投下するスレ 13
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自信の根拠は、相性であった。

まず1つは、使う力の種類。

互いの使う力は、互いの名の通りのものだ。
自分は、熱。太陽のごとき光、そこから得られるエネルギーを用いる。
対するは、雪。氷に水に形を変えながら、自在に飛び回る創造性の高い素材。
2つとも一見戦闘向きではなさそうだが、その力は高い。

そして、雪と熱ならば、一般的に見て熱に分がある。そう考えていた。

そしてもう1つは、旋転の種類。

自分のアラウンドやマルチプルは、国内でかなりの威力を誇ると自負している。
それによる、力で押す戦いが持ち味。
対する相手は、難易度は無くとも魅せる旋転で、補助的なもののほうが得意だ。

力勝負になれば必ずこちらの勝ちだ。
戦闘という点に限るなら、自分の方が上だという自負があった。

「見くびっていたよ、冬」

しかし、相手は見事にこのハンデを乗り越え、いや利用して、
ここまで互いにほとんど無傷。自分の予想した展開とはまったく異なる。

「・・・相変わらず見る目が無いな」

「言ってくれる」

冬の周りで雪が舞っている。

「おいる、そろそろ目が覚めたんじゃないのか?」

「・・・、何の話だ?」

「お前は・・・今回の協会に、不信感をもった事が無いのか?」

winterの問いに、少し考えた後、Sunriseが答える。

「なくはない。だが、今回のことを言い出したのは他でもない姫だ。
それだけで、信頼するには事足りるとは思わないか」

「・・・あきれるな・・・お前は、その『姫が言い出した』ということに違和感を持たなかったのか、と聞いている」

ピクリ、とSunriseが反応する。それを見ながら、winterは続ける。

「姫がこんなことをするはずがない、と・・・思うのが普通だ。
姫の身に何かあったか、などとは考えなかったのか?」

「何を・・・」

Sunriseが少し苛立ったように答える。

「あの姫だぞ?誰かに騙されたり、利用されたり、そんなことがあるはずもない」

「力ずく、という事もある・・・ayatoriの奴なら、可能だからな」

「・・・それに、今回の話には、俺自信も納得している。
やり方は強引かもしれないが、最低限のことは守る。俺達だって、好きでこんな事をしてる訳ではない」

「死人さえ出うる戦闘で、最低限のことも糞もあるか」

「好きに言え。殺すまではしない。俺達も・・」







そこで、Sunriseの言葉をさえぎったのは、窓が割れる音であった。
中に飛び込んできたのは、

「SEVEN・・・!?」

ガラスが散乱する中でSEVENは倒れたまま動かない。
その右手から、ペンが落ちて床に転がっていた。

「総合管理人が最初に倒れたか。これで、数的均衡は破れたな」

ニヤリ、とSunriseが笑う。

割れたまどから、少年の姿をしたものが入ってくる。ろひである。

「安心しろ、生け捕りにするだけだ。
冬、次はお前の番だぞ」

そんなSunriseの挑発じみた言葉を無視して、winterは集中を維持していた。
それゆえ、彼の反応は鋭かった。

瞬時に宙を走った雪が、白い防御となり、ろひの斬撃を止める。
その場所は、倒れているSEVENの、首だった。

「おいる・・・何が殺さない、だ」

今の斬撃は、一体誰が見ても、SEVENを殺さんとするものだった。

「待て・・・俺は・・・」

ろひはwinterをちらりと見た後、窓から去っていった。

「殺しはしないように、装置も定められていると・・・」

「・・・おいる」

「そんな・・・はずでは・・・」

「おいる!」


winterの大声に、Sunriseは我に返った。

「目が覚めたか?」

「・・・」

「そんな甘い話を信じたお前は、阿呆だ。だが、それを責めている場合じゃない。
この装置を作ったのは、誰だ」

「・・・詳しい話は聞いていないが、恐らく、ayatori・・・」

「なら、お前が今相手するべきなのが、誰だか分かるだろう」

