投下するスレ 14

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「・・・!?」

NIKoo、Sunriseが息を呑む。

「ayatori・・・てめえ・・・」

その魔力に満ちた、「利き腕」につけられたリング。
その意味を、2人は瞬時に理解した。

「ご明察・・・って訳ではないか。なんとなく分かるね、普通。
僕自身によるものではないんだけど、このペンを回せば発動する。
効果は、まあ端的に言えば、手が使えなくなるね」

「・・・利き腕が、スピナーにとってどんだけ大事か分かってんのか」

NIKooが怒りに満ちた声で言う。

「分かっているからこそこんな手をとった、とも言えるんじゃないかな。
僕もスピナーだ、分からない訳がないだろ」


自分の利き腕がなくなったら。
それは死と同じくらい、あるいはそれ以上のものかもしれない、とSunriseは感じた。

「じゃあ・・・姫・・・最初から・・・」

「・・・そうよ」

「ayatori、てめえどうやって、姫とimuさんにこんなもん付けやがった」

NIKooの言葉に、ayatoriはふと思い当たったような顔をして、

「ん・・・ああ、そういえばそっちもまだ残っていたな。
姫とimuさん、彼はどうするのをご所望ですか?」

「何か言ったら、その通りになるのか?」

imuが言う。

「はは、そうですね。そちらの意見を聞く訳にはいきませんね。
ですが、、とりあえず生かしておきますよ。
おふたり以外にも効果がありそうな人ですからね」

「他にも人質がいるのか?一体、誰を?」

Sunriseが問う。それに対して、姫が、

「Crasherよ」

と、低い声で答えた。

「最初にCrasherを人質に取られて、従わされたわ。
その時、嵌められて・・・これを付けられたのよ」

「・・・、じゃあ、ずっと2人はayatoriの、いいなりだったのですか?」

「そうだ。Sunrise、本当にすまなかった」

imuが、苦しそうに謝る。

「旋転の開放という理論が分からないわけではない。
だが、少なくとも僕や姫は違う考えだし、何よりこんなやり方が、正しいはずがない。
これがなかったら」

imuが自分の右手に手をやる。

「こんな事はしていない。
・・・君にはずっと嘘の理論を言ってきたということになる。許してくれ」

そんな謝罪を聞くほど、Sunriseは自責の念に駆られた。

「(どうして・・・気付かなかったんだろう)」

2人がこんな状況にあることなど、一緒に行動してきた自分が気付くべきだった。
どうして気付けなかったのか。気付いていたなら、何か行動も出来たはずだ。

もしかしたら、姫やimuさんも、それを期待していたのかもしれない。
ただ従っていたのは、すぐそばにいる自分達を信用してくれていたのかもしれない。

そうでなければ、こんな卑劣な手を使われても、2人が黙っているはずはないのだ。
そういう人なんだ。

「(・・・ん?)」

Sunriseは何かに気付いたように、2人を氷越しに見つめた。

「さて、そろそろおしゃべりは止めにしましょうか」

ayatoriが口を開く。

「本当はまだ協力して欲しいんですが、寝首をかかれるのが怖いのでね。
手を頂きますよ」

そして、ペンを構えた。







「Mizm」

「・・・・・・、はさ、み」

「大丈夫?」

「うん・・・。
どうしてここに?」

「んーとね、私も捕まっちゃった、って感じ」

Mizmとはさみは、同じ牢の中に居た。

「・・・、誰、に?」

「ここに連れて来たのは、outsiderさん」

「・・・」

Mizmは何も言わない。

はさみは、外を窺った。
誰も居ない。今さら、私達を警戒する必要はないということだろうか。

「Mizm」

はさみが少し声を落として言った。。

「姫は、違うと思うの。自分からこんなことしてるんじゃない、って」

