投下するスレ 19
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懐にもぐりこんで、一撃を。
そう目論んだayatoriの跳躍。

しかし、足に力を込め、ayatoriが跳ぶまさにその瞬間、Saizenの疾風がayatoriを襲う。
すぐさま防御する。反応が若干遅れるも、手傷は受けずに済んだ。

Saizenが少し意外そうな顔でこちらを見ている。
傷ぐらいは負わせた、と思ったのだろうか。

「そんな攻撃、食らうか」

吐き捨てる。
Saizenの表情は、また冷静なものに戻っている。

戦闘が始まってから、まだそんなに長くは経っていない。
激しい攻撃の応酬に、地下牢はあちこち傷つけられ、崩れた壁の破片が転がっているが、
戦う2人にまだ目立った傷はない。

「・・・」

ayatoriが、散乱している石をちらりと見る。

鋭く、スピード重視でアラウンドを繰り出す。
Saizenが構える、も、ayatoriの送った力はSaizenには向けられてはいなかった。

僅かな間。

そして、突発的に、ayatoriの魔力を受けたSaizenの足元の無数の瓦礫がSaizenに向けて突進する。
直近からの急襲。直前の間で、少しでも緊張を緩めてしまったなら、防ぐことはできない。

しかし、Saizenはそれを当然のように防ぐ。

その隙を狙って、ayatoriが距離を詰める。
ペンを躍動させながら、Saizenに右から左から、強烈な波動をいくつも撃ち込む。

それをまたもや、Saizenは正確に自らの攻撃を当てて、迎撃していく。
長めの攻勢となったが、Saizenは苦しい様子は見せない。

先に「切れた」のは、ayatori。

打ち込まれたSaizenの反撃をケアしつつ、再び距離をとる。

「・・・どうなってる」

ayatoriが、息を荒くしながら、そんな言葉を漏らした。

これが、Saizenさんなのか?


Saizen。彼もJEB最高峰のスピナーであることは疑いようがない。
JEB内で、5本の指に入るのは確実だと思う。

だけれど、自分がSaizenさんに劣っているなど、思えない。
驕るつもりはないが、自分が1対1で敗れるならば―計算以外、ありえない。

「(何をした?)」

目の前の男は、本当にSaizenなのか?


普段とは明らかに雰囲気も違う。
何より、強すぎる。こちらの動きが完全に読まれている。

今の、足元の石を使った攻撃。
間を置く事で油断を誘ったが、Saizenは動じなかった。

集中力をしっかりと保っていた、というよりは―こちらが何をするか、分かっていた。
石が動き出す前から、すでに防御の体制を作っていた。

その後の、自分の攻撃に対する防御でも、
その前の自分の跳躍の出鼻をくじいた攻撃でも。

読まれている。

―トリックの類でもあるのか?

「どうした、ayatori」

不敵な笑みを浮かべたSaizen。その息は、乱れていない。







「ayatoriさん・・・」

ayatoriの劣勢。それは当然、牢の中から見守るMizmにも分かった。

「どうなって・・・Saizenさんが、強すぎる・・・」

そう呟き、Mizmは隣のはさみの方を向く。

「・・・はさみ?」

はさみの表情が、妙に強張っていた。
その視線は、ずっとSaizenに向けられている。

「・・・」

よく聞こえないが、何かを呟いているように、口が動いている。

「はさみ?どうしたの?」

「え?あ・・・」

はさみが声を出して、我に返る。
そして、Mizmではなく、牢の外に向けて声を出した。

「あ、ayatoriさん・・・逃げ、て・・・」

「・・・え?」

はさみの発言は、Mizmにとって予想外だった。



はさみの声は、耳に届いなかったのか、それとも聞こえても、無視したのか。

ayatoriは鋭い視線を目の前の男に向け続けた。







ayatoriが、NIKooに対しても向けた黒球を繰り出す。
数は2つ、大きさはNIKooの時よりかなり大きい。

ayatoriの繰り出す旋転。
その難易度は、彼が本気である事を示していた。

「(・・・どうだ)」

数十cmの球体が、高速かつ不規則に動きつつSaizenに迫る。

だが。


Saizenは軽く鼻を鳴らすと、その球体を、かわす。

黒球は反転して、再びSaizenにせまる。
波状攻撃。しかし、幾度と無くかわされ、そしてついには、撃破される。

「・・・」

これでも、読まれる。
威力をかなり殺して、制御に力を注いだが、それでも当たらない。

「・・・何をした?」

ayatoriの問いに、Saizenが小さく笑い声をもらす。

「さあな。
はさみが気付いているようだが?」

はさみは何も言わない。
言えなかった。

「さて、じゃあ種明かしをするか。
まず端的に言えば、お前の動きは俺に全て見えている。
正確には、お前の、魔力だな」

「・・・」

これでは、回答になっていない。
魔力を見る・感知する、というのも、スピナーの力量の1つ。
つまり、単にSaizenの実力が自分より上、ということになる。

「で、それが見えるようになった理由だが。
残念ながら、俺個人の力ではない」

ここで、Saizenはぐっと間を作る。そして、気取った声で言った。

「ayatori、単純な思考だが・・・cirさんのものがあったなら、残りの1人も、とは思わんか?」

ayatoriが目を見開く。
Saizenの後ろに、球体が現れる。

「この人の力は、本当に凄い。
お前が生む魔力の種類・量・質・・・全てが手に取るように分かる。
ああ、ちなみに、俺自身の魔力と統合して使っている。 俺も編集としての心得はあるつもりだからな」

Saizenが、笑みを浮かべつつ言う。

「さしずめ・・・SaizenとbonkuraのTagVideoって所だな。まったく、光栄な話だ」







独創性・創造性に溢れた旋転。
旋転で人を魅せる、楽しませるということにおいて、彼の右に出るものはいなかった。
JapEn1st、JapEn2nd、その他多くの場において、幾度と無く人々を魅了した。

誰よりも旋転を愛し、また旋転に愛された男。
魔術師という称号も、その彼への尊敬の念から生まれたものである。

しかし、天は時に残酷であり―

奇才は、病に倒れ、その生涯を、あまりに早く終えることとなってしまった。

誰もが惜しみ、悔やんだ。
その悲しみも癒えつつある今でも、彼の残したものは、スピナー達に多大な影響を与えながら輝きを放っている。

bonkura。
JEB、いや世界最高の魔術師であった人物である。







「Saizen!」

ayatoriが声を張り上げる。

「お前は・・・ぼんさん、までも・・・」

「1stのメンバーの装置を嬉々として使ってた奴に言われる筋合いはない。
大体、そいつが生きているか生きていないかなど、たいした問題ではないと思うがな。
それに、これでも俺もぼんさんには、多大な尊敬を払っているぞ?」

「どこが、だ・・・」

これ以上染まる事のないと思われた、ayatoriの憤怒の色。
その限界を超えて、更に濃くなっていく。

ayatoriが、何かが切れたかのように、ペンを回し出した。


スプレッド。アラウンド。
その間で光るパス。
複雑な動き、その魅せ方。

豪快であって、かつ美しい。
世界的にその実力を認められる、JEBきっての鬼才、ayatori。
その才と積み重ねた努力が、爆発する。

無数の黒球が飛ぶ。
同時に、強大な力が、Saizenを押し潰さんと迫る。
地下室など、いつ崩れてもおかしくないような迫力。

その力を前にしても、Saizenは、表情を崩さない。

嵐のような猛攻。
逃げ場所などないはずである。

その、ないはずの逃げ場所を、Saizenは―いや、Saizenの纏うbonkuraの魔力は、見つけ出す。

第一波をSaizenが受けきった。
間髪入れず第二波が襲う。

「―っ」

一度目以上の攻撃の厚さにSaizenは表情を険しくする。

ayatoriの攻撃が、僅かにSaizenの左腕を掠める。
それだけでも、思わずSaizenが顔を歪める程の威力。

そして、次の瞬間。



Saizenの刃がayatoriを貫いた。


神速の、Saizenの風の刃。
bonkuraの魔力によって補助されたそれは、精度は高く、
進んだ経路・タイミングはあまりにも完璧であった。


「・・・く、そっ」

ayatoriが口から赤い液体を吐き、そして倒れた。


「ayatoriさんっ!」

Mizmとはさみが悲鳴をあげる。

だが、Saizenの表情は冷たいままだ。

「少し強すぎたか・・・?まあ、死んだ時は、死んだ時だな」

ゆっくりとayatoriに歩み寄るSaizen。
そして、横たわるayatoriを見下ろし、

「ご協力、感謝するよ」

と言い、その右手からペンを奪う。

「じゃあな」

そして、階段の方へ歩を進めた。

「ま、待ってっ」

はさみが、Saizenを呼び止める。

「何を、するつもりですか?」

その言葉に、Saizenは足を止め、少し考えるような間を置いた後、言った。

「そうだな、最後だし、教えてやろうか。
鯖・・・サーバーを、落とす」

「サー、バー・・・?」

はさみが聞き返す。

「専門的な話をするつもりはないが・・・
魔力に関わる地には、必ず存在する。地下にあり、絶大なエネルギーを持つ。 このJEBも然り、だ。
特に、王宮の下には大きなものが存在している。 それを落とす―つまり、狂わす」

「・・・それを、したら、どうなるんです」

Mizmが険しい表情で聞く。
なんとなく、予想はついていた。

「膨大な量の魔力とエネルギーの渦が生じる。
人も、建物も、塵と残るまい。
ただ、少し発動させてから時間がかかるのでな。
その間、足止めが必要だ。それが、さいだーの役目だ」

「そんなっ」

はさみが悲鳴を上げる。

「じゃあ、姫とか、協会の人とか、coco_Aさんとか・・・」

「ああ。失うのは惜しい人ばかりだ。
JEBの主要人物のかなりが失われるな。
そして、だ。
残った人物の中で、JEBを率いる事が出来そうなのは一体誰か?」

「・・・っ」

今、王宮に居る人物が消えたとすれば。

こんな騒動の後だ、誰かがJEBのトップに立って、率いることが求められるだろう

この、今のSaizenさんの姿を、人々は知らない。
イメージ、実力、全部踏まえて、Saizenさんはそのトップに、間違いなく選ばれるだろう。

「そういうことだ。崩れた大国のトップに立って、思い通りに再建していく。
こんな素晴らしい事、他にありはしない・・・と俺は思うが、どうだ?」

Saizenがニヤリとして、はさみとMizmを見る。
その冷たい表情に、更に満足げな顔を浮かべる。

「さて、では俺は失礼する。ゆっくりと、由緒正しい偉大な王宮の最後でも、見届けてくれ。
・・・ああ、ここからは見れないな。残念だな」

低い笑い声を残し、Saizenは階段を上がっていった。




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