Sunriseはひとつ頷くと、広間から全速力で飛び出していった。

その姿をwinterは見送ると、介抱のためにSEVENの元へ近寄った。

「・・・おいるがこんなことを信じるとはな・・・」

頭は良く、そこまでお人好し過ぎる訳でもない。普通なら騙される奴ではないはずだ。

だが、信じてしまうものなのかもしれない。姫、imuさん、そしてayatoriに説得されれば。







「(折れたな)」

腹部に手を当てながら、そうNIKooは思った。
初めての経験ではないから、なんとなく分かる。

今まで以上に、強くayatoriを睨みつける。
さっきの攻撃は強烈だった。黒球で撹乱されて、避けきることが出来なかった。

身が裂けるような痛み。重い一撃をもらってしまったことへの悔しさ。
これを、どう作用させるか。集中力を失うのか、逆に感覚を研ぎ澄ますのか。

この逆境を跳ね返すには、当然後者でなくてはならない。
しかし―

「(正直、キツイな)」

目の前にいる男との多大なる実力差。それを、NIKooは確かに感じ取っていた。
イった肋骨の面倒を見ながら相手するのは、流石に厳しい。

「おい。俺は殺されんのか?」

「・・・また、いきなりな質問だね」

ayatoriが苦笑しつつ答える。

「殺しはしないさ。生け捕りにするだけだ」

「ちょっと間違えば死ぬような攻撃ばっかして来る癖に、か?」

「君の力を信頼して、だよ」

「・・・」

NIKooは黙ってペンを握り直した。

「ん、諦めたんじゃなかったのか」

「殺されねーならギリギリまでやらせてもらう」

「そうか。でも、時間を稼がせるのは僕の得にならないな」

そう言って、ayatoriはペンを回す。
その強力な魔力に、NIKooの表情は曇る。

「(殺す気だろ・・・)」

NIKooも全力の旋転。

耐え切れる、という確信は持てない。
だが、やるしかない。集中する。

ayatoriが、左手をさっと、こちらに向けた。
同時に強力な力の渦が、NIKooに向かって突進する。
NIKooの全力の防御も僅かに、及ばず―

そこで、2人の間に割って入った何かがあった。

NIKooの植物群をへし折ってなお、残された力。
それを、火炎とも違う、「灼熱」が迎撃した。

数秒間のせめぎ合いの後、一陣の風を残して、2つの勢力は引き分けた。


「ayatori・・・貴様・・・」

怒りに声を震わせながら、Sunriseが言った。

「おいるさん。何をしているんです?」

Sunriseと対照的に、ayatoriの表情・声は至って冷静であった。

「黙れ・・・貴様、俺達を騙していたのか」

ふむ、とayatoriは少し考えた後、

「まあ、そう言われてもしょうがないですね。
でも、最初に敵に回られるのが、おいるさんとは意外でしたね」

「・・・ayatori・・・」

Sunriseは深く拳を握り締めた。
ayatoriの発言は、騙していると自分達に気付かれるのも、彼の想定内だった事を示していたからである。

「さて、参ったな。最初にあなたに来られたんじゃ、説得の駒がない。
おいるさんにも、首輪をつけておくべきだったかな」

誰に言うでもなくそんなことを言ったayatoriは、右手のペンを鋭く回した。
1軸、2軸の周りに、高速で巻きつくペン。

「退場してもらいますよ」

Sunriseの後ろでNIKooは唇をかんだ。
ayatoriは、自分に対してのとき以上に、本気であった。

「・・・っ」

Sunriseの中にその瞬間まで渦巻いていたのは、
ayatoriに向けてなのか自分に向けてなのかは定かではなかったが、怒りであった。

その怒りが。Sunriseの判断力を曇らせていた。







相手もぼちぼちスタミナが切れてきたのか、不用意な攻撃が増えてきた。

「・・・」

だが、焦らない。相手の神速は健在。
半端な攻撃は反応される。

だから、待って、待って、待って・・・

「来た」

攻める。

刃の斬撃。槍での刺突。そして、単純な殴打。
単純ではない。かつ、とまらない。