「・・・え・・・?」

「多分だけど、誰かを人質にとられたとかして、仕方なく。
imuさんとかも一緒だと思う」

「・・・、どうしてそう?」

Mizmの問いに、はさみは少し考え込んで、

「んーと、私も同じ手を使われちゃったから、かな」

その言葉にMizmははっとしたような顔をして、

「あ・・・まさか、私が・・・」

「ううん。それは気にしなくていいの。
それよりMizm、姫について何か気付いた事ない?」

「気付いた事・・・?」

はさみはうなずいて、姫の姿、性格を思い出しながら、言った。

「あの姫さんだもん、ただ相手のいいなりになるなんて、おかしいよ」

「・・・」

その問いに、Mizmはすぐに思い当たった。

「くらさん」

「くらさん?」

「くらさんと、コンタクトを取ってる、とか」

Mizmが続けて、

「ちょっとその・・・imuさんと2人きりで話してる所で、盗聴っぽいことをして・・・
雑音交じりだったけど、多分そう言ってた」

くらさん、か。
その名前に関してははさみも心当たりがあった。

ayatoriさんとお店で話をして、旅に行ったという話だ。
もしかしたら、そこから繋がるかもしれない。

「姫が、そう言ってたの?」

「うん・・・。姫が『くらさんとコンタクトはとれた?』って聞いて」

「(あれ?)」

Mizmの言葉に、はさみは違和感を感じた。

「imuさんが、『はい。後は、あの人次第だ』って答えてた」

「・・・、絶対そう言ったの?」

「雑音交じりだけど、多分そう言ったと思う。
・・・なんか変な所あった?」

「うん」

だって、姫は・・・







「待て、ayatori」

Sunriseが大声を張り上げ、ayatoriに待ったをかけた。

先程までとは違い、頭の中が急に冷えわたってきた。
すうと、視界が開けたような感覚だ。

「ここで2人の手を奪って良いのか?」

「どういうことですか?」

「なんだ、分からないのか」

言った後、たっぷりと間を取る。

そう、時間をできるだけかけて。


そうだ。姫やimuさんが、何も対策をしないまま、こんな所までずるずる来るはずがないのだ。
自分達に任せるとしても、それらしいサインを出すとかしてもいい。

今日だって、自分がayatoriにやられるギリギリまでJEBの敵側に立っていた。

それは、なぜか。
何か、切り札がある。何かは分からないけど、ギリギリまで待つに値する何かが。

なら、自分もギリギリまで、時間を稼ぐ。
姫が、imuさんが頼ったものなら、俺だって信頼する価値があるはずだから。

「2人がどういう人だか、分からない訳じゃないだろう」

「・・・、なるほど、2人は手を失わさせるには勿体無さ過ぎる、ということですか?」

「まあ、それもあるな。2人はJEB屈指の旋転の力を持っているのは確かに事実だ。
だが、それだけではない」

「おいるさん、やけにもったいぶりますね・・・何が言いたいんです?」

「カリスマ性だ。
お前はこれから新しい政府を作る気なのだろう?
なら、民衆の心を掌握するために、2人の力は必要だとは思わんか?」

「ええ、思っていますよ。
だから、手を頂いて反抗できないようにして、ご協力いただこうとしてるんじゃないですか。
この旧政を倒す戦闘で失った、ってことにでもすればいいですからね」

内容は適当、その場しのぎだ。
だが、ayatoriが結構食いついてくれている。

「お前は分かっていないな・・・。
姫やimuさんのカリスマ性がどこから来ているのか分かっていない。
それは、間違いなく、2人の旋転だ。
姫は毒栗という、見栄えも回しやすさも完璧とは言えないペンを用いて見事な旋転をする。
その旋転への真摯な気持ちが人々の心を打っている。
imuさんだって、独創性豊かな旋転が、民衆の心を惹きつけたんだ。
2人の魅力は旋転だけじゃない。けど、旋転抜きでも、語れないんだ」


Sunriseの長い語り。

それは、時間稼ぎのためではあっても、即興で紡いだ言葉であっても、
彼の心からの気持ち―2人への心からの思慕を、強く表しているようだった。

「・・・」

ayatoriはしばらく黙ったままだった。

そして、ひとつ頷いた後、

「まあ、そうですね・・・でも、2人をそのままにするのは、受け入れられませんね」

ayatoriが人差し指を、すっと伸ばした。

「僕の本気を示すという意味でも、どちらか1人の手を頂きましょう。
どちらでも、構いませんが・・・やはり、会長殿は残したほうがいいかな?」

そう言って、ペンを改めて構えるayatori。

「待て!」

Sunriseが叫ぶ。

同時に、機を狙っていたNIKooの鋭い攻撃がayatoriの手を突く。
しかし、見越していたようにayatoriに軽く防御される。

そして、ayatoriのペンが、くるりと1回転した。

imuの右手のリングが―


小さな音を立てて、地に落ちた。

地に落ちたリングは、すぐに蒸発するように消えてなくなった。
ayshのものも同様であった。







「いも君!」

王宮内。
coco_Aが鉢合わせたいもに言う。

「姫は?」

「それが、戦闘中に突然どこかに行っちゃって・・・」

「こっちのimuさんもだ。どこに行った?」

「さあ・・・ん、え?」

突然、いもがびくりとした。
そして、まさか、という顔をしながら、懐からペンを取り出し、それをぎゅっと握った。

「え・・・?え?」

そして、困惑をあらわにしつつ、何かを聞いている。

「いも君?」

「わ、分かった」

そう握った手に向けて言うと、いもは駆け出した。







「だって、姫は、そんな呼び方しないよ」

「え?」

はさみの言葉に、Mizmが虚を突かれたような顔をする。

「姫は、くらさんの事はCrasherって呼ぶじゃない」

「あ・・・」

「姫は少し面識のある人なら、『さん』なんて付けないよ」

確かにそうだ。姫が『くらさん』なんて口にしているのは聞いた事はない。

「じゃあ・・・」

あれは何かの聞き間違い?
いや、確かに雑音交じりだったが、「くらさん」という言葉は確かに聞こえた。
・・・、じゃあ、その、例えば前後に・・・

「あ」

そして、Mizmは気が付いた。







「な・・・」

ayatoriが愕然としている。

「間一髪、ね」

姫がすっと微笑を浮かべ、言った。

「どうやって・・・捜索をしているそぶりなど、まったく・・・」

「物事には何でもスペシャリスト、ってのが存在するのよ」

「姫さーん!」

大広間にいもが現れ、姫に向かって叫ぶ。

「これをー!」

そして、ayshに向かってペンを放り投げた。

ayshがそれを受け取る。
そして、そのペン―ラッションペンを通して、低くかすれた声が流れた。

『・・・終わりました』

「ギリギリだったわよ」

『・・・では、間に合ったという事ですね。
力自体の使い手はawawaさんでしたが、彼だけでなくenotさんも居たので少し時間を食ってしまいました。
ああ、くらさんも無事ですので、ご心配なく』

「そう、良かったわ。
あなたは今どこに?」

『2人の隠れ家を出て、今王宮に向かってます。
東北のはずれの方だったので、もう少しかかりますが、出来るだけ急ぎます』

「分かったわ。
本当にありがとう、nekuraさん」


「さて、形勢逆転だな、ayatori」

imuがayatoriに向かって言う。

「今ならまだ間に合うかもしれない。降参する気はないか?」

「・・・何を。姫やimuさん、おいるさんが消えるのは想定の範囲内ですよ。
完全に相手側に回られるのはちょっと予想外ではありましたが・・・まだ、やれる」

ayatoriの表情は完全に憔悴を隠しきれていない。
しかし、眼光はまだ鋭いままである。

「NIKoo、まだ戦えるかしら?」

「・・・まあ、多少なら」

「じゃあ、他の所の手助けに行って。
ayatoriは、私とimuに任せて欲しいわ」

そう言うと、一拍おいた後に姫は、
お返ししたいからね、と付け加えた。




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