCrasherがここに来たな」 「はい」 「中で研究されていたあれは、何だ」 「・・・ペンを・・・自動で回して、魔力を生む装置です」 兵卒が怒りに燃えたのがkey3にも分かった。 同時に再び滲み出た殺気に男が小さく悲鳴を上げる。 key3は、toroの話を思い出していた。 塔の上で見つけたという、魔力を生む機械。おそらくあれのことだろう。 「ayatoriとCrasherに売ったのか?」 「・・・いえ・・・Crasherさん、には・・・ 最初は2人でいらしてましたが、その時はいったん帰られて・・・後に、ayatoriさんが1人でいらして、その時に・・・」 「売ったのか」 「はい」 それ以上は知らないと判断したのか、兵卒が一瞥をやって男を去らせる。 「だそうだ、key3」 「・・・、となると、ayatoriが独断で話を進めて・・・、いや、くらさんも協会の幹部ですよね・・・」 「ayatoriとCrasherが戦をしたら、ayatoriが勝つだろうな」 「なるほど。 くらさんは、ayatoriに反対して、そしてayatoriに倒された」 「そういう辺りだろう。まあ今となってはあまり関係の無いことだ。 key3、そっちは何を見つけた?」 「・・・、ペン回し専用のペンの製造所がありました」 「ペンの創造・・・また禁忌か。とんだ場所だな、ここは」 兵卒がペンを折りそうなほど強く握り締めている。 「帰りましょう。なんだか、嫌な予感がする・・・」 |
「審査制」 「え?」 「JapEn4thで、現時点で今までと明らかに異なる点です。 今までの推薦制と違い、一般のスピナーからも立候補者を募り、審査を経てメンバーを決定する」 「・・・、えーと、となると、ではどういう意味が?」 「ちょっと待ってください・・・」 coco_Aが門の外に目を向ける。 市民のデモはもう収まっていた。Saizenさんがうまいことやってくれたようだ。 「一般・・・市民・・・」 何か。何かが頭の片隅に引っかかっている。 思考に没頭する2人。 それを切り裂くように、巨大な音が炸裂した。 爆発音だ。 「!?今のは?」 「裏庭です!」 SEVENが駆け出す。coco_Aもすぐさま続いた。 裏庭では砂煙が待っている。 戦闘があったようだ。 その中から現れたのは・・・ 「Saizenさん!」 SEVENが叫ぶ。 Saizenが、利き腕である左手のひじを抑えている。 「くっそ・・・まさか・・・」 「身内だ。油断した」 「身内?誰が?」 「RYOだ」 Saizenの答えに2人は戦慄する。 「呼び出されて・・・来てみたら・・・いきなり襲ってきた。 まだ近くにいるはずだ。俺が追う」 「待ってください、怪我が・・・」 「たいしたことは無い。それより、急いで警戒を広めるんだ。 今まで味方を装ってきたRYOが襲ってきたって事は、他でも動き出すかもしれない」 そう言うと、Saizenは消えた。ほんの少しの魔力だけが残る。 「SEVEN、337さんに連絡を。緊急時の計画通りに、王宮の警備をするように通達を」 「はいっ」 SEVENが駆け出す。 |
その頃。廃屋の地下で待機するoutsiderに通信が入っていた。 『よう、さいだー』 「どうした、何かあったか?」 『少し予定外の事態になった。流石に昔から一緒に行動してきただけあるな、やりやがる・・・ どうだ、はさみはやってくれたか?』 「まあ、流石に仕事は荒いな。精神状態がアレだから仕方ないだろう」 『とりあえず完成したんだな?』 「ああ。全員揃った」 『よし。じゃあ、始めよう。ayatoriと、協会に連絡を』 |
「・・・、来ないな」 337がつぶやく。 SEVENから連絡があって20分ほどは経つ。 王宮の外壁中に張り巡らした情報網から侵入者を観察するが、そのような反応はまだでない。 「・・・、王宮以外が狙い、ってこともありうるかも・・・」 風車系の短いコンボ。王宮の外、町の様子が伝わってきて・・・ 「なっ」 337は思わず叫んだ。伝わってきた情報は、とんでもなく意外で、そして・・・脅威だった。 すぐに、王宮内で警備をしているスピナーとの通信を開始し、叫んだ。 「国内中のスピナーが・・・襲われてるっ」 |