まったく止まらない、高速での連続パスによる、烈火のごとき連続攻撃。
たろも反応している。だが、一撃一撃の重さが違う。

「(貰った)」

Bonitoは勝利を確信した。

しかしその瞬間、Bonitoの攻撃を横から打ち払うものがあった。

「っ」

続いて、自分にも攻撃が来る。
慌てて防御に回る。

突然の闖入者。
その正体は、ろひさんであった。

「・・・最悪だ」

周りを見渡すが、SEVENの姿はない。
これが意味するのは。
彼の敗北以外に、ないだろう。

息を1つ吐き、ペンを握りなおす。

1対2は普通にきつい。

「・・・」

Bonitoは、旋転のスタイルを変えた。


どんな戦法をとるにせよ、とにかくいけないのは「受身」になることだ。
自分は防御を得意とするスピナーだが、防御中心の戦闘は受身という訳ではない。
自分にとっての防御とは、あくまで相手を倒すための手段だから。

しかし、今、おそらくSEVENが敗れた。恐らく戦局もかなり動いてくる。
なら、その流れに呑まれるのが一番怖い。

「(防御に徹して2人を足止めしよう)」

相手にやられないこと。これが今、不利な状況下で自分に求められるものだ。

ろひの攻撃を受けながら、Bonitoは唇をかみ締めた。
―あと20秒あれば、倒せていた。







「・・・」

俺のときは、まったく本気じゃなかった。
いや、今も本気なのか、分からない。

「嘘だろ・・・」

Sunriseさんが、圧倒されている。


2人の戦闘は、大味なものになった。
豪快な技でならす両雄の対決だ。当然といえば当然なのかもしれない。

そして、その力と力のぶつかり合いにおいて、
ayatoriはSunriseを大きく上回る力を見せていた。

「ちっ」

こういう戦闘は、本当なら混ざりたくない。
だが、このままじゃSunriseさんが負ける。それを黙って見過ごす訳には行かない。

「助太刀させてもらうぜ、Sunriseさん」

進み出る。だが、それをSunriseが制する。

「NIKoo・・・邪魔をするな・・・」

劣勢は明らか。
だが、それでもなおayatoriと果敢に闘おうとするSunrise。

その姿勢が、NIKooにとっては邪魔となる。
後ろからの援護以上のことが出来ない。

「・・・糞ッ!」


そして。

ayatoriの強烈な一撃が、Sunriseを捕らえた。

膝をつくSunrise。

「まだ・・・だ・・・」

胸の辺りを押さえ、息を荒くしながらSunriseが言う。

「強がりは良くないですよ。
さて、では2人いっぺんに退場願いましょう」

ayatoriの鮮やかなスプレッド見て、NIKooは、覚悟を決めた。
視線は鋭く、ayatoriをじっと見据えたまま。


だが、ayatoriが攻撃を撃つ前に、2人をあるものが囲んだ。
それは、冷機を漂わせた、氷壁。

それを見たayatoriが、表情を一瞬で引き締める。


ayatoriと2人の間に、aysh、そしてimuが降り立った。

「さて、来ましたか」

「・・・おいるを先に倒れさせる訳には行かないものね」

「そういうことだ。ayatori、僕達はここまでだ。お前にはもう賛同できない」

aysh、imuがayatoriに向かって言い放つ。

「どうも半端なタイミングですね。
これはつまり、覚悟を決めたという事ですか?」

「そうよ。持っていきなさい」

「・・・残念ですが、仕方ありませんね」

「姫!」

氷越しに、Sunriseが声を上げた。

「待ってください、一体・・・どういう・・・」

「・・・。
おいる。許してとは言わないけど、ごめんね」

ayshが、ぽつりと言った。
うつむいて、唇をかみ締めながら、悔しそうに。

ayatoriが、懐から一本のペンを取り出した。
その瞬間、ayshの左手、imuの右手、それぞれのその手首に、紫色のリングが浮かび上がった。




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