投下するスレ 17

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王宮の巨大な正門。
そこから王宮の大広間に至る橋。

ayatoriとaysh、imuの戦闘は、そこに場所を移していた。

門を背にするayatoriを、ayshの攻撃が襲う。
それをayatoriは受けずに、後ろへと退いてかわす。

ここは、石造りの橋の上。
それも、古くからある由緒正しいものであり、耐久性に優れているとは言いがたい。

今その上にいるayatoriは勿論、aysh・imuにとっても、この上での大規模な攻撃は躊躇われた。

「・・・」

ayatoriはじっと相手を見る。
状況を打破するために、自分から場所を移した。
予想通り相手も誘い出される形にはなったものの、思っていたより戦闘がしづらい。

ちらりと後ろを見る。門まで、あと数m。

「(よし・・・)」

ayatoriは頭の中で考えを巡らす。

「ayatoriどうした、王宮の外に逃げようなんて考えてないだろうな」

「・・・」

imuの言葉をayatoriは無視する。

その姿を見て、ayshが再び仕掛ける。

氷の結晶が地から次々と出で、ayatoriに向かって奔る。
それを見て、ayatoriは内心にやりとしながら、再び後ろに退く。
それを追うように氷は地を駆ける。

そして、ayatoriが背を門につけたとき。
ペンを一気に加速させ、ayatoriは上に飛び上がろうと力を込める。

ayatoriのは、追い詰められる形をとりつつ門まで退き、
そこで上に跳び、門を踏み台にして、一気に2人へ迫ろうと考えた。
頑丈な門なら、思い切り力を加えても問題ないと見たからである。


しかし、それを読んでいた者があった。

ayatoriの頭上を、火球が襲う。

「っ!」

ayatoriは上に飛び上がるのを中断する。
そこにayshの氷が迫る。

ayatoriは鋭くスプレッドをし、生んだ力を背後の門に向けた。

鈍い音を立てながら、その質量にそぐわない速さで門がこじけられる。
そこからayatoriは後ろに下がって門の外へと出た。

予想外の動きに、ayshの攻めが一瞬ひるんだ。その間に、ayatoriが体勢を整える。

着地後、ayatoriがきっと2人の方を見ると、ayshとimuの間に1人の人物―coco_Aが降り立っていた。

「惜しかったわね」







「はい・・・まさか門を自力で開けるとは」

門は通常のやり方の場合、10人単位の人数で、しかもかなり時間をかけて開けられる。
あんな開け方が出来るのは、ayatoriぐらいのものだろう、

「おいayatori、本気で逃げようとか考えてないよな」

「逃げませんよ。
・・・そんなことして、何になる」

imuの問いにayatoriが低い声で答える。

「確かにそうだ。だが、coco_Aがここに居る意味を理解すれば、あるいはな」

「・・・」

言われなくても分かっている。
相手の手が空いている、ということは、こっちの誰かが負けたという事だ。

「coco_A、どこまで終わったの?」

ayshの問いに、coco_Aより早く答える声がした。

「ここ以外は終わったようです」

小さく低く、だがなぜかよく響く声。
ゆっくりと、暗い雰囲気を纏って男が現れる。

「nekuraさん」

ayshの呼びかけに、nekuraは軽く会釈して答える。

「丁度今、来た所です。
もう王宮内で戦闘の気配はありません。残っているのは、ここだけです」

「・・・」

その言葉に、ayatoriの周りの雰囲気が変わる。


「だそうよ、ayatori」

ayshが、ゆっくりと言う。

「あなたの負けね」

その言葉に、ayatoriは俯いたまましばらく黙っていた。

そして、無表情のまま、ゆっくりと顔を上げて、

「・・・そのようですね」

と、ぽつりと言った。







「・・・あれ?」

塔の上に横たわるtoro。彼は、突然あるおかしな点に気付いた。


左側に何となしに目をやったとき、
自分が撃った火球によって露出した、あの「小部屋」が目に入った。
装置があった場所だ。まだ直されてはいなかった。

―自分がここで、SEVEN君と相対した影。
あれは、装置の実験だった。ayatoriさんも断言している。

でも、実験をするなら。
その「データ」を取らなくちゃ、意味がない。

だが、ここでの戦闘は、自分とSEVEN以外は見ていないはずだ。

一体、どうやった?

魔力を使って遠くから監視?

いや、ありえない。自分は、魔力の出所を探るのに、この辺りの魔力の流れを調べた。
離れた所からの監視、あるいはデータを飛ばすような装置があれば、気付かないはずがない。

となると、残るは1つ。

あの装置自体に記録装置がついていた、ということだ。

しかし、その場合、あの装置から記録を回収する必要がある。

でも、どうやって?

あの後、あの装置は、すぐにcoco_Aさんの所に持っていった。
それ以降は、大臣とかがチェックしただけで外部人のの手には触れてない。

・・・いや、待て。

toroが、体を素早く起こした。

「そんなはずない・・・けど・・・」

それ以外、ない。
そういえば、あの人を見ていない―。







「ayatori、もう無駄な抵抗はしないか?」

imuの問いに、ayatoriは首を一度縦に振る。

「もう、無駄でしょう」

「ayatoriさん・・・あなたは、やり方を間違ってしまった」

coco_Aが口を開く。

「力で物事を変えるのは、正しいことじゃない。
だから、こうしてあなたは負けてしまった。そう私は思います」

「・・・、随分偉そうな口を利くね、coco_A」

力のこもっていない目でayatoriは言う。

「確かに、君は正しいかもしれない。
だが、今は分からない。負けたという結果だけしか・・・認められない。
そして、後悔もしていない」

ayatoriが間をおく。

「ただ・・・、いや、なんでもない」

何かを言いかけて、ayatoriが口をつぐむ。

「大人しくつかまる事にするよ」

ayatoriが、門をくぐろうと一歩踏み出す。

やっと終わりか。
そうcoco_Aは思った。

しかし。
それは遮られた。

突如として、透明な壁が彼の前―門の所に現れた。

「・・・な?」

驚くayatoriを尻目に、その壁は、瞬く間に半球状に広がり、王宮全体を囲んでいった。







「これは・・・」


337が地下室から出て、王宮内を歩いている時だった。
異様な雰囲気を察して外に出ると、王宮が「壁」に囲まれていくのが見える。

無色の壁―outsiderさんか?

一瞬そう思った337だったが、すぐにその壁に普段のoutsiderのそれとは異なる点あることに気付く。
時折、その壁の中を、黄色い閃光―雷が走っていた。

その壁から発せられる魔力に、337は懐かしいものを感じた。

「栗、くん?」


栗こと、cir。伝説のエース。


速さ、鋭さ、難易度、構成、完成度・・・。
あらゆる面で当時のJEB最高峰を誇った、その気高き旋転。
その若さに関わらずJapEn1stの大将を務めたことからも、その実力を知る事が出来るだろう。

今は消息が分からないが、どこかで旋転を続けていると聞く。


そんな彼の魔力が、王宮を囲んだ壁から感じられる。

「・・・、栗くんのも、あったってこと、か」

これもきっと、あの「装置」なんだろう。
彼まで引っ張り込むか。
可能性としては考えられたけど、やっぱりこう目の前にすると、なんともいえない気分がする。

「大臣!」

「toroくん?」

息を切らしながらtoroが走ってきた。

「あの、僕、大変な事に・・・あ・・・」

toroの目が、337の背の人物をとらえる。
そして、唇を強くかみ締めて、

「じゃあ・・・本当に・・・」

と、呟く。

「・・・多分」

337も同調する。

「大広間に行こう。coco_Aや姫がいるはず」

toroが頷き、2人は駆け出した。







aysh、imu、coco_A、そしてnekura。
全員が、突如として現れた魔力が王宮全体を包んだのが分かった。

outsiderさん、なのか?

「・・・、いや・・・」

nekuraがペンを動かし、壁の調査を開始していた。

「outsiderさんの魔力もあります。
が、それだけではない。他の人も協力している・・・合作、という表現がふさわしいか」

「・・・栗」

ayshがcirの名前を呟く

「栗の雰囲気が、するわ」

「・・・例の装置ですか」

「だが、cirさんの装置は出来ていないと・・・おい、ayatori!」

imuが、壁越しにayatoriの名を呼ぶ。
だが、ayatoriは反応しない。
物理的に遮断されているのか、それとも違う理由でなのか、
とにかくayatoriに、壁の内側の声は届いていないようだ。

「・・・?」

だが、姿は見える。たまに閃光が走り見づらいが、その表情はしっかり分かる。

ayatoriは、最初は呆然としてただ目の前の壁を見ていた。
だが、その表情はだんだん変わって―怒りに、染まっていった。

ayatoriが何か呟くように口を動かした。
そして、ペンを鋭く旋転させると、地を蹴って、恐ろしい速さでどこかに飛び去った。

「ayatoriさん?」

coco_Aが誰に問うわけでもなく言った。

「どういうことです?
ayatoriさんの今の表情・・・outsiderさんは、ayatoriさんの仲間では?」

「そのはずだ」

imuが答える。

「outsiderはよくayatoriと行動していて、確実に仲間のはずだ。
・・・だが、話に合わない事も、確かにある」

imuは、門の上に目をやる。
空も、完全に壁によって塞がれている。

「cirさん、それにぼんさんもだが、その装置は完成しなかったと聞いていた」

「・・・outsiderさんは、ayatoriの、敵?」

「はっきり分かりません。憶測で物を言っても無駄かと。
それより、これをどうにかしませんか?」

nekuraがペンを握りながら、言う。

「相手の狙いは分かりませんが、この壁がこちらにとって害となるのは間違いないでしょう。
放って置く道理はない」

「そうね・・・ただ、これは骨が折れそうよ。
栗は何でもこなす子だっ・・・」

ayshの言葉が、突然途切れた。
彼女が口を開けたまま見つめる先を、3人もすぐに目で追った。


そこには、toro。337。

そして、337に背負われた―RYOがいた。







Mizm、はさみがいる地下の牢。

そこへ向かう階段を、荒々しい音を立てて飛ぶようにayatoriは下った。

「・・・ayatoriさん?」

Mizmがその姿を見て、驚きが含まれた言葉で言う。

「よう、ayatori。騒々しいな」

牢の外にいる人物をayatoriの視界がとらえる。
怒りに声を震わせながら、搾り出すように言った。

「お前、俺を、騙してたのか」

「・・・」

「誰でも、旋転ができる世界を作ろうと。
そのためにどんなことでもしようと。
それは、嘘だった、のか?」

「相変わらずロマンチストだな。
本気で信じてたのか」

ayatoriは射殺さん勢いで目の前の男を睨みつけている。

「Saizen・・・」

その人物の名が、ayatoriの口からこぼれた。




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