「な?」 首にかけたペンダントから流れてくる337の音声。 それに対して、王宮の大広間に陣取るSEVEN、その隣のcoco_Aは思わず声をあげた。 『おい、そりゃどういうことだよ』 続いてkUzuの声が聞こえる。 『国内中の有名スピナーが、得体のしれないスピナーとの戦闘になってる』 『得体のしれないって、なんだよそりゃ』 kUzuが叫ぶ。苛立ちが感じられた。 『本当に誰だかわかんないんだよね、見たこともない人ばっかり。JEB国民だとは思うんだけど。 ただ、全員そこまでレベルの低いスピナーってわけじゃないし、何より、人数が多い。 やられるってことはないと思うけど、倒すのに時間も体力もかなり要るよ、こりゃ』 『なんなんだよ、どっからスピナーが?』 「・・・、多分一般市民です」 coco_Aが言った。 『一般市民?』 kUzuが聞き返してくる。 「JapEn4th。これは、HIDEAKIさんのヒントだった。4thのみの特性として、審査制があります。 一般のスピナーからJapEn4hのメンバーを選ぶように、一般市民から兵力を生み出す。 恐らく、HIDEAKIさんはこのことを言いたかったんでしょう。 どうやって一般市民を戦力になるまで育てたのかは知りませんが」 coco_Aが吐き捨てる。 それを待っていたかのように、澄んだ声が響いた。 「どうやったのか、教えてあげますよ」 沈黙。ゆっくりと、337が言う。 『侵入者、大広間・・・って言わなくても分かるよね』 「ええ」 coco_AとSEVENの前方。 aysh、imu、Sunrise、そしてayatoriが立っていた。 「どうも、こんにちは。SEVEN、coco_A」 穏やかな笑みを浮かべながら、ayatoriが言う。 「さて、じゃあ宣言どおり、お教えする。 ま、簡単に言うと旋転専用に、一からペンを作った。 それも、初心者から一定のレベルに出来るだけ早く達するのを目的としたペンをね。 意外と皆死ぬ気でやってもらえば、短期間で形になるんだよ」 「ayatoriさん、そんなことをしていいと・・・」 「ああ。無差別的に市民をスピナーにするのも、ペンの創造も、スピナーとしてタブーだ。分かってるよ」 「・・・、じゃあ、何故」 「coco_Aさん、もういいです」 SEVENがcoco_Aの言葉をさえぎる。 そして、ayatoriに向かって言い放つ。 「ayatoriさん、あなたをJEBの敵としてはっきりと認識します。 その急造のスピナーで他のスピナーを足止めしようと、今、王宮には精鋭が揃っています」 SEVENは今王宮にいるスピナーを思い浮かべる。 coco_A、toro、337、NIKoo、Bonito、kUzu、Pesp、POTATOMAN、それに自分。 9人の、国内最高と言っても過言じゃない面子だ。 「あなた達4人では適わない。大人しく、捕まって頂く」 SEVENの言葉に対し、ayatoriは小さく笑い声をあげた。 「SEVEN、僕達がその戦力差を埋める対策を、何もしていないとでも思ったのかい?」 そう言うと、指を鳴らした。 同時に、背後から7つの物体が浮かびあがった。 ほぼ透明の球体。直径は25cmほどだろうか。 その中で細長いもの―ペンが浮かび、ゆっくり回っている。 「さて、せっかくだから説明させてもらおうか。 タブーを犯したついでに、もう2つほど犯させてもらった。 1つは、もう知ってると思うけど、魔力を生む装置だ。 君達は1つ持っているね?手みたいな形のものだね。これは、あれを改良したものだ」 ayatoriの表情が笑顔であることに、SEVENは恐ろしさを覚えた。 「ただの魔力を生む装置じゃ質の良い魔力が生まれなかった。 だから、現存するスピナーの魔力を何かしらの形で集め、それを利用した。 これも、拾いと呼ばれるタブーだけどね。 そうして、あるスピナーをある程度まで再現する事が可能になった」 『s777もそれか』 coco_Aのペンダント越しに、NIKooが言った。 「そう。NIKoo君にBonito君、後は塔の上でtoroにSEVEN。 データ集めに協力ありがとう」 ガシャ、と何かが壊れる音がした。 NIKooが通信用のペンダントを握りつぶしたようだ。 「という訳で、こっちは11人だ」 ayatoriがニコリと笑う。 「・・・、なめないで下さい。そんな機械に本物のスピナーが負けるとでも?」 「どうかな?まあ、こっちのメンバーを見てから決めてくれ」 そう言うと、ayatoriがもう1度指を鳴らした。 同時に、背後に浮かぶ球体から魔力がにじみ出て、人の影のような形を作り出していく。 そのシルエットがはっきりしていくにつれ、coco_A、SEVENの表情が変わっていった。 「まさか・・・」 「そう。まあ現役のスピナーでもよかったんだけど、せっかくなら今居ない人の方が面白いだろ?」 一番右端の姿。 安定感のあるスタイルで知られ、かつてJEBの主力の1人として君臨した少年。 3年前の「あの」時には、バックタップを交えたFSで人々を魅了した、あの人だ。 その横に現れていく影も、「あの」メンバー達であった。 伝説の棒使い。 影を極めた男。 神速を操る者。 今なお語り継がれる、あの三人組。 「どうもあと2人は形にできなくてね。ま、僕がcirさん、imuさんがぼんさんの代わりって事にしてもらおう」 ayatoriの背後の10人が散開した。 「裏JapEn1st、とでも呼ぼうか。 JEB落としの始まりだ」 |
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