投下するスレ 11 |
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誰でもペンを回せる世界。 そんなことを考えたのは、いつからだっただろうか。 スピナーとして、その実力でJEBを駆け上がってきた。 決して道が平坦だった訳ではない。伸び悩んだ事も、世間から罵声を浴びた事もあった。 しかし、今、自分はJEBのエースと呼ばれるに至った。 一番上とは言えないとも思うが、一番上の層にいることぐらいは断言していいんじゃないかと思う。 そこまで自分が来たのは一体何があったからなのか。 ここまで自分を引っ張り上げたのは、何なのか。 多分、純粋な旋転への憧れだと思う。 ペン回しというものが、とりあえず好きなんだ、と。 「旋転をむやみに広めてはいけない」というしきたりは、そんなに古くからあるものではない。 旋転の創成期、スピナーは憧れられると同時に恐れられてもいた。 魔力というなんとも不明瞭で、かつ絶大な存在を操っているのだ。当然といえば当然なのかもしれない。 しかし、スピナーの間で研究が進み、魔力というものも理解され始めていくうち、その意識も変わっていった。 スピナーになろうとする者が現れてきたのである。 勿論、ペン回しの上達には才能や努力が必要だ。誰にでも出来る芸当ではない。 ただ、どんな人でもある程度の所までなら、到達する事が出来るというのも事実だ。 そういう背景もあって、JEBには、スピナーでありながらその魔力を有意義に使わない、あるいは悪用する、 そんな存在が現れ始めた。 スピナーは人から尊敬された。 それ故、その魔力を人々の為に使う事が求められたし、スピナーもそれを誇りにしていた。 だから、そんな存在をスピナー達は更正していこうとした。 そうしていく中で自然生まれたのが、このしきたりだった。 旋転を人に伝えて、さらにその人々にスピナーとしての道を示していく。 このことに途方のない疲労感を感じた彼等は、「旋転を人に伝える」という段階での制限をしたのである。 スピナーがスピナーであるための、また己たちが旋転を極めていくための、苦肉の策だったといわれている。 けれど、これは正しかったのか。 スピナーのしきたりとして広まった今では、このことに意見をしようとする者はいない。 本当にそれでいいのか。 旋転は確かに大きな力を生む。けれど、その力も含めて―僕は、旋転を素敵なものだと思う。 それを抑え付けてはいけないんじゃないか。 ペン回しという素晴らしいものを、もっと多くの人に広めていく。 そして悪しきスピナーが生まれるなら、それをこの手で治める。 それがスピナーとしての使命なんじゃないのか? 勿論、今の「しきたり」の意味も分かる。 この力の流布を監視し、大切に守りながら、正しい人々に伝えていく。 それがスピナーの使命なのかもしれない。 どっちか、と断言できる訳ではない。多分、皆そうだ。 なら、この2つの意見をぶつけていって、一番良い形を模索しなくちゃいけない。 いつ考え始めたのか、覚えていない。ただ、長い間心に秘めていた。 そして、2週間前のことになる。 初めて、自分以外の人にこの考えを話した。 その人は賛同して、後押ししくれた。 『きっと、話し合いじゃあ何も変わらない。 だから、力で新しくするんだ。世界というのは、いつの時もそうやって変わってきたんだ』 そんな熱弁を奮ってくれた。話を持ち出した自分が圧倒されるほどに。 急な話だとは思った。けれど、そこから何かが後押ししてくれているかのように事がすすんだ。 出来すぎているように揃った技術、進んだ準備。 神を信じるつもりはないが、もしいるとしたら。 きっとこれは、今動けと、そういうサインなんだと思った。 ―そうして僕は、JEBの向こう岸に立った。 |
360度、あらゆる場所から植物が襲ってくる。 『魔力を強引に使った、押しつぶすような攻撃』。 そう傍からは見えているんだろうな。 ペンを回す。強力なアラウンドを小技の間に散りばめていく。 生まれるのは、「力」。この世の物理法則の根本を成すもの。 植物はどれも自分の数m手前で見えない壁に当たったかのようにへし曲がる。 ayatoriの鮮やかな防御である。 「ちっ」 NIKooが舌打ちをする。 大広間で繰り広げられる、一見力と力の真っ向勝負のようなこの攻防。 しかし、戦闘している2人にしか分からない、見えない攻防も同時に存在していた。 NIKooは、大規模でかつ荒い攻撃の中に、いくつかの鋭い別種類の攻撃を撃って来ている。 正確に自分の死角を突こうとする細い槍が、あの植物群の中に紛れ込んでいるのだ。 ayatoriはそれを正確に察し、そこにだけさらに強力な力を送り込んで防いでいる。 さらに、NIKooは攻撃のたびにその「隠し針」の本数、方向、特性を変えている。 彼の豊富な戦闘経験の中で見出した戦法であり、トリッキーな技を数多くこなす彼だからこそ出来る芸当である。 そして、その全てを、ayatoriは防いでいた。 勿論、それを隠している大味な攻撃も並大抵の力で防げるものではない。 その2つを当然のように同時にこなしてしまう。JEBのエースの名は伊達ではない。 世界有数のスピナー同士の、見事な攻防であった。 「・・・」 「・・・」 両者の間に沈黙が走る。互いに攻撃のタイミングを計りあっている。 そろそろ、僕からも行くか。ここまで防戦ばっかりだからね。 高速でのスプレッド。生まれた魔力を、その後のソニック系統でさらに練りこんでいく。 そうしてayatoriの左手に生じたのは、黒い球体であった。 それを、NIKooの方に放った。 「なんだ?」 NIKooは自分のはるか前方、いくつもの葉でそれを止めようとする。 葉がその球体に触れた瞬間。球体に飲み込まれた。 一瞬後、粉々になった破片が地に落ちる。 「っ!」 NIKooが息を呑んだ。 この球体は、自分が操るのを得意としている、「物理的な力」を中に凝縮したものだ。 球体内では高濃度の引力・斥力が複雑に絡み合っている。 「触れたら、骨折じゃすまねえな」 「そうだね、それよりは痛いと思う」 小さく笑う。NIKooは気分を害したような表情をする。 「ナメやがって」 宙をふわふわと浮く球体。 ayatoriが再びペンを始動させたのと同時に、NIKooの方へ一気に加速した。 NIKooが横に回避しようとするが、そのNIKooを追うように球体が動く。 「っ」 逃げるのは無理だ、と判断したNIKoo。 「無限、ってこたーねーだろ」 その声とともに、地面から二本の太い蔓が出でる。 その植物は、今までのものと違い、びっしりと棘で覆われていた。 近づいてくる球体に、連続して細い棘が幾重にも撃ち込まれていく。 NIKooのペンも止まらない。 相当な量の棘を地に帰したのち、球体は消えた。 見事だ。正面から打ち破られるとは、ちょっと予想外だった。 「流石だね」 「・・・」 「じゃ、倍で行ってみよう」 2つの新しい球体。NIKooが表情をさらに引き締めた。 |
王宮の西の建物の上。 足元も安定しない場所で戦闘となっていたのは、Bonitoとtaro。 「今度はどう来る・・・?」 そう呟くBonitoの体には、いたるところに切り傷が見える。 彼は、まだtaroの神速に対応しかねていた。 Bonitoはtaroの戦闘を直接見た経験は無く、ただ神速という名称を聞いたことがあるだけだった。 そして、今目の前にいる男は、想像とは違った速さを持っていた。 taroのペンがゆっくりと始動する。 Bonitoも攻撃に備える。 taroが正面から飛び込んでくる。 だが、この速さはそこまで常識外れの速さではない。Bonitoも反応する。 そして、第一撃の風の刃をBonitoの水壁が防いだ瞬間。 Bonitoを、いくつもの刃が連続して襲った。 「っ・・・!」 防御する。しかし、追いきれない。 手と足に、また切り傷が増える。 そして、Bonitoが反撃する暇なく、taroはまた一定の距離まで下がった。 さっきから、このヒットアンドアウェイをひたすら繰り返してくる。 「14・・・」 相手の攻撃数だ。また増えた。さっきは11だった。 taroの繰り出す技も攻撃も、驚異的なものではない。 ソニックひねりを中心としたオーソドックスなソニック系のコンボだ。 けれど、それが速い。そして、何より鋭い。 防御を得意とするBonitoにとって、ここまで相手の攻撃をもらっているのは久しぶりの経験だった。 なんせ、相手は防御のしようがない攻撃をしてくる。 一度に作り上げた膨大な魔力で、津波のような攻撃をしてくるのなら、 こちらとしても強力な水壁で迎撃すれば良い。 だが、taroさんは自分のすぐそばまで切り込んできて、そして「その場で」撃つ。 つまり、こちらの防御を見て、反応して、その間に、あるいは内側から攻撃をしてくる。 そのこちらの防御に対する驚異的な反射神経。これが、恐らく神速と呼ばれる所以なのだろう。 「仕方ない・・・」 Bonitoが相手に向かって踏み込む。 自分から攻めるのは自分のスタイルではないが、防戦にはちょっと向いていなさそうな相手だ。 Bonitoのペンが絶え間なく動く。 鮮やかな繋ぎ。技と技が完璧な連携の元で連結している。 水の刀。手で握るわけではないが、そういうイメージを自分は持っている。 taroに切りかかる。しかし、見事に反応され、防御される。 神懸かった反射がしっかりと守りにも生かされている。 なら・・・ 水の刀を解除。一歩引くと、今度は水の量を一気に増やす。 「こういうので、どうだ」 強烈なアラウンド。津波がtaroを襲う。 飲み込んだら、一気に水圧を増して押しつぶしてやろう。 そうBonitoは目論んだが、taroはそれを察したように、津波を鮮やかに―突き抜いた。 「なっ?」 刃を前方に引っさげ、高速で強引に突き破ってきた。 taroは、左右あるいは後方に回避しようとすると予想していた。 だから、津波自体の強化・警戒を怠った。 虚を突かれたBonitoを、taroが襲う。 「やばっ・・・」 大技で決めにかかったBonitoに隙があった。 それを見たtaroは、今までの手数重視の技ではない、鮮やかなアラウンドを繰り出す。 Bonitoを仕留めにかかった攻撃。 唸りを上げる火弾。 それを―Bonitoは、止めた。 鮮やかなBonitoのペン捌き。強力なアラウンドを放ったばかりでも、そのペンの位置はまだ安定性を保っていた。 急造した水球。その水球も急造でありながら、taroの火球に対する的確な配置、さらに十分な強度を持っていた。 taroも、Bonitoの防御能力の高さを見誤っていたのである。 「やっぱ俺は防御型だなぁ」 Bonitoが、初めて相手を自分の距離に捕らえた。それを、Bonitoは逃さない。 水の槍がtaroに突進する。 taroが必死の回避を見せるも、うち一本が炸裂する。 「・・・」 どうだ? 相手の正体は魔力を生む装置、その本体が相手の下腹部に位置しているのを、Bonitoは早くから感じていた。 構造上筒抜けになっているのか、今戦闘しているスピナーも皆分かっているだろう。 数秒後。 taroは、まだ立っている。 「あー・・・最後まで入らなかったか」 まあ、微妙に浅いとは思った。ぎりぎりで後退されて、距離から逃げられたか。 だが、とりあえずダメージは与えられたはずだ。 「どれ」 やっぱり俺は防御型っぽいんだが、どうしたものか。 Bonitoは考えながら、勝利への手ごたえも感じていた。 |